こんにちは、ワンキャリア執行役員の北野唯我(KEN)です。
前回に続きジョージアの「世界は誰かの仕事でできている」という有名なコピーを作った電通のTOPコピーライター梅田悟司さんにお話を聞きます。今回は15万部のヒットを飛ばす『「言葉にできる」は武器になる。』を元に就活生の皆さんに言葉を武器にする方法を聞いていきます。
後編は、皆さんお待ちかねの電通のトップコピーライターによるエントリーシート作成術です。小手先のテクニックではなく、言葉の取り扱いを熟知した梅田さんの思考法を体感してください。
読み終えた後、あなたはエントリーシートを書き直したくなるかもしれません。
面接における納得性と意外性の絶妙なバランス
北野:前回、コモディティ化していく就活生に対して「就職活動は自分の広告である」というメッセージを頂きましたが、具体的に、広告のプロならどのように自分を面接官に興味付けしますか?
梅田:企画の作り方でいうと「そうきたか」を作らないといけないんです。これは常にそうです。「そうきたか」っていうのは「なるほど」と「まさか」の組み合わせで生まれます。つまり、納得性と意外性の掛け算です。
「なるほど」という基礎の部分は大事だけど、それだけだとみんな同じになってしまう。納得した、なるほど、で終わってしまう。このままではコモディティから抜け出せない。そこから自分ならではの価値である「まさか」の部分をどう加えるかという事を考えないと「そうきたか」にはならないですよね。やはり広告の作りかたと就活は似ている。意外性がないといけない。
北野:「納得性」と「意外性」との割合は、たとえば5:5くらいですか?
梅田:僕は8:2くらいかなと思います。なるほどが8です。
学生が面接官を相手にしているという前提で考えると、意外性5というのは学生ならではの荒削りが目立ってしまうというのもあります。
北野: 8:2の具体例を挙げるとするとなんでしょう?
梅田:先のジョージアのコピー「世界は誰かの仕事でできている」が分かりやすくて、「なるほど」はこの言葉自体が持っていますよね。「世界は誰かの仕事でできている」は普通のことを言っています。
その上で、「まさか」の2は視座の高め方と言えるでしょう。普通、広告では「ジョージアが美味しくなったから買ってね」と語ることが多いですし、生活者もこうしたプロダクトメッセージを耳にすることに慣れっこになっている。そこで、「自分の持ち場を守りながら働いている方々への敬意と共に、全ての仕事は等しく素晴らしい」という意志を表明することで「まさか」を作っているんです。
北野:これだけ視座の高い言葉を、「缶コーヒーを売るジョージア」が言うとは思わない。そこが「まさか」の2ということですね。
梅田:そうなんです。これを就活で例えると「会社のために頑張ります」というのが「なるほど」だとすれば、「会社を通じて世の中をこう変えていきたい」と言ったほうが「まさか」に近いですよね。周りの学生よりずっと先を見据えて、考えて発言していることが分かるので、まさかの部分が担保できるんじゃないかな。
北野:「意外性」の担保の仕方を垣間見た気がします。ちなみに、著書では言葉の伝わり方を「事実→価値→思想→ビジョン」に分解されていますが、これは面接の場でも同じだと思いますか?
梅田:そうですね。詳しく説明すると、面接の時に普通は「こんなことやってきました」という事実をまず話しますよね。それでは面接官の理解は得られても共感までは得られない。共感を得るためにはその先の思想やビジョンを話す必要があります。そしてそれは事実や価値をどのように大事にしてきたのかの上に成り立つんです。これを表したのがこの「事実→価値→思想→ビジョン」の流れです。
この「ビジョン」を含めて考えを深めていかないと、面接官に共感してもらい、「採用!」とならないのかなぁと思っています。
未来を共有すべきなのに、設問の視点は「過去」。そこがすでに就職活動の罠
北野:前回、就活ってコモディティという話をしていただきましたが、学生が自分はコモディティだと認識したとして、その上でどう面接官に伝えていけばいいかアドバイスはありますか?
梅田:まずは「コモディティとはどういうことか?」を本当の意味で知るべきだと思います。たとえば、上出来だと思った面接はだいたい失敗に終わっている、という事実に気づくことが大事です。そういう時の快感の源泉は頭にあるものを一旦出しきったことから生まれているだけなんですよ。『「言葉にできる」は武器になる。』に書いたのですが、頭にあるものを出し切ることはスタートでしかありません。そこから考えを深めるフェーズに入っていくことが大切で、そのフェーズこそが「そうきたか」と思わせるための「まさか」をどう加えるかということであり差が生まれていくことだと思います。
北野:つまり「出し切って満足するな」と。そこは考え始めるスタートにすぎないということですね。
ではもし梅田さんが今学生なら、どうエントリーシートを差別化させますか?
梅田:エントリーシートは「あなたは何をしてきましたか。そこから何を学びましたか」という事実から聞いていくわけですよ。でも本当に考えるべきは事実の先にあるビジョンや思想です。つまり、未来を共有すべきなのに設問は視点を過去に誘導してくる。そこがすでに就職活動の罠です。
北野:共感を得るためには、過去ではなく未来から話すべきということですね。「就活の罠」という概念は面白い。
梅田:思考のスタートは常に未来から。差別化を図るとすれば、設問には書いていないが、企業が本当に聞きたいことを見つけること、そのために問題というか課題の深読みをすることが大事です。
非コモディティ化の鍵は未来への解像度を上げること
北野:僕は日本人って未来を語るためのトレーニングを受けてきていないんだといつも思うんです。中学生高校生になって「俺ビルゲイツになりたくてさ、こういうビジネスしたいんだよ」なんて言おうものなら「うわ、さむ」と言われるのがオチですよね。
学生が自由に未来を語れるようにするためにはトレーニングが必要なんだと思います。梅田さんご自身が未来を語るためにやっている手法があれば教えていただきたいです。
梅田:まず課題解決をするとき、みんな目の前で起きていることが課題だけだと思ってしまいがちですよね。その見方を変えるべきだと思います。
具体的には「いかに理想を遠くにおいてあげるか」という思考トレーニングを常にしています。
ジョージアのコピーに例えると、目の前の課題って「労働者の方々がジョージアを買ってくれない」で、それに対する理想って「労働者の方々がジョージアをもう一回買ってくれればいい」になるんですよね。
そこを僕らのチームは「労働者の方々が自分自身に誇りを持って仕事ができるような社会をつくる」を理想に置いたわけです。
ここまで遠くに理想を置けば、課題は世の中にうっすらと蔓延している「俺のやってる仕事って、どんな意味があるんだっけ?」という空気があぶりだされてくる。それをポジティブに変換するメッセージを設計すべきというありきたりではない打ち手が見つかったんですね。
東北六魂祭でも同様です。「東北に観光客が来てくれればいい」から「東北の人たちが元気を取り戻し、自然と東北に観光客が戻ってくる」へと理想を置き直す。すると、出すべき答えは自ずと変わっていきます。
北野:面白い! 梅田さんって昔からそういう思考法だったんですか?
梅田:うーん、いや、昔はもっとガチガチのロジカルだけで、めんどくさい人だったと思います。今は人肌のあるロジカルというか(笑)。「やっぱり正しさだけでは……」という気持ちがあります。
自分がどう思うのか、相手がどう思うのかという人肌を感じるような解決方法や理想の置き方をしないと、正しいんだけど誰も動かないという状態になるんですよ。
北野:同意です。本当に賢い人ほど「人はロジックで動かない」。動くとしたら「人肌のあるロジックだ」と知っていますよね。
誰に向けてエントリーシートを書いているのか
北野:『「言葉にできる」は武器になる。』では、就活生が自分をコピーライティングする際に使える手法が複数紹介されていると思うのですが、この中で梅田さんが就活でも使えると思う手法ってありますか?
梅田:2つありまして、1つは文頭に「あなたに伝えたいことがある」というフレーズをつけて伝わるか考えてみるというものです。たとえば「あなた」というのは就活で言えば面接官、あるいは面接官の先にいる社長かもしれないですよね。大概エントリーシートを書くことに躍起になってしまいますので、手段の目的化が進んでしまう。何のためにエントリーシートを書いているのかに立ち戻れる場所として「具体的な人を一人」置いておきましょう。
もう1つは「と思います」を排除することですね。面接では間違えていたとしても僕はこう考えているというのを宣言した方がいいと思います。面接官って学生のエピソードの真偽より、発言の理由や意図に対して興味があるはずで。
だから自信のなさが伝わると、いいこと言っても印象でマイナスになるかもしれません。もったいないです。もちろん言い切れるまで考え抜くことが第一ではありますけど、取りあえず言い切る。言い切ったら理由を求められるので、その理由を面接官が話している間にフル回転で考えるのも手です(笑)
北野:なるほどね、確かにそうかもしれないですね。面接官にとってはエピソードが本当かウソかというのはどっちでもいいのかもしれないですね。
梅田:正しい・間違っているというよりかは、自分が正しいと本当に思えているのか、そうでもないと思えているのかということの方が、点数としては大きいんじゃないかと思うんですよね。
「言葉作り」は、最強の投資活動。就活だけで終わらせないで
北野:これから社会に出て働く18卒の学生に向けてメッセージをお願いしたいのですが、僕は「言葉は最強の投資活動」だなって思うんですよね。言葉に強かったら営業もできますし、こういう執筆作業もできる。あるいは、恋愛においても言葉強かったら結構強いじゃないですか。だから「言葉を磨く」というのは、もっともROI(費用対効果)の高い投資じゃないかなと思うわけです。
梅田:そうですね。僕も「言葉にできる力」は、生きていく上でも重要になっていく能力だと思います。内定をして内定式になれば知らない人と会って自己紹介をする。入社したら、クライアント先でどういうことやってきたか説明する。ホウレンソウって言葉がありますけど、何を報告していいのか分からない、何を連絡していいのか分からない、何を相談していいのかすら分からない状態から始まる。
言葉を媒介しないものってほとんどないはずですよね。なので、今言葉の大事さを就職活動という人生の大事なプロセスで経験したなら、大事なんだということを忘れずに生き続けていってほしいです。
北野:最後に、これから就職活動が始まる19卒の学生に向けてメッセージをお願いします。
梅田:言葉=アウトプットだと思っている人たちがすごく多いので、その認識は一旦変えた方がいいと思います。頭の中でも言葉を使っているということを認識してあげないと、いつまでも浅いことを書いたり、言い続けたりすることになる。
いきなりアウトプットするのではなく、頭の中にある内なる言葉を自分との会話の中で膨らませてあげるというのがすごく大事になると思います。
北野:ワンキャリア会員の大学生にも喜んでもらえると思います。そういう意味では僕も「あなたに伝えたいことがある」を意識してインタビューできました。
梅田:せっかくだから「思います」もやめちゃいましょうか(笑)。
北野:ああ、そうでしたね(笑)また、ぜひ、お話させてください! ありがとうございました。
いかがでしたか? 電通のトップコピーライターによる、小手先のテクニックではないエントリーシート作成術でした。皆さんも今一度、自身のエントリーシートを見直して見てください。
──前編:『コモディティ化していく就活生こそ、自分をマーケティングした広告作りを』も併せてご覧ください
▼エントリーシート対策をまとめた特集記事はこちら!!
・エントリーシートの書き方例文集!内定に近づく志望動機・頑張ったこと等
・梅田悟史『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社、2016年)
梅田悟司(うめださとし)
上智大学大学院 理工学研究科修了。広告制作の傍ら、製品開発、雑誌連載、アーティストへの楽曲提供など幅広く活動。カンヌライオンズ、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など国内外30以上の賞を受ける。著書に『「言葉にできる」は武器になる。』『企画者は3度たくらむ』(日本経済新聞出版社)など。メディア出演歴に、NHKおはよう日本、TBSひるおび!、Yahoo!トップなど。CM総合研究所が選ぶコピーライターランキングトップ10に2014年~2016年連続選出。横浜市立大学国際都市学系客員研究員。
北野唯我(きたのゆいが)
株式会社ワンキャリアの執行役員 兼 HR領域のジャーナリスト(旧KEN)。事業会社の経営企画・経理財務、米国・台湾留学、外資系戦略コンサルなどを経て現職。一方で23歳の頃から、日本シナリオ作家協会研修科で「ストロベリーナイト」「恋空」「トリック」などを執筆したプロの脚本家に従事。主な記事に『ゴールドマンサックスを選ぶ理由が僕には見当たらなかった』『田原総一朗vs編集長KEN:「大企業は面白い仕事ができない」はウソか、真実か』『早期内定のトリセツ(日本経済新聞社/寄稿)』など。
Twitter:@KEN_ChiefE