世界最大規模の総合印刷会社が今、大きな変革の時を迎えています。
2023年10月に、1900年の創業以来初めての社名変更を発表したTOPPANホールディングス。ホールディングス体制に移行するとともに、傘下に「TOPPAN株式会社」「TOPPANエッジ株式会社」「TOPPANデジタル株式会社」を設立しました。
実は、総合印刷会社であるとともに、同社はこれまでも情報コミュニケーション事業分野、生活・産業事業分野、およびエレクトロニクス事業分野を中心に、さまざまな事業に進出してきました。今回の大規模な体制変更に伴い、今後はいかに事業を展開していくのでしょうか。
同社で人事を担当する村上泰史さんと、グループ会社であるTOPPANエッジに所属する藤崎毅さん、TOPPANデジタルに所属する二戸部隆さんに、新生「TOPPAN」の持つ可能性について、お話を伺いました。
<目次> ●DXとSXの2本柱。社名から「印刷」が消えた理由
●印刷会社がなぜ他分野に進出するのか
●ゼロイチの事業を2万社以上の顧客基盤で試せる
●求めるのは大量のインプットを元に自ら行動を起こせる人財
DXとSXの2本柱。社名から「印刷」が消えた理由
──今年10月、凸版印刷株式会社からTOPPANホールディングス株式会社に社名が変わりました。「印刷」を社名から外した理由など、社名変更の背景について聞かせてください。
村上:事業ポートフォリオの変革を進めていくという決意の表れになります。ホールディングス体制に移行した理由も、従来の印刷事業にとらわれず、新しい事業を創出し、その事業とともにまい進していくことが弊社の将来のあるべき姿と定めたからです。
具体的には、デジタル技術による変革であるデジタルトランスフォーメーション(DX)と、ビジネスを通じたサステナビリティ社会への貢献であるサステナブルトランスフォーメーション(SX)という2つを軸に、クライアントワーク中心だった従来のビジネスを、消費者や社会の持つ課題の解決を見据え、スケールアップさせる狙いがあります。
新たなフィールドに打って出ていかなければならず、既存事業である印刷という枠組みを超えていく意味で、社名から「印刷」という文字を外しています。
村上 泰史:1999年に凸版印刷入社。最初の配属で人事部門へ。以降、凸版の各事業部での研修企画や人事業務、グループ会社での人事評価制度などの企画設計・運用、製造会社においてベテラン社員へのキャリアコンサル業務などを経験。 2019年4月より現職。モットーは「仕事は楽しく、厳しく」。
──社名変更やホールディングス体制への移行によって、生み出される新たな価値や競争力、他社との差別化についても聞かせてください。
村上:ホールディングス化によって、TOPPANエッジやTOPPANデジタルをはじめとするTOPPANグループ各社は、それぞれの事業分野での成長はもちろんのこと、グループ内リソースの有効活用やグループ連携により、シナジーの最大化を目指します。
藤崎:私の所属するTOPPANエッジは、10月の体制変更に先んじて4月にかつての凸版印刷セキュア事業部とトッパン・フォームズが事業統合して誕生しました。トッパン・フォームズからTOPPANエッジに社名が変更されるなど、グループ内でも大きな変化があったといえます。
TOPPANエッジは金融業界や官公庁・自治体を中心に強固な顧客基盤を有し、顧客の「情報」を安全かつ適切に取り扱い、最適な形で届けるための「インフォメーションハンドリング」の強みも健在です。
また、ホールディングス化により、従来の顧客からのオーダーを受けての製品開発だけでなく、グループ内連携によってTOPPANデジタルの開発したデジタルソリューションも提供できる体制が整ったといえます。
藤崎 毅:2002年に凸版印刷入社。入社以来、金融系クライアントの営業として、大手金融機関に対して多岐にわたるコミュニケーション領域の支援業務に従事。現在はTOPPANエッジの営業部長として、クライアントのビジネスプロセス変革の支援に注力し、自社の事業ポートフォリオ変革を推進中。
二戸部:グループ全体で2万社以上を抱える顧客基盤は大きな強みですね。グループ内にさまざまな製造部門や販促部門を抱え、幅広い業界や業種をカバーできることから、サプライチェーン全体でより高い価値を生み出せる体制になったとも捉えられます。
私の所属するTOPPANデジタルはTOPPANグループ全体のDX推進を担っており、DXの先端技術の研究開発や新事業創出に取り組む中で、TOPPANエッジとともに顧客企業のDXを推進していくこともあります。
二戸部 隆:2006年に凸版印刷入社。地方営業を2年間経験後に東京配属となり、さまざまな業種のメーカーや広告代理店のアカウント営業として情報コミュニケーション分野全般の業務を担当。
2013年から2015年は新ビジネス開発にも従事。現在は、TOPPANデジタルの事業戦略部にて戦略立案・実行や広報PRに取り組み、事業拡大を推進。
印刷会社がなぜ他分野に進出するのか
──すでにグループ内でシナジーが生まれているということですね。大規模な体制変更における難しさとともに、面白味も多くありそうです。
藤崎:TOPPANエッジでは新体制に伴い、「ビジネスに変革を、社会につながりを。」というビジョンを掲げ、顧客のビジネスプロセスに変革をもたらすことで、安全・安心で快適なコミュニケーションを社会に創り出すことを目指しています。
現在は人手不足もあり、多くの企業がDXに取り組み、ビジネスプロセスの変革にも着手しています。私たちもTOPPANエッジへの体制変更以降は、個人情報や企業の事業情報を取り扱ってきた従来の業務の強みを生かし、DXを支援するソリューションやペイメントサービス、アナログ技術ノウハウとデジタル技術を組み合わせた事務代行支援サービスである「Hybrid(ハイブリッド)-BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」などを通して、より顧客の事業を裏側から支えていこうという意識は強くなっています。
事業としても、キャンペーンや法改正などのイベントに合わせた一過性の側面もあった既存の印刷事業だけでなく、今後は顧客の中核ビジネスを継続的に支える事業に注力するため、リソースもかけていくことになるはずです。
──TOPPANデジタルは、前身である凸版印刷のDXデザイン事業部時代と比べ、変化はありましたか。
二戸部:DXデザイン事業部時代は凸版印刷の一事業部でしたが、体制変更後はデジタルサービスの企業としてグループ全体のDXをけん引するミッションを持ち、グループ連携をより強く意識して活動しています。
デジタルサービスひとつとっても、私たちは製品を開発するだけでなく、出口戦略としていかにして販売していくかも見据えなければなりません。体制変更のメリットを生かして、販売におけるグループ内のシナジーを最大化させる意味でも、いかに横串を通して全体最適を実現させられるかが大きな課題だと考えています。
また、働き方改革法案によりドライバーの労働時間に上限が課されることで生じる「2024年問題」に向けて、製造・流通・物流におけるサービス開発・研究開発は今後注力してきたいテーマの1つです。
──就活生の中には、印刷会社とITのつながりがイメージできない方もいるかと思います。もともと印刷会社でありながら、さまざまな分野で事業展開できる理由や経緯について教えてください。
村上:現在、TOPPANが注力しているDX事業の重点カテゴリーには、「Hybrid-BPO」「セキュアビジネス」「マーケティングDX」「デジタルコンテンツ」「製造・流通DX」の5つがあります。ただ、例えばマーケティングでいえば、以前からDMや販促ツールなどの印刷物を作成してきたように、いずれも従来の事業領域です。
最近になって急速に事業の多角化が進んだと感じられるかもしれませんが、実は以前から進出している領域で、各領域における技術・ノウハウの蓄積があったところに、近年になってデジタルの技術開発が備わってきたことで、デジタルソリューションの提供が可能になってきたといえます。
二戸部:企業のDXを支援するサービスが数多くある中で、TOPPANデジタルが差別化を図っていくために、2万社以上のお客さまの声を聴いて「型化」したサービスを不断にアップデートし、最適な機能、品質を提供していきます。
ゼロイチの事業を2万社以上の顧客基盤で試せる
──DXといえど、実はビジネスの範囲と変わっていないと。ちなみに、就活生に、「TOPPANは何の会社か」と聞かれたときは何と答えるのでしょうか。
村上:以前、別の取材で同様の質問を受けたときに「『何でもやれるTOPPAN』と書いてください」と話したことがありますが、今は「何でもやるTOPPAN」が適当かなと思っています(笑)。
「何でもやれる」というのは、顧客要求を正面から受け止めてソリューション提供できるポテンシャルの意味合いだったんです。しかし、今後はTOPPANが主体となって消費者や未来の社会に向けて「何でもやる」という能動的な姿勢が、より重視されるはずです。個人的にも1999年の入社以来、この数年が最も社内が変わってきていると感じています。
藤崎:企業は社会の変化に先んじて変化する必要がありますからね。実際、社会の流れに敏感な金融機関は規制緩和が進み、新たな領域でのビジネスにチャレンジしています。
私たちとしても、顧客や社会の変化に伴って求められることに変化が起きているといえそうです。そして、私たちはその変化に対応できなければ、ビジネスが成り立たなくなります。
──新卒入社によって得られるスキルについて聞かせてください。
村上:TOPPANのビジネスの本質は、変化対応と顧客伴走による課題解決です。そのため、マーケット視点や課題解決の思考は業務を通じて必ず身に付くと思います。その点はTOPPANエッジやTOPPANデジタルをはじめとしたグループ各社でも共通しています。
また、顧客への提案内容について、「実際に役立つのか」という会話はプロジェクトごとに必ずあり、そのときは若手の情報感度に頼ることが多々あります。私たちの業務において、顧客や社会にとって「本当に役立つのか」、あるいは「困っていることは何か」という考えは不可欠であり、そこから企画立案していくところに面白さがあります。
上司がデジタルサービスに疎かったり、自分とは異なる考えを知ろうとしたりする場合は、若手にも当然意見を求めます。そのため、若いうちから自分の考えや経験を周囲に伝え、それをもとにビジネスを形作っていくことに貢献することができるはずです。
二戸部:今後は新サービスや新しいビジネスモデルも生み出していくため、若手もゼロイチの立ち上げを経験できる機会も多いと思います。究極的には、ゼロイチで立ち上げた事業を2万社以上の顧客基盤で試せる可能性もあるともいえます。
もちろん、既存事業をグループ内で連携しながら成長させていく取り組みにも携われます。どのようなビジネスのステージでも、自分から手を挙げれば携われる機会はあり、それを奨励する風土もあります。
求めるのは大量のインプットを元に自ら行動を起こせる人財
──ゼロイチで立ち上げた事業を2万社以上もの顧客基盤で試せる環境は、ベンチャー・スタートアップだとあまりないと思うので、やりがいも大きそうですね。最後に入社してもらいたい人財について聞かせてください。
藤崎:やはり、自ら行動を起こせる人財ですね。
印刷業務が中心だった時代は、どうしても社歴や経験が重視されることもありました。かつては、新入社員となれば先輩から業務を引き継いで仕事を覚え、下積みを経てから顧客との対面業務に携わるような時代でした。
ところが、デジタル化が進んだ現在は、入社数年の若手と入社10年以上のベテランの業務に違いはなくなりつつあります。若手社員は生まれたときからインターネットに接しているデジタルネイティブの世代であり、インプットの量も格段に多いといえます。ただ、現在はインプットばかりで、アウトプットができない人財も少なくありません。
もしもインプットした情報をすぐに行動に生かすような、アウトプットもできる人財であれば、顧客や社会の変化に自分たちの技術を結び付けて課題解決に導く、情報整理力も身に付けられるはずです。
二戸部:会社としても「行動を起こして、小さな失敗は気にするな」と言ってもらえる風土があるため、まず行動を起こせるかどうかは重要ですね。
たとえ失敗しても、前向きにチャレンジし続けられるような人財に入社してもらえると、社員も刺激を受けて企業としてもさらに良い環境になるのではないでしょうか。
また、会社としては事業だけでなく、グループとしていかにシナジーを生み出せるかも重視しているため、企業としてのメリットだけでなく、社会課題をしっかりと捉えられ、その解決を自分ごと化できるマインドを持つ人財にはぜひ入社してもらいたいですね。
村上:現在のTOPPANは、顧客課題ありきではなく、自分たちで新たに仕事を創り出すことが求められています。そうなると自らアクションを起こすことが不可欠であり、その上で、その人にしかできないことを成し遂げられる、そんな人財に入社してもらいたいですね。そして、TOPPANというフィールドで、「自分らしさ」を存分に発揮してもらいたいと願っています。
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TOPPAN
【ライター:小谷紘友/撮影:遠藤素子/編集:萩原遥】