※こちらは2022年12月に公開された記事の再掲です。
学生が今注目している就職先の業界として、「コンサルティングファーム」を思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。ビジネスの上流を学び、ロジカルに答えを導き出し、社会への実装にまで携わることができるからです。
しかし、数あるコンサルティングファームの中でどのファームを選択すればいいのか分からない人もいるかもしれません。
「自身の専門性を地道に深めることで、経営者から信頼を得られる」。そう語るのは、有限責任監査法人トーマツ 包括代表代行 兼 デロイト トーマツ グループ リスクアドバイザリー ビジネスリーダーの岩村篤さんです。
今回は、デロイト トーマツの事業内容や独自のサービスラインである「リスクアドバイザリー(RA)」の特徴、「デロイト トーマツならではのキャリア」の作り方についてお話を聞きました。
<目次>
●会計の知識は不要。社会から求められるリスクアドバイザリーとは?
●不確実性の高い時代だからこそ、リスクを取らなければならない
●コンサルティングは「ドーナツの外側」、クライアントが見えない領域を明らかにする専門性が重要
●勉強が苦手だったから公認会計士に。専門性を磨けば道は開ける
●「万能である必要はない」。誠実に仕事に取り組み、一歩ずつキャリアを積み重ねることがビジネスの成果につながる
会計の知識は不要。社会から求められるリスクアドバイザリーとは?
──はじめにデロイト トーマツ グループの中で、リスクアドバイザリーの特徴・役割について教えてください。
岩村:デロイト トーマツ グループは「監査・保証業務」「リスクアドバイザリー」「コンサルティング」「ファイナンシャルアドバイザリー」「税務・法務」という5つのサービスを中心に提供しています。
特徴としては、リスクアドバイザリーをビジネスとして切り出し、強化していること。グループにおける必須のビジネスとして位置付けているのは、私が知る限り、デロイト トーマツ グループのみであり、それだけリスクアドバイザリーの領域を重視しているということでもあります。
昨今では、サイバーセキュリティ領域のコンサル、会計アドバイザリー、金融アドバイザリー、ITアドバイザリーとビジネスの領域が広がり、専門性も高まっています。
──リスクアドバイザリー……聞き慣れない言葉ですが、デロイト トーマツ独自の名称なんですね。どのようなサービスなのでしょうか。
岩村:リスクアドバイザリーとは、クライアントが適切にリスクテイクをし、的確に経営課題に対応するために、専門性に基づいた判断軸や洞察を提供することで、持続的に成長し続けられるように支援するサービスです。デロイト トーマツ グループは、グローバルでリスクアドバイザリーのチームを立ち上げています。アメリカ、イギリスといった欧米の国に加え、シンガポール、オーストラリア、中国など、ほぼすべての国でチームがあるんですよ。
──それだけニーズの高いサービスというわけですね。一方でデロイト トーマツは監査の業務もあります。「監査」と聞くと学生にとっては、少し難しい印象があるかもしれません。監査とはどのような仕事なのか、教えてください。
岩村:分かりやすくいうと、ビジネスにおける「裁判官」のような仕事ですね。監査は、財務諸表が正しいかどうかを、監査基準に沿って客観的に判断するのが一番の役割です。財務諸表とは、企業のビジネス活動の結果を、売上・利益・資産・負債といった項目で記録したものです。株主、投資家を筆頭に、従業員、取引先、金融機関や地域社会といったさまざまなステークホルダーが利用するため、万が一でもミスがあると多くの人に影響が出てしまいます。
監査や会計というと電卓をたたいているイメージを持つ方が多いと思いますが、監査は単に数値をチェックするだけではなく、クライアントのビジネスや経営管理の仕方など、その会社を深く理解した上で適切な判断をする必要があります。
つまり、デロイト トーマツは50年近く監査を行ってきた歴史の中で、何百社、何千社という企業の経営を近くで見てきたといっても過言ではありません。
──リスクアドバイザリーについても、数多くの企業から得た知見が集まっているということですね。
岩村:そうですね。リスクアドバイザリーは法人格として監査法人に所属しており、監査で培った経験や知見を生かし、監査先に対する監査以外のさまざまなサービスを提供することはもちろん、監査先以外の多数のクライアントにも数多くの助言を提供してきました。
一般のコンサルティングファームでは触れることが難しい、戦略・投資・組織・人事・会計・財務・デジタル・オペレーションなどのテーマに対する、ガバナンス・リスク分析・改善といった企業経営の核心に関わることで、先行きを見通し難い時代においても、クライアントの持続的なビジネス成長に貢献することができるでしょう。
岩村 篤(いわむら あつし):有限責任監査法人トーマツ 包括代表代行 兼 デロイト トーマツ グループ リスクアドバイザリー ビジネスリーダー
2000年 監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入社。上場会社の監査業務に関与後、グローバル展開するメディア企業や製造業向けにリスクアドバイザリー業務を提供。近年は複数のグローバル企業に対し、デロイト トーマツ グループのサービス責任者として従事。専門は、財務会計・管理会計の高度化、内部統制構築や内部監査、ガバナンス構築など、会計・財務およびGRC(ガバナンス リスク コンプライアンス)の知見を有している。また、事業戦略、IT戦略や大規模な組織改革などのプロジェクト経験も豊富。2021年よりリスクアドバイザリーのビジネス責任者として執務。(所属部署はインタビュー当時のものです)
不確実性の高い時代だからこそ、リスクを取らなければならない
──リスクアドバイザリーはなぜ、企業からのニーズが高いのでしょうか。
岩村:現在はVUCA(※)ともいわれる不確実な時代であるがゆえに、リスクの見極めが重要となっています。地震や災害などの天変地異やコロナ禍に代表されるように、一瞬でビジネスを取り巻く状況が変化するのは、皆さんも感じたことがあるはずです。私たちはビジネスにおけるリスクについて、不確実性にもっと着目する必要があると考えています。
デロイト トーマツは、東日本大震災後で日本が甚大な損害を受けた2011年に不確実な時代に対応すべく、このリスクアドバイザリーの事業を始めました。
(※)……Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語で、社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況のこと
──リスクを正しく知ることで、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょう。
岩村:そもそも、「コンサルティングそのもの」の話ですが、ビジネスコンサルティングは、あえて分かりやすくいうと、クライアントが売上や利益を増大させるためにやりたいことを具現化したり、どのような戦略を策定し、どのように遂行すべきかを考えたりするのが仕事です。
高度経済成長期は顧客が欲するモノが明確でしたから、そのニーズに合わせて製品を提供する自動車メーカーや電機メーカーが伸びていました。もちろん、現在でもスピード感をもって事業を立ち上げたり、テコ入れしたりするために顧客ニーズをくみ取り、事業の戦略を練り、それを実行支援するという戦略コンサルティングは有効だと思います。
しかし、今は変化の激しい、不確実な時代ですから、企業もどのように成長していけばよいか分からなくなってきていると感じます。ですので、単に戦略を描くだけではなく、未知の領域である「リスクを取って」挑戦しないと企業は成長しないのです。
──「挑戦」というワードはさまざまな企業で耳にしますが……。
岩村:その一方で「挑戦とリスクは表裏一体である」という点に、しっかり向き合っている企業は少ないように思います。多くの日本人は「リスクはなるべく回避すべきもの」と認識していると思いますが、これは間違いです。日本には伝統的なマネジメントスタイルでリスクを取らない企業も存在しますが、欧米企業にとってリスクは「取る」もの。リスクを正しく理解した上で、そのリスクに挑むからこそ、大きな成果が得られるのです。
──リスクを取らないと成長できない、ということを本当の意味で理解している企業は少ないと。なるほど……。
岩村:海外で事業を展開する際にも、各国の法規制や中長期で見た際の景気状況は不確実といえますが、M&Aを行う際にも財務諸表が間違っていたら、そもそも取るべきリスクすら理解できません。また、利益10億円規模の企業と、利益100億円規模の企業では取れるリスクの大きさも種類も変わってきます。
例えば、金融業と製造業ではBS(賃借対照表)とPL(損益計算書)の作りがそもそも違います。また、買収した後にITインフラをどうするのかなどの問題があります。一見、統合すると効率化ができてシナジーも生まれそうですが、統合がうまくいかずに、ビジネスの立ち上がりが遅くなるといったリスクもあるわけです。その辺りのリスクを可視化して、私たちが整理していくのです。
──デロイト トーマツはクライアントに対してどのような価値提供を行っていますか?
岩村:経営者も万能ではありません。例えば、新しく事業を立ち上げる際にも自身が知らない業務範囲が出てくることがあります。また、クライアントの業種・業態によって法律上の決まりや、ビジネスの慣習が変わってきます。そのあたりをわれわれが一手にサポートしています。
例えば、金融やライフサイエンス、ヘルスケア、エネルギー、公共、製造、メディアなど業界特有の規制や商慣習を私たちが理解し、支援することで、クライアントが適切に事業を展開できるようになります。
われわれがGRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)と呼んでいる、企業統治・内部統制・内部監査の仕組みを持っておくことも重要ですし、IT戦略やサイバーセキュリティといった領域もこれからの時代にビジネスを行う上では必須のスキルになるでしょう。
リスクアドバイザリーの価値の源泉は専門性です。デロイト トーマツは財務・会計、GRC、サイバーセキュリティ、アナリティクスを含むIT・デジタル領域など複数の専門家の能力を掛け合わせることで強力な武器になり、クライアントへの価値提供につながっているのです。
コンサルティングは「ドーナツの外側」、クライアントが見えない領域を明らかにする専門性が重要
──デロイト トーマツでは「コンサルティング」という仕事をどのように定義し、クライアントに提供していますか? 先ほど出てきた専門性のお話と合わせて教えていただきたいです。
岩村:クライアントとアドバイザリーやコンサルティングの関係をよく「ドーナツ」に例えます。ドーナツの中心がクライアントの事業なのです。そこに対してクライアントが見えない領域からアプローチをかけ、外から変革を促すことがアドバイザリーやコンサルティングの仕事です。クライアントが見えていない領域を明らかにして、他業種で行っている施策をそのクライアントにも展開していく。そのためにも専門性が重要なのです。
ただ、専門性を極めるのは非常に大変です。私自身も20年間のキャリアで会計監査を10数年、GRC業務を10年弱行いましたが、極めた感覚はありません……。
──うーん。だとすると、若い人はどうすればよいのでしょうか。
岩村:単独のテーマを極めるのは大変ですが、クライアントに提供する価値の高め方については見えてきたものもあります。専門性は各方面に分散しやすいものですから、一つにまとめた上で、開かれた形にしなければなりません。そして、専門家同士はいくつかの共通項があり、引き合うものがあるために、コラボレーションをすると新しいアイデアが生まれていきます。
その見えた共通項を基に経営戦略やサイバーセキュリティ、財務、ビジネスリテラシーなどと横に展開をしていけば良いと考えています。時間をかければかけただけ、さまざまなことが学べて身に付きますから。そして、専門性を持った上で、クライアントにどう届けるかも重要です。どうすれば伝わるのか。コンサルタントの基礎ではありますが、習得するとよいスキルですね。
──お話を伺ってきた中で、リスクアドバイザリーでキャリアを作る際に会計の知識は不要というのは意外でした。会計以外にも、経営戦略やサイバーセキュリティなどの分野でも知見を深めて独自の専門性を高めていくのですね。その他にデロイト トーマツが強い領域を教えてください。
岩村:デロイト トーマツでもう一つ力を入れているのは「データアナリティクス」の分野です。技術の進歩により、大量のデータを収集できるようになりましたから、データをうまく活用すれば世の中を変えていくことができます。
ただし、データは取捨選択を行い意思決定に使わなければなりません。経営の意思決定をする際に大量のデータだけがあっても意味がないのです。私もさまざまな指標は見ていますが、シンプルな示唆を出すことを心掛けています。
デロイト トーマツにおけるアナリティクスで何をやっているのかというと、例えば、財務分析の数字をデータで読み込み、不正をしていないかを検知するプログラムを作っています。
データ・AI(人工知能)の活用サポートまで一貫して行っているので、社内やアドバイザリー業務でその手のソリューションを使えば、より洗練されたコンサルティングができるでしょう。Web3.0(次世代の分散型インターネット)が進めばデータはより民主的な扱いになるかもしれない、という予想も私は持っています。
勉強が苦手だったから公認会計士に。専門性を磨けば道は開ける
──岩村さんが歩んできたキャリアについて聞かせてください。
岩村:私は、短期記憶が苦手で勉強は得意ではありませんでした。そこで、自分の武器になる「専門性」を求めて会計士の資格を獲得しました。
就職氷河期のまっただなかである2000年に大学を卒業しましたが、普通の会計士になるのが嫌で、大手上場企業以外の監査やIPO(新規株式公開)支援を行うなど、特徴的な部門を多く持つデロイト トーマツを選んだのです。
入社後3年間は中小企業の監査を担当していました。このときの経験は自分自身でも非常に礎になっています。神奈川県の住宅地内にある町工場を実際に見て監査をし……。のちのち大企業の工場を監査するときも「あの工場の何倍だな」と思える手触り感を得られました。
──岩村さんにも下積みのような時代があったのですね。
岩村:のちにITバブルがはじけますが、2004~2005年頃までは「上場したい」というITベンチャーがまだまだ多くあり、IPOの監査やアドバイザリーを行う業務の部署を選びました。
当時のデロイト トーマツのクライアントは結構な確率で上場されていましたが、私が担当するクライアントは上場するどころか、監査契約にすら至らない企業も多く、当時の上司に少し意見していましたね(笑)。ただ、その当時いろいろと監査の現場に携わることができたのは自分の糧(かて)になっています。
──さまざまなクライアントを担当される中で、特に印象深い案件や学びはありますか。
岩村:自分にとって大変勉強になり、大きく成長させてくれた、あるインターネット関連事業会社です。その企業の監査を担当していたがゆえに「ベンチャー企業ってこんなふうに大きくなるんだ」と間近で感じました。
また、大手ネット証券会社のCEOや国内大手ERP企業の代表、大手メディア媒体のCEOなど、優秀で伸びる若手企業経営者もたくさん見てきました。さらに、大手人材紹介会社の監査を行ったり、グローバルな製造業でリスクアドバイザリーの仕事をしたりしました。
デロイト トーマツ グループの幅広さや、経営課題を解決できるアプローチの多様さ、大手企業のメカニズムを学べたので、自身も経営者としてリーダーシップを身に付けることができました。
「万能である必要はない」。誠実に仕事に取り組み、一歩ずつキャリアを積み重ねることがビジネスの成果につながる
──どんな人がリスクアドバイザリーに向いていますか?
岩村:何かをコツコツと積み上げていきたい人です。積み上げたものをリスクアドバイザリーのさまざまな領域に展開していければ、応用の利く人材になると思います。「一山当てたい」という人はリスクアドバイザリーに向いていないかもしれません(笑)。
──なぜでしょうか?
岩村:リスクアドバイザリーの仕事は日々の積み重ねが大切で、一朝一夕で成果を得られるわけではないからです。私は、根本的に人間の能力にはあまり差がないと思っています。では、どこで差がつくのか。それは環境や、その人が持っている思いの強さなどでしょう。
私も勉強が得意ではありませんでしたから、自分がコツコツ努力できる領域を探して自分のキャリアを作ってきました。ただやみくもに仕事をこなすだけでは成長できません。自身で考えて努力し、改善し続けながら得意な領域を見つけて、真摯(しんし)に業務に取り組むことが重要ではないでしょうか。
よく就活でいわれる「コミュニケーション能力」も別段必須ではありません。もちろん、あるに越したことはありませんが、仕事だと割り切って話すことを頑張ってみれば身に付きます。実は私も人見知りですから(笑)。誠実な人は自分の課題に逃げないと思います。そもそも、全てに万能な人はいないですし、特別な人材になる必要性もないのです。
──岩村さんは今後、デロイト トーマツで何をしていきたいですか?
岩村:私自身の挑戦ですが、リスクアドバイザリーの認知度をより上げていきたいと考えています。改めてですが、今の日本では「リスクは避けるもの」という認識が一般的です。
マイナスの不確実性ばかりが取り沙汰される状況では、日本の成長は停滞してしまいます。リスクの語源はさまざまな説がありますが、私は大航海時代に「危険を承知で新世界への出航にチャレンジする人」のような意味で使われ始めた、という話にヒントがあると思います。分からない世界に飛び込んでいく人を応援したいし、自分もそんな存在でありたいですね。
──ありがとうございます。最後にコンサルティング業界を目指す学生に向けて、アドバイスをお願いします。
岩村:この10年でアドバイザリーやコンサルティングの業界が変わり、認知度が大きく高まるにつれ、さまざまな分野で活躍する人も増えてきました。外からクライアントの変革に携わるのは、大きな醍醐味(だいごみ)があるものです。
よく「戦略コンサルティングファームに就職したい。上流工程に携わりたい」という学生の声も聞きますが、一方で「専門性がない状態でどんな貢献ができるのか?」と考えてしまいます。
あくまでアドバイザリーやコンサルティングはドーナツの外側です。クライアントが見えていない領域を明らかにするためにさまざま知識をマスターする必要があります。新卒で入社して5年程度で、経営も財務も各種業界のことも網羅的に知り尽くすのは難しいと思います。であれば、デロイト トーマツで「リスクアドバイザリー」という一つの専門性を磨き、実務的な部分を知ってから経営者と話す方が、より本質的な課題を解決できるのではないでしょうか。
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【ライター:上野智/撮影:齋藤大輔】