気がつけば満開だった桜も散り、電車の中では真新しいスーツの人たちが眠そうに朝を迎えている。去年まではリクルートスーツの上に着ていたトレンチコート。もうメーカー企業に勤め始めて1年がたった。朝眠いのは彼らと同じだけれど、移動中はニュースに目を通して今日のスケジュールチェック、もうすっかり「社会人」という肩書が板に付いてきた。
私の会社では、できるだけ若い世代に学生と話してほしいという方針から、2年目からリクルーターを任される。去年の今頃は『猫の手』だったはずの私も、「誰か手伝って!」と叫びたくなるぐらい忙しい日々の中、なんとか時間を作って就活イベントに参加しサポートをしている。
学生と話すのは結構楽しい。2年前の自分を思い出すようで、手に取るように学生たちの気持ちが分かるし、できるだけ協力したいと思う。そして何より、学生と話すことで、私も頑張らねばと身が引き締まる。
だが、時折へんてこな学生に出会うことがある。
嘘(うそ)を言う必要もないが、本当のことをそのまま言う必要もない
ある説明会で学生に、私が就活生だった頃どのような業界を受けていたか質問された。就活生の頃に自分がやりたいことがさっぱり見えていなかった私は、「とにかくいろんな会社の説明会に行って消去法で業界を絞っていった」という話をした。
すると彼は、「実は僕、メーカーとか全然考えてなくて、コンサルが第一志望なんです。でもそれだと落ちた時まずいかなと思って今日ここに来ました」と言った。
なるほど……それが彼の本音なのだろうが、コンサルとメーカーは全然違うし、そんな「まあ、メーカーは駒の1つですけどね」なんて言い方をされるとちょっとテンションも下がる。
これほどあからさまに失礼な事を言う人は稀(まれ)だと思うが、思わぬところで失礼さがバレていたりする。
学生が社会人に、気軽に質問やOB訪問の申し込みができるSNSがある。そのSNSの学生のプロフィール欄には志望業界を書く欄があり、「ぜひOB訪問させてください!」とメッセージをくれた人の志望業界を見ると「商社・金融」 の文字が。思わず苦笑い。ぜひ他をお当たりいただきたいものである。
学生も暇なわけじゃない。説明会に来たのも、OB訪問をお願いしてきたのも、多少はメーカーに興味をもっているからであるはずだ。
嘘をついて「メーカーが第一志望です!」という必要もない。だが、本当のことをそのまま言う必要はもっとない。
自分の会社が第一志望じゃないと分かった学生に「いや、君はうちの会社に必要な人だよ! うちの会社はこんな良いところもあるんだよ!」という社会人はまずいないからだ。
不安だと嘆くだけでは何も解決しない
就活生は概して皆、不安を抱えている。当たり前だ。先行きが見えない中で、非日常的なイベントの数々。周りが気になるし、飛び交う膨大な情報に惑わされ、くたくたなのだ。
だが、社会人はあなたの不安を一掃してくれる精神科医ではない。
ある学生に小一時間、「落たらどうしよう、就活失敗したらどうしよう」と相談されたことがある。「そんなメンタルじゃ受かるところにも受かんないわ! そんなことはママに話せ!」と言ってしまいたかったが、私は非常に優しい人間なので、ただただ「大丈夫だよ」と相づちをし、秒針が進むのを待った。退屈以外の何物でもなかった。
これは全ての事に通じるが、不安なときほど「どうやったらうまくいくか」を考えるべきなのである。そして社会人は学生の手助けをしたくて時間をつくっているのだ。
まず何が不安なのかを分析してみてほしい。学生時代に頑張ってきたことがないと思っているからなのか、面接が苦手なのか。
自己PRが不安なら、OB訪問の時に思い切ってその話をして反応を見てみればいい。そしてフィードバックをもらう。面接が苦手ならば、最後に自分の話している姿の印象を聞いてみるのもいいだろう。社会人に自分の良いところ、ダメなところを見つけさせて不安を拭い去っていけば良い。そんな不安と戦う君にはもう好感しかない。「力になってあげたい」と思わせたら勝ちなのだ。
ただ熱い思いを持っているだけのファンはいらない
とてもありがたいことに、中にはどうしてもうちの会社に入りたいという話をしてくれる学生がいる。こっちもテンションがあがる。超気持ちいい。だが話を聞いてみるとあの製品が好き、企業ブランドに惹(ひ)かれる、と内容が薄っぺらいことが多い。
「どうもお客様、ご愛顧いただき誠にありがとうございます」といったところである。
残念ながら、思いだけでは受からないと考えて良い。リクルーターや面接官は良いお客さんではなく良い社員を欲しているのだ。
なぜその企業で「働きたい」のか。自分ならどんな「働き」を提供できるのか。そこが大事なのだ。好きだからこそ、その会社が「もっとこういうことをしたらいいのに」と思うことがあるのではないだろうか。そこに納得感を与えられればあなたはもう無敵だ。
「ここが魅力だからこそ、もっとこうしていきたい。私はそのためにこんな力を提供できる!」そう話してくれる学生には「この人はしっかり勉強してきているんだな」、「本当にうちに入りたいんだな」と思う。
そういう学生が多少的外れなことを言っても、面接官やリクルーターたちは全くネガティヴな感情を持たない。うちの会社のブランド力ではなく、あなたの夢を、あなたの魅力を語ってほしい。大人はそういう学生が大好物なのだ。
言葉遣いができていない学生は、それだけで無能に見える
学生と年齢も近い私は、「話しやすい」類のリクルーターらしい。学生たちは話をしているうちに緊張の糸が切れるのか、それとも慣れない敬語に戸惑っているのか時折言葉遣いがへんてこになる。
例えば略語である。新就活用語に「学チカ」という言葉があるらしい。知らなかったことを笑われてしまったが、そんなことよりまず年上の人に理解してもらえる言葉を使えないとまずい。非常に細かなことだが、そういったところでコミュニケーション能力が試されるのだ。
それから話し言葉とは別の話だが、ESを読んでいると誤字脱字が多いことに気付く。言いたいことが伝わるので問題はないが、内容がしっかりしているESには誤字脱字も少ないので、誤字脱字が多いと読む気が失(う)せる。
ESは、落ち着いてしっかり読み直してから提出しよう。自分では見つけきれないかもしれないので、知人に読んでもらってから提出するのもよいだろう。
それと言葉のミスでよくあるのが敬語の間違いだ。小姑(こじゅうと)のようで申し訳ないが、できれば目上の人には美しい日本語を使ってほしいものである。この前OB訪問に来てくれた学生は、私の返答に毎回「確かにですね」「なるほどです」と言っていた。もはや最後の方はそれが面白くて仕方がなくなっていたが、それを言うならば「確かに仰る通りですね」だとか、「なるほど、そうですね」といったところだろう。それからたまにあるのが「参考になりました」だ。なんとなく評価されているようで変な感じがする。「勉強になりました」のほうがベターだろう。
言葉遣いは私も時々間違ってしまうし、学生にそこまで求めることもないので気にしすぎる必要はないが、「あっ」とは思ってしまう。間違いに気付かず恥をかいてほしくないので、言葉遣いが苦手だなと思っている人は、社会人と話した後に、気になった点があったか聞いてみよう。
1つずつでも直していけば、この先のためにもなる。
つまらないミスで自分の魅力が伝わらないのはもったいない
面接でも説明会でもOB訪問でも、学生のことを知れる時間は極端に少ない。私も学生の頃はたった数十分で私の何が分かるんだ! と思っていたが、そのたった数十分で「へんてこさ」を出してしまう学生には良い印象は持てない。
私たちはワクワクしたいのだ。あなたの良い部分を知りたいのだ。ここまで随分と細かなことばかり指摘してきたが、そういった細かな事こそ気を付けて、ぜひともあなたの魅力を存分に見せてほしい。そしたら私たちはいくらでもあなたの手助けをする。
社会人と話せる機会をうまいこと利用していくのだ。忙しい就職活動の中、時間を割いて作ったせっかくの機会をぜひ無駄にしないでほしい。
※こちらは2017年6月に公開された記事の再掲です。