IT黎(れい)明期の1983年に、同県に設立されたソフトウエアビジョン株式会社で、システム開発部に所属している桑原秀明さん。東京の大学を卒業後、熊本にUターン就職しました。実際に熊本にUターンしてどのように感じているのか、伺いました。
ほどよく都会でほどよく田舎の住み慣れた土地で働く
──まずは自己紹介をお願いします。
熊本県の合志市出身で、小学校3年生からは熊本市で育ちました。東京の立教大学への進学を機に上京し、Uターン就職でソフトウエアビジョンに新卒入社しています。社会人3年目の25歳で、現在も熊本市で暮らしています。
業務としては、システム開発部に所属し、システムエンジニアとして従事しています。具体的には、受託開発やクライアント企業にエンジニアとして派遣されるSES(システムエンジニアリングサービス)などです。入社2年目より主任として責任ある立場で、日々新しい技術に挑戦しながら、プロジェクトの成功に貢献できることにやりがいを感じて働いています。
──Uターンを決意したきっかけは何でしたか?
故郷である、熊本の企業を中心に就職活動を始めたことですね。当初は熊本の企業だけでなく、近隣の福岡県をはじめとした九州の企業をメインにしつつ、首都圏にある企業も視野に入れていました。ただ、転勤を繰り返すイメージがあまり湧かず、次第に熊本の企業をメインに就職活動を続けるようになりました。
──Uターンで熊本県を選んだ理由を聞かせてください、他の地域と比較検討はしましたか?
熊本に家族がいたことが大きいですね。熊本であれば家族と頻繁に会うこともでき、親孝行しやすいはずだという考えがありました。
そして、熊本であれば中心地はにぎわいもあり、ほどよく都会も田舎も感じられる上、自分の住み慣れた土地で働くこともできます。
また、サーフィンで宮崎県を訪れたり、大分県の九重スキー場に行ったりすることの多い私にとっては、九州の真ん中に位置して各県へのアクセスのよい熊本は利便性がとても良いです。
都会暮らしをしたいわけではないと気づいた理由
──Uターン前後で、生活スタイルはどのように変化しましたか?
大学進学を機に一度熊本から出てからこそ、「自分は都会暮らしをしたいわけではないのだな」と実感しましたね。
私が進学した立教大学は東京・池袋にキャンパスを構えていたため、周囲の学生は池袋はもちろん、新宿や渋谷といった繁華街で遊ぶことが多かったようです。一方、私は大学在学中から資格を取得して、スノーボードのインストラクターとして群馬県に雪山ごもりをすることもあり、自然の中にいることが自分に合っていると感じていました。
確かに東京であれば多くの企業があり、バリバリ仕事をこなす環境は整っています。ただ、私は最先端への憧れや競争意識が強いわけではなかったため、最終的に熊本で仕事ができるのであればそれで問題ないのではないかという思いに至りました。今振り返ると、当時からワークライフバランスを重視する考えだったといえそうですね。
熊本に戻ってきてからは、生活も大きく変わりました。電車移動だった東京での学生時代とは打って変わって、車社会である熊本では自分の運転で行きたいところに行けます。休日には宮崎でのサーフィンや大分でのスノーボードといった趣味を楽しむほかにも、熊本の北部にある自然豊かな阿蘇山や南小国町を訪れることもあります。
人付き合いも都会よりもフランクで、街には知り合いのお店が多くあって、今ではローカルならではの楽しみ方もできるようになってきました。人との距離感や結びつきも高校生の時と比べると、非常に前向きに捉えられるようになりましたね。
──Uターンして良かったと感じる点を聞かせてください。
最近、学生時代の東京の友達を天草市のイルカウォッチングに連れていったところ、野生のイルカの群れと遭遇できて感動してもらえたのはうれしかったですね。都会で生まれ育った彼らからすると、田舎は新鮮な体験ばかりで、「すごくリフレッシュできた」と楽しんでもらえたようです。
私自身、宮崎や大分にも車なら数時間で行けるアクセスの良さを感じるとともに、自然に触れることで「熊本に戻ってきてよかった」と改めて思いますし、ワークライフバランスの充実を実感する日々です。
親からも「熊本に戻ってきてほしい」と言われたことはありませんでしたが、妹が東京で就職したこともあり、私が戻ってきたことで助かっている部分はあるようです。今後を考えても、親孝行ができる環境を選んで良かったと心底感じています。
実は学生時代からお付き合いしていた女性ともうすぐ結婚式を予定していて、熊本に戻ってきたことが結婚の決心がついた理由でもあります。転勤などを考え出すと、結婚をためらうこともあるかと思いますが、単身赴任などをすることなく一家で暮らしたいという希望もあり、相手も熊本出身なので、両家のことを考えても熊本で暮らすことが一番なのではないかという結論に至りました。
仕事を理由にUIJターンを諦めるのはもったいない
──UIJターンを支援する行政サービスや制度を利用しましたか? 利用した場合、どのような印象を持ちましたか?
就職活動時に、熊本のUIJターンサポートデスクを利用しました。親切な対応とともに、ソフトウエアビジョンを知ったきっかけになったことを今でも覚えています。
当時はサポートデスクから熊本の企業の合同説明会を紹介され、そこにソフトウエアビジョンも参加していました。コロナ禍だったこともあり、オンラインでの説明会でしたが、合同説明会では社長自身が出席して、画面越しながら説明を聞いて「すごく面白そうな会社だな」と強い印象を受けました。
その印象は入社面接を通しても変わることなく、今でも「この会社を選んでよかった」と思っています。
──熊本県の魅力だと感じる点を教えてください。
繰り返しになりますが、ほどよく都会と田舎を感じられ、九州の真ん中に位置することから県外にも行き来しやすいアクセスの良さがあります。私も熊本に戻ってきてからは、県外の人が褒めてくださるような阿蘇や天草にも車で訪れるようになり、自然が豊かなところにも簡単にアクセスできる点は都会と違う良さだと再認識しました。
その上、東京と比べると安価で広い家に住むことができることもあり、日々の生活で閉塞感は全く感じませんね。
また、最近ではリモートワークも定着して、東京をはじめとした都市部での仕事をこなすこともできるため、公私ともに充実した生活が可能な環境が整っています。
──熊本県へのUIJターンを考えている人へのアドバイスがあれば教えてください。
地方から都会に出る理由のひとつに、都会で仕事をバリバリこなしたいという思いがあるかもしれませんが、熊本にもやりがいのある仕事が数多くあります。
2021年にTSMCが熊本に製造子会社を設立した経済効果は大きく、熊本県全体の賃金も上昇傾向にあり、今後の成長も期待できる状況です。IT企業である当社も 、クライアント企業からの業務依頼は増え、3年連続で賃金のベースアップが実現しています。私は新卒入社なので他社との比較は難しい部分もありますが、UIJターンを仕事面で諦める必要はないのではないかと思います。
誰もが憧れるような都会のきらびやかな生活も実は休日だけのことで、熊本から都会に行こうと思えば福岡が近くにあり、東京にも熊本空港からアクセスできます。私自身はどこで暮らせば日々の生活を穏やかな気持ちで過ごせるかと考えたとき、広い家で自然もある環境であれば幸せの総量が高まると感じました。
同じように、都会と地方のどちらに生活拠点を置いた方が自身の幸せにつながるかと考えたとき、地方で暮らす選択肢が生まれる人も少なくないのではないでしょうか。