「ある朝、目が覚めたら、あなたは『就活生』になっていました。どの会社へ入りたいですか?」(※ただし、自身がこれまで所属した企業は選べません。)
社会人の先輩に、この「究極の転生質問」に答えてもらうシリーズ企画。今回は、藤原和博さんにご登場いただいた。
<藤原和博さんの「入社以降年表」>
・1978年(22歳)
新卒としてリクルートへ入社。周囲の同級生の中で、ベンチャーへ行くのは自分だけだった。
・1992年(37歳)
ヨーロッパで駐在。ロンドンに1年1カ月、パリに1年3カ月、家族とともに滞在。成熟社会の生き方を目の当たりにする。
・1996年(40歳)
リクルートを退社し、年俸契約の客員社員「フェロー制度」の第一号として働く。翌年に『処生術』を上梓(し)し、大ヒット。
・2003年(47歳)
東京都における義務教育初の民間人校長として、杉並区立和田中学校の校長に。マネジメントの力で学校の変革を進めることを実践。
・2021年(現在)
生徒がそれぞれの「1万時間」に没入し先生にもなる「朝礼だけの学校」の校長に。ほぼ毎朝、YouTube上で「目覚まし朝礼」を開講している。
藤原和博さんは、YouTube上でまもなく200万再生に到達する講演動画「たった一度の人生を変える勉強をしよう」や、堀江貴文さんやキングコングの西野亮廣さんが紹介したことでも話題になった著書『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』でも語られたように、人生の節目節目で大きな一歩を踏み出し続けてきた人だ。
今年からは「朝礼だけの学校」という新しいチャレンジもスタート。YouTube上で、ほぼ毎日「目覚まし朝礼」を開講しているほか、「朝礼だけの学校」内で情報発信をし、すでに10代から70代までの300名以上の入学者がいる、という。
民間企業から公教育の現場まで、幅広い仕事を経験された藤原さんは、いま就活生になったら、どんな会社に行くのだろうか?
高校生の時、バンドを組んでいた。
「正解はない」という前提を持つこと
質問にお答えする前に、まず、就活には「正解」がない、ということをハッキリお伝えしておきます。たとえば、「3社から内定をもらったんですが、ぼくにはどれがベストチョイスでしょう?」みたいな質問は、全く意味がありません。
仕事は、すればするほど、どんどんと見晴らしが良くなって、自分自身も変化していきます。かつ、「これからの10年の企業の変わり方というのは、おそらく今までの100年の変化に相当するのではないか」とぼくは思います。自分も相手も変化している中で「その瞬間のベストチョイス」という考えは、ほとんど意味がありません。また「それを洞察するというのは、あなたでもぼくでも無理だと思ったほうがいい」とも思うのです。
どんな会社へ入ろうとも、10年後に「ベストチョイスだった」となるためには、「覚悟」が必要です。踏ん切りを付けてやる、ということが大事です。
以上の前提をもとに、お答えします。
ポイント1 ビジネススクールとして優秀な企業を選ぶ
まず「どこがビジネススクールとして一番いいか」という視点は大事です。20代は、結局のところ、恥をかくためにあるわけで、どのくらいバッターボックスに立たせてくれるか、ということが大事だと思うんです。
リクルートに入社して20年くらいたったときに、ビジネスパーソンの間で評判になっていたのが、「ヒトだったらリクルート、お金だったら野村證券、情報だったら日本IBM」が人材を生み出している、ということでした。「人材を生み出す」というのは、中で活躍する人ではなくて外で活躍できる人をどれだけ輩出しているか、という意味です。そのあとの20年くらいで、マッキンゼー、アクセンチュアといった外資系コンサル企業が人材育成会社として有名になりましたよね。じゃあ、今だったら、どの会社がいいだろう? そういう考え方です。
ぼくが以前、よく名前を出していたのは、星野リゾートや、LITALICOという会社です。両社とも経営者を知っていて、彼らのことがすごく大好きです。ちなみに、星野佳路代表とは、『不可能を可能にするビジネスの教科書 星野リゾート×和田中学校』という共著を出しています。
星野リゾートはコロナ禍でいま非常に苦しいと思いますが、ここで生き残ったら、さらに面白い会社になると思います。LITALICOのような福祉領域の会社で、一部上場まで行く、というのは誰も想像しなかったと思います。いずれも、社会的な課題をきっちりと捉えている会社なので、現在もビジネススクールとしていいかもしれませんね。念のため言いますが、もちろん、保証はしませんよ?
ポイント2 履歴書をつくるという視点で「!」を提供
今だったら、大事なのは、コンピュータサイエンスやデータサイエンスですよね。ぼくは文系に来ちゃったんですが、高校までは数学が得意でした。もし自信があったら、アメリカかインドに留学をして、Amazonに潜り込む、みたいなことは、やったかもしれません。ビジネススクールを世界レベルで考えたときに、Googleか、Microsoftか、Amazonが思い浮かびますからね。
この考えは、「最初の3年で履歴書をつくる」という魂胆もあります。日本人にはまだ浸透していませんが、ヨーロッパの人だと「CV」をつくる、という考えが一般的です。CVとは、Curriculum Vitae (カリキュラム ヴィタエ)のことで、履歴書のことです。たとえば、イギリスでは、オックスフォード大学を出たとしても、大手企業にそのまま採用されるわけじゃありません。何が大事かというと、たとえば、「国境なき医師団」で2年間、眼病になるアフリカの先住民の人たちのサポートをやっていました、みたいな。そういう実績で結局決まるわけですよね。
その際のポイントは「!」。つまり、ビックリマークです。会社の人事や、30代で目指したい会社の社長が「!」を出すためには、20代に自分はどこにいて、何をやっていたらいいか、という発想もあるんじゃないかな、と思います。
ポイント3 会社の風通しの良さで選ぶ
3つ目は、風通しのいい会社、です。面接だけでは絶対に分からないし、いくら就活の情報を見ても分からないものです。たぶん、アルバイトやインターンをしないと分かりません。
もしも行きたい会社があって、バイトをできるのであれば、2カ月くらいしてみる。最低でも2週間いると分かると思います。場合によっては、その会社の近くの飲み屋に行って、どういう会話を社員がしているか、を見てみるんです。そういう場で、上司の悪口を言っているのはいいんですよ。上司の悪口を会社のそばの飲み屋で言えるのは、風通しがいいってことなんで。むしろ、黙っちゃってるほうが、おかしいと思います。
ぼくが新卒で入ったリクルートについては、2カ月間アルバイトをして、そのあと社員に引かれたのですが、いろいろな意味で風通しがよかったです。リクルートは、「社長」「部長」といった呼び方をしません。創業者ですら「江副さん」という呼び方をするので。そういうところが気に入った、というところもありましたよね。
リクルート新人時代 バンドCOSMOSを組んでいた@ニューオータニ鳳凰の間/忘年会
ポイント4 逆張りで選ぶ
ぼくが今、就活生だったら、「逆張り」をするかもしれません。
昔、就活生だった当時、同級生は、経済学部と法学部で50人ほどいたんですが、経済産業省を中心に官僚になったのが10人近く、民間でも金融と商社へ就職しました。2人くらいは、中小企業の社長が親父、という人がいましたが、中小企業・中堅企業・ベンチャーに参加したのはぼくだけなんですね。
これは何かというと、うちの父が最高裁判所に勤めていたことの「逆張り」だったんです。とにかく全く違う方へ行きたい、という想いがあったと思うんです。リクルートという会社を分析して、情報産業が伸びるんじゃないかと読んで、入社したわけではまるでないです。そういう「逆張り」というのは、ぼくの態度にすり込まれているので、今もう一度就職活動をすると考えても、「逆張りすると、どうかな?」と考えると思います。
たとえば今だと、人気がどんどんなくなっている、小学校の教員は面白いかもしれないな、と思います。先生になりたいという人は、少なくなっちゃいましたよね。だけど、ここから学校の「正解至上主義」が崩れていきますし、新しい教員、新しい校長像が望まれていきます。20年前に、ぼくがこの鵺(ぬえ)のような「正解至上主義」にチャレンジし始めた頃よりは、はるかに行動しやすいし、味方ができやすいと思うので。
実際に、都立の高校の校長にも、そういう人が現れているくらいですから。崩し甲斐(い)があるかな、という意味で、教員からキャリアをスタートして、途中でビジネスの世界に5年くらい留学してからまた戻る、みたいなこともあっていいと思うんです。
そういうその逆張りはあるかな、と。
ポイント5 グローバル企業に潜り込む大穴
逆張りのひとつの延長になりますけれども、5つ目は、こういう視点もちょっと提供しておきたいと思います。
たぶんですね、この10年の間に、アップルが、車のメーカーを買うんじゃないか、と思うんですね。じゃあ、どこを買うのか、という話です。もしかしたら日本の日産かもしれないじゃないですか? そう考えると、いま、日産に潜り込んでおくと、アップルという世界で一番巨大な会社に参加できる可能性があるわけですよね。これは大穴を当てる、みたいな考え方ですよね。
従業員持株会がある会社
以上、5つのポイントをお伝えしました。いただいた質問に答えられましたかね? もうひとつだけ補足をしておきます。
あらゆる選択で、自分で起業するのではなく、ある種の法人に入って、組織で修行しようというのであれば、「その組織が従業員持株会を持っていること」が理想です。自分が働いたアウトプットで貢献したときに、フローの所得だけでは割に合わないんですよ。実際にはそれ以上の貢献をしていて、組織の方に資本が蓄積されるようになっているので。
資本主義で生きているのに、誰も教えてくれないんですよね。ぼくも教わらなかったです。父が公務員だった、ということももちろんありますが。大学は経済学部経営学科だったにもかかわらず、資本の論理について、きっちりと教えてくれる教授はいませんでしたね。
資本の論理というものを全く分からないで紛れ込むより、知っておいたほうがいいですよね。もし従業員持株会がある会社だったら、絶対に株を買っておいて、自分ががんばったら、その会社の成長に寄与するわけなんで。そのストックの分の増えた分も、部分的にもらうことができますからね。
本当のことはなかなか教えられません。本当のことであればあるほど、ストライクゾーンであればあるほど、教えられない。そういうことってありますよね。
「朝礼だけの学校」では、この取材記事の全文文字起こしを掲載しています。実際の取材ではさらに1.5倍ほど藤原さんは多く語っているので、ご興味がある方はこちらもご覧ください。
藤原 和博(ふじわら かずひろ):「朝礼だけの学校」校長/教育改革実践家/元リクルート社フェロー
1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。2008年〜2011年橋下大阪府知事の特別顧問。2016年から2018年まで奈良市立一条高等学校の校長を務めた。著書は『リクルートという奇跡』(文藝春秋、2005)、『10年後、君に仕事はあるのか?』(ダイヤモンド社、2017)、『革命はいつも、たった一人から始まる』(ポプラ社、2020)など累積150万部で講演回数も1500回を超える。ちくま文庫から藤原和博「人生の教科書」コレクションが、前田裕二、西野亮廣らとのコラボで出版されている。日本の技術と職人芸の結晶であるブランドを超えた腕時計「japan」(文字盤漆塗り)や「arita」(文字盤白磁)を諏訪の時計師とファクトリーアウトレット方式でオリジナル開発し、第7弾まで完売。高校時代はバスケットボール部だったが、弱くてもっぱら強い女子バスケ部の相手をさせられた。いまは女子テニス部の練習に参加。3児の父で3人の出産に立ち会い、うち末娘を自分でとり上げた貴重な経験を持つ。
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