「本当は地元で働きたいけど、とりあえず東京かな……」と思っていませんか?
「就活も脱・東京だ!」とか、「働き方は多様化している!」とか耳にはしても、就活で実際に飛び交う情報は東京の企業が多くで、どうしても目が向きがちです。
一方で、どの地域にも圧倒的な個性を放つ企業はあります。
地元愛にあふれ、地域の課題を解決しようとするひたむきさ。地域密着だからこその信頼と、愛され度と、強さ。若手でも安心して挑戦できる、ユニークな仕組み──。目を凝らせば、そんな知られざる顔が浮かぶかもしれません。
ワンキャリア編集部は、会員の学生が「お気に入り」に登録している企業の数を、地方ごとに集計。大学のある地域に本社を構える企業を対象に、30位までのランキングにまとめました。
今回は中国・四国編。地元の豊かな素材を生かす食品メーカーや、地元で足場を築いて国内外に羽ばたいたエポックメーキングな企業などが名を連ねました。生まれ育った創業地への思いや、地域貢献に熱心な会社も目を引きます。
就活の情報収集も足元から。コロナ禍で世の中の物差しが変わる今、「灯台下暗し」で後悔しないためにも、身近な選択肢を探してみませんか?
ベネッセコーポレーション
概要
1955年創業。2009年の持株会社化に伴い「ベネッセホールディングス」が設立されたため、この記事ではベネッセホールディングスの事業に関しても説明しています。教育サービスの「国内教育」や「介護・保育」を柱に、語学教育「ベルリッツ」を含め5つの事業セグメントがあります。
事業・特色
通信教育「進研ゼミ」や乳幼児向け教育サービス「こどもちゃれんじ」、マタニティ・子育て雑誌「たまごクラブ」「ひよこクラブ」などで知られています。企業理念は「よく生きる」、事業理念は「自分の家族がしてもらいたいサービスを提供する」。
1955年、岡山市で「福武書店」が誕生。中学向けの図書や生徒手帳などの発行を始めました。前身の会社が前年に黒字倒産をした経験から、「現金主義」「無在庫経営」「継続ビジネス」という、今に続くベネッセのビジネスモデルを作り上げました。その後は模擬試験事業、通信教育講座の拡大と成長軌道に乗せました(※1)。
瀬戸内海の島々を舞台にしたアート活動も、全国的な知名度があります。「ベネッセアートサイト直島」として、ベネッセホールディングスと公益財団法人「福武財団」が30年以上にわたり展開しています。
自然や建築の特性を生かした制作・展示がなされ、多くの来訪者を呼び、地域との交流が生まれています。「瀬戸内国際芸術祭」の開催につながり、「直島メソッド」として海外でも紹介。アートによる地域づくりで、「よく生きる」のメッセージを発信しています。
「アートの島」として知られる直島には建築家の安藤忠雄氏が設計したホテル・美術館一体型の施設があり、ベネッセの子会社「直島文化村」がこれらを運営しています(※2)。
(※1)参考:ベネッセホールディングス「グループ沿革」
(※2)参考:ART SETOUCHI「ベネッセアートサイト直島の歩み」
マツダ
概要
1920年創立で 広島県府中町に本社を置く乗用車・トラックの製造販売会社です。1984年に現在の社名となりました。
事業・特色
創業地の広島には、逆境を乗り越えてきた街の歴史や、製鉄業から手工業、造船業、自動車産業へと発展したものづくりの系譜があります。マツダはその広島で生まれ、育ったという強い思いを抱き、独自の技術や哲学を磨いてきました。
1920年、東洋コルク工業として設立。その後社名を変更した東洋工業は、原爆で多くの従業員の命を奪われながらも投下から4カ月後に、三輪トラックの生産を開始。物資を運搬して復興を支え、勇気や笑顔を街にもたらしました(※3)。
「広島のDNA」を受け継いでいるというマツダは、「夢のまた夢」と言われたロータリーエンジンの実用化や、「世界一」を目指した内燃機関の開発も成し遂げました(※4)。
車と過ごすことで得られる「人生の輝き」を「走る歓び」と捉え、ブランドエッセンスに定めています。デザインを重視し、スローガンは、車に生命感を与えることをベースにした「Car As Art(車は芸術)」。日本の美意識をよりどころにした独自のエレガンスを表現し、「マツダデザイン」は高い評価を得ています(※5)。
環境対策では、走行中だけでなく、エネルギーの採掘から輸送までのライフサイクル全体を考えたCO2削減を目指しています。CO2削減に最も効果がある内燃機関を進化させるため、次世代型エンジンを開発。その上に電動化技術を組み合わせるというスタンスです。2030年時点で、生産する全車に電動化技術を搭載する目標です(※6)。
(※3)参考:マツダ「逆境を乗り越えた広島に根差す マツダのチャレンジ精神」
(※4)参考:マツダ「広島から世界への挑戦」
(※5)参考:マツダ「マツダのクルマづくり デザイン」
(※6)参考:マツダ「サステイナブル“ZOOM-ZOOM”宣言」
ファーストリテイリング
概要
1963年設立。山口市に本社を置く、ユニクロ、ジーユーなど複数のブランドを世界中で展開するアパレル製造小売企業です。2005年、持株会社体制へ移行しました。
事業・特色
1949年、山口県宇部市で創業した「メンズショップ小郡商事」が源流です。
素材調達から企画・生産・販売まで一貫したプロセスで、高品質な服をリーズナブルな価格で販売。服の領域で社会のインフラになるという独自の発想で事業を重ねてきました。企業理念(ステイトメント)は「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」。
売上規模は、世界のアパレル製造小売業の中で3位。「国内ユニクロ」「海外ユニクロ」「ジーユー」、セオリーなど「グローバルブランド」の4事業があり、中核のユニクロは、25の国と地域に2,312店舗を出店。売上高は約1兆7,700億円です(2021年8月期末)(※7)。
あらゆる人の生活を豊かにする、生活ニーズから考え抜かれたシンプルで上質な服を「LifeWear(究極の普段着)」と定義し、前面に押し出しています。2021年上期は新型コロナの影響があったものの、LifeWearが支持され、営業利益は大幅増を果たしました。
全社一丸で進めているのが、情報を商品化する新しい「情報製造小売業」をつくる「有明プロジェクト」です。先端技術を駆使し、世界中の工場・倉庫・店舗がシームレスに連動したサプライチェーンを構築。それにより、環境負荷の最小化や、人権に配慮した生産環境の整備など、サステナブルな社会の実現に向けた取り組みにもつなげる狙いです。効率化を進め、営業利益率15%を目指しています(※8)。
(※7)参考:ファーストリテイリング「ファーストリテイリングについて」
(※8)参考:ファーストリテイリング「有明プロジェクトについて」
【番外編】瀬戸内海で発展した企業など3社をピックアップ
ランキング外にもある魅力的な企業として、3社をピックアップしました。古くから造船業が栄え、世界有数の海事都市・愛媛県今治市にある「今治造船」、海外の森を管理しながら地元の振興に力を注ぐ広島県廿日市市(はついかいちし)の「ウッドワン」、独特の福利厚生がある岡山市の人気企業「ワークスマイルラボ」を紹介します。
今治造船
概要
1942年に設立された、愛媛県今治市に本社を置く造船会社です。
事業・特色
経営理念は「船主と共に伸びる」。1955年に鋼船の建造に着手して以降、2,700隻を超える新造船を竣工(しゅんこう)させています。建造量は国内トップで、世界でもトップクラスに入っています。2020年の国内シェアは約3割に達します。
技術開発力は高く評価され、省エネや海賊対策、輸送効率・安全性の向上などにより、日本造船界の最高栄誉「シップ・オブ・ザ・イヤー」に5度輝きました。
瀬戸内海を囲むように10の建造拠点と15基のドックがあり、国内造船メーカーでは群を抜く規模です。営業拠点は東京支社で、海外はアムステルダムに事務所を構えます。
機械、建設、流体力学、電気、航空宇宙といったあらゆる技術や知見が網羅される造船業の現場には、多くの分野のスペシャリストが集います。1901年の創業以来、構造的な不況の際も人員整理に手を付けず、雇用を守っています(※9)。
脱炭素化への世界的な機運が高まる中、今後は温室効果ガスを排出しない「ゼロエミッション船」の実用化も注目されています。複数社と連携し、燃料にアンモニアを使う船を2025年めどに開発する計画を進めています。
一方、受注競争が激しくなる中、新たな手を打っています。国内2位のジャパンマリンユナイテッド(JMU)と資本業務提携し、営業と設計を統合した新会社「日本シップヤード」を2021年に設立。公的支援を受ける中韓勢に対抗し、大規模受注の獲得を目指します(※10)。
(※9)参考:今治造船「今治造船の実力」
(※10)参考:ニュースイッチ「『今治造船×JMU』連合発足!中国・韓国勢と生き残りをかけた受注競争に挑む」
ウッドワン
概要
1935年創業、1952年設立で、本社は広島県廿日市市です。住宅や高齢者施設、保育所、店舗といった幅広い分野に使われる内装建材の製造・販売などを手がけています。
事業・特色
「自分で使う木は自分で育てる」がモットーで、木を植えるところから取り組んでいます。創業以来「循環型林業」を研究しています。
伐った木を無駄なく使うという思いから、総合木質建材メーカーとして発展。良質な木材をローコストで安定供給をするため、木材資源の自給自足や、伐採から加工・生産まで一元管理する体制を早くから整えました。
良質な木材を使った床・壁・ドアなどの内装建材に加え、システムキッチンをはじめとする住宅設備機器を扱い、住宅などの企画・設計も行っています。ドア、床材、キッチンなどの無垢建材は「業界NO.1」をうたいます(※11)。
ニュージーランドの「ウッドワンの森」では、定期的に植林しつつ、30年のサイクルで資源を活用・再生。現地法人が管理する全森林、全工場ではFSC認証を取得。同国に持つ森林面積は4万ヘクタールで、「MAZDA Zoom-Zoomスタジアム広島」のグラウンド換算で32,000個分です。植林開始から31年目となり、最初に植えた木の伐期を迎えています。
会社発祥の地・廿日市市の原生林の残る高地では「ウッドワン美術館」を運営。内部は木肌をそのままに見せ、木の温もりを感じられます。近くでは、太古の巨木をくり抜いてつくった露天風呂など国内有数のバリエーションがある温泉や、スキー場も運営しています(※12)。
(※11)参考:ウッドワン「データで見るウッドワン」
(※12)参考:ウッドワン「社会貢献・文化活動」
ワークスマイルラボ
概要
1911(明治44)年に筆や墨を売る文具店として創業し、事務用品・オフィス家具・OA機器の販売とサポートを手がける企業です。2018年に現社名となり、本社は岡山市です。
事業・特色
「次の100年」を見据え、2016年からは事業内容を「笑顔あふれるワークスタイルの創造提案業」に設定。オフィス用品の販売に限定せず、オフィス環境の改善提案や経営課題の解決など、幅広いサービスを展開しています。デジタル化、働きやすい職場環境、評価制度活用、テレワーク導入などの支援が強みです(※13)。
自社では2016年からテレワークを導入し、残業を前年比40%以上削減しながら売上104.8%、粗利113.6%を達成しました。2020年の営業利益は、10年前の約18.5倍と成長しました(※14)。
「日本の中小企業のワークスタイルモデルカンパニー」になることをビジョンに掲げ、中小企業の働き方支援業界を確立し、「ワクスマ」を全国ブランドにすることを目指します。
100年企業として根底にあるスピリットは、社員が楽しく満足して働くことができれば、お客さまに満足を提供でき、会社が発展する──というもの。社員の満足追求を徹底しています。
社内では最先端のオフィスツールが並び、フリーアドレス制で仕事ができます。音楽が流れ、アロマの香りが漂うなど、「理想」の職場環境を整えています。
手厚い福利厚生はユニーク。たばこを吸わない社員への「禁煙手当」、たばこをやめる決心をした社員を支える「禁煙外来費用会社負担」、医療費の全額会社負担(年1人20万円)、整体師が月2回、社内で施術する「社員満足度向上制度」などがあります(※15)。
(※13)参考:ワークスマイルラボ「会社概要」
(※14)参考:ワークスマイルラボ「ワクスマとは」
(※15)参考:ワークスマイルラボ「RECRUIT」
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【ライター:松本浩司】
(Illustration:matsukiyo8379/Shutterstock.com)