最近の就活の仕方、働き方にはさまざまな形があります。はじめから転職を視野に入れている人、若くして起業を志す人など。
新卒入社から総合商社一筋でキャリアを積む人がいる一方で、キャリアパスの中で総合商社に勤めるビジネスパーソンもいます。彼らにとって総合商社とは、どのようなフィールドとして見えているのでしょうか。
さまざまな企業を経験した人が思う、総合商社の魅力はどこにあるのか──三井物産とワンキャリアは2019年6月、「商社“と”仕事をする、商社“で”仕事をする未来」と題し、トークイベントを共催しました。
ワンキャリア執行役員の北野唯我と、三井物産の人事総務部で採用担当を務める清水英明氏がモデレータとなり、「総合商社出戻り」「投資銀行からの転職組」「戦略コンサル経験者」という3人の社員に、商社で働く理由からキャリア論まで、さまざまなテーマについてガチで語っていただきました。その当日の模様をお届けします。
商社ありきの就活はダメ 優秀な就活生ではなく、優秀なビジネスパーソンを目指せ
清水:今日ここにいらっしゃる方の中には、総合商社を目指している方もいるでしょう。しかし、私たちは、学生の皆さんに「総合商社ありき」の就活ではなく、まずはさまざまな選択肢を検討し、その結果として総合商社・三井物産を選ぶといった就活をしてほしいと思っています。
三井物産は積極的にキャリア採用を行っていることもあり、さまざまなバックグラウンドを持った社員がいます。今日は、彼らの生の声をお届けし「どのようなキャリアパスがあるのか」というリアルな情報の提供を通じて、本質的なキャリア選択に生かしてもらいたいと思います。登壇する社員には、本音で話すようにお願いをしていますが、ちゃんと本音で話してもらえるよう、ワンキャリアの北野さんから横やりを入れてもらおうと思っています。
北野:今日、ここにいる皆さんは「優秀な就活生」になるために勉強してきたわけではないし、生きてきたわけではないはず。
しかし、就職活動をしていると、優秀な就活生に最適化されてしまう部分があります。だからこそ、ワンキャリアではこれまで本質的なキャリア論に結びつくコンテンツを提供してきました。今回のイベントもまさにそうで、優秀なビジネスパーソンになるため、あるいはいい人生を歩むためのコンテンツになれば良いと思っています。
コンサル、PEファンド、投資銀行。学生が憧れるキャリアを持つ彼らが、商社で働くワケ
北野:では、まず皆さんが「今、三井物産で働き続けている」理由を教えていただけますか? 投資銀行やコンサルでのキャリアをお持ちですが、一般的にこういったキャリアを歩む人は、飽きやすい傾向もあるのかなと思いまして(笑)。
伊丹(三菱商事→カーライル→三井物産):一言で言うと「好奇心」です。例えば今、中国語も堪能ではない私ですが、自分が会社設立を担当した中国における現地販売員の日々の姿や思考を思い浮かべながら、豪州で牧場主や食肉工場の人たちと買い付けや新規事業の協議を進めています。担当する商材を通じ、今世界で誰がどこで何をいくらで、どんな気持ちで……と24時間、想像しながら仕事をしています。寝ても覚めてもさまざまなことが考えられて、しかも商社が提供できる仕事や機能には制約がありません。事業で求められることは何でもできるところが、非常に面白いですね。
北野:前職のPEファンドにいたときよりも、好奇心は満たされていますか?
伊丹:前職も好奇心を満たすには十分な環境でした。一方、仕事のスタンスは似ていて微妙に違います。PEファンドと商社の違いで、私がよく例えるのは「F1とラリーの違い」ですね。
北野:どういうことですか?
伊丹:F1もラリーもドライバーに求められる基本素質は同じですが、F1は同じサーキットでコンマ1秒を削る超高速域での戦いです。PEファンドはそれに近いものがあり、組織も一流のプロフェッショナルファームか欧米MBAホルダーで構成されており、超エリートの少数精鋭部隊です。プロとして常に最高品質のアウトプットやプロトコルが求められ、かつ、3〜5年という投資期間の制約の中で実績をデリバーすることが求められます。
それに対して、商社の事業に投資期間の制約はありません。社内の人的リソースも多様で、各々の一番いい部分を取り入れながら合意形成を行い、日々の仕事を進めていくイメージです。ラリーは決められたサーキットではなく一度きりのコース、どの道を走るか自分で決めることもある。悪路での走破性、柔軟性やパワーが求められるシーンが多い。商社はこれに似ています。
私としては、刻々と変化するコースを、いろいろな思いを馳せながら運転をしているイメージで仕事を楽しんでいます。たまに寄り道もしたりして。
清水:同業の三菱商事と比べてどうでしょう?
伊丹:よく聞かれる質問ですが、まず他の業界と比べたら、人も組織も大きな違いはありません。総合商社は総合商社だと思います。ただ、「三菱=官僚」「三井=侍」「伊藤忠、丸紅=商人」的なイメージを一般に持たれますよね。そうしたイメージをベースに、社会から期待されていると感じることはある。この期待に自ずと応えようとする部分はあると思います。
北野:業界のナンバー1とナンバー2という意味では、商社だけでなく、他の業界でも同じことが言えるかもしれませんね。マッキンゼーとBCG、電通と博報堂とか。ナンバー1は官僚的で組織が強く、ナンバー2は個性的になるという。岡林さんはどうでしょう?
BCGと三井物産、同じコンサル業務でも「柔軟性」が違う
岡林(コンサル):私がBCGにいた時は、担当するプロジェクトは多くても2つくらいでしたが、今は平均して4〜5つを回しています。例えば、伊丹さんが担当している食肉プロジェクトをやりつつ、全く関係のない香料メーカーのプロジェクトをやり、かつ車関係のプロジェクトも……というように。
商社はさまざまな業界のビジネスを、さまざまな国で持っていて、普段、コンサルではやらないような国や業界のものを扱うことも多いです。興味は尽きません。
北野:コンサルであれば、「契約した3カ月以内でバリュー」を出すという構造がありますが、三井物産ではどうでしょうか?
岡林:会社にガッツリと張り付いて、そもそも何が課題なのかといった、テーマの洗い出しや整理から手伝うのは、商社ならではですね。BCGではそのような前さばきの段階で、プロジェクト化することはありません。
今は期間も柔軟に設計できます。例えば、3カ月と決めていたとしても、プロマネの裁量で必要に応じて延長できますし、また「やらない」という判断もできます。コンサルの場合、そういった柔軟性のある対応はなかなかできません。
北野:学生の皆さんには分かりにくいかもしれませんが、マッキンゼーやBCGの1カ月のコンサル料は非常に高額です。だから、プロファームのコンサルはものすごく大きな会社で、ものすごく予算を持っている人たちのためのサービスだとイメージしてください。でも、岡林さんのように、商社という立場で行うコンサルティングは違いますよね?
岡林:そうですね。会社の大きさや抱えている課題のレベル感もばらつきがあります。前職とは異なる小規模なテーマでも、投資している海外の会社でも、初歩的な点からコンサルをして効果を出すなど、多様な会社でさまざまな経験を積むことができますね。
北野:笹嶋さんは、三井物産で働き続けている理由はどこにありますか?
笹嶋(投資銀行):私は事業投資に興味があり、前職は投資銀行にいました。現在の部署も事業投資に関連する部門で、自分のキャリア観に合った仕事ができています。例えば、アセマネだと上場株、VC(ベンチャー・キャピタル)(※1)だと未上場ベンチャーの中でもこのテーマ・この企業ステージ、日本のPEだと国内中堅企業など。このように、ファンドの設立目的によって投資できるものが特定の対象に固定されてしまいます。その点、商社にはそういった制限はないので興味が尽きません。
(※1)……ハイリターンを狙った戦略的投資を行う投資会社。主に未上場時の企業に出資を行い、上場後に株式を売却もしくは事業を売却することで利益を得ることを目的とする
「プレゼンスの小さい組織」に入るとイメージとのギャップも? しかしそこにチャンスはある
北野:では、働いている人についてはどうでしょうか?
伊丹:三井物産は「侍」のイメージだといいましたが、志が高く、いい人が多いです。寛容度が高く、ギスギスしていません。これはプロファームとは違うところだと思います。
笹嶋:前職は外資の証券会社で、上下関係も厳しく、評価もシビアに行われることから短期的な関係しか築けませんでした。でも、商社の場合は、ある程度長く働くことを前提にしていることもあり、良い人間関係を築くことができます。
岡林:他人に対して優しい人が多いですよね。私たちは中途で入っていますが、プロパー(※2)の人たちから何か言われることはなく、新卒も中途も受け入れるという度量があります。
(※2)……「新卒入社から在籍している社員」。生え抜き社員と呼ばれることもあり、中途入社や出向している社員と区別するために使用されることが多い
北野:なるほど。確かに余裕がある人が多いイメージです。
伊丹:新卒でバラエティに富んだ人材を採用できているからこそ、中途でどんな人が来ても受け入れられる土壌があるのかなと思います。
北野:では、入社してから「改善の余地があるな」と感じた点はありますか? 例えば給与とか……。
伊丹:給与に関し、同業他社との比較では大きくは変わらないと思います。一方、前職のPEファンドでは、ベースにプラスして成功報酬などもあるので、同年代で見れば基本的には下がりますかね。
北野:何割くらいでしょう?
伊丹:職位にもよりますが、成功報酬を含めると随分違うと思います。ただ、(前職のようなPEファンドには)なかなか入れないですから。前職でバイアウトプロフェッショナルと呼ばれる人は20人程度でしたし、狭き門です。
岡林:給与の話でいうと、ここにいる3人は前職より下がったと思いますが、多分、時給換算にすると上がってますよね。
北野:その他の面はどうですか?
伊丹:待遇面に関して、私は同業で働いていたので想定外ということはありませんでした。一方、私は「仕事」が大事な報酬と思っています。私が所属する部署は業界内ではやや後発的ポジションで、「自分が地図を作る」という気持ちで入り、実際にそれに向けての仕事ができていると思うので、その点は満足ですよ。
どこの会社でも、プレゼンスの「大きい組織」「小さい組織」というのは存在すると思うので、プレゼンスの小さい組織に配属された場合は、もどかしさを感じることはあるかもしれませんね。
北野:それはリアルな意見ですね! プレゼンスが小さい組織とは? ここでは言えないですか?
伊丹:一般論ですが、「資源に強い三井物産」といわれることも多く、食料のような非資源の組織では、決算数字が相対的に少ないというのは周知の事実です。その中で、強いといわれる組織を作らねばという思いがあります。
清水:その点は「表裏一体」かもしれません。例えば、伊丹さんのいる部署は、過去いったん縮小した後に再興をかけてできた部でもあり、今は仕掛ける時期にあるので、伊丹さんのようにやりたいことがやれるのかもしれない。
良い仕事に対して、良い仕事で応えてもらいたいなら「三井物産」に来い
北野:底から復活しているところは、強さに違いが出ますね。岡林さんは、いかがですか。入社して「あれ?」と思ったことはありますか?
岡林:パフォーマンスが人によって相当違うなと。アグレッシブな人が多いイメージで入りましたが、保守的な人もそれなりにいるなというイメージです。
伊丹:人に優しいというのはあるかもしれないですね。プロファームだと、一定数の人は組織に残れない仕組みになっていることが多いですから。
清水:人事として、そこは課題意識を持っています。どの組織にも「2:6:2の法則(※3)」はあります。
(※3)……働きアリに関する法則。よく働くアリと、普通に働くアリと、ずっとサボっているアリの割合が「2:6:2」になることから転じ、組織の中で、パフォーマンスが高い、普通、低い人の割合が「2:6:2」になりやすいことを指す
北野:働きがいに関する調査で、20代の人は公平感というか、自分がやったことに対して適切に評価されているかを重視する傾向があるそうです。逆に40〜50代になると、人間関係を重視し始めます。Up or Outがいいのかどうか、長い目で見るとどちらが幸せかという問題はあるかもしれません。
笹嶋:私は入社してからの不満はなく、いい選択だったと感じています。人間関係、という話でいうと、先日シニアの方々と話す機会があって、ベンチャーでの失敗、成功体験などみんなが持っていたというのは、新たな発見でした。ただ、飲み明かさないとそれを教えてくれない(笑)。そういう知見が、もっと社内で共有できるといいと思います。
清水:誤解を恐れずに言いたいのですが、甘い会社ではありませんし、時間あたりのパフォーマンスは求められます。「良い仕事に対して、良い給料が欲しいなら外資系に行け、良い仕事で応えてもらいたいなら三井物産に」とわれわれは言っています。良い仕事をすれば、さらに高いレベルの仕事が与えられ、どんどんチャレンジができ、成長を促してくれる。ただ、これをキツイと感じる人もいるかもしれない。
伊丹:先ほど「2:6:2」の話が出ましたが、三井物産は大きな会社なので、「配置替えをしたら、パフォーマンスが大きく変わった」という事例も多いと思います。そこの懐の深さというか、その人にあったアセスメントとか、どう生かすかを考えていく必要があると思っています。
清水:そうですね。他社だと外に出すという選択肢しかない場合でも、三井物産の場合は社内にたくさんのフィールドがあるので、新しい活躍の場があるというのはいいところですね。
コーディネーターの「商社」と専門家の「プロファーム」は互いを補完し合う関係
北野:ここからは、皆さんのキャリアに合わせて、総合商社とプロファームの関わり方について伺えればと思います。「商社は裁量権がない」「プロファームは他人ごと」とよく言われますが、これについてはどう思いますか?
伊丹:裁量権の話については、若手のころ、私もそう思ったことがあります。でも、PEファンドに転職し、著名なプロフェッショナルや経営者の方々と仕事をして感じたのは、裁量権の有無は立場に関係ないところにもあるということです。マジョリティを持つPEファンドでも、マイナー出資が多い商社でも、一般株主でも、アドバイザーでも。要はどれだけ事業のことを思った仕事ができるかどうか。個々人の立場に関わらず、「響くものは響く」し、それで事業は動いていきます。
北野:私自身は現在、裁量権はありますが、自分で事業を作っているから当然かなと思います。自分で仕事を作れない人が「裁量権がない」と言っても、それはそうだろうなと。プロファームも経験している岡林さんは、どう考えますか?
岡林:プロファームは、専門的な知識を持ち、決められた期間に最大限のアウトプットを出すことに特化しています。それを商社が全部やる必要はないでしょう。それよりも、コンサルをコーディネートする力が求められています。逆に、課題解決の具体的かつ専門的な知見やノウハウは、コンサルに頼っていい。
伊丹:私の部署はまさに岡林さんの部署に助けてもらっているユーザーです。足掛け2年にわたるプロジェクトをお願いしています。単なる分析やアドバイスだけでなく、どうすれば継続的に運用が続くのかまで責任を持って支援してくれている。いつもは褒めてくれない関係会社の幹部の方から、「ここまで面倒を見てくれると思っていなかった。この人たちなら、お金を払ってもよかった」という声もいただきました。
岡林:あのプロジェクトはチームメンバーに恵まれ、リソースも潤沢でしたね。直接、工場に行ってデータを分析したり、中に入り込んで仕事をしたりました。この仕事を主管の部署でできるかと言ったらできませんし、かと言って、アウトソーシングするような内容でもありませんでした。だからこそ、インハウスである僕らのところに仕事が来るのだと思います。
笹嶋:私が証券会社にいた時代ですが、ある不動産ファンドが破綻したときに三井物産に案件を持ち込んだことがあります。後は合併案件の時に、商社から出向してきている方と仕事をしたこともありました。思い出すと、どちらも非常にプロフェッショナルな方たちだった印象です。逆に今はプロファームのコンサルを使うこともあります。商社とプロファームは、お互いに仕事を依頼し合っているという関係性ですね。
商社一筋のプロパーには「人脈」で勝てない
北野:では、個人のキャリアという観点でファーム、投資銀行、商社。それぞれこういう素質を持つ人が向いているという傾向はありますか?
笹嶋:1つのことをやり続けられるなら専門ファームで。いろいろなことに興味を持っている人なら、総合商社の方が飽きずに続けられると思います。投資銀行の場合は、資本市場に対する理解やファイナンスへの専門性、総合商社なら、事業投資や事業経営に関する専門性を高められます。
北野:ちなみに、新卒入社で「純粋培養」された人のすごさを感じることはありますか?
笹嶋:40代以上の室長レベルだと、踏んでいる場数が違いますね。国を越えてさまざまな仕事をしてきた経験値があります。
伊丹:私は同業他社に新卒で入社し、PEファンドを経験してキャリア採用で入社したわけですが、新卒で三井物産に入社した人には、三井物産で働いていることに対する誇りを持っていて欲しいなという期待があります。伝統を背負っているというのは、悪く言えばしがらみなのかもしれませんが、三井物産だからこそのつながりがあります。そういう人たちがいるからこそ、キャリア採用とバランスが取れるのだと思います。
清水:確かにこれまでのつながりで動かせるプロジェクトも多いですね。その人自身が培ってきた「信頼貯金」だと感じます。
北野:私も著書の『転職の思考法』の中で、20代は専門性、30代は経験、40代は人的資産を得るべきだと書きました。40代以降は人脈で仕事が決まることが多く、それに関して一長一短はありますが、積み重ねたものがビッグディールにつながることもあるなと思います。
やりたいことがないなら、新卒でしか入れない会社に行け そこでしか見られない景色がある
北野:ではここで少し視点を変えて、もし、皆さんに21才の子供がいて就活をしているとしたら、彼らにどんなアドバイスをしますか?
岡林:私は子供自身にやりたいことがあるんだったら、まずはそれを一生懸命やればいいと言いますね。ただ、私自身、就活時にものすごくやりたいことがあったわけではありません。その時は、新卒でしか入れない企業に入るのも選択肢の一つかなと思います。
例えば、私が最初に選んだ日銀は中途で入るのが難しい会社です。新卒でしか入れない、そこでしか見られない景色があると思います。だから、「特にやりたいことがないのであれば、そういう観点で考えてみれば」というアドバイスをするでしょうね。
北野:新卒で入った会社が、その人の仕事観を作るという説もありますが、そう思います?
岡林:私は2年しかいませんでしたが、さまざまな古き良き日本の会社を見たことはいい経験になっています。社会人の最初に日系の組織に入り、そこで仕事の作法や日系企業の文化などを学べたことで、コンサルから三井に転職したときにも違和感はありませんでした。
北野:僕は新卒で入った会社で経営企画室にいたので、1年目で経営会議を横で聞くことができました。当時、かなり危ない状況で僕自身も危機感を持っていたのですが、実際、本当に危機感を持っている人は少なかったですね。衝撃を受けましたが、それは、みんな「自分の城」を持っているから。あえて挑戦などしなくていいのです。
そういう人たちが組織の中にいる、ということを体感しているのと、そうでないのとでは、コンサルをしても結果は圧倒的に違うと思います。どんな会社にも「2:6:2」はあって、上の「2」だけでなく、リアルを知るというのは重要ですよ。
北野:伊丹さんはどんなアドバイスをしますか?
伊丹:好きなことをやってほしいと思います。経営者の方々と仕事をしていて感じることは、結局、好きなことをやっている人は「夢中」だということ。それが限界に挑戦し続ける力になる。例えば「エリート街道だから」などの考えで仕事を選んでしまうと、上には上がい続けます。
どこまでも続く階段を感じてしまいがちだし、「やりたいこと」と「やっていること」との間にギャップも生じやすく、ロスも大きい。自分が向いている、好きだということを見つけてほしいです。新卒で入ったところがそうではない場合もあると思うし、振り返れば、実は好きだったんだと思うこともあると思います。
北野:先ほどから話を聞いていて思っているんですが、伊丹さんはどうしてそんなに楽しそうなんですか?
伊丹:好奇心がくすぐられる環境にいるからですかね。今回のような採用イベントのときも、平常時の業務のときも、興味を持ったことを考えたり、調べたり、他者の発想や思考に触れる感覚が楽しくて、そういう時間と環境に恵まれているのだと思います。
私が三井物産の先輩に言われた言葉で、「トレーディングも事業投資も、飲み会のアレンジも同じである」というのがあります。いろいろな事柄や人に興味を持ってアンテナを立てる。その上で、関係者に面白いと言ってもらえることを考えて、利害調整しながら仕事を組み立てていく。そういうのが好きなんです。複雑だったり、根が深かったり、自分が知らない世界であればあるほど、ワクワクします。
清水:単純にお金のためだけに働かないような仕事につけよ、とも言いますね。私自身が総合商社を選んだのは、給料が高いから選んだわけではなく、自分で勝手に作った言葉ですが「ワクワクバランス」があると思ったから。だから伊丹さんの言う、好奇心には共感しますね。
好奇心がビジネスの拡張性につながる──子供のように「なぜ?」を繰り返そう
北野:逆に好奇心がない学生は、商社はやめた方がいいですか?
伊丹:決められたビジネスプロセスをしっかり回すだけなら、好奇心はなくてもいいかもしれませんが、好奇心がないとビジネスのヒントやきっかけが育まれません。拡張性がない。そのようなビジネスは陳腐化も早く、総合商社が価値提供できるシーンに乏しくなる。
例えば私は過去、水産事業とエネルギー事業を担当してきました。文字通り「水と油」ですが、担当してみると水産の事業運営とエネルギーの事業運営で共通する部分が多くあります。そこで、エネルギーで経験した事業管理手法を水産事業にカスタマイズして落とし込む。それが現場でありがたがられるわけです。多様な事業を展開する総合商社ならではの機能提供の一つだと思います。
好奇心を持って多様な仕事に取り組み、仮説検証思考を持つことが重要です。同じような仕事をして、総合商社並みの待遇の人は少ないので、それだけの価値を出し続ける必要があります。
北野:いいビジネスパーソンになるために、今から学生でもできるようなことはありますか? 例えば、コンビニに行った時に、知識や情報がある状態で行くと全然違いますよね。なんでこのコーヒーが100円なのかとか、裏側を考えると面白い。
伊丹:子供のように5回くらい「なんで?」と問うてみるのは分かりやすい方法ですね。子供はすごく単純な単語にも「なんで?」と聞いてきます。例えば私の名前は「敏雄」ですが、「なんで敏雄なの?」と聞かれる。その時に例えばWeb検索すると、ぜんぜん違うトシオが出てきますが、その人のことを調べてみたりすると違う世界に触れられる。常に「なんで」と問うこと、そして考え、調べること。思考の柔軟性や拡張性を広げるトレーニングになると思います。
清水:確かにカフェに行っても「ここの店員の時給はいくらだろう?」と考えることは、センスを磨くことになるでしょうね。
伊丹:人に聞くとか本を読むとかだけでなく、Webでやってもいいですし。自分が学生の頃に比べネットの情報量は格段に増えたし、速度も速い。いつでもどこでも無限大の情報に触れられます。
岡林:私は普段、仕事ではコミュニケーションを取らないような、異業種の学生時代の友人に連絡を取るようにしています。意識的にそうしないと、どんどん世界が狭くなってしまう気がして。
笹嶋:株式投資をやるというのも、好奇心を育てるにはいいですね。自分が思い描いた通りに株式は動きませんから、仮説検証を繰り返すことが、仕事とは関係なくできるのがいいと思います。
三井物産は、若手に「むちゃ振り」をする会社
5人の熱いトークセッションが終わった後は、学生からの質問を受け付けました。さまざまな質問が出てきましたが、本記事では「若手の仕事」、そして「海外赴任」の2つに絞ってご紹介します。
参加者A:三井物産では、若手はどんな風に仕事をしているのでしょうか。
伊丹:私は自分が指導する新人に、「言われたことはやれ」と「何か面白いことを言え」と言っています。
私の部署は日々の決まったトレーディング商売があるわけではありません。そこで、少しでも誰かに興味を持ってもらえるよう、例えば毎朝気になるニュースを拾い、自身のコメントをつけて発信することを徹底させています。自分の考えを持ち、誰かに興味を持ってもらえれば、身の回りからもいろいろな情報が入ってくるようになる。それが仕事につながっていく。
岡林:私の所属部署には新卒がいないので、本部の話にはなってしまいますが、2年目でも現場に出てバリバリやっている社員はいますね。若いうちからアグレッシブでいいなと思っています。
笹嶋:私は転職してから、3人くらい新卒と仕事をしましたが、みんな真面目で優秀でやる気がありますね。外資系証券やコンサルに行く人と変わらない印象を受けます。1年目は本部で株主目線で仕事をすることを学び、2年目から現場に出て現場目線でのオペレーションを学びます。多面的に事業に関する理解を、キャリアの中で深めていけると思いますよ。
清水:実際、会場の皆さんが想像している以上に「むちゃ振り」をする会社だと思います。2年目、3年目だからといって仕事の幅が制限されることはないですね。
北野:いわゆる「配属リスク」についてはどうですか?
清水:新卒は第四希望まで出すことができるのですが、第一希望に配属されるのが全体の60%。第四希望までで90%です。つまり、10%の人は全く書いていないところに配属されるのですが、あくまで本人の適性を見た上で決めています。
参加者B:海外での仕事はどういったものがあるのでしょうか。
伊丹:私は次の異動で海外に赴任する可能性があると思っています。食肉なので産地としてのアメリカ、オーストラリアで牧場や工場の運営を担う、あるいは販売地としての中国、東南アジアなどで物をどんどん売っていくというミッションを担うことになりますね。
笹嶋:私は1歳と4歳の子供がいるので、子供たちと早いうちに海外に出たいという希望があり、その話もあったのですが、そのタイミングでは、まだ国内でやりたいことがあったのでとどまりました。次に話があれば行きたいと思っています。駐在はしていなくても出張は多くて、一昨年は1年のうち、合計3カ月くらいはアメリカにいたと思います。
岡林:私もチャンスがあれば、来年くらいに行きたいと思っています。同期も今度アメリカに駐在しますし、海外に出るチャンスはいくらでもあるので、後は自分次第だと考えています。
清水:数字の話をしますと、ここにいる社員と同じ職分が約4,000人いて、約1,000人、つまり4人に1人が海外駐在中というイメージです。
「早すぎる最適化」は才能を殺す。今は視野を広げて情報を集めよ
北野:皆さん、今日はありがとうございました。以前、元プロ陸上選手の為末大さんと対談した時に、スポーツ選手の才能を殺すのは「早すぎる最適化」だとおっしゃっていました。ルールや勝利に早く最適化することが、長い目で見ると才能を殺すこともあるそうです。
そうは言っても、いい会社に入って、いい報酬を得たいという気持ちがあるのも分かります。いい会社に入って何が得られるかというと、今日ここにいる登壇者のようなすてきな人たちと話ができます。それはゲームに乗って勝たないと得られないチケットだと思うし、参加して勝つメリットがあるものだと思います。だから学生の皆さんには、両方の側面を持って就活してほしいと思います。
清水:今は視野を広げて情報を集める時期だと思います。その上で仕事を決めたら、没頭してほしいです。「ここは腰掛けだ」と思ったら、一気に仕事への集中力は失われます。だから精一杯キャリアを選択して、選んだ先で存分に頑張ってほしいです。最初のステップが三井物産でなくても、どこかで縁があるかもしれません。頑張った結果のその先に、三井物産で一緒に働く未来があれば良いなと思っています。
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【ライター:山下由美/撮影:保田敬介】