※法人名、所属部署名など掲載内容は取材当時のものです
全ての戦略の裏には必ずリスクがある──。
企業がビジネスを展開するとき、そこにはさまざまなリスクが存在します。法令に抵触することはないか、人材は確保できるか、事業戦略そのものに落とし穴はないのか。
さまざまなリスクを評価・管理し、改善を支援する「守りのコンサル」、それがリスクコンサルタントです。
ワンキャリアでは、「リスクコンサルタントとは何か?」について取材した1本目のインタビューに引き続き、今回は、外資系証券会社や外資系コンサルファームから転職して、リスクコンサルタントになった、PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)の澤田賢さんと森由希さんにお話を伺いました。
さまざまな企業や仕事を経験した2人が語る、リスクコンサルタントの醍醐味(だいごみ)とは? ファーストキャリアとして選ぶ魅力にも迫ります。
※2022年6月取材、掲載内容は取材当時のものです
<目次>
●外資金融・外コンから「リスクコンサルタント」へ転身、その理由は……?
●コンプライアンス強化のプロジェクトに2年、正解のない「ルール作り」が一番難しい
●戦略とリスクは表裏一体。「正しい経営判断」を支援するのがリスクコンサルタントの役目
●リスクと向き合うことでクライアントに「安心」を与え、ビジネスに必要な「長期的な視点」も養える
●リスクコンサルタントに必要なのは向上心。「何かでとがりたい」学生を待っている
外資金融・外コンから「リスクコンサルタント」へ転身、その理由は……?
──お二人とも中途入社でPwCあらたに参画したと伺っています。これまでどのようなキャリアを歩んできたのか、教えていただけますか?
森:私は大学の法学部卒業後、外資系証券会社に入社して2年半ほど、おもに日本株式のリスク管理業務などの実務を担当していました。そこからPwCあらたに転職し、金融機関などに対するアドバイザリー業務を行っています。
現在は金融機関などのクライアントが「米銀行持株会社法」という米国の法律に対応するための支援や、グローバルでの内部監査体制を構築する支援といったプロジェクトに携わっています。
──澤田さんはいかがでしょう。
澤田:私は外資系コンサルティングファームからの転職組です。現在は、主に官公庁をクライアントとしたリスクコンサルティングや、企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める際の組織構築の支援などを行っています。
──官公庁案件もあるんですね。
澤田:私は6年ほど前から福島の被災地支援に携わっています。最近では、原発事故による避難指示が解除される地域も増え、人が少しずつ戻っていますが、6年前はほとんどが解除されていなくて、人材が確保できないというリスクがありました。
人が集まらないと、地域経済がどんどん沈んでしまいます。地域に人を呼び込み、中小企業の人材を確保する取り組みなどを国の事業として支援しました。現地のラーメン屋さんに赴いて、人材をどうやって確保するのかの相談に乗ったこともあります。
澤田 賢(さわだ けん):PwCあらた有限責任監査法人 システム・プロセス・アシュアランス部 ディレクター 公認情報システム監査人(CISA)
シンクタンク、外資系コンサルティング会社を経て、2014年より現職。全社改革、IT構想策定、業務改革、チェンジマネジメント、業界動向調査などにおいて20年以上の経験を持つ。現在は企業のデジタルガバナンス、プログラム管理体制構築支援、国・地方自治体のトランスフォーメーションアシュアランス、内部監査部門のトランスフォーメーションを担当。
──そんなプロジェクトもあるんですか! 意外でした……。
澤田:地方都市における働き手の不足や街の活性化、といった社会が抱えるリスクや課題にどう向き合い、コントロールして、課題を解決していくか。これを官公庁の方々と一緒に考えて実行していく。これも立派なリスクコンサルティングです。
──お二人はなぜPwCあらたに転職したのでしょうか。特に森さんは外資系金融からということで、大きなキャリアチェンジのようにも見えるのですが。
森:きっかけは入社して2年くらいたったころにふと、「自分は社外でも通用するんだろうか」と思ったことでした。前職では、いわゆるミドルオフィス(現場のサポートをする部門)に所属しており、クライアントと会う機会が少なく、社内向けの仕事が多かったというのが背景ですね。
自分が思っていたよりも市場価値は低いのではないか、と不安に思う部分はありましたが、それに気付く機会になるだけでも意味があると考え、思い切って転職を決意しました。
──PwCあらたのどういう点に魅力を感じたのでしょう。
森:やはり、クライアントと直接やりとりする機会が抜群に多いという点ですね。金融の分野を極めようとするなら、他の金融機関が実務をどう回しているのかや、クライアント側の実情を知ることができた方がいいので。
澤田:私は「新規サービスの開発」というミッションに引かれて転職してきました。もともと監査法人は、クライアントの業務やシステムを監査、評価してアドバイスをするのが主な業務ですが、そこから派生して、クライアントの業務変革を支援するようなサービスを作り出せないかというプロジェクトです。
──業務変革というと、戦略コンサルなどでも扱うテーマかと思います。
澤田:そうですね。しかし、業務変革と一口に言っても、効率ばかり追求すると業務の統制が下がるなどリスクもあります。効率化とリスクのバランスを保ちながら、クライアントを支援できるのが監査法人の強みだとも感じています。
コンプライアンス強化のプロジェクトに2年、正解のない「ルール作り」が一番難しい
──お二人がPwCあらたでリスクコンサルタントとして携わったプロジェクトで、印象に残っているものはありますか?
森:転職して最初に取り組んだ、コンプライアンス体制の高度化支援プロジェクトです。海外現地法人も巻き込んだもので規模が大きく、日本とアメリカ、シンガポール、イギリスでチームを組みました。クライアント側も東京本社と海外現地法人の両方合わせて50人ほどが参画する巨大プロジェクトで、2年ほど関わりましたが、非常にエキサイティングでした。
森 由希(もり ゆき):PwCあらた有限責任監査法人 ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部 マネージャー
大学卒業後、外資系証券会社に入社し、顧客サービス業務、日本株式関連リスク管理業務、ETF・投資信託ミドルオフィス業務などに従事。PwCに入社後は、グローバルコンプライアンス態勢高度化支援や、アンチ・マネーロンダリング態勢高度化支援などの、金融機関クライアント向けプロジェクトを経験。現在は主に、金融機関クライアントに対する、米銀行持株会社法対応支援業務や、グローバル内部監査態勢高度化支援業務に従事している。
──え、2年もかかるんですか!? コンプライアンスというと法令遵守(じゅんしゅ)のことですよね。グローバルになると、それだけ難しくなるということなのでしょうか。
森:そうですね。コンプライアンスと一口に言っても、日本国内の本社や支社、海外現地法人の全てが同じことをすればいいというものではありません。例えば、アメリカとシンガポールでは、そもそも意識すべきリスクが異なります。
──リスクが違う? どういうことでしょう。
森:いろいろあるのですが、例えば法律です。国ごとに法律は異なるので、会社の事業が法律に抵触するリスクとなり得るポイントが変わりますよね。仮に法律が同じだったとしても、違反した際のペナルティが異なるかもしれません。
このようにリスクの内容も度合いも異なるので、各拠点が抱えるリスクに応じて違った施策をとるのが最適です。だから、グローバルでコンプライアンスを徹底させるのは実はとても難しいのです。
──なるほど。となれば、そもそも各国でどんなところにリスクがあるのかを知るところから始まるわけですね。気が遠くなりそうです……。
森:ただ、最も時間がかかるのはリスクを評価する仕組みを作る部分です。法令違反になるリスク、法令に違反して業務停止になるリスクなど、会社に与えるダメージを想定して基準を作るのですが、正解がない世界にルールを新しく作るので、とにかく大変でした。細かい話ですが、3段階で評価するのがいいのか、4段階がいいのか、みたいな部分まで決めなければいけないわけです。
──リスクを評価する「ルール」を作るのが一番難しいというわけですか。確かにルールさえできてしまえば、あとはそれに沿って動けばいいわけですし。
森:そうですね。ルールができれば、全拠点のリスクを見渡したときにグローバルでどこが危ないのかをすぐに把握できるというメリットもあります。
戦略とリスクは表裏一体。「正しい経営判断」を支援するのがリスクコンサルタントの役目
澤田:日本では、海外企業を買収して規模拡大を狙うケースがよくありますが、とにかくM&Aをすればいいとか、戦略を立てて買収すればいいとかいう発想ではうまくいきません。買収すればいったんは売上が上がりますが、その後、経営がうまくいかなくなる企業が意外に多いのです。
──それはなぜですか?
澤田:ガバナンス(管理体制)がきいていないからです。リスクのある取引先を買収してしまったり、合理的ではない商慣習をそのままM&A後も継続してしまったり。過去には、買収した企業が商品の値段を勝手に決めて売っていた、といった例もありました。
M&Aって何だかカッコいいイメージがあるのか、憧れる学生の方は多いと思いますが、買収をした「後」の方がはるかに大切です。ガバナンスやリスクに目がいかないと、買収してもすぐに経営が立ちいかなくなってしまいます。
──「戦略」という言葉に魅力を感じる学生は多いと思いますが、戦略だけでは経営は成り立たないというわけですね。
澤田:大体、事業の失敗というのは、経営陣がリスクを把握していなかったり、現場から経営にリスクが共有されなかったりするために起こることがほとんどです。どんな戦略にも必ず裏にはリスクがあります。表裏一体と言っていいでしょう。私たちリスクコンサルタントが「守りのコンサル」と呼ばれるのは、そういった背景があります。
乱暴な言い方ですが、戦略コンサルタントはプロジェクトの推進役、リスクコンサルタントはプロジェクトや事業が進んだ先の「安全確認」をする役割と捉えると分かりやすいかもしれません。
──リスクコンサルタントの仕事はリスク評価までなのか、洗い出したリスクを改善するところまで対応するのか、両方あるのですか?
澤田:大きくは2つのケースがあります。1つはリスク評価から改善施策の提言まで支援するケース。もう1つは、リスク評価から改善施策の提言、改善施策の実行まで支援するケース。クライアントに経営リスクを正しく理解してもらい、正しく意思決定をしてもらった上で、改善施策を正しく実行するまで寄り添うことが私たちの仕事だと考えています。経営リスクを起点にする点が業務コンサルタントや戦略コンサルタントとは違うところですね。
国や政府のプロジェクトに召集される各分野の専門家から、日々刺激を受ける環境
──実際PwCあらたで働いて、転職前に抱いていたイメージと違った部分はありましたか?
森:監査法人ということで「お堅いイメージ」を持っていたのですが、入社してみたら、とにかく風通しが良くて安心しました。前職が外資系で上司ともカジュアルに接していたので、「お堅い監査法人で上司とうまくやっていけるか」が一番不安だったのです(笑)。
澤田:私も良い意味でイメージが変わりました。私が所属するシステム・プロセス・アシュアランス部にはさまざまな専門家、その道のプロがいます。国の機関の専門家会議に呼ばれたり、出向したりする人材も多くいます。これは入社前には想像していませんでした。
実際に仕事をすると分かるのですが、クライアント企業の経営者の悩みは、グローバルガバナンス、DX推進、サイバーセキュリティ、リスクマネジメント、さらには地方創生など多岐にわたります。経営者がこんなことで悩んでいる、となったとき、大抵その分野の専門家がいるんですよ。
森:私も同じことを思いました。入社して間もないころは、自分の知識の至らなさに焦りましたね。普通なら知りようもない専門的見地からの話を聞けたり、専門家ならではの知見に触れたりできるので、とにかく日々、勉強です。
彼らとチームを組んで仕事ができるのが、とても刺激になりますし「いつか自分もこうなりたい、こうなれるんじゃないか」と思えるとモチベーションも上がりますよ。
──面白いですね。どんな専門家がいるのですか。
森:例えば、アメリカの法律に詳しい人や、マネーロンダリング対策の領域に精通している人など、皆さん独自の専門領域をお持ちです。
さらに規制に対応するために、実務面で何をどうすべきかをクライアントに寄り添ってアドバイスできるのです。「規制や法令に詳しい」だけであれば弁護士もそうですが、法令を守りながらどう実務をこなすのかまでをカバーしているのが、リスクコンサルタントの特徴ですね。
澤田:私の部署にはサイバーセキュリティの専門家がいます。PwCあらたは、セキュリティ会社でもIT企業でもありませんが、サイバーセキュリティが国全体としても日本企業を守るという意味でも重要な分野であることから、その専門家がいるのです。
リスクと向き合うことでクライアントに「安心」を与え、ビジネスに必要な「長期的な視点」も養える
──やはり、さまざまな専門性を身につけられるという点が、新卒でリスクコンサルタントになるメリットなのでしょうか。
澤田:そうですね。PwCあらたなら2年でさまざまな専門領域を勉強できます。多くのコンサルファームでは、入社後の教育が手厚いとは言い切れず、やる気があって「はいあがってきた人」だけが生き残るといった風潮もありますが、PwCあらたは人材の成長、長期的なキャリアを考えて人材育成の環境を整えています。
私の部署は、ジョブローテーションでキャリアの選択を自分自身でできます。新卒にはA社の業務を30%、B社の業務を20%、というように、複数社を担当させてさまざまな分野を経験させます。そのあたりは、以前に私が在籍していた外資系ファームと大きく異なる点です。
森:私の部署も同様で、1年間はジョブローテーションをしてから長期的に取り組む分野を決めるようになっています。私はまだ専門分野を1つに絞っておらず、むしろもっと広げてから絞り込もうかなと考えて、これまで幅広い分野の案件に取り組んできました。そういった自分のキャリア形成についても親身になってくれる上司が多くいるのも、PwCあらたの魅力です。
澤田:また先ほどお話ししたように、経営陣が直面するリスクは多岐にわたります。経営に対して「リスク」という視点が増えるのは、ビジネスパーソンとして大きな武器になるでしょう。長期的な視点を養えるということなので。
──どういうことですか?
澤田:リスクを考えるというのは「このまま進んだら障害がある、損害が発生する」という未来を予見することです。案件を通じて、リスクに対する感性は磨かれていきますから、最終的には資料を見るだけで、企業が抱えるリスクが予測できるようになりますよ(笑)。
森:私は、リスクコンサルタントは人に「安心」を与える仕事だと考えています。経営者の不安を取り除いたり、従業員がリスクにさらされることなく、幸せに働ける環境を作ったり。自らの専門性を使って価値を生んでいる、という感覚が得やすい職種だと思いますね。
リスクコンサルタントに必要なのは向上心。「何かでとがりたい」学生を待っている
──転職の経験も踏まえて、自分が就活中の学生に戻ったら、どういう点を重視して就活をしますか。
森:転職してみて改めて思ったのは、得るものも大きいのですが、同時に失うものもあるということ。同期もいなくなるし、職場での人間関係もまた一から築いていかなくてはなりません。新たな業務を身につけるため、改めて時間を投資する必要も出てきます。そういうことを考えると、新卒1社目で長く働ける職場に出会えたら、それに越したことはないです。
だからこそ、少し先の自分を想像して会社を選ぶといいと思います。自分のキャリアに後悔はありませんが、学生のときはせいぜい5年後くらいの自分しか想像していなかったと思います。もう少し先まで考える余裕があって、将来的にどんな社会人になっていたいかのイメージがあれば、もしかしたらPwCあらたを最初の就職先に選んだかもしれません。
澤田:昔の自分にアドバイスをするとしたら、まずは、自分が目指そうとしている業界に「将来性があるかどうか」を冷静に考えること。次に、その会社の事業が魅力的かどうかを考える。最後に一番重要なこととして「自分軸で会社を選ぶ」ことです。
──自分軸、ですか?
澤田:就活中はさまざまな情報が入ってくるでしょう。例えば「商社は海外に行けるから楽しいよ」と言う人がいるかもしれませんが、「それって自分にとって楽しいの?」と考えてみることが大切です。
他人の言葉に左右されない自分の考えを持つには、「自分が何をしたいのか」という基本的かつ本質的な問いに答えられるようになることが大切です。それに答えられないと、他人が勧めたものを選んでしまうかもしれません。
コツコツとキャリアを積むのが自分に合っているのか、華々しく活躍したいのか、仕事に集中することにやりがいを求めるのか、ワークライフバランスを重視したいのか、いろいろな視点で考えて「自分の軸」をしっかりと持つことが重要だと思います。
──ありがとうございました。最後にリスクコンサルタントに興味を持った学生に対して、アドバイスをお願いします。
澤田:学生時代には、普段の暮らしでリスクについて考える機会はほとんどないと思います。また、私のような中途採用でも、全員が専門分野を持っているかというとそうでもありません。
要はリスクについての知見や、関連した専門知識を持った人ばかりが集まってくるのではないということです。それでは入社後に何で差がつくのかというと、向上心に尽きると思います。「この道を極めたい」という気持ちを持てる人なら活躍できるでしょう。
森:転職したときに、私もリスクについては漠然とした知識しかありませんでしたから、入社に必須の条件ではないと思います。入社すると分かりますが、周りの人が専門家ばかりで、しかも面倒見のいい人が多いので、読むべき資料など、どんどん教えてくれます。「何をすればいいのか」は教えてくれるので、大切なのはそれをやるかどうか、つまり本人の「やる気」です。
入社時に何の専門家になりたいか決まっていなくても構いません。「どの分野でとがりたいのか」は働きながら決めればいいと思います。「何かでとがりたい」という気持ちがある人には向いていると思います。興味があったら、ぜひ門をたたいてみてください。
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PwCあらた有限責任監査法人
【ライター:タンクフル/撮影:保田敬介】