最短で成長し、新卒から活躍するには何が必要か。ファーストキャリアを意識したとき、この疑問に行き着く人もいるのではないだろうか。
この答えを探るべく、今回はある起業家の元を訪ねた。LayerX CEO(最高経営責任者)福島良典さんだ。
学生時代に起業したGunosyは2年半で東証マザーズ(現東証グロース市場)に上場、その後東証1部(現東証プライム市場)に。売上150億円、営業利益20億円の事業を作り上げる。2018年に設立したLayerXでは、法人支出管理SaaS「バクラク」などを運営すると同時に、現役大学生の執行役員や、三井物産などとの合弁事業でのプロジェクトをリードする新卒3年目など、若手が年齢や入社年次に関係なく活躍している。
若手が自律的に育つ組織を作り、自らも「最短での成長」を地で行く福島さんだが、Gunosyを起業した当時を「ただの学生だった」と振り返る。
最短で成長する過程には、どのようなキャリアがあるのだろうか。福島さんと、LayerXで採用を担当する一ノ宮翔さんに聞いた。
<目次>
●真に正しいキャリアの選び方は確実に来る未来への「逆張り」である
●相手に最短で認めてもらうためには「学ぶ力」が必要だ
●新卒メンバーが三井物産などとの合弁事業をリード。質の高いチャンスが若手を成長させる
●「福島なんてたいした経営者じゃないっしょ」という人と働きたい
●少人数でのインパクト増幅がソフトウェアの真骨頂。生産性が高くヘルシーな働き方が可能に
●バイアスがないことが強み。学生こそ直感を信じてほしい
真に正しいキャリアの選び方は確実に来る未来への「逆張り」である
──福島さんはGunosy、LayerXと2回起業をされています。2社連続で会社を成長させていくのは並大抵のことではないと思うのですが、何が強みの源泉になっていますか?
福島:2度の起業で共通することは、ソフトウェアが人をサポートする未来に賭けていること。その未来にあわせた事業、プロダクト、組織をつくっていることが強みの源泉ですね。
福島 良典(ふくしま よしのり):LayerX CEO
東京大学大学院 工学系研究科卒。大学時代の専攻はコンピュータサイエンス、機械学習。2012年大学院在学中に株式会社Gunosyを創業、代表取締役に就任し、創業よりおよそ2年半で東証マザーズに上場。後に東証1部に市場変更。2018年にLayerXの代表取締役社長に就任。2012年度IPA未踏スーパークリエータ認定。2016年Forbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出。2017年言語処理学会で論文賞受賞(共著)。
Gunosyを起業したときの私は、学生エンジニアとしてはできる方だったと思いますが、世の中全体を見渡したときにはもっとできるエンジニアがたくさんいる、そういう自己認識でした。メディアに関して自分がプロというわけでもなければ、広告営業も資金調達もしたこともありませんでした。つまり、ただの学生だったんですよね。
でも結果的に会社は成長し、東証1部(現東証プライム市場)に上場できました。単に上場しただけでなく、売上で150億、営業利益で20億としっかり利益が出る事業を創り出すことができました。その理由を振り返ると、当時の私になにか特別な技術的優位性や経験があったというよりは、「皆が同じニュースの一面を見るのではなく、アルゴリズムで個々人の興味に合わせて配信したほうが良いよね」という未来に賭けたことなんだと思います。そしてその方向性に向かって、プロダクトを磨き、技術を磨き、組織を磨き続けたことが結果的に強みに変わっていったのだと思います。
重要なことは「結果的にどういう強みが作られたか」よりも、「初めはただの学生だった」「未来を信じてその方向に努力した結果、強みがつくられた」ということだと思います。その当時、私たちが考えていた「未来」はそんなに当たり前のものではなかったのです。世の中的には「アルゴリズムで記事を選ぶのはまだ早すぎるんじゃないか」「ニュースアプリはうまくいかないよね」といった反対の意見が大半でした。
これは皆さんがキャリアを選んでいく上でとても重要な示唆があると思います。今ある強みよりも、将来どういう社会になるのか、その社会の中でどんな強みを作りたいかを描くことが大事ということです。
LayerXを経営する今も、その原体験に突き動かされています。
──確実に来る未来を信じて、逆張りの選択をしたわけですね。
福島:学生時代の私のキャリア選択も、逆張りでした。私が就活をするタイミングだった10年前、東大生でソフトウェアエンジニアになる人も、学生起業をする人もほとんどいませんでした。外資系の金融機関やコンサルに行く学生が多かったです。
では、10年後の今、何が起きているかというと、外資系の金融機関やコンサル出身の方が、スタートアップに転職してきています。
──ただ、それは「コンサル・外銀→スタートアップ」というキャリアパスが魅力的である、と考えることもできませんか?
福島:そういうキャリアの方々が口をそろえて言うのが、「早くスタートアップに来ていればよかった」「コンサル・外銀とはまったく違う頭や筋肉の使い方をしないといけない」ということです。多くの人がどういうキャリアパスが理想かを考えがちですが、私はあまり意味のある思考方法だと思いません。結局「餅は餅屋」だと思いますので、スタートアップでのキャリアを積みたいならなるべく早いうちからスタートアップに飛び込み、その脳みその使い方や筋肉の使い方を学んでいくほうがキャリアのアドバンテージを取れると思っています。
例えば、サッカー選手になりたい子どもがいたとします。その子どもにキャリアパスとして水泳をやって体幹を鍛え、その後バスケットをやって脚力を鍛え、最後にサッカーで、とは勧めないですよね。やはり初めからサッカーをやろうと勧めると思います。
──人と違う選択をするのは、学生からすると不安かもしれません。
福島:その瞬間は怖いと思います。みんなと同じ選択をした方が安心できるわけですから。そのキャリアの選び方は「安心できる」かもしれませんが、「真に正しい」かは分からない。成長を得たいのであれば「真に正しいキャリアの選び方」は「逆張り」だと思います。
相手に最短で認めてもらうためには「学ぶ力」が必要だ
──逆張りが良い選択であると分かっていても、「とはいえ、コンサルに行ったら、ビジネスに必要な基礎力は身につきそうだし」と考える学生もいそうです。スタートアップで身に付く力は何だと思いますか?
福島:「学ぶ力」です。
Gunosyを起業した当初は、自分より年上でキャリアのある人たちをマネジメントするという環境に置かれました。私自身はその時点で特筆したビジネススキルがあるわけではありませんでした。営業や資金調達といったことも経験がありませんでした。
当時の私のキャリア的生存戦略は「どんな領域でも最短でキャッチアップし、自分よりキャリアのある年上のビジネスパートナーに最短で認めてもらう」というやり方でした。自分がそれをしないと会社がつぶれる。そんな緊張感が「学ぶ力」につながったのだと思います。
──キャッチアップする中で、できる領域が広がっていったのですね。
福島:1つのことを極めると、結果的にできる領域が広がっていきました。
これは私だけの話ではないです。例えば、一緒に取材を受けている一ノ宮もそれを体現しています。
採用を極めようとするほど、例えばプロダクトなり組織なりの知識が必要になる。採用のシーンでは必ず候補者から「LayerXは他社と比べてプロダクトのどこが優れているんですか?」「KPI管理はどうやってやっているのですか?」「組織がスケールするにあたっての課題はなんですか?」といった質問を受けます。その質問に回答するには、採用に詳しいだけでは答えられず、プロダクトのこと、ビジネスのこと、組織のことについて非常に深く知る必要があります。
一ノ宮は非常にプロフェッショナル意識が高いので、「採用を極める」という過程で、プロダクトのディスカッションに参加する、営業やヒアリングの場に同席する、他社のビジネスの発信を見て自社の強みを言語化するなどを日々行っています。結果的に「採用を極めようとする」なかで、プロダクトの知識、営業の知識、ビジネスの知識を底上げされていっています。
一ノ宮:他にも、応募してくれる人を増やそうとするとマーケティングの知識が必要ですし、LayerXの魅力を伝えるには営業のような「伝える力」が必要です。さらに、会社がどこを目指しているのかを伝えるには、経営への理解も必要です。ある職種を深掘って突き詰めようとすると、他の職種の知識がないとできっこないな、と実感しています。
一ノ宮 翔(いちのみや しょう):LayerX HR
2017年、早稲田大学 スポーツ科学部卒業。青春の全てを駅伝にささげた後、新卒でパーソルキャリアに入社。営業や採用コンサルに従事した。その後、IPO準備中だったSpeeeの社長室に参画し、在籍中に上場を経験。採用組織体制の整備に注力し、昨対比500%以上(年60名ペース)の採用を実現。2021年8月、LayerXに2人目のHRとして参画。SaaS事業のHR領域を担当している。
──何か1つの職種を極めようとすると、結果的に総合力が身に付いている、と。
福島:そう思います。極める過程で「学び方」を学ぶということも大きいです。私はよく「learn how to learn」が大事と言っていますが、まさに一つのことを深掘っていく中でこの力が鍛えられます。
受験でいうと、目標の大学があればその過去問をまず研究し、出題傾向を把握して、参考書をどう選ぶか考えますよね。仕事も同様の学び方が有効です。営業もエンジニアも、できる人は仕事の仕方が似ています。
実際、LayerXの重要な採用基準には、その学習能力の資質があります。
──そういった「学ぶ力」があったとしても、伸びる人もいれば、伸びない人もいますよね。その差はどこにあると思いますか?
新卒メンバーが三井物産などとの合弁事業をリード。質の高いチャンスが若手を成長させる
福島:目標と仲間です。
例えば、受験勉強で、自分の学力が大きく伸びたときってどんなときですか? 自分で志望校や目標を設定してその目標に対して努力しているときが一番伸びたのではないでしょうか? 目標を決めると同じ志の仲間ができます。一緒に合格したい、今回のテストではライバルに負けてしまったが次は勝ちたいというような仲間と切磋琢磨(せっさたくま)するとき、一番成長しませんでしたか?
ただ漫然と偏差値をあげようとしている人と、この学校に合格する、そのためにこの点数に到達しないといけないと行動する人では、後者のほうが成長する。人間はそうできていると思います。これは仕事の場でも同様で、適切な目標があり志をともにする仲間と切磋琢磨できる環境で成長は促進されます。
──LayerXでは、どうやってその環境を作っているのですか?
福島:ありきたりですが、ポテンシャルの高い事業領域で事業をする。ビジョンを大きく描き、優秀な仲間を採用し続けるということを意識しています。現在お恥ずかしながら、事業の成長スピードに採用・組織が追いついていません。でも、若手社員からするとこの状況が実は一番成長するチャンスなのです。自分の限界を超える質の高いチャンスが、やってきます。経営者になったばかりの私が、そうでした。
LayerXでも「当時の私と同じ経験をしているな」と感じる若手社員が出てきています。例えば当社の執行役員の中村は現役の大学生ですが、インターンから入社し執行役員になっています。彼は今LayerXの第3の事業であるPrivacyTech事業の責任者をしています。その事業で皆さんが聞いたことあるような、名だたる大企業を顧客にビジネスをしています。
その他にもLayerXでは金融領域の事業も運営しており、2020年、三井物産や大手金融機関と共同出資して、資産運用のアナログなプロセスをデジタル化する会社を作りました。この事業でデジタル証券を公募し、証券販売を成功に導いたのは新卒3年目の社員 (会社設立時は新卒2年目) です。
この案件は業界内で非常に注目を集めました。なぜならば、この案件の裏側のスキーム(法的整理の枠組みのこと)は非常に新しいものであり、このスキームで実際に販売を成功させたのは、私たちが日本で2番目だったからです。現在はすでにこのスキームで3度の販売をしていて、総額で46億円規模のデジタル証券がすべて完売しているという状況になっています。まさかその裏側の仕組みをつくっているのが新卒3年目の若手であるとは思わないでしょう。
──3年目! 10年くらい修行を積んでから、というイメージがありますが。
福島:日本を代表するような商社、金融機関と渡り合った彼は、この領域では日本で一番詳しく、実行力があると思います。新卒3年目でそのレベルに到れるのはスタートアップの醍醐味(だいごみ)だと思います。
一ノ宮:本当に、経験も年齢も関係ないと証明してくれましたね。これほどの規模の案件なら、経験者を採用するようなレベルかもしれませんが、しっかりと結果を導いてくれました。時代に合ったコアテクノロジーをインプットして形にしていけるのなら、年次は関係ないです。
LayerXは技術面の資産があるので、ビジネス職はそれをどう事業にしていくのかが求められます。事業の0→1は経験できるけど、技術から開発するわけではないため「変な遠回り」をしなくてもいいのは、特徴だと思います。
──想像もしなかったような成長があるのは、まさにスタートアップですね。
福島:普通だったら起こり得ないと思いますが、スタートアップなら「あなたの他にやれる人がいないです」「あなたが100億円を資金調達しないと会社がつぶれます」みたいな状況で、年次・年齢に関係なくやるしかない状況があります。「新卒だから」という色眼鏡で仕事を割り振りません。
──普通の大企業で「資金調達の経験はないけど、100億円を調達したい」と言っても、任されないですよね。
福島:すべての大企業・スタートアップがそうだとは言いませんが、スタートアップの方がチャンスは手に入れやすいと思います。「いろんな業界を見られるから」と漫然と大企業に行き、目的意識なく5年、10年と働いてしまうと、スタートアップで真剣に向き合って仕事をしてきた人との間に永遠に埋まらない差が生まれます。
──「新卒入社を逃すと大企業には入りづらい」という理由で大企業に入る学生もいそうですが、そこも逆張りの方が正しい、と。
福島:ベンチャーから大企業へというキャリアはない、だから大企業に……。そんな固定観念があると思うんですけど、それは違うと思います。実際、転職市場を見るとベンチャーから大企業に転職するというキャリアの方が非常に増えています。今、大企業が欲しがる人材は、ベンチャーでイノベーションやデジタル技術を会得したデジタル人材です。ベンチャーで1度失敗してしまったが、むしろその経験が評価されて大企業に転職できたという事例もあるくらいです。
「福島なんてたいした経営者じゃないっしょ」という人と働きたい
──LayerXが新卒採用に力を入れるのは、福島さんが学生起業で経験したことを、今の学生にも経験してほしいと思っているからかと思いました。
福島:そうですね。そういった体験をLayerXの仲間にもしてほしいと思っています。
──その体験の中で感じたことはなんですか?
福島:目線がどんどん上がっていくことですね。
例えば自分が学生時代のころ「年商10億円の社長が語るスタートアップ」みたいな講演に参加したことがありました。そのときは「すごすぎる」「一体どうやれば自分がそうなるのか想像もできない」といった感想を持ちました。では今の私はというと、そういった感想は一切持っていません。
成功しているスタートアップの創業者の経歴を調べると、急成長企業に在籍していた方が多いんですよね。楽天、リクルート、DeNA、GREE、サイバーエージェント、最近だとメルカリ。これは偶然ではなく、成長する企業の中で「ああ、急成長ってこういうことなのか」「難しいんだけど不可能ではない。自分にだって手が届く、やれるんだ」と思えることが実はいちばん大事なんだと思います。それが当たり前になるというか。
──「すごい」の基準が変わっていくから、誰をライバルと思うかも変わっていくわけですね。
福島:今の日本の経営者のトップにいるような人たち、孫さんや柳井さん、メルカリの山田さんらは、学生時代の私にとっては、ただの偉人でした。ライバルとは到底思えませんでした。
今でも肩を並べられたとは思っていませんが、「彼らのようになるには、今どういう行動をすればいいだろう」と考えるくらいには距離がイメージできるようになり、日々考えて行動しています。
新卒のときは、スタートラインは皆同じです。今あなたが「すごい」と思える人のようになれるチャンスは誰にでもあると知ってほしいです。
──新卒で入る学生に期待することは何ですか?
福島:「福島なんてたいした経営者じゃないっしょ」「ここで経験を積んであいつより大きな企業を作ってやるよ」くらいの、エネルギーと野心にあふれる人と働きたいですね。エンジニア職ならCTOに、ビジネス職ならCOO(最高執行責任者)になる。そういう気概をもった若者と働きたいです。
──そこまでの野心を持っている人は限られそうですね。
福島:野心は後天的に手に入るものですよ。
──どんな瞬間に手に入るのですか?
福島:身近な成功者に嫉妬した瞬間です。スタートアップにいると「友だちが出したサービスがこんなに伸びている!」「学生時代に机を並べていたはずの友だちが、ものすごいスピードで昇進している!」みたいなことが起きるんです。それを目の当たりにするとメラメラと悔しくなります。そして自分にもできるはず、やってやると。それが野心です。
スタートアップの中にいると、こんな経験は何度も起きます。「え!? マジで?」ということが何度も起きるダイナミックさは、魅力の1つですね。私も日々身近な成功者に嫉妬しながら、それをポジティブなエネルギーに変えていっています(笑)。
──なるほど。「この会社にいけば、キャリアもこんなもんだろう」みたいな想像や打算を超える瞬間があるわけですね。
福島:はい。一方で、もう少し違う角度でスタートアップの善の部分を語ると、スタートアップで働く人ってめちゃくちゃピュアな人が多いんです。お金をもうけたいのではなくて、世の中に良いインパクトを与えたい、次の世代にこんな働き方を残したいという、ピュアなモチベーションです。本当にそれが働く一番の理由になっているんです。そしてそれを成し遂げた結果として、時価総額なり報酬が後からついてくる。健全な嫉妬とピュアな思い。このバランスがスタートアップはいいですね。
一ノ宮:実際に働いていても、LayerXはピュアな人が多くて心地よいです。キャリアに対して邪念がなくて、自然体なのが好きです。「堅そうな会社」とめっちゃいわれますけど、その根底には事業への情熱があります! 「デジタル」と聞くとITに強くないといけないと思うかもしれませんが、文系か理系かは関係ありません。採用担当者として、そういったバイアスをなくしていきたいですね。
少人数でのインパクト増幅がソフトウェアの真骨頂。生産性が高くヘルシーな働き方が可能に
──福島さんを突き動かす「ピュアな思い」は何ですか?
福島:労働人口が減っていくのに、人手に頼った働き方をしているこの国をなんとかしたいです。日本の生産性の低さは世界でも最下位レベルです。このままでは労働人口を増やす(少子化対策、移民増加)か、ソフトウェアを活用することで効率の良い社会を作っていくか、その二択です。
前者は政治の仕事ですが、後者は民間の私たちでも変えられます。ですので、私はソフトウェアを活用する社会を作ることで、子どもたちが希望を持てる日本にしていきたい。それがLayerXのミッションである「すべての経済活動を、デジタル化する。」です。
──確かに、非効率な業務が残っている企業はたくさんありますよね。
福島:日本はソフトウェアの活用率も世界最低ランクという結果があります。これは生産性と連動していると考えます。また金融生産性の低さも深刻で、日本は金融で食っていくだけの資産があるのに、ほとんどのお金が預金に眠っている。
生産性に対するインプットは基本的にヒト・モノ・カネです。日本はモノ、いわゆる製造業の生産性は諸外国と比類しても高いと思います。ですが、ヒト・カネの2つのインプットに対する生産性が著しく低い状態です。LayerXではこの2つの生産性を改善することで「LayerXという会社で国が救われた」みたいに教科書に載るような仕事をしたいです。
──ソフトウェアの力を、そこまで信じられるのはなぜでしょうか?
福島:ソフトウェアが個人をエンパワーし続けてきたからでしょうか。例えばソフトウェアが出現する前、3〜4人で作ったサービスが世界中の何億もの人に使われることなんてありませんでした。生産性というと、どうしても労働時間の短縮など作業面に目が向きがちですが、ソフトウェアの真骨頂は、より少ない人数でインパクトやアウトカムを増幅させることです。
──少数精鋭のスタートアップは激務のイメージもありますが……。
一ノ宮:24時間365日働いているようなイメージがあるかもしれないですが、それでは続くはずがありません(笑)。特にLayerXの事業領域は請求書や稟議(りんぎ)といった長年続いている商習慣に関わるものなので、すぐに何かが変わるわけではありません。2〜3年という期間ではなく、中長期での戦いです。
そのためには、自分や家族の健康を優先して働くことができないといけません。社内ではよく「長時間より長期間」と言っていますが、個々人に最適化された、ヘルシーな働き方を重視するカルチャーが根付いています。
人生の優先順位はそれぞれ。家族が最優先なら、無理して、家族をないがしろにしてまでする仕事はありません。20代後半〜30代の子育て世代が多い会社なので、そこは共通認識がありますね。
福島:それに、LayerXではデータやソフトウェアをフル活用しているので、生産性が高いです。
例えばセールス活動1つとっても、とりあえず営業電話をかけまくるという非効率なことはしません。相手の興味や困りごとのデータに基づいて優先順位をつける。「どういった広告から流入してきたか」「セミナーには参加しているのか」「使っているシステムの種類は」などなど。ソフトウェアを通じて集まったデータから、どれくらい相手が導入してくれそうかの見込みが事前にわかった上で電話しています。
どの会社でも行われている「営業の電話」という行為1つとっても、このようにソフトウェアで生産性を上げています。弊社では営業電話に限らずあらゆる業務にこういった形でソフトウェアやデータを活用していますので、生産性が高く、激務ということはないですね。成果に対する緊張感はありますが、長時間働いてなんとかしろという文化ではないです。
──確かに生産性が上がりそうです。
福島:LayerXが事業で扱っている法人支出の自動化もそうです。請求書や経費精算の処理にかけられる人件費は、日本全体で年間3.3兆円にも上るといわれています。私たちのサービスを使っていただくと、このうち80%は効率化されます。将来的にはここにかかる時間をほぼゼロになるようにしたいですね。
バイアスがないことが強み。学生こそ直感を信じてほしい
──データやソフトウェアを活用するようになると、世の中はもっと変わりそうですね。
福島:これからはソフトウェア社会が到来します。全ての産業において、ソフトウェアが競争優位性になります。エンジニア以外の職種でも営業、マーケティング、経理、法務などありとあらゆる業務で生産性を上げるためには「ソフトウェアリテラシー」が重要です。あらゆる領域で、こういうノウハウをもつ人材は重宝されます。
──そんなに……! 今の姿からは、まだ想像できないです。
福島:これから10年で、古い働き方をしている会社と、ソフトウェアを前提とした新しい働き方をしている会社の逆転が起きます。
だからこそ、学生には新しいトレンドに賭けるという視点も持ってほしい。今新卒での就職人気が高い会社も、もしこの転換に失敗すると安泰ではいられません。そしてこういうトレンドって意外と中で没頭している人たちにはバイアスがあって正しく判断できない、分かっていても舵(かじ)をきれないことがあるんです。
昔話として私が起業したての頃ちょうどフェイスブックが上場したんです。Gunosyはフェイスブックにビジネスモデルが似ていたので、めちゃくちゃ研究しました。そしてこれはとんでもない会社だぞ、と上場時の資料を見て確信しました。
一方そのときベンチャーやIT業界で実績のあった経営者の人たちの中には「SNSは広告で収益化できっこない」「Facebook(SNS)とGoogle(検索エンジン)では広告ビジネスとの相性が全然違う。評価が高すぎる」というような内容を真剣に語っていた人が結構な数いたんです。でも、現実は違いました。今ではtoCサービスを経営する人なら誰もがフェイスブックを研究し真似(まね)しています。
──これまでの成功体験がバイアスになっていたんですね。
福島:はい。例えば皆さんのような学生さんはバイアスがないので、フラットな目で世の中を見ることができます。「自動運転搭載の車が増えていきそう」「リモートワークをする会社は増えていきそう」みたいな大きなトレンドって至極当たり前に感じますよね。でも実際当事者として働いていると、「いや自動運転ってここが難しいよね、なかなか今の自動車を置き換えるまでにはならないよね」とか「リモートワークは理想だけど、すべての会社はそうはならないよね」とか、できないもっともな理由が頭に浮かんでしまいます。こういったバイアスって本当に思考を歪(ゆが)ませるんですよね。
皆さんはバイアスに飲み込まれず、「この仕事はなくなる仕事か、増える仕事か」「どっちの働き方が自然なのか、スケールするのか」をイメージするといいと思います。
──ある種の直感のようなものですね。
一ノ宮:最後は誰がどう言っても、直感を信じてほしいですね。ある程度絞る段階までは合理的に決められるかもしれませんが、その後は直感で決め、その選択を「正解だった」と思えるようにキャリアを積み重ねていくしかないと思います。
福島:そうですね。自分が120%頑張れることや、「この人と一緒に働きたい」「このチームなら楽しい」という直感は信じてほしい。キャリアを逆算してロジックで考えたことをやるよりも、自分が信じられることを選んだ方が、没頭できます。そこで深掘った経験は結果的にキャリアにプラスに働きます。
120%コミットできてハイパフォーマンスを出せるものが何か。きっと直感で分かると思います。
▼企業ページより
LayerX
【ライター:松本浩司/撮影:百瀬浩三郎】