3月に入り、就活もいよいよ本格化しました。就活生の皆さんはこれからさまざまな企業の面接を受けるでしょうし、その中で内々定の連絡を受けることもあるでしょう。
そんなときに気をつけてほしいのが「オワハラ(就活終われハラスメント)」です。
「内々定です。本当におめでとう。ただ一点、これで就活を終えることが条件なんだよね。この場で他社の選考は辞退してもらえないかな?」
このように、企業が学生に対して他社の選考を受けられないように妨害したり、他社の内々定を辞退させたりすることが「オワハラ」です。
このオワハラに対して、三井物産は2019年に他社拘束などについて相談できる「オワハラ相談ホットライン」を設置。それ以来、毎年就活生からの相談を受けてきましたが、今年はオワハラの事例を紹介する動画を公開しました。先程のセリフも、動画のワンシーンから引用したものです。
どうして、このような動画を作ったのか。その背景を同社採用企画室 室長の田渕順司さんに伺います。
「オワハラって何?」そんな学生にこそ、この動画を見てほしい
──三井物産はオワハラ撲滅に向けた取り組みを続けていますが、動画制作は今回が初めてです。動画作成に至った背景は何だったのでしょう。
田渕:採用に携わるわれわれにとって、オワハラは毎年耳にする言葉ですが、就活生にとっては理解しにくいところもあると思っています。「そんなことが本当にあるの?」とイメージが湧かない人が大半でしょう。
そういう中で、「オワハラをきちんと理解してもらうための手段として動画が有効なのではないか」という発案が若手社員からあったことがきっかけでした。
言葉で説明するよりも、動画を通じて「こういうのがオワハラなのか」とリアルにイメージすることができる。「こういうことが起こり得るんだ」と知り、自分がその場に直面したときのことを想像しておくことに意味があると思っています。
田渕 順司(たぶち じゅんじ):三井物産株式会社 人事総務部 採用企画室 室長
──そもそものお話なのですが、そこまでしてオワハラ撲滅に取り組むのはなぜでしょうか。
田渕:ベースにあるのは「オワハラがいまだに行われていることがおかしい」という感覚です。社会人経験がなく、得ている情報に限りもある学生に対して、「内々定を出す条件としてその他の選択肢を捨てることを迫る」ということ自体が、社会人の先輩として、企業として取るべき行為ではないという当たり前の感覚です。
これは一貫して言い続けていることですが、「学生の皆さんには納得いくまで就職活動をやり切ってもらいたい」と思っています。初めて会社を選択するにあたって、自分自身の納得感を大事にしてもらいたいということです。
企業は学生の皆さんが納得感のある選択ができるように手助けをすべきで、決して選択肢を狭めたり決断を無理に迫ったりすべきではない、そういう思いからオワハラというテーマに取り組み続けています。
──動画作りでこだわったポイントはありますか。
田渕:二つあります。一つは、実際に起こる頻度が高い事例を基に台本を作ったことです。就職活動の記憶がまだ鮮明な当社の若手社員が実際に遭遇した場面を忠実に再現しています。極端な事例というよりも遭遇する可能性が高い事例であることを重視しました。
もう一つは、オワハラへの対策や対応方法をあえて載せなかったことです。実際にオワハラに遭遇する就活生がそのときに置かれている状況は、その時点で持っている選択肢や時間軸等によってそれぞれ異なります。「こういう場合はこうしましょう」といったハウツーを提示することではオワハラという問題を表面的にしか捉えておらず、あまり意味がありません。
学生の皆さんにはまず、オワハラとはどのようなものなのかその実例を知ってもらったうえで、実際にそのような場面に遭遇した場合にどう対応すべきかは自分で考え、毅然(きぜん)とした態度で対応してもらいたいと思っています。
選考を受けた企業に「誠意を尽くすこと」と「断れないこと」は別物
──2020年以降、コロナ禍で就職活動の在り方にも変化がありました。オワハラにも何か変化はあったのでしょうか。
田渕:内々定を断るときに、企業から「一度来社してお話を聞かせてください」と対面での説明を求められることもあると聞きます。コロナ禍ではこうした企業も無理に来社を求めることがはばかられた結果、学生が内々定を断りやすくなった面は多少あったかもしれません。
──なるほど。確かにオンラインの方が言いにくいことを伝えやすそうです。
田渕:自分の意志を伝える方法自体はオンラインでも電話でも対面でも構わないと思いますが、学生の皆さんに一つ心に留めておいてほしいことがあります。それは、皆さんに真摯(しんし)に向き合ってくれた企業に対してはしっかりと誠意を尽くしてほしいということです。これは今後社会人として一歩を踏み出す皆さんにとって大切な姿勢だと思います。
──断るためにはっきりと意思を伝えつつ、誠意は尽くす。より断るのが難しくなってしまいそうな……。
田渕:自分の考えがしっかりと定まっていれば、誠意をもって堂々と断ればいいのです。まだ考えがまとまらず迷っているのであれば、「迷っているので今この場で決められない」と伝えれば良いのです。
企業は優秀な学生を採用したいし、内々定を出すからには自社への入社の意思を固めてほしいと思っています。それ自体は当然のことです。当社もいったん内々定を出した学生に対しては「当社の魅力を十分に伝えきれているか」と自問自答しながら、当社への入社意思を固めてもらえるよう動機付けを一生懸命やります。
ただ、本人の気持ちや意思が他の道を選ぶことで固まっているのを知りながら、それを尊重せずにとにかく覆そうとするのはやはり違うと思います。
また、迷っているという状態を無視して決断を無理に迫るという行為が学生に真摯に向き合っている姿勢だとは到底思えません。大事なのは企業も学生も相手をリスペクトして正面からしっかりと向き合うことだと思います。
当社の選考に参加していただいた学生から、「◯◯社から『納得がいくまで就職活動をしてください』と言われた」と聞くことも多く、当社と同じような考え方を持った企業は他にもたくさんあります。学生の皆さんもそういう会社との出会いがあれば、オワハラがいかに異様な行為であるかということにも気づきやすくなるでしょう。学生の決断を尊重する企業が増えることを願っています。
納得感とは「本人の心」が決めるもの。周りの声は気にしなくていい
──2020年に取材した記事では「一人で悩むのはよくないけど、最後は自分でしっかりと考えて決めてほしい」というメッセージをいただきました。オワハラに左右されず、納得して就職先を決めるには、やはり「自分で決める」覚悟を持つことが大切でしょうか。
田渕:自分の人生なのだから、しっかりと考えて、流されずに決めてほしいという思いは変わりません。自分の意志で納得して決めたことであれば、そこにある種の覚悟のようなものが芽生えると思うからです。本当に大事なのは入社した後にどう働くかです。学生の皆さんには内々定を得ることを就職活動のゴールにするのではなく、入社後にどう働きたいかを考え抜いてもらいたい。
そこまで考え抜いていれば仮にオワハラにあったとしてもその場の雰囲気や圧力に押し切られることはないと思います。そして、自分で考え抜いて選んだ道であれば、入社後に多少思い通りでなかったとしても誰かのせいにしたり簡単に投げ出したりするようなことはせず、目の前の仕事にしっかり向き合って自己成長の道を力強く歩んでいけると思います。就職活動における決断はその第一歩なんだと思います。
──残念ながらまだオワハラがある世界でこれから就活をする学生に向けて、最後にメッセージをお願いします。
田渕:自分自身の納得感を大事にしてもらいたいと繰り返し申し上げました。
納得感とは、「本人にとっての納得感」です。本人の心が決めることであり、周りがとやかく言うことではありません。社会人になってからもさまざまな場面で自分自身の決断が求められます。やってみないと分からないのでとにかく踏み出してみることも必要ですし、自分の思い通りにならないことも多いでしょう。それでも自分の生き方や働き方を決めるのは他ならぬ自分でしかありません。そういう強い気持ちをもって自分自身に向き合っていただきたいと思います。
学生の皆さんがしっかりと納得のいく選択ができることを心から願っています。
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