就活もいよいよ佳境を迎え、各社の選考が本格化している今、内定をもらって承諾するか悩んだ経験のある学生もいるのではないでしょうか。
新卒採用にまつわる調査でも、内定承諾に悩み、「辞退する学生が増えた」と答えた人事は多いです。その背景には、新型コロナウイルスの感染拡大や就活のオンライン化があるともいわれていますが、実際のところはどうなのでしょうか。
2022年3月にワンキャリアが開催したイベント「ONE CAREER CLOUD Conference 2022 -LISTEN-」では、法政大学キャリアデザイン学部教授の田中先生、そして、2023年卒として就活に取り組んだ現役大学生の小林さんと池田さんを招き、就活中に思っていたホンネを伺いました。
インターンシップに対する印象や内定承諾の決め手まで。先輩は一体何を考えていたのか。田中先生の解説と合わせて迫っていきます。
田中 研之輔(たなか けんのすけ):法政大学 キャリアデザイン学部教授/一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事/明光キャリアアカデミー学長/元客員研究員/University of Melbourne 元客員研究員/日本学術振興会 特別研究員 SPD/東京大学 博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。専門はキャリア論、組織論。社外取締役・社外顧問を30社歴任。個人投資家。著書26冊。主著『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』(日経BP、2019年)インターンは「貴重な時間を費やす価値があるかどうか」の天秤(てんびん)にかけられている
セッション最初のテーマは「志望度を左右する、インターンシップのポイント」です。
現役大学生の池田さんは興味と合わせ、報酬があるかどうかも検討材料の一つにしていたと話します。お金が支払われるなら、万が一インターンシップがつまらなかった場合でも意義が見いだせる。実際に池田さんは、そこまで関心がない企業でも、参加費が支払われる場合には応募をしていたそう。
一方の小林さんは、インターンに参加する企業は内定につながる企業にのみ絞っていました。
田中先生は2人の話を受け、「インターンは学生にとって未知の経験であり、刺激的な時間」と述べた上で、次のように分析します。「貴重な時間だからこそ、ムダに使いたくないのが学生の本音。インターンを開催したからといって、学生が来てくれるとは思わない方がいいですね」(田中先生)
では、どのようなインターンなら学生は参加したいと思うのでしょう。ワンキャリアが調査した結果、多くの学生が参加して良かったと答えたインターンは「実際の事業課題を扱うもの」でした。個別にフィードバックが受けられたり、業界や企業の知識が得られたりする、といった要素が続きます。
学生は社会人からフィードバックを得る機会が少ないため、貴重な機会と捉えているようです。田中先生は、学生がインターンで知りたいのは「ビジネスのリアル」だと言います。
「学生が悩んでいるのは、大学生から社会人へ変化し、求められる役割(キャリアトランジション)を全うできるかどうかです。大学が用意している学びのコンテンツが、社会でそのまま通用するかどうかは誰にも分かりません。だから、1人のメンバーとして働く中で社員たちから、リアルなフィードバックを受けられるインターンが魅力的に映るのでしょう」(田中先生)
本当に知りたいのは現場のリアルな声。内定者が出てきても意味がない?
一方、参加する意味がないと感じたインターンは「社員と関わる機会が少ないもの」でした。
最近では、社員以外に内定者とのコミュニケーションの機会を用意する企業も少なくありませんが、それはあまり意味がないとのこと。まだ会社で働いていない内定者からは、働き方や社風など、リアルな内情を知りたい学生からすると、有益な情報が得られないと思われるためです。
「近しい存在と接点を作るきっかけになれば」という思いがあるかもしれませんが、学生としては、若手、ミドル、ベテランなど、社歴に関係なく現場で働く人の声を聞きたいというのが本音のようです。
ここまでの話から学生の傾向として「インターンの質と合わせて、社員と接する機会も重視していること」が読み取れます。小林さんが面白かったインターンで挙げた特徴も「社員と接する機会の量と質がどちらも担保されていること」でした。
「大手金融機関のオンラインインターンに参加した際、デスクローテーションとして、何人もの社員と数日間過ごしました。参加社員の約8割が現場メンバーで、30人近い方とお会いしました。皆さんから、業務内容をはじめ、実際に働く雰囲気や他社員との関わりなどが聞けて良かったです」(小林さん)
田中先生は、30人もの社員に会う中で、学生もチームが見えてくると感服しつつ、新時代の就活が始まっていると話します。
「コロナ禍以前のOB・OG訪問で、30人もの社会人に会った学生はなかなかいないはず。オンライン化によって、社会人に会えるチャンスは広がったと言えます。どこかの段階で対面で会うことは求められるでしょうが、今後はアフターコロナの採用を見据え、選考フローをどこまでオンライン化するかが重要になるでしょう」(田中先生)
「社風はネガティブチェックに使う」 学生は見ている。画面越しに漏れ出る雰囲気を
2つ目のテーマは、学生の意思決定についてです。ワンキャリアが行った調査では、学生が内定を承諾した決め手について、最も多かったのは「社風・人材の魅力」でした。
田中先生は「業界や市場の動向、労働環境といった点については、社会に出た経験のない学生が見極めるのが難しい」としつつも、人については目利きができると強調。社風についても、学生は敏感に感じ取っていると警鐘を鳴らします。
「社風は雰囲気から分かります。私自身、日頃さまざまな企業の方と会いますが、一つの会話や動きからでも、社風を表す空気感を感じ取れます。今後、対面とオンラインのハイブリッドな就活が進む中でも、社風や人で判断する傾向はより強くなっていくでしょう」(田中先生)
実際、就活生は社風についてどう考えているのでしょうか。池田さんは「社風は足切りの材料に使うことが多かった」と言います。
「どの企業もネガティブな点は隠すはずなので、オンラインだけでは判断ができないというのが正直な感想です。ただ、その中でもネガティブな雰囲気が漏れてきたら、行かないようにしようと決めていました」(池田さん)
学生に見せたくない部分を全力で隠そうとする企業は少なくないでしょう。しかし、池田さんの話からも分かるように、昨今は、隠そうとしてもクチコミなどでバレてしまう世の中になっています。
小林さんは、社風や面接に関する苦い経験を問われた際、友人が面接官から「ウチよりも◯◯企業の方があなたには向いていると思うよ」と言われてショックを受けていた話をしてくれました。面接官の方は応援のつもりだったかもしれませんが、こうした体験もWebを通じて共有されてしまうリスクがあります。社風がネガティブにはたらくリスクがあることも認識しておいた方が良いでしょう。
とはいえ、学生間の就活クチコミは、会社の悪いことだけでなく、良いことも広まります。企業ブランディングとしても、きっと有益なはずです。
採用のデジタル化をきっかけに、開かれた情報のブラックボックス
最近の学生たちは、入社後のキャリアなど、効率的に情報を集めています。その一つが「OpenWork(オープンワーク)」という各企業の社員や元社員からのクチコミが掲載されているサービスの活用です。
気になる企業のクチコミに記載された、年収ややりがい、退職検討理由などを読み、学生たちは、企業が自分にマッチするかを照らし合わせています。
「企業が隠していたブラックボックスがようやく開かれてきた」と田中先生。採用にはどうしても企業と学生間の情報格差が付きまといますが、最近は、企業情報やクチコミも含め、多くの情報がWeb上で見られるようになりました。
しかし一方で、企業の採用サイトは「良い情報しか掲載されていない」と学生から警戒されています。今回登壇してくれた2人をはじめ、学生の中には、事業内容や研修内容といった、ESなどを作る際に必要な事実情報を求める場面でしか確認しない、という人もいるようです。
田中先生は2人の回答に驚きつつも、「採用ページを見てもらうためのストーリーを人事採用担当者は考える必要がある」と提案しました。
「情報はこの10年間で爆発的に増えました。SNSや動画サイトなど、さまざまな方法で情報にアクセスできる今、採用ページにもストーリーがないと学生は見てくれません。特に工夫をしなくても来てくれるという考えは捨てた方がいいでしょう。彼らに遊びに来てもらうためにも、人事自身が、採用ブランディングやマーケティングを考え、導線設計をしなくてはいけません」(田中先生)
採用がオンライン化している今、学生のことが分かりにくくなっている、という面はあるでしょう。しかし、そこで諦めるのではなく、いかに学生の気持ちや本音に寄り添ってアクションを起こせるか──これが、コロナ禍後も学生から支持される企業のポイントになるのでしょう。
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