「ある朝、目が覚めたら、あなたは『就活生』になっていました。どの会社へ入りたいですか?」
(※ただし、自身がこれまで所属した企業は選べません)
社会人の先輩をお呼びして、この「究極の転生質問」に答えてもらうシリーズ企画。今回は、バーチャルSNSを運営するクラスター株式会社のエンジニアリングマネージャー・倉井龍太郎さんにご登場いただく。ちなみに、クラスターは、ニッポン放送の吉田アナウンサーが「転生就活」先の候補に挙げていた会社だ。
・「僕が就活生なら、就活サイトなんて見ない。体験を増やす」ニッポン放送アナウンサー吉田尚記さんの『転生就活』
<倉井龍太郎さんの「入社以降年表」>
・2008年(25歳)修士課程2年の夏にはてなのインターンに参加。
・2009年(26歳)はてなに入社。
・2013年(30歳)国立研究開発法人 科学技術振興機構研究員として北海道大学に戻り離散構造処理アルゴリズムの研究に従事。
・2015年(32歳)Magne-Max Capital Managementに入社。17年から執行役員CTO(最高技術責任者)に。
・2021年(38歳)クラスターに入社。
・2022年(現在)クラスターのエンジニアリングマネージャーに就任。
倉井さんは数々のベンチャー企業を経験されたソフトウエアエンジニアだ。倉井さんが、今、新卒就活生ならば、やはりベンチャー企業を選ぶのだろうか? お話を伺う。
自分が本当に好きなことを仕事に
──倉井さんは学生時代にインターンをしたベンチャー企業「はてな」に就職をしますが、それ以外にどんな進路を考えていましたか?
倉井:大学院の修士課程2年生の春に就職活動をして、2社だけ受けました。
「博士課程に進むよりも、行きたい会社はあるか?」という観点で選んだ会社で、グーグル(Google)とソニーグループです。Googleは技術面接までいきましたが、残念ながら通らなかったです。技術面接はその場でコードを書く試験で、今はいろんな会社がやっていますが、当時は珍しかったですね。今でもどんな問題を出されたのか覚えているくらい、面白い試験でした。もう1社のソニーは最終面接で落ちました。「2年後入社」という不思議な制度があって、内定をもらったあとに2年間好きなことをしていいという制度です。その制度を活用して、博士課程に行く気でした。
その後、夏前になって、博士課程に行くのが不安になってきました。自分は本当に研究に向いているのか? と自信が無くなってしまって。ちょうどその頃、「はてな」が初めてインターンを募集するという知らせがありました。もともと私ははてなのサービスが大好きでしたし「インターンに行けたら、採用もあるかもしれない」と思いました。そして、運良くインターンに合格します。
M2の夏には、博士課程の合格が決まり、はてなのインターン後に内定をいただいて「博士か、はてなか?」ということで悩みました。悩みに悩んだ末に、はてなにジョインします。
2008年のM2ではてなインターンに参加したときの倉井さん
──新卒ではてなに入社されたのち、倉井さんはいくつかの企業で働かれます。それぞれの転職で軸になったのはどういう考えでしょうか?
倉井:簡潔に言うと、やりたいことをやる、ということです。近未来の宇宙と地球を舞台にした漫画『プラネテス』(講談社、1999年〜2004年に連載)に「わがままになるのが怖い奴(やつ)に宇宙は拓(ひら)けねェさ」というセリフがあって、私も強く共感します。もちろん、それによって、さまざまな方に迷惑をかけたことも自覚しているのですが・・・自分の人生なので、面白そうな方を選ぶ。やって後悔するのと、やらないで後悔するのであれば、やるほうを選ぶ、というのは決めています。
はてなには4年間在籍し、ウェブアプリケーションの開発をしていました。大好きなサービスで、新サービスの開発ができたのは、何よりも刺激的な日々でした。
科学技術振興機構研究員として北海道大学へ戻ったのは、博士課程に再チャレンジする意味合いが強かったです。理由のひとつは、「コンピューターサイエンスをエンジニアは分かっているべきだよね」という雰囲気に、私がはてなにいる頃に変わっていったことです。また、身近の友人たちが博士へいって勉強をしていたのを見ていたのも後押しになりました。研究員としては、2年間、働きました。
研究プロジェクトの中に「金融」への応用をやる方がいて。それがMagne-Max Capital Managementの人で、お誘いがあり、ジョインしました。入社してまもなくヤフー(Yahoo! JAPAN)の傘下になりました。
──6年近く在籍し、執行役員CTOにもなります。
倉井:小さいベンチャーだからなんでもやりました。入社して半年くらいは住み込みでしたね。まだ何の製品もない立ち上げのときから参加できたことは、貴重な経験だったと思います。
昨年、クラスターに転職をしたのは、VRがもともと好きだったからです。趣味でやることも考えたことはありましたが、本当に好きなことをやるのだったら、子どももいるので、仕事にするしかないと思いました。あと、はてなでインターンをしていたときに知り合った友人がいたのも大きかったです。
今年から就任したエンジニアリングマネージャーは挑戦です。「エンジニア」と「マネジメント」というこれまでのキャリアで積み重ねた経験をもとに、どんなことができるのか、ワクワクしています。
さまざまな会社を経験しましたが、好きなことを仕事にできるように、多少のリスクがあるとしても、興味のある分野や職責に飛び込んでいく楽天的な思考を大事にしてきました。一方で、自分の芯となる価値を提供する必要もあるので「自分はソフトウエア開発者である」と胸を張れるようにありたいと思って努力をしてきましたね。
倉井さんが選ぶ3社
──それでは、倉井さんがいま就活生に転生したら選ぶ会社は?
倉井:私が大事にするポイントは、日本で成功するIT企業とは、という観点です。私は新卒で「はてな」という開発が強い会社を経験したので、転生するならば、営業が強い会社に入るのは面白そうだと考えました。
1社目は、リクルートです。ソフトウエア開発企業であり、かつ強靭(きょうじん)な営業部隊を持っていそうな会社なので。日本の冠婚葬祭・衣食住の半分くらいを抑えているところや、OB・OGが強力なのも魅力的です。
2社目はサイバーエージェントです。こちらも強靭な営業部隊を持っている会社なので。ABEMAのような挑戦的なサービスを行いつつ、会社全体のポートフォリオで売上を支えているところがすごいと思います。私が在籍するクラスターにも、サイバーエージェントの営業出身者がいて「こんなに面白い人を輩出しているんだ」と驚きました。
──3社目は?
倉井:Zホールディングスです。ソフトバンクと書きたいところでしたが、ソフトウエア開発が主軸の会社を選びたかったのでグループの中でも特徴的なこちらで。リモート勤務にいち早く切り替えるなど、老舗インターネット企業でありながら、うまくサバイブしているところがすごいと思います。Zホールディングスのグループ企業であるヤフーは日本を代表するIT企業ですから、そこに新卒で入って見られる景色は貴重だと思います
──3社とも「営業力」というところがポイントになりましたね。
倉井:どんなに良いプロダクトを作っても、営業やマーケティングの力なしに世に広めるのは難しいと経験から知っているからですね。PayPayが全国どこでも使えるようになったのも、営業力なしには難しかったと思います。
──新卒就活生に一言。
倉井:私は、自分の裁量や貢献度が大きいことに魅力を感じてベンチャーを選んできました。でも、転生するなら大企業でどうやって大きなビジネスを回すのかを見てみたいという点で以上の3社を選びました。転生なのでそういう選択を試みたいと思いますが、今の自分の立場であれば家庭の優先度がかなり高いので、(意外と)柔軟に働けるベンチャー企業は良い選択であり続けると思っています。
──本日はありがとうございました!
▼倉井さんがONE CAREERでインタビューをした記事はこちら
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倉井龍太郎(くらい りゅうたろう):ソフトウエアエンジニア
1983年、栃木県県生まれ。2009年、北海道大学情報科学研究科修士課程修了、はてな入社。はてなブックマークなどウェブアプリケーション開発に従事。2013年、科学技術振興機構研究員として北海道大学に戻り、離散構造処理アルゴリズムの研究に従事する。2015年、研究プロジェクト成果を実業に移転すべく、Magne-Max Capital Management にて株式投資モデルの研究開発に参加。2017年から2020年まで同社執行役員CTO。 現在はメタバースプラットフォームを標榜する クラスターにてエンジニアリングマネージャーを務める。
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(Photo:Aksonsat Uanthoeng/Shutterstock.com)