テレビやエアコンを作る会社──。「電機メーカー」と聞くと、そのようなイメージを思い浮かべる人も多いかもしれません。確かに、ものづくりは日本企業の強みかもしれませんが、そこに安住せずに挑戦している企業もあります。
業界大手の三菱電機は2020年、事業部を超えて新しい事業を作るために「ビジネスイノベーション本部」を設立しました。ヘルステック、スマートシティなどの分野で新規事業を立ち上げようとしており、スタートアップへの100億円を投資することも決めました。
「ビジネスイノベーション本部は浮かんだアイデアをすぐ形にできるので、スタートアップと何ら変わらない」。そう語るのは、ビジネスイノベーション本部の日高剛史さん。5G(第5世代移動通信システム)を全社的に推進するプロジェクトに参画し、三菱電機から新たなビジネスを生み出そうとしています。
意欲的に挑戦し続ける日高さんに、三菱電機の知られざるイノベーション・スピリットを伺いました。
「組み合わせで困りごとを解決する」のが三菱電機のイノベーション
──「三菱電機」と聞くと、冷蔵庫やエアコンといった身近な家電を思い浮かべる学生が多いので、「ビジネスイノベーション本部」が何をする部署か想像しにくい面もあると思います。まずは部署の役割からお聞きできますか。
日高:ビジネスイノベーション本部は、2020年4月に設置された新しい部署です。三菱電機の次の柱となる事業の創出・育成を推進しています。
今の事業部で対応していない新しいビジネスを生み出すには、事業部を超えた横同士の連携が必要なので、その音頭を取っています。あとは全社の事業DX(デジタルトランスフォーメーション)を牽引(けんいん)する役割もあります。
日高 剛史(ひだか つよし):ビジネスイノベーション・DX戦略室担当部長
2000年に三菱電機に新卒で入社。携帯電話などモバイル端末の商品企画を担当し、経営企画室、通信システム事業部など数々の事業を経験。一時、経団連(経済団体連合会)に出向していた経歴を持つ。2018年、ビジネスイノベーション本部の前身、営業本部の戦略事業開発室に異動し、全社的な5G推進のプロジェクトに従事する。現在、5Gを活用したファクトリーオートメーション(FA)、まちづくり実証実験、オープンイノベーション推進に向けたコーポレートベンチャリング活動など新規プロジェクトに多数参画。
──具体的には、どのような取り組みがあるのでしょうか。
日高:もともと三菱電機のグループ会社が持っていた技術を、新しいビジネスに応用できないかという発想から生まれた成功事例に「AI(人工知能)配筋検査システム」があります。配筋検査とは、工事現場で施工した鉄筋が品質的に問題ないか確認する検査のことで、これまでの検査には非常に多くの人手と時間がかかっていました。
AI配筋検査システム(三菱電機提供)
これを独自の技術を使って撮影した配筋画像を3D処理し、データを自動で電子化して、大幅な時間短縮を可能にしました。今後、このような建設現場のICT化ニーズが増えてくるのではないかと楽しみです。
──三菱電機と聞くと「ものづくり」のイメージがあったのですが、こうしたシステム開発にも取り組んでいるのですね。
日高:お客さまが困っていることを解決する手段が、昔はハードウエアだけだったところから、ソフトウエアやデータも使うように変わってきたのだと思います。そういう意味では、仕事のスタイルは変わっていますが、「お客さまは何を求めているか」を考える姿勢は変わっていません。
──どういうことでしょうか?
日高:私は入社してすぐに携帯電話の商品企画を担当したのですが、「ユーザーは何を求めているのか?」という疑問を大事にしてきました。お客さまから求められるものは変わってきていますが、それを理解し、解決することが三菱電機の仕事である点は変わっていないと思います。
──困りごとを解決する上で、三菱電機ならではの強みはどこにあると思いますか。
日高:総合電機メーカーとしてさまざまな技術力と知見が蓄積されていて、それらを組み合わせられることです。
学生の方は「家電」のイメージが大きいかもしれませんが、三菱電機の事業領域は幅広く、ビルやエネルギー、宇宙など12の事業領域から成り立っています。
※参考:MITSUBISHI ELECTRIC RECRUITING「12の事業分野」
それぞれの事業部や研究所に技術に精通した人が多く働いているので、さまざまな技術を組み合わせることも可能です。例えば半導体デバイスと発電技術を組み合わせたら、何か新しい化学反応が起こせるんじゃないか、という具合に。それをどう新規事業につなげていくかが大事だと思います。
──なるほど。三菱電機の強みを組みわせて社会課題の解決に挑戦することが、ビジネスイノベーション本部の役割なのですね。
日高:そうですね。社会課題の解決はビジョンとして掲げています。ですが、壮大すぎてイメージしづらいですよね(笑)。私自身は、お客さまが何に困っていて、何を課題に感じているのか、それを大切にすることだと解釈しています。
次世代の社会インフラ5Gで未来の工場や街をデザインする
──日高さんご自身は、どのような業務に携わっているのですか。
日高:私の業務の1つに、全社的に5Gを推進するプロジェクトがあります。もともと通信システムの基地局営業や海外事業の立ち上げに携わったこともあるのですが、全社的な5G推進プロジェクトに参加することになったのは、2018年10月、ビジネスイノベーション本部の前身である、営業本部の戦略事業開発室に異動したことがきっかけでした。
三菱電機の事業領域は幅広いため、今後5G技術が浸透すると、新たなビジネスの機会が生まれるのと同時に今までのビジネスが不要になる可能性も出てくるでしょう。組織全体の最適化を図りながら、事業部間のシナジーを発揮するにはどうあるべきか考えるのが仕事です。
──5Gと聞くとスマートフォンに関連するビジネスが思い浮かぶのですが、どのような活用を目指しているのでしょうか。
日高:5Gは将来、ファクトリーオートメーション(FA)(※1)の世界で有望な技術であろうと見ています。工場内など一部のエリアに限定した5Gのネットワークを「ローカル5G」というのですが、工場内でのリアルタイムの制御と多数同時接続が可能になります。今までの4GやWi-Fiといった従来の無線方式では通信の遅延が大きく、離れたところにある機械を制御するには難しかったので、大きな変化です。
ローカル5Gで無線化すれば、通信エリア内のどこでも配置できますから、コンベアを使わず、ロボットを載せたAGV(自動搬送装置)で直接製品を運ぶことも可能になるでしょう。有線でつないでいる限り、装置は自由には動かせませんが、無線化できると固定的なレイアウトから開放され、製造能力をフレキシブルに変えられる自由度の高い工場が実現します。
データ収集が進んで、受注状況に応じて生産量を変えることができるようになれば、在庫削減も進むでしょう。ゆくゆくは原材料やエネルギー削減にもつながる「地球環境に配慮した工場」が叶(かな)います。
(※1)……機械が自動的に動く工場を整備すること
──実現すれば、未来の工場の姿はガラッと変わりそうですね。
日高: そうですね。他にも、5Gはスマートシティ、インテリジェントビル、教育や医療の分野でも活用できると有望視しています。
三菱電機にはFAだけでなく、ビル、交通、社会インフラなど幅広いジャンルの事業があります。5Gと私たちのさまざまな製品、アプリケーションをつなぎ合わせてシナジーを生み出すことができる点が他社との違いでしょう。お客さまにとっても、製品ごとにそれぞれ用意するよりも、三菱電機でまとめた方が付加価値は高くなります。
ヘルステック企業にも出資。外からの刺激を受け入れるオープンな会社に
──三菱電機はイノベーションを推進する取り組みの1つとして、スタートアップに100億円を出資することも発表されています。具体的にどのような取り組みをされていますか?
日高:例を1つ挙げると、2020年にヘルステック事業の加速を目的に株式会社Z-Works(ジーワークス社、以下Z-Works)に出資しました(※2)。ヘルステック事業では高齢者施設など離れて暮らす高齢者を見守ることで、ご家族が安心できるようなソリューションを目指しています。Z-Worksとは、センシングデバイスの開発やクラウドデータの連携、介護支援サービスの販売パートナーといったところで提携をしていきます。
(※2)参考:三菱電機「Z-Works社への出資のお知らせ」
──介護支援システムの会社にも出資するのですね。意外でした。
日高:三菱電機が新規事業創出を目指している領域は、大きく6つあり、「ヘルステック」はその1つです。後の5つは「スマートモビリティ」「防災・減災」「i-Construction」「スマートシティ」「グリーンイノベーション」です。
三菱電機提供
ただ、これだけ幅広い事業領域に取り組むには、社内だけでは限界があるので外部企業と協力することが必要です。Z-Worksへの出資はこうした協業の1つです。
──外部との協業は、以前はなかった取り組みなのでしょうか。
日高:そうですね。三菱電機は技術力があるぶん、これまでは自分たちで開発する「自前主義」な面がありました。ですが、これだけ世の中が変化するスピードが速いと、ゼロから開発するより外部の技術を活用して開発した方が圧倒的にスピーディーで、確実です。自社のR&D(研究開発)に投資するよりも、他社に投資した方が早く回収できる場合もあります。
これからもこうした外部技術によって補完しながら、お客さまに提案する機会は増えていくでしょう。
また、有望なスタートアップの情報をキャッチするために、常日頃アンテナを張っています。「世界最大級のイノベーションコミュニティ」と呼ばれているCIC(ケンブリッジ・イノベーション・センター、 グローバル本社:米国)のメンバーにもなっています。私も、週に1〜2回は虎ノ門にあるCIC Tokyoで働いています。
──世界最大級のイノベーションコミュニティ……。規模が大きい話なので、もう少し具体的な話もお聞きできますか?
日高:CICでは、例えば「環境」といったテーマごとのコミュニティがあり、大企業やスタートアップ、大学など教育機関が情報交換できる場となっています。彼らとの雑談の中で新しいアイデアが湧いてくることもあります。
事業のアイデアは社内から募ることもありますが、CICはシェアオフィスとアクセラレーターが合体したような組織なので、本当にいろいろな企画が出てきます。海外企業がオンラインでピッチイベントに参加することも多いので、大変刺激になりますね。
──外部との連携で新しいビジネスを起こすには、何が必要なのでしょうか。
日高:外部との協業にはさまざまなケースがありますが、どんなものにしろ「起点」は必要になるかなと思います。技術に詳しい人がいるとか、顧客に対してコネクションがあるとか、お客さまが求めていることが分かれば何でも起点になるでしょう。ただ、全く何もないところから生み出すのは難しいです。
三菱電機はさまざまな技術を扱っているので、それらを起点に外部企業と新たなイノベーションを起こしていきたいですね。
スタートアップにいるような感覚で、グイグイやってほしい
──日高さんが、ビジネスイノベーション本部で成し遂げたいことは何ですか。
日高:私自身も本当に仕事が楽しく、スタートアップにいるような感覚です。三菱電機には、ほかにも新しいアイデアや、イノベーションマインドを持っている人はたくさんいますから、その方たちが世界中で新規事業を生み出せるような仕組みを作りたいと願っています。2021年度から、ビジネスのアイデアコンテストを始めたいと企画も練っているところです。
これは、社内のアイデアを吸い上げるための仕組みです。まずは日本から始めて、海外のグループ企業からもゆくゆくは募集したいと考えています。ビジネスコンテストの審査員は新規事業で実績をあげた人を迎える予定です。
──三菱電機で新規事業をするなら、どのような人が向いているのでしょうか。
日高:保守的な人よりは、新しいことをやり抜くイノベーションマインドを持った、チャレンジングな人が望ましいですね。そうしたマインドがないと、新しい事業やイノベーションは実現できません。
ビジネスイノベーション本部では新規事業のアイデア検討会のような仕組みがあります。やりたいアイデアのある人がプレゼンをして、承認が得られれば予算がおります。発案者はプロジェクトリーダーとなって、事業を進めていくことができます。
「明日からこういうことがやりたい」という強い意志があり、プレゼンが通れば誰でもプロジェクトリーダーになれる環境です。そういう意味で、リーダーに年齢は関係ないし、リーダーシップのある人が勝手にグイグイやっていますね。
──ビジネスイノベーション本部は、どれくらいの規模や年齢層の部署なのでしょうか。
日高:メンバーは20代から50代まで、幅広い年代層の60人で構成されています。新卒で配属されることは今のところありませんが、社内公募制度など働くチャンスはあるので、エントリーしてもらいたいですね。
また、事務系出身者と技術系出身者の両方が所属しています。私ももともと事務系出身ですので、バックグラウンドが関係ないところもユニークですね。
事務系出身の自分がここまでやってこられたのは、技術者と話ができるように好奇心を持って勉強できたからだと思います。また、ビジネスを起こすときは予算交渉もしなければなりません。そうした社内調整を粘り強く、強い意志を持って成し遂げられる人にも向いていると思います。
──ありがとうございます。最後に就活生に向けてメッセージをお願いします。
日高:三菱電機の強みは、幅広い領域における高い技術力とそれを支える多様なバックグラウンドの人材です。ビジネスイノベーション本部は特にスタートアップの集合体のような場所です。スタートアップで働く選択肢もあると思いますが、大企業はさまざまな事業部でキャリアを積めるところが強みです。
技術畑でスキルを身につけたり、営業をしたりというと、遠回りのように見えるかもしれませんが、事業本部で培った実績とスキルを生かして、グローバルでスケール感の大きい仕事が叶う場所は貴重だと思います。ぜひ挑戦の場に選んでいただければと思います。
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三菱電機【ライター:森英信/撮影:赤司聡】