年収が高くて待遇がいい。そんな志望理由から証券業界を目指す人も多いかもしれません。
国内5大証券の平均年収はいずれも約1000万円と一般的な企業に比べても高給です。外資ではそれ以上でしょう。多くの就活生の憧れる業界の一つです。
その分、選考を突破するのも容易ではないはず。今回ワンキャリ編集部がインタビューしたのは、そんな大手証券会社に内定したDさん。スムーズに喋(しゃべ)れない「吃音(きつおん)」に悩みながらも、その悩みが内定の決め手にもなったと言います。
彼女はどのように自分の弱点と向き合い、選考を突破したのでしょうか?
<目次>
●「3年で辞める」を前提に考えた企業選び、証券会社を選んだ決め手は?
●インターンに3度落ちても内定ゲット、「弱点」は選ばれる理由にもなる
●面接では競合比較の対策は必須。非公開職種の案内も?
●たった一人の言葉で傷つくより、できない理由と向き合う覚悟を
「3年で辞める」を前提に考えた企業選び、証券会社を選んだ決め手は?
──就活は、どんな軸で進めていたのでしょうか?
Dさん:成長と専門性を軸に、得られるスキルと経験を重視していました。私はお金を稼ぐこと自体には興味がなくて、自分の力で何かしら社会に影響を与えることをしたいと考えていました。それができれば、ぶっちゃけボランティアでもよくて。とはいえ20代では難しいので、まずはスキルをつけてその土台を作るつもりです。「じゃあ将来何したいの?」と言われたら正直まだ何もないんですが……。何か閃(ひらめ)いたときにすぐ行動できるように若いうちに成長しておきたいなと。そういった意味で、1年目から実戦経験を積めるベンチャーなどは視野に入れていましたね。
──新卒の時点で転職することを前提に就活をされていたとか。
Dさん:入社しても3年で辞めると決めていました。初めから一つの会社に居続けるのは想像できなかったんです。人生一度しかないんだったら、いろんな世界を見てみたい。仕事に例えるなら、10個以上の職種を経験してみたいですね。いわゆる安定みたいな企業ではなくて、むしろ正反対。
──3年で辞めるとなると企業選びも難しそうです。どの業界や企業を志望していましたか?
Dさん:転職のしやすさと軸を考慮して、ベンチャー・外資・金融を中心に選考を受けていました。3年で辞めると決めたものの、大手だと実際は難しい部分もあります。消去法で転職がしやすい業界や企業を探していました。今思えば、少し反省もありますね。早くから絞りすぎたなと。他の業界をもっと見ればよかったと思います。業界問わず受けていれば、また選択肢が違ったかもしれません。最終的には、証券会社から内定をいただきました。
──証券会社にした決め手はなんですか?
Dさん:福利厚生の手厚さです。大手ならではの魅力を感じましたね。内定先では新卒での配属が札幌・東京・名古屋・大阪で、どの拠点にも社員寮があります。住宅補助が多く、ほとんどお金はかからないそうです。多くても5000円とか、1万円とか。一人暮らしをしたい人にとっては本当に条件がよくて、とても惹(ひ)かれました。先ほどの話と矛盾していますが、この企業であれば3年以上働いてもいいと思えたくらいです。
インターンに3度落ちても内定ゲット、「弱点」は選ばれる理由にもなる
──証券会社はいくつかの選考ルートがあると聞きました。Dさんはどのルートだったのでしょうか?
Dさん:私は就活が解禁してから応募する一般的なルートです。
・ES(エントリーシート)→筆記テスト→動画→1次面接(集団面接)→2次面接(個人面接)→最終面接
インターンに参加すると優遇される選考ルートもあります。私は夏・秋・冬のインターンに応募して、全て落ちてしまいました。それに加えて説明会やOB・OG訪問も行っていません。
──インターンに3回も落ちたら諦めてしまいそうですが……本選考で内定できた秘訣(ひけつ)などありますか?
Dさん:選考によって面接官が違うので、一度落ちても運がよければ内定がもらえる可能性はあります。ちなみに、本選考はインターンよりも通過率が高いと聞いていました。
企業から評価されたのは、「相手の知りたい部分を答えること」です。多くの就活生が言われたことに対して、「ガクチカ(学生時代に頑張ったこと)は?」「ピアノです」など簡単に答える中で、私はもう少し踏み込んでその先まで答えていました。簡単な回答は喜ばれるけれど、自分の伝えたいことを含めるのもポイントです。一番聞きたいのって、「ピアノ」じゃなくて「ピアノの何を頑張ったか」だと思います。ゴールから逆算して計画を立てて頑張ったなど、会社でも生かせるような再現性を持たせることが重要です。
他にも、実際に内定した企業では「前向きな姿勢」が評価されました。私は吃音という、言葉を円滑に話せない障害があるのですが、「障害を克服したエピソードが特によかった。その経験があるからこそ、営業をする際にも相手の気持ちを考えることができる」と言ってもらえました。
──吃音ですか。あまり詳しくないのですが、どのような症状があるのでしょう?
Dさん:人にもよりますが、私は一言目が出ないことに悩んでいました。どうしても出てこないときは、言い換えを使ってごまかすこともできます。ただ、それができない言葉もあるじゃないですか。企業名とか、人の名前とか。面接では、企業名が言えなくて仕方なく有名銀行と伝えたら「メガバンクの名前を知らないのか」と誤解されてしまいました。面接時間が短いとフォローすらできず余計に伝わらなくて、「本当に何を言っているのかわからない」と言われたことも……。
GD(グループディスカッション)でも、「◯◯さんはどう思いますか?」と聞くときに、名前が出てこなかったり、初対面なのに下の名前で呼んだりした経験があります。早めにうまくできないことに気づいて、それ以降は書くことが中心の議事録などの役割に回っていました。
スムーズに話せるかはその日の調子にもよるので、調子が悪いと思ったら事前に伝える方がいいです。その経験を生かして自分でも何かしようと、同じような吃音の人に向けてTwitterを始めたのですが、ふたを開けてみると、悩んでいる人が多くて驚きました。
──それでもよくカミングアウトされましたね。何かきっかけはあったのでしょうか?
Dさん:4年生になって、ようやく逃げずに事実を受け止められるようになりました。内定があったからこそ言えた部分はあります。最悪それで落ちてもいいと思って。就活の後半になって、もう言っちゃった方が楽なんだろうとカミングアウトするようになりました。時期的には5月くらいでしょうか。事前に伝えて社員の反応を見ることで、会社に合うかどうかの判断もできますから。
──実際に選考ではどのように対策していたのですか?
Dさん:吃音であることを伝えるのも一つの手段ですが、どちらかというと相手の対応に委ねることになってしまいます。そのため、自力でできる対策として、言いにくい言葉をリストアップして繰り返し練習していました。
あとは、その人なりの対処法を実践するくらいでしょうか。吃音と一口にいっても、吃りがあるタイプや一言目が出ないタイプなど、いろいろなパターンがあります。例えば、私だったら1音目を強く発するようにする。「メガバンク」って言えなかったら、まずは「メガ」って強く言うと後半もすんなり言える。クセを一番よく知っているのは自分ですから、人それぞれの方法があるはずです。
面接では競合比較の対策は必須。非公開職種の案内も?
──証券業界の選考対策で大事なことはなんでしょうか?
Dさん:証券会社の主要5社は、大きく2つに分かれています。一つは独立系の大和証券・野村證券。他社との資本関係がないため独立系と呼ばれます。もう一つは、銀行系のSMBC日興証券・三菱UFJモルガン・スタンレー証券・みずほ証券。メガバンクをはじめとした、フィナンシャル・グループの傘下にあたります。他にも銀行系の特徴としては、天下りがある、出世しにくいと聞いたことがあります。それ以外に、外資系やインターネット系などがありますね。基本的な情報なので、証券業界を志望しているなら前もって調べておくのがおすすめです。
他には、証券会社ごとの違いを答えられるようにすること。どの企業でも深掘りされた点です。私はM&Aのレベルや規模感が違うと考えて、面接では他社と比較しながら志望度の高さをアピールしていました。実際に「なんで◯◯(他社)じゃないの?」と具体的に聞かれたこともあります。
▼5社の違いを解説した業界研究記事はこちらから
・【業界研究:証券】野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の違いを徹底比較!
──職種は何を志望されていたのでしょうか?
Dさん:M&Aに携わるため、FA(ファイナンシャル・アドバイザー)が第一志望でした。証券を受けるときも「証券がいいです」ではなく「M&Aに携わりたい」と業務ベースで伝えていました。
──確かに新卒であれば営業の方が現実的かもしれません。ただ3年で辞めることを考えると、遠回りになってしまいますよね。
Dさん:実は選考の途中で、「コーポレートはどうか」と、採用ページには載っていない職種を提案されました。コーポレートと言ってもいくつか分かれていて、公開されているのは一部です。
私が聞いたのは内部監査や総務部のような部署で、インターナルオーディット部門、ファイナンス部門、クライアントサービス部門の3つ。基本的に一部の上位校の学生にしか案内していないそうで、TOEIC900以上が条件です。当然、公開されていない職種のため採用数も1名いるかどうか。
「コーポレートだったら即決します」と伝えましたが、「営業の方が向いていると思う」と言われたことから、おそらく営業の配属になります。まずは企業の課題や個人の悩みなどに関わるつもりです。
──証券はタフさも求められそうですね。
Dさん:そうですね、タフさに関する質問はなかったものの最終面接で「ストレス耐性はありますか?」と口頭で確認されました。「私のここがタフだ」とは明言していないですが、伝えたエピソードの中で読み取ってもらえたのではと思っています。吃音を乗り越えたとか、アメリカに住んでいたときの生活が大変だったとか、ピアノの練習がきつかったとか。
──他にも準備しておくことはありますか?
Dさん:面接で希望のキャリアパスを聞かれることがあります。特に銀行は多いので、OB・OG訪問で直接社員に聞いておくと安心です。私は3年の10月〜4年の5月までOB・OG訪問を行っていました。現実的なキャリアを話せるうえに、自分の理想と近いかどうか判断する基準にもなりました。
たった一人の言葉で傷つくより、できない理由と向き合う覚悟を
──これから就活をする人に向けてメッセージをお願いいたします。
Dさん:誰でも苦手なことや弱点はあります。私の場合は、それがうまく喋れないことでした。悩んだ末、キャリアアドバイザーに相談すると「言わない方がいいんじゃない? あえて自分の価値を下げる必要はない」と言われました。面接官の心ない言葉に傷つくときもありました。
でもたった一人の発言に、一喜一憂する必要はありません。たとえ相手が就職をサポートするプロでも。実際に私は内定を勝ち取っているし、むしろ自分の弱さを乗り越えた経験が武器になっています。まずは克服しようと頑張っている姿勢を伝えること。理解してくれる人は、絶対にいます。会社もそうです。伝わらないならその会社に行かない。できない理由を決めつけて足を止めるのではなく、一歩進んでみてください。
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