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「人気No.1の会社に入れば、就活は成功だと思いますか?」
こう聞くと、多くの人は「ノー」と答えるだろう。
なのに、この記事ではランキングを発表しようとしている。理由は1つ。結果そのものではなく、その裏にある「就活生の声」を届けたいからだ。詳しくは後ほど書くが、筆者自身は「ランキングは疑うくらいがちょうどいい」とも思っている。
その上で、まずはこちらをご覧いただきたい。
これはONE CAREER会員の東大・京大生3,819人(=両大学の就職者数の約61%相当)がお気に入り登録している数が多い上位30社だ。すでに就活を始めている2023年卒の東大・京大生が現時点で最も興味を持っている企業群ともいえる。
では、この結果には、どんな就活生の声が隠れているのだろうか。詳しく見ていこう。
<目次>
●クチコミで見えてくる人気企業の「真の評価」
●戦略コンサルの「別格」MBBに食い込むADLとPwC
●学生の心をつかむP&G。サイバーは「人が育つ」イメージが定着
●「コンサル=ゼネラリスト、外銀=スペシャリスト」のすみ分け
●ベンチャーは「インターンのレベルの高さ」で見る
●お気に入り数から見える就活の早期化
●編集後記:ランキングを疑うことから就活は始まる
クチコミで見えてくる人気企業の「真の評価」
まず、先程の30社を対象に、21、22卒の東大・京大生のクチコミの点数を掛け合わせたランキングを作ってみたい。
なぜ、先輩たちのクチコミをランキングの指標に入れるのか。それは「実際に受けた学生の声」が反映された方が、より参考になるデータとなるからだ。
23卒の東大・京大生に今の就活の状況を聞くと「まだ業界や業界の中での企業の差別化ができておらず、サマーインターンに参加して見極めたいと考えている学生が多いと思う」との声があった。その点で、お気に入り数は「見極め前の学生の声」を反映した結果と言える。
ならば、「見極め前での興味の強さ(23卒のお気に入り数)」と「見極め時の評価(21、22卒のクチコミ)」の両方を組み合わせれば、名実ともに人気の企業が浮かび上がるかもしれない。また、先輩の話を参考に就活をする学生も多いので、クチコミの点数はそのまま後輩の企業イメージに反映される可能性も高い。
では、このランキングの中身についても触れていきたい。
戦略コンサルの「別格」MBBに食い込むADLとPwC
前提として、どの企業も、クチコミ点数(=学生が実際に見極めた上での評価)が高いハイレベルなランキングとなった。その中で、戦略コンサルのMBB(マッキンゼー・アンド・カンパニー、ボストン コンサルティング グループ、ベイン・アンド・カンパニー)が全社TOP10入りしている点は、企業ブランドの高さを感じる。東大・京大生からもMBBは「別格」との声があった。特に1位のベインは「少数精鋭」「激務な印象のあるコンサルの中でもホワイト」とのイメージもあるので、コンサルの中でも特別視されやすいだろう。東大生の選考体験談でも「意外とフランクで人間関係もよさそう」といった内容があるので、名実ともにNo.1の企業と言ってもいいかもしれない。
「別格」とされるMBBとともに、TOP10入りしたコンサルが2社ある。アーサー・ディ・リトル(ADL)とPwCコンサルティング・PwCアドバイザリーだ。
ADLはこれまで、学生の間で「理系出身者が多い」「案件は製造業が多い」というイメージがあった。だが、今年はADL日本代表の原田裕介氏をはじめ社員が動画や記事に積極的に出演し、文理は関係ない点や案件の幅広さ・難度などをアピール。もともと受けた学生からの評価は高かったが、その個性を積極的に発信したことが早くも結果に出てきたとみられる。
PwCは総合コンサル「BIG4」の中では唯一のTOP10入り。業務では他社と大きな違いを感じる声は少ないが、内定者からは「選考中に関わったすべての社員の方が温かくて魅力的だった。社員は毎回選考前に待合室でフランクにお話ししてくれた」といった声があった。コンサル人気によって「とりあえず」でコンサルを受ける学生も増えている分、学生とのコミュニケーションに評価の差が表れやすくなっているのかもしれない。
学生の心をつかむP&G。サイバーは「人が育つ」イメージが定着
コンサル以外を見ると、3位にP&G Japanが入った。京大生の選考体験談でも「第一志望企業だったので承諾した。(人材育成力、事業内容、キャリアパスなどの方面から)」といった記述があり、コンサル人気の中でも自社の強みを伝え、学生の心をつかんでいる。
この傾向は、仕事のイメージが持ちやすく人気の消費財メーカーに共通している。ユニリーバ・ジャパンや日本ロレアルは今回のランキングの集計対象外であったが、クチコミ評価は高かった。P&Gやこれらの企業の特徴は、企業ブランドを大事にし、消費者とのコミュニケーションを大切にしていることだろう。
日本ロレアルの人事担当者はONE CAREERのインタビュー記事で「『選考体験の設計』は、ロレアルのブランドビジネスそのものです」と語っている。本業での強みを採用活動でも生かせるのは、消費財メーカーならでは。こうした「受けてみないと分からない企業の魅力」はお気に入り数だけでは見えにくい部分だ。
日系企業に目を向けると三菱地所、三菱商事、サイバーエージェント、野村不動産、三井物産が上位に入った。三井、三菱、野村といった旧財閥系の名前が並ぶ分、サイバーエージェントの存在が際立つ。
ONE CAREERで見ることができる京大生のエントリーシートでは、サイバーエージェントの志望動機として「21世紀を代表する会社になる、という理念を体現するために、事業拡大をするだけではなく人材の育成に注力したさまざまな取り組みを実行している点に魅力を感じました」という記述がある。人材輩出企業のイメージがあるサイバーエージェントだが、それが学生の間でも定着してきていることが、このランキングに表れているだろう。
「コンサル=ゼネラリスト、外銀=スペシャリスト」のすみ分け
ここで、別の観点からのランキングも提示したい。
これはONE CAREERの企業ページにあるコンテンツ(クチコミ、選考体験談、合格の秘訣(ひけつ)など)への23卒東大・京大生のアクセス数が多い企業のランキングだ。どの企業情報をチェックしていたが分かるという点で「選考を受けようと注目している企業群」と捉えることができるだろう。
先程のランキングと比べると、本選考がまだ先の日系企業は少なく、選考を控えた外資系企業・コンサルティングファームのランクインが目立つ。そういう意味では、TOP5に入っているMBBはここでも「別格」と言えるだろうし、日系大手ながらこの時点でランクインしている三菱商事、三井物産もやはり「人気企業」と言ってよいだろう。
また、リクルートや任天堂、グーグル(Google)など企業のカラーが明確な会社がランクインしているのも特徴だ。お気に入り数TOP30には入らなかったものの、「万人受けしないが、熱量の高い志望者が一定数いる」という点で採用力の高い会社といえるだろう。
こうした傾向は19位に入ったゴールドマン・サックスなど外資系金融機関にも当てはまる。最初に提示した就活人気企業TOP30に入っていない点で「かつてより人気が下がった」という印象を受けるかもしれないが、実はその逆だ。
周りを見ていて、ゴールドマン・サックスは数字に強い人、特に数学科でアクチュアリー資格を持っている人や経済学部で金融工学を学んでいた人がクオンツ部門に多く志望している印象があります。その他の部門を志望する学生についても何かに秀でている人が志望している印象があります。コンサル業界はゼネラリストが多い印象です(23卒・東大生)
「コンサル=ゼネラリスト、外銀=スペシャリスト」というすみ分けは、コンサル志望層の拡大がもたらした現象の1つかもしれない。外資系金融はサマーインターンの時期がコンサルティングファームと被る企業もあり採用数もコンサルよりは少ないため、コンサル志望層が併願しない場合もある。結果的にお気に入り数は下がらざるを得ないが、優秀な学生を引き付けることには成功していると考えられる。
ベンチャーは「インターンのレベルの高さ」で見る
最後にベンチャー・メガベンチャーについても触れておきたい。アクセス数ランキングではVisional(ビズリーチ)やエムスリーがランクインした。共通するのは「インターンは受けておこう」と東大・京大生の間で認識されていることだ。
VisionalはサマーインターンのFB(フィードバック)が手厚く参加者のレベルも高いという印象はあります。エムスリーも同様ですが、別業界(コンサルや外銀)を志望している学生がアウトプットの場として利用しているイメージもあります(23卒・東大生)
この声をストレートに読み取れば、志望度は高くないということだが、外銀・外コン志望層を振り向かせるチャンスが十分にあるということでもある。
実際に、エムスリーの今年のサマーインターンは「1.戦略系コンサルティングファームの『戦略立案』 2.投資銀行の『M&A』 3.ITメガベンチャーの『新規事業開発』 4.総合商社の『グローバルビジネス』 の、4領域の仕事を体感できる」とうたっており、採用側が学生のニーズをくみ取りながら、プログラムを進化させていることが、うかがえる。
魅力的な企業というのは、選考を通じて学生の志望度を高めていくことができる企業でもあるので、エムスリーの評価はサマーインターン前と後で変わるかもしれない。
他にもランキングには入らなかったが、ユナイテッドやレバレジーズ、delyなどもアクセス数やお気に入り数でTOP100に入っていた。これら3社もこの夏での志望度の変化、さらには来年以降の東大・京大生の評判も注目しておきたい企業だ。
お気に入り数から見える就活の早期化
最後に、最初のTOP30社を選出する基準になった「お気に入り数」に関するランキングも見ておこう。
東大・京大生の「気になり度」が分かるとしたのは、お気に入り登録は複数社できるからだ。「本当に入りたい企業」もあれば「最近知って興味を持った企業」も入っているため、上位にいけばいくほど幅広い層から興味を持たれている企業と言える。先程のアクセス数ランキングと比べると、日系大手のランクインが目立つ。
理由としては、新型コロナウイルスの影響を不安視し、就活の早期化が昨年以上に加速していることが考えられる。23卒の東大・京大生にヒアリングをした際も「周りからも『早期に内定を獲得したい』という声は多く聞かれる」との話はあった。
その結果、今年ならではの学生の動向として、早期から就活する学生の中に外資系企業の志望者だけでなく日系企業の志望者も目立つようになったと考えられるだろう。今までは「6月のお気に入り数ランキング=外資系志望の学生の動向」「3月のランキング=日系志望の学生の動向」と読み取れていたが、今年は採用市場の変化により、その境目があいまいになっている。「もともとコンサルは考えていなかったが、不安なので早めに就活を始めて受けておこう」という学生も出てくるため、お気に入り数のランキングだけでは、サマーインターンを前にした本命企業がより見えにくくなっているとも言えよう。
さらには、まだ選考が本格化していない現段階では、本命企業だって変わる可能性も大きい。就活が早期化したとしても、ファーストキャリアを決める時期までも早める必要はないのだ。
編集後記:ランキングを疑うことから就活は始まる
今回、あえて複数のデータを出したのは、「人気企業ランキングは、データの切り出し方によって変わる」ということを実感してほしかったからだ。
今回の記事に出てきた企業は40社程度だが、日本には約420万の企業があるとされる。ランキングに出てこなかったとしても「知られざる優良企業」は他にもあるし、周囲で「優良」とされている企業に入っても、そこでのキャリアが望むものになるかは別問題だ。そもそも「就職をしない」という選択肢だってある。
だからこそ、こうしたデータに目に触れたときに持った違和感を大切にしてほしい。その違和感が、自分なりの尺度で企業を見るきっかけや、志望度を見極める判断材料になるかもしれないからだ。もちろん、今回のランキングに納得感があっても問題はないし、すでに自分なりの尺度を持っているならば、それを大切にしてほしい。
ワンキャリアでも、自分なりの尺度を持つ手助けができるよう、ランキングとは違った角度で企業の魅力に迫る記事も届けていく。
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さらには、ファーストキャリアだけでなく、その先のキャリアについてもデータで議論ができるように取り組みを進めていく予定だ。
ランキングを疑い、自分のキャリアを考える出発点となる。この記事がその役に立てば幸いだ。
(Photo:MIKHAIL GRACHIKOV , Lipik Stock Media/Shutterstock.com)