※本記事は、外資系金融キャリア研究所の記事を転載・一部加筆したものです。
就活における総合商社の人気は、東大生の間でも非常に高い。
総合商社に内定した東大の法学部や経済学部生は、それなりに高い満足度や幸福感を持って、就職していくことだろう。
ところが、入社して3~5年がたつと、外資系転職エージェントに相談する姿が見られるという。
総合商社の場合、入社して3年もたつと年収は1000万円近くになる。企業ブランドは高く、安定性も抜群で、世間体やモテ度も高い。一体何が不満で転職を考えるのか、一般的には理解しがたいだろう。
その理由としては、「渉外弁護士」「外銀」「成功した起業家」という、総合商社以上に成功した同窓生と比べてしまうことが挙げられた。
商社はアップサイドが限られている世界だ。東大生のような、さらに「上」の世界の存在を身近に感じやすい人からすれば、何やかんや言っても「中の上」の範ちゅうである。自分より成功している同窓生を見たときに、「中の上」を抜け出して「上」の世界に行くべく、「最低でも30歳で年収2000万円は欲しい」という贅沢な悩みを持ち始める場合があるのだ。
これは同じ総合商社でも、他の大学出身者はそれほど持たない、東大法学部・経済学部卒業生特有の悩みなのかもしれない。
<目次>
●スタートラインで既に負けている? 四大法律事務所に入所した同窓生への羨望
●越えられない年収2000万円の壁、外銀での勝ち組を見たときの後悔
●20代でEXITして数億円──成功した起業家を知ったときのショック
●悩みを解決するための選択肢(1):MBAを取得する
●悩みを解決するための選択肢(2):金融系キャリアへの転職
●悩みを解決するための選択肢(3):ベンチャー・起業関係で勝負する
●贅沢な悩みの解決策になったかもしれない「コロナショック」
●年収は「学力」だけでは決まらない。他の要因による「ゲーム」なのだ
スタートラインで既に負けている? 四大法律事務所に入所した同窓生への羨望
東大法学部卒業者の多くは、法科大学院を経由し、もしくは予備試験を受けて弁護士になるキャリアを一度は検討したことがあるだろう。
これまでは、司法試験は超難関であり、東大法学部生が最も憧れるキャリアの1つだった。
しかし、新司法試験制度に伴う弁護士数の急増や、リーマンショック以降の投資銀行ビジネスの不振、M&Aフィーの単価が低下したことによる渉外弁護士の収入低下などの理由から、弁護士の魅力は急低下してしまった。
とはいえ、「弁護士」というステイタスが放つ輝きや、成功した場合の高収入の魅力は、まだまだ消え去ってしまったわけではなく、頭の片隅には「もし弁護士になっていたら、どうなっていたのだろう?」という思いが残っているかもしれない。
卒業後3年半がたつと、法科大学院経由で弁護士になり、四大法律事務所に入所を決めた大学同期の存在を知る場合がある。
四大法律事務所の初任給は1200万円程度。スタートラインの段階でいきなり自分の年収を越えられてしまう。
加えて、最近の東大法学部最優秀層は、法科大学院経由ではなく、在学中に予備試験に合格する。最短ルートの場合、24歳で年収1200万円スタートの者も出現するのだ。
さらには、入所後3~4年経過した、30歳過ぎの時点で年収2000万円に到達するものが現れる。
総合商社の場合は、年収1000万円到達は非常に早いが、そこから年収2000万円に到達するのは、とにかく遅い。だいたい、20年後くらいだろうか?
四大法律事務所は、日本の弁護士界におけるヒエラルキーのトップであり、総合商社の倍近い労働時間ともいわれるほどの激務が求められる。今では入所してもほとんどの者がパートナーに昇格できないのが実情だ。
従って、単純に比べても意味がないのだが、「弁護士」「年収2000万」と聞くと、負けてしまった気がする、あるいは、自分も弁護士になっておけば良かったと後悔する法学部卒もいるのだろう。
越えられない年収2000万円の壁、外銀での勝ち組を見たときの後悔
東大法学部、東大経済学部から総合商社に就職した者の中には、少なからず外銀からも内定をもらっていた者がいる。就職先を決める際には、リスク、ワークライフバランス、業務内容などを十分考えた上で決断したはずなのに、外銀で成功している同期を見ると、後悔してしまう場合もあるようだ。
外銀での最初の3年間はアナリストであるが、アソシエイトに昇格すれば、トレーディング部門などで年収2000万円越えも出てくる。
また、到達できるのは一握りだが、30過ぎでVP(ヴァイス・プレジデント)に昇格すると年収3000万円を越えるコースに乗る。投資銀行部門でもVPに昇格すれば、年収3000万円越えの世界となる。
それを見ると、50歳を過ぎて取締役にでもなれば別だが、だいたい2000万円、なんとか25年後に部長になって3000万円に行くか行かないかの商社にいる自分を比較し、悩んでしまう者もいるようだ。
20代でEXITして数億円──成功した起業家を知ったときのショック
起業家は、四大法律事務所や外銀とは異なり、同期や先輩に必ず存在するものではない。
むしろ、自分たちよりスペックが低いと思える起業家の、あまりの羽振りの良さを知りショックを受けるケースである。
もちろん、IPO(新規上場株式)やそれに近い所まで持って行った起業家は、スペックなど関係なく、素直にすごいと思える。しかし最近では、日本でもIPO以外の方法、要するにM&AでEXIT(保有株式の売却)をする起業家が増えてきている。
相変わらずの超低金利、継続的な好景気、そして何よりも大企業の新規事業創造力の欠如によって、ベンチャー企業には過大な資金が流れがちだ。
このため、わずか20代で企業売却によって数億円を手にした起業家がちらほら出てきている。このような事実を知ると、自分もチャレンジすべきだったのではないかと疑問を持つ者も少なくない。
悩みを解決するための選択肢(1):MBAを取得する
この贅沢な悩みを解決し得る選択肢を考えてみる。
まず弁護士への転身だが、今から法科大学院、あるいは予備試験経由で弁護士になるというのは、時間的に非現実的である。
また、こちらの過去記事のケースのようにリスクも非常に高い。
外資系金融キャリア研究所「東大法学部で一旦就職してからの法科大学院は止めた方が良い。東大⇒長銀のある先輩のケース」
一方で、現実的な選択肢として「MBA取得」が挙げられる。
実際、東大とは限らないが、一流大学一流企業の若手で、米国のトップMBAを目指している20代は存在する。
ハーバード、スタンフォード、シカゴ、ウォートンあたりのトップ校のMBAを取得すれば、年収2000万以上のアップサイドを狙える可能性はある。
MBA取得後のキャリアはどのようなものがあるのか。
外コンでアップサイドを狙う場合、早くても30半ばでプリンシパルクラス、年収にして2500~3000万円ほどだ。
しかしMBA帰りの30歳過ぎで入社、それもアソシエイトからのスタートだと時間がかかりすぎてしまう。
総合商社レベルを十分上回るとなると、結局は外銀の一択か?
しんどい途(みち)ではあるが、総合商社→トップMBA→外銀、というルートが、経歴上の見かけも良く、あり得る選択肢であろう。
他にも、トップMBAであれば卒業生との強固なコネクションが使え、金融以外の外資系事業会社の良い案件が将来巡ってくる可能性もある。
リーマンショックのときのような景気悪化局面においては、外銀は敬遠されがちで、MBBのような戦略コンサルティングファームや、GAFAのような好待遇のIT系が米国人のトップ層の間で人気が高まったという。トップMBAを卒業すればキャリアの選択肢は大きく広がるだろう。
従って、今からわざわざ準備をしてお金をかけてMBAというのは面倒だが、やる気力があるのであれば、その価値はあると思われる。
総合商社であれば、社費留学を狙うという手もあるだろう。
悩みを解決するための選択肢(2):金融系キャリアへの転職
結局、年収数千万円が得られる可能性が高いのは金融だ。MBAを経ずに、外銀などのポテンシャル採用を目指す方法はある。
しかし、総合商社での職種にもよるが、金融と全く無関係のポジションであれば、20代のポテンシャル採用とはいえ、入るのは至難の業である。
外銀が厳しければ、国内系投資銀行か、国内系アセット・マネジメントを狙うという手もある。外銀よりは可能性があるだろう。
しかし、ポテンシャル採用ということであれば、なるべく若い段階での方が入りやすいであろう。また、大抵の場合、国内系に行ってしまうと、年収がダウンする可能性は高い。
さらに、アセットマネジメントの場合は、外資系でも比較的高齢なので、VP以上で入社することが賢明であり、そうなると、国内系アセットマネジメントで5年以上の経験を積むこととなり、これもまた息の長い計画ということになる。
国内系金融機関であれば、リクルートやJACあたりに行けば、いろいろ相談に乗ってもらえるだろう。
悩みを解決するための選択肢(3):ベンチャー・起業関係で勝負する
ハイリスク・ハイリターンの途ではあるが、ストックオプション目当てでベンチャー企業へ転職するという手がある。20代であれば、ベンチャー業界においても総合商社の人材は人気が高く、どこかしら、そこそこのところに入れる可能性はあるだろう。
もっとも、プログラミングができない場合は、財務、人事、マーケティングなど、何らかの専門性が求められる。総合商社の本流であるトレーディングをやっていたというのは厳しいところだ。
また、年収もステイタスも総合商社と比べると、天地の差があるので、なかなか覚悟を決めにくい。
ストックオプションが当たるかどうかは、外部環境に大きく左右されるので、自分一人が頑張ってどうこうなる問題でもない。この選択肢はギャンブルの要素が強いのだ。
ベンチャーで他の道はというと、自ら起業をすることだ。
もちろん、IPOを狙って、エンジニアを雇って、VC(ベンチャーキャピタル)からお金をもらってというのは大変なので、自ら小さい会社を起業して、サクッと売却するというパターンである。
極めて有用な選択肢ではあるが、典型的な大企業である総合商社から、いきなり会社を作れといっても難しい。
ただ、これはMBAや外銀を目指すのとは異なり、もっと経験を積んでからでも可能だ。しばらく総合商社で勉強しながら、じっくりと準備をしていくことが可能なので、この選択肢は視野に入れておいても良いだろう。
贅沢な悩みの解決策になったかもしれない「コロナショック」
ここまで総合商社に内定した東大法学部・経済学部生が近い将来に直面する悩みと、それを解決し得る選択肢について述べてきた。
外銀への転職や起業によってアップサイドを目指す提案もしてきたが、これらを検討する上で、2020年の2月ごろから騒がれ始めたコロナショックが与えた影響について考えることも忘れてはならない。
コロナショックは、あっという間に世界中に広がり、景気や雇用環境は急速に悪化している。そうなると、不況耐久力が強いのは、何と言っても総合商社のような日本の大企業だ。何と言っても雇用が確保されている。
他方、不況耐久力が弱いのは、外銀と起業だろう。
もともと、景気に左右されやすく、雇用が全く保証されていない世界なのだが、2013年のアベノミクス以降好況がずっと継続していたため、エリートたちも不況への意識が欠け、上ばかり見ていたのかもしれない。
今回のコロナショックによって、東大法学部生の間では、外銀>弁護士の流れが逆転し、渉外弁護士の途が見直される可能性がある。
また、外銀でリストラをされたり、ボーナスが大幅減額されたりした事例を耳にすると、無理して外銀に転職というキャリアを選択する人は減るかもしれない。
ベンチャー企業や起業家がどのような影響を受けるのかはまだ分からないが、リーマンショックの時はベンチャー企業の倒産が激増し、さらに、ベンチャー企業に投資をするVCまでもファンディングができなくなり、市場から退出したケースも目立った。
そういう話を聞くと、近年東大法学部・経済学部生の野心家の間で盛り上がっていたベンチャー熱が後退する可能性はあるだろう。
従って、コロナショック前までは、東大法学部や経済学部出身の若手社員は20代後半になると、外銀や成功した起業家をうらやんでいたかもしれないが、しばらくは、安定した大企業にいて良かったと思うようになるのではないか?
外部経済環境というのは、幸福感や満足度に大いに影響を与えるものだと痛感した。
年収は「学力」だけでは決まらない。他の要因による「ゲーム」なのだ
総合商社に入社した、若手の東大法学部、経済学部卒業者の一部に生じる悩みは、年収は学力だけで決まるゲームではないことに起因するフラストレーションかもしれない。
要するに、自分は学力がナンバー1なのだから、年収もナンバー1になりたいということだ。就活レベルまでは、ある程度、学力だけで何とかなるところはあるかもしれないが、年収については、そういうわけではない。
以前ホリエモンこと堀江貴文氏が言っていたが、東大生は、「どうすれば稼げるのか」ということに目を向けないと、年収というゲームでは学力に応じた成果を得られなくなってしまうのである。
もっとも、幸か不幸か、今回生じたコロナショックによって、いくら優秀でやる気に溢(あふ)れた東大法学部や経済学部出身者であっても、上ばかり見るわけには行かなくなるだろう。ここで話してきたような、3~5年後に直面する贅沢な悩みは減るのかもしれない。
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