高い収入・専門的なスキルを得られ、グローバルな環境で働くことができるのが魅力の投資銀行。世界的に有名な企業が多く、志望する学生が多い業界です。
今回取材をしたAさんも投資銀行を志望していた学生の1人。
Aさんは、「一生好きなことだけをして暮らすため」に投資銀行に入ることを志し、見事内定を獲得しました。
そんなAさんの内定獲得の秘けつは、将来のビジョンを確立できたことです。 ですが、その一方で、将来のビジョンが確立できたのは選考終盤だったと話します。
将来のビジョンに迷いながらも、どのように就活を行い、内定を獲得したのでしょうか?
<目次>
●将来好きなことだけをして暮らしたい。その夢をかなえる手段として「投資銀行」を志望
●選考のコツは「徹底的な企業分析」採用人数・企業の動向から考える「求める人物像」
●選考対策で重視したのは面接練習。求められる英語力は?
●早く将来の目標を明確にする。内定獲得・納得就活に生かせた対策とは?
将来好きなことだけをして暮らしたい。その夢をかなえる手段として「投資銀行」を志望
──投資銀行やコンサルティングファームを中心に選考を受けていたとのことですが、就活の軸を教えてください。
Aさん:年収が高いこと・どの会社でも通用するスキルが身に付けられることです。
──どの会社でも通用するスキルというと具体的にどのようなものを指しますか?
Aさん:会社のCXO(※1)になるためのスキルだと捉えています。例えば、投資銀行で金融にまつわるスキルが身に付けばCFO(最高財務責任者)に、戦略コンサルで事業戦略におけるスキルを身に付けられればCEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)になりやすいと考えていました。
(※1)……Chief x Officerの略。企業における業務および機能の責任者の総称。
──なるほど。この就活軸に定めた理由を教えてください。
Aさん:将来、毎日好きなことだけをして過ごすためです。現時点では、それが遊びなのか、毎日外食をすることなのか、仕事なのかは正直分かりません。ですが、好きなことをして暮らすためには多くの収入が必要で、収入を得るためには、今日の経済の形態では資本家になることだと考えたんです。資本家になるために最も近道だと思ったのが、PEファンド(※2)で働くことだったのですが、新卒採用を行っていないため、PEファンドに転職するための業務スキルを身に付ける目的で投資銀行業界や戦略コンサルを見ていました。
(※2)……プライベートエクイティファンドの略。個人投資家や機関投資家から資金を集めることで、PE投資を行う投資ファンドのこと。
──PEファンドに転職するために必要なスキルとは、どのようなものをイメージしていますか?
Aさん::M&Aや、資金調達を中心とした事業戦略策定などのスキルです。PEファンドでの業務は、未上場企業に投資をして経営層に入り込み、IPOに向かって企業をM&A、事業戦略などに成長支援することです。そのため、新卒からPEファンドに近い業務やスキル習得ができる環境は、投資銀行や戦略コンサルだと考えています。
選考のコツは「徹底的な企業分析」。採用人数・企業の動向から考えた「求める人物像」
──投資銀行や戦略コンサルの選考で内定を獲得するための秘けつや対策はありますか?
Aさん:事前の情報収集・分析だと思います。
──詳しく教えてください!
Aさん:私は、企業が今年度にどのような人を求めているのかを、友人の話や採用人数から分析していました。例えば、採用人数でいうと、とある企業の去年の採用人数が200人だったとします。200人の中からパートナーになれる人の割合が低いことが、まず予想できます。さらに、企業の動向として、組織拡大をしているという情報があったとき、そこからは、個の圧倒的なスキルや競争心より、チームワークや協調性がある学生を求めているのではないかと分析できます。
この分析をした上で、企業の求めている素養と自身の強みが一致する部分を重点的にアピールするようにしていました。
──自分が企業の求める人物であることを示すことが大切なのですね。
Aさん:また、企業の分析をした上で、企業の求める人物や働き方と、自分の性格ややりたいことが異なっていたら、その企業では自分の将来のビジョンを達成できないことに気付くと思います。
──徹底的な情報収集や分析は、納得就活にもつながりそうですね。
Aさん:そう思います。ただ、私のように「PEファンドで働きたい」という目標があると、「入社しても、すぐに転職するのではないか」と面接官に思われるかもしれません。そのため、自分を「企業の求める人物像に寄せる」ことも大切です。 例えば、面接で入社後にやりたいことを伝える際、私は「個」としての力を身に付けたいという目標を踏まえて、「管理職のポジションで自分の力を生かして活躍したい」と伝えていました。また、管理職で活躍するために、入社して間もないうちは、選考を受けた部門の中で身に付けられるスキルの習得に尽力したいとも話していました。私は、PEファンドに転職するために投資銀行や戦略コンサルでスキルを習得する必要があると考えていたので、企業の求める人物像に寄せながらも、就活軸やビジョンとの一貫性を担保することができました。
選考対策で重視したのは面接練習。求められる英語力は?
──Aさんは、就活中にいくつの企業の本選考・インターン選考を受けましたか?
Aさん:4社です。
──選考を受ける中で、特に重視した対策があれば教えてください。
Aさん:ケース面接の練習です。就活を行うまではケース問題を解く経験はほとんどありませんでした。とにかく数をこなすことで、ケース問題を解く際の考え方を身に付けたいと思いました。
──なるほど。どのようにして数をこなしていったのでしょうか?
Aさん:参考書などを用いてある程度基礎を身に付けたら、実践するのみだと感じたので、ケース問題を解くのが得意な友人や選考を受ける企業に内定した先輩を見つけて模擬面接をしてもらいました。10回以上は面接練習を行いました。
──実際に内定を獲得した方に模擬面接をしてもらえると、企業に特化した対策ができそうですね。
Aさん:そう思います。就活で感じたのは、ネットの情報から重要な情報を収集することが難しいということです。そのため、実際に内定者の方から、企業や選考のリアルな情報を収集していました。「それぞれの選考段階における選考内容・どんなケース面接なのか・人物面接では何を聞かれるのか」を聞けたことで、選考を有利に進められたことが多かったので、内定者の方に前述の内容を質問してみることをおすすめします。
──投資銀行だと、かなり高いレベルの英語力も必要なのではないかと思います。英語への対策は行いましたか?
Aさん:苦手意識がないからではありますが、ほぼやっていません。とはいえ、留学経験があるわけではないのでネイティブレベルの英語ができるわけではありません。
投資銀行の中でも、部門によって求められる英語力が異なるので、選考を受ける部門に応じて英語への対策量は異なってくると思います。
──部門によって求められる英語力が異なることは知りませんでした。
Aさん:体感ですが、フロントオフィス(顧客と直接取引をする部門)ではTOEIC900点程度、バックオフィス(サポート業務を行う部門)でも700点程度の英語力が必要になるかと思います。部門ごとに求められる英語力は異なりますが、この点数からも分かる通り、一定の英語力は持ち合わせている必要があるので、必要に応じて対策を取ると良いでしょう。
早く将来の夢を明確にする。内定獲得・納得就活に生かせた対策とは?
──「PEファンドに入るために、投資銀行や戦略コンサルを受ける」という方向性は、就活を始める前から明確に持たれていたのでしょうか?
Aさん:違います。この夢を言語化できたのは就活終盤です。大学3年生の5月頃に就活を始めたのですが、12月頃に将来なりたい姿に気づきました。 実は、将来の夢が言語化されてから、就活のゴールを「内定獲得」ではなく、「納得就活」にシフトできたんです。もっと早くに夢を見つけられていたら、就活の動き方も違っていたんじゃないかと思います。
──夢を見つけたことで、就活のゴールも定まったのですね。
Aさん:夢を見つけられていない頃は、就活の軸に当てはまる業界をとにかく受けていました。軸に当てはまるという理由だけで、なんとなく選考を受けた企業が多かったので、企業事前準備に身が入らず、入念にできなかったんです。投資銀行の中でもそのせいで落ちてしまった企業もあります。今振り返ると、「もしその企業に内定していたら、将来の目標に近づいたかも」と後悔することもあります。 自分と向き合う時間を多く取って、少しでも早く将来の夢を言語化できると良かったなと感じています。
──ただ就活生の中には、やりたいことや夢がない、と悩んでいる方も多いと思います。Aさんが夢を見つけたきっかけは何ですか?
Aさん:とある企業の面接です。面接官から将来の夢やキャリアの質問をされたんです。その際、面接官の上手な誘導のおかげもあるのですが、初めて自分自身に向き合うことができたんです。その内容を面接が終わった後、その内容をさらに深掘りをして自分と向き合う中で、夢を言語化することができました。夢を言語化できた状態で挑戦できた企業からは、全て内定をいただけたので、私にとっては夢の言語化は重要だと感じています。
──なるほど。納得就活をするためには、Aさんが出会った面接官のように「自分の話を聞いてもらえる」人と出会ったり、話しやすい環境を作ったりするのも重要になりそうですね。
Aさん:そう思います。私は、同じ業界への内定を獲得した身近な先輩と話したり、コミュニティに入ったりして、周囲の人から助けられたことが多かったです。
──ただ、新たに自分からコミュニティに参加したり、先輩に相談したりするのは、場合によっては勇気のいる行動になりそうです……。
Aさん:正直、私もそうでした。ですが、将来の夢を達成するための一歩になると思い、勇気を出していろいろな人や環境で「自分と向き合う」ようにしていました
──ありがとうございました! 複数の企業の選考を控えていたり、いち早く内定を獲得したいという気持ちが先行したりすると、目先の対策に必死になってしまうことがあるかと思います。ですが、将来のビジョンを定めることが結果的に内定までの最短ルートになりうることを強く感じました。
(illustration:Andrew Krasovitckii , Nonotttt/Shutterstock.com)