※こちらは2020年12月に公開された記事の再掲です。
世界10都市を巡るワールドツアー、北米7都市を巡るツアーイベントを企画立案し、成功させた男──。こう聞くと、皆さんはどんな人を思い浮かべますか?
有名なアーティストのライブツアーか、はたまた映画の宣伝か……。そう思うかもしれませんが、その正体は、BANDAI SPIRITSで海外マーケティングを担当する亀井俊治さん。
彼のミッションは、有名なアニメ作品『ドラゴンボール』など、日本で生まれたキャラクターたちを武器に、世界を股にかけてビジネスを展開すること。
「『世界一』という言葉が身近に感じられる環境」と語る亀井さんですが、実は入社当初、明確にやりたい仕事があるわけではなかった、という意外な過去も。
今回はそんな亀井さんに、日本にいると分からない、海外での巨大なキャラクタービジネスの現場や、企画やマーケティングの面白さを教えてもらいます。
亀井 俊治(かめい としはる):株式会社BANDAI SPIRITS コレクターズ事業部 欧米マーケティングチーム アシスタントマネージャー
2009年株式会社バンダイに入社。カード事業部、ベンダー事業部にてプロモーションを担当。2017年より現職。「TAMASHII NATIONS WORLD TOUR」で世界10都市を巡るツアーイベント、「ドラゴンボール北米ツアー」で北米7都市を巡るツアーイベントを企画立案し実施した。(所属部署はインタビュー当時のものです)
実家の部屋を見回して決めた「就活の軸」。他人のために頑張れる自分にも気付いた
──今日はよろしくお願いします。亀井さんはフィギュアの海外マーケティングを行っているとのことですが、やはりそういったキャラクターが好きだったから、バンダイに入社したのでしょうか?
亀井:キャラクターが好き、というよりも「自分が好きなもの」に絞って就活をしていましたね。
10年ほど前のことなので、細かいところはあまり覚えていないのですが、「子どものころから好きだったことを仕事にしたい」と、実家の自分の部屋を見回したことは記憶にあります。自分の人生を振り返って、好きなものってなんだったかな? と。
その中の1つに、バンダイが出していたカプセル玩具のドラゴンボールシリーズがありました。当時は、本当に大事にしていたんでしょうね。オカンに「これだけは捨てんといて」と言って、せんべいの缶の中にずっと保管していたんです。これは宝物だなと思えたので、とりあえずバンダイは受けようと思いました。
──確かに、誰しも捨てられない思い出の品はありますよね。バンダイ以外でも、自分が好きなものを軸に就活されたのでしょうか。
亀井:そうですね。ゲーム関連や音楽プレーヤーを作っている会社など、数社受けました。あと「人を楽しませたい」というのも一つのポイントでした。
──それはなぜですか?
亀井:僕、学生時代はラップをやっていて、インディーズですがレコード会社と契約をしていたんですよ。
──ラッパーですか!? すごいですね……。
亀井:そのときにアーティストとして所属するだけでなく、インターンとして他のアーティストの資料を作ったり、店舗営業も担当していました。自分のCDを発売するときも、各売り場に自分でアポイントをとって「アーティスト本人が行きます」と自分でPOPを作って、売り場づくりもしていたんです(笑)。
ただ、他のアーティストを盛り上げるのもなんか楽しくて。自分のことよりも、他人のことの方がかえって頑張れたり、他人が楽しんでいる姿を見るのが好きだなと気付きました。
研修で何気なく口にした夢、「ドラゴンボールで世界ツアー」が実現するまで
──協力していた他のアーティストは売れたんですか?
亀井:最終的に武道館まで行ってましたね。僕は大したことなかったですが(笑)。
──いやいやいや。ガクチカ、強すぎません?(笑)
亀井:要は学生時代に熱中したことがあるかとか、楽しんだことを評価してくれる会社なんで、部活でもアルバイトでも遊びでもなんでもいいと思います。
──入社されてからはカードゲーム、ガシャポンのプロモーション担当を経て、今はフィギュアの海外マーケティングを担当されています。プロモーションや海外マーケの仕事は自ら希望されたのでしょうか?
亀井:希望は出せますし、希望通りに配属される人の方が多い印象ですが、僕自身は希望したわけではありません。
──学生時代の活動からすると、なんだか意外です。希望を出さなかった理由はあるのでしょうか?
亀井:ドラゴンボールが好きでバンダイを受けましたが、入社時に「これがやりたい」と明確な仕事の希望があったわけではないんです。
希望は出していないものの、異動のときには「亀井にこういう仕事を任せたい、こういう経験をしてもらいたい」と言ってもらえていたので、僕の強みはちゃんと上司や人事が見てくれている気がします。キャリアについては、会社に導いてもらっているなと。
──なるほど、具体的にはどのようなことが挙げられますか?
亀井:3年目で「自分の夢を1つ言って、一歩を踏み出す」という内容の研修があったのですが、僕はそこで「ドラゴンボールで世界ツアーをする」と言いました。
それから5年ほどして、フィギュアの海外マーケティング担当になり、2017年に僕が担当しているブランド「魂ネイションズ」でブラジル、香港、メキシコ、ニューヨーク、パリなど世界10都市を巡るツアーを。そして2018年には、ドラゴンボールのプロモーションで北米7都市を巡るツアーが実現しました。
──それはすごいですね! 世界ツアーの担当が亀井さんに回ってきた経緯は、その研修での一言ですか?
亀井:国内事業を担当していたときに、ドラゴンボールを含め、何度か全国行脚のツアーを経験したこともあると思います。
ちょうど今の部署に異動してきたときに、世界ツアーのアイデアが出て、国内ツアーの経験が豊富だった僕にプロジェクトが任されました。ツアーをたくさんやっているので、若手からは「ツアーおじさん」って呼ばれているかもしれません(笑)。
広告代理店を使わず、イベント企画から運営まで全て自前で行う理由とは
──ツアーと聞いてもピンとこないのですが、亀井さんは具体的にどのようなことをされているのでしょうか?
亀井:例えば、ドラゴンボールの北米ツアーは劇場版の公開に合わせて行いました。バンダイのさまざまな商品を売るためには、まず、コンテンツとしてドラゴンボールの認知を拡大する必要があります。そのために、さまざまな施策を立て、調整し、実行するというのが役割です。
──通常、宣伝はPR会社や広告代理店が一括で行うイメージがあるのですが、違うのでしょうか?
亀井:ツアーについては、広告代理店は挟んでいません。
──全部自前なんですか! それは大変そうですね……。代理店を通さない理由はどこにあるのでしょうか?
亀井:広告代理店さんにお願いするメリットって、たくさんあるんですけど、今回は版権元様を含め、現地と連携してこだわりや思いをガッツリ入れ込みたかったし、複数の土地を回るタイトなスケジュールに間に合わせる必要があり、スピードを重視したかったので、あえて自分たちで全体の統括をしながら、それぞれの海外地域の協力者を巻き込んで開催することを決断したんです。
例えば、ドラゴンボールの北米ツアーでは、サンディエゴで行われたポップカルチャーの祭典で6,000人規模のホールで劇場版トレーラーの公開をしました。その会場手配から、イベント内容の企画、監修、商品を運ぶ物流の手配、会場の装飾、ステージの制作まで……文字通り全部、版権元様、現地と連携しながら自分たちで完結しています。
──ツアーの準備から開催までずっとお祭りみたいな状態ということでしょうか。ちょっと、その忙しさが想像できないくらいです……。
亀井:大変でしたが、その分、自分たちの熱量がそのままプロジェクトに反映されたと思っています。ホールも超満員になり、凄まじい熱気でしたよ。
余談ですが、海外向けマーケティングを始めてから、「地球は丸い」ということを実感するようになりました。世界を相手にやりとりしていると、メールなどは24時間ずっと届きますから。大半は日本の勤務時間外になります(笑)。
──大変とはいえ、キャリアで自分のやりたいことや夢が叶(かな)うというのは、多くの人が体験できることではない気がします。
亀井:周囲を見渡してみると、夢がある人は素直にそれを口に出せるし、それを実現できる文化がバンダイにはあると思います。例えば、めちゃくちゃロボットが好きで、ロボットの開発をしている人とか、アニメやアメコミがめちゃくちゃ好きで担当になった人とか。冗談抜きで、夢を実現できる会社だと思っています。
国によって「推しキャラ」は違う。海外マーケターは感度が命だ
──海外マーケティング担当ということで、海外事業についても教えてください。国内にいると、例えば、ドラゴンボールがどれくらいアメリカで人気なのか、なかなか実感できません。売上の規模はどれくらいなのでしょうか?
亀井:実は商品販売規模で見れば、アメリカは日本よりも多いです。アメリカのファンたちも、ドラゴンボールは日本で生まれたということは知っていますが、もう自分たちのものだと思っているくらい、本当に熱気がすごいです。
──国ごとに、マーケティングの方法は異なるのでしょうか。
亀井:今僕がいるコレクターズ事業部では、15歳以上をターゲットにしたフィギュアなどを扱っています。特にメインとなるターゲットは30〜40代で、この世代が子どもだったころ、つまり1980~90年代にどんなコンテンツに触れていたかなどでも、キャラクターの認知度が全く異なります。
例えば、ドラゴンボールはアメリカではすごく人気がありますが、ロシアではあまり知られていません。特撮も同じで、ブラジルでは『ウルトラマン』が人気ですし、イタリアでは『マジンガーZ』が人気が高いなど、各国で状況が違います。アメリカで人気があったからと、それを他国に当てはめて売ることはできません。
イベントやツアーはプロモーションの中核ですが、現地の企業と商談をしたり、店舗を回って自分たちで売り場作りをしたり、メディアを回ったりと、ある種泥臭いこともやっています。
──面白いですね。20年、30年前の状況によって文化も変わるし、売れる商品も変わると。
亀井:日本で売れたからとか、日本的な感覚や先入観を持たずにマーケティングをすることが大事ですね。変な言い方ですが、アメリカでのドラゴンボールと日本のドラゴンボールは人気のキャラクターも別物だと思って見ています。現地での視察やヒアリング調査も大切にしないと、マーケターとしての勘所が鈍ると思います。
コロナ禍でも売上は好調。秘策は30万人を動員した「バーチャルイベント」にあり
──なるほど。新型コロナウイルスが広まる前は、どれくらいの頻度で海外に行かれていたのでしょうか。
亀井:月に1〜2回は海外出張でした。1週間ほど滞在して各都市や周辺国を回ることが多いので、通算で年間の3分の1くらいは海外にいたかもしれません。
──新型コロナで海外出張に行けなくなり、ビジネスに影響はありましたか?
亀井:北米では、コロナに関係なく予定されていた「PREMIUM BANDAI(プレミアムバンダイ)USA」という通販サイトが2020年4月に立ち上がりました。新型コロナウイルスの影響でお客さまが自宅で過ごす時間が増えたこともあり、売れ行きが好調です。最近ではバーチャル展示会などの取り組みも成果を挙げていますよ。
──バーチャル展示会ですか?
亀井:はい。Web上でのイベントを国内で2月に行い、海外に向けても毎年7月にサンディエゴで行われるイベントが中止になったので、イベントの運営と連動して、デジタルイベントを開催しました。4日間だけのイベントのために、秋葉原にあるショールームを改装して撮影し、360度のバーチャル空間を作りました。イベントは大盛況で、30万人を動員することができました。
──すごい。ファンの皆さんもイベントに飢えていたのでしょうか。
亀井:そうだと思います。オンラインなので世界中からファンがアクセスし、1日で通常のリアルイベントと同規模の販売がありました。新型コロナの影響で、多くのイベントがキャンセルになりましたが、このバーチャルを活用したイベントで成果を残せたのは大きかったです。
──なるほど。コロナ禍でも、売上は順調ということですか?
亀井:はい、大人向けフィギュアの売上は好調を維持しています。ほかにも一番くじを手掛ける事業部やプラモデルの事業部なども含め、会社としても好調です。こういう時代だからこそ、エンタメの重要性が再認識されたり、おうちで楽しめる商材の需要が伸びたりしていると感じますね。
──これから入社する学生としては、少子化で玩具業界全体のマーケットが小さくなってしまうのでは? という不安もあると思います。
亀井:手元に好きなものを置いて過ごしたい、肌感覚のあるものが欲しいという人が増えているのは実感しています。「このフィギュアを出してくれてありがとう」というようなメッセージを海外から頂くことは、以前より増えている気がします。
大人向けの市場も拡大していますし、玩具業界全体としては、少子化の流れの中でも市場規模は変わっていません。エンターテインメントの需要という意味でも、マーケットが小さくなるというイメージはありませんね。
社員全員が「世界一」になるための企画をする──バンダイで働く醍醐味
──この仕事に携わっていて「最高だな」と思う瞬間はどんなときでしょうか?
亀井:やはり、お客さまの反応をイベントや売上でダイレクトに見た瞬間ですね。例えばブラジルでは『聖闘士星矢』がすごく人気があって、イベントをやったときにブースを開けた瞬間からファンが殺到して、ずっと主題歌の『ペガサス幻想(ファンタジー)』を日本語で熱唱しているんです!
そのブースを設営するために、日本から立像などをたくさん持って行きました。いろいろ調整が大変で、本当に苦労したのですが、それを見て疲れが吹き飛びました。すごくうれしかったです。
──スケールが大きい仕事である反面、世界を身近に感じられそうですね。
亀井:熱狂的なファンから、かつそれなりの金額をいただく商品が多いので、常にマスターピース(傑作)を求められるというシビアな世界です。少しも手が抜けませんが、「世界一の総合ホビーエンターテインメント企業」というビジョンに、本当に手が届く会社だと思うし、それを社員が本気で信じているというところもいいですね。
──バンダイで海外マーケティングに携わる、ならではの面白さはありますか?
亀井:僕は商品企画の担当ではありませんが、世界中のファンからヒヤリングをしてマーケティングから商品企画のアイデアを出せることでしょうか。
登場シーンが少ないキャラクターでも、ファンの「全部をそろえたい」という細かい気持ちに応えようと、商品企画の担当者に国ごとの傾向などを伝えています。マーケターとしてだけでなく、コミュニケーターとしての役割を担っていることですね。
──企画やマーケティングは憧れる学生が多い職業だと思いますが、バンダイではいろいろな人が企画に関われるということなのでしょうか。
亀井:肩書は違っても、企画や商品開発、マーケティング関連の仕事に携われるチャンスは多いと思います。入社1年目で企画をして、2年目にその商品が店頭に並んでいるということもあります。バンダイでは、ほぼ全ての職種が連携することになるぶん、どんな立場であっても企画に関われる、と言っても過言ではありません。
働き始めたら、誰でもプロとして扱われる。仕事もプライベートも本気で遊ぼう
──亀井さん自身は、仕事のために心がけていることはありますか?
亀井:一度仕事を始めたら、日常でもその仕事のプロであるとみなされるわけで、仕事とプライベートはつながっていると思っています。
例えば休日、僕は必ず子どもたちとどこかへ外出しますが全力で遊びます。そういう日常での体験や、得た情報を仕事に生かしています。自分が見たものとか、行ったところについては、必ず具現化できると思っています。
──それは面白い考え方ですね。だからこそ、体験が大切だと?
亀井:はい、体験から具体的にイメージできたらもう、それは実現できると思っています。僕が天才なら、見なくても、体験したことがなくてもできるかもしれないけれど、天才ではないからこその思考ですね。さまざまな経験が積み重なって、面白い仕事ができるようになるのだと思います。
──ありがとうございました。最後に読者に向けて最後にメッセージをお願いします。
亀井:コロナの影響もあり、エンターテインメント需要が高まり、発売を楽しみにしてくれるお客さまが増えていることを実感しています。
だからこそ、私たちの「人を楽しませる仕事」へのやりがいは増えていると思います。もし、バンダイに来てくれる人がいるなら、「世界中の人に楽しんでもらえるような、夢を作れるような商品を一緒に届けましょう」と伝えたいですね。
▼企業ページはこちら
バンダイ
©バードスタジオ/集英社・フジテレビ・東映アニメーション
©バードスタジオ/集英社・東映アニメーション
【ライター:yalesna/撮影:百瀬浩三郎】