女性がファーストキャリアを考えるとき、「結婚」「出産」といったライフプランも絡めて、業界や企業を選ぶケースが少なくありません。中にはその過程でパートナーとの結婚タイミングを想定したり、産休までの計画を立ててみたりした人もいるのではないでしょうか。
「そんな未来のこと私には関係ないから」という人も、女性支援制度や育休復職率に無意識のうちに目がいっていたなんて経験がきっと一度はあるはずです。
とはいえ、一口に「女性」といっても仕事観も家庭観もさまざま。その会社で本当に自分らしい働き方が認められるのかは、制度や数値だけでは分かりません。
今回インタビューしたのは、野村総合研究所(NRI)の経営コンサルティング部門の深尾さんと粂井さん。学生時代の理想は「エース社員」「専業主婦」と全く違いましたが、今ではお2人とも充実したキャリアを歩んでいます。
子育てを積極的に支援している企業として国が認定する「プラチナくるみん」や「なでしこ銘柄」「えるぼし」などにも選ばれているNRI。実際に在籍しているお2人は、どのような思いで日々働いているのでしょうか。
「成長角度の高い企業」で働きたい。「将来は専業主婦」から逆算した会社選択
──今日は女性のキャリアをテーマにお話をお聞きできればと思います。粂井さんは、就活の時はどのような軸で会社を見ていましたか?
粂井:学生時代は「子どもが生まれたら、専業主婦になろうかな。もしかしたら入社5〜6年目ぐらいで会社を辞めるかも」と考えていました。だから、会社員として働ける5年間くらいは成長角度が高い企業で働きたいなって。あと、転勤もしたくなかったので、この2軸で企業を選んでいました。
粂井 華子(くめい はなこ):コーポレートイノベーションコンサルティング部(CIC)事業変革グループ コンサルタント。
2017年に株式会社野村総合研究所に新卒入社。官公庁や民間企業の実行支援や組織開発を中心とした案件に取り組む。本業と並行して、コーチングセッションなど積極的に活動する。
──仕事と家庭を両立させようとはあまり考えていなかったのですね。
粂井:はい。小学生のころは母が専業主婦だったこともあり、就活を始めた大学3年生まで、漠然と「お母さんは家にいるのが、当たり前のこと」と思っていました。
──就活ではどのような企業を見ていましたか?
粂井:「最後は誰と働くかが自分にとって一番大事」とも思っていたので、インターンに参加した企業や、何度もOB・OG訪問し、多くの社員さんとお話しできた企業から決めることにしていました。このとき、コンサル業界は特に見ていませんでした。
──コンサル業界を目指していたわけではなかったんですね。NRIに興味を持ったのはなぜだったのでしょう。
粂井:きっかけは偶然知ったサマーインターンに参加したことです。そのインターンがあまりに楽しく、夢中になれて「私、もしかしたらこの会社なら、専業主婦になるより働き続けたいと思うかも」と思えたんです。
──方向性がガラッと変わりましたね。
粂井:選考で出会った学生の仲間や社員さんが魅力的だったのもありますし、最終面接で「これからの時代、何でも柔軟に楽しくやってくれそう」と面白がってくれたのをよく覚えています。
また、当時の採用担当者に言われた「コンサルタントは賢さだけじゃない、人間的な付き合いだよ」という一言も、背中を押してくれました。人付き合いが仕事になるというのは、人との関わりを大事にする私には大切なことでした。
「お母さんに楽しく働かせてくれてありがとう」 子どもにそういえる仕事に就きたかった
──深尾さんはご結婚もされて子育て中ですが、学生時代はどのような軸でキャリアを考えていましたか?
深尾:私は一生仕事がしたかったので、楽しめる仕事という観点で企業を選びました。理系院卒ということもあり、製造業の開発を目指していました。働くならその企業のエースになりたいとも考え、専門知識を持つ技術営業なら勝負できると思ったんです。
深尾 七恵(ふかお ななえ):グローバル製造業コンサルティング部 ソリューションエンジニアリンググループ 主任コンサルタント。
2012年に株式会社野村総合研究所に新卒入社。製造業界を中心としたコンサルティングを担当。学生時代は材料工学を専攻し、修士課程まで修了する。2020年4月に第二子の育休を終え復職し、2児の母と仕事との日々に奮闘中。
──コンサルに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
深尾:在学中にテレビ局で気象予報士のアルバイトをしており、天気予報の原稿を作成していました。当時よく「人は『予報は雨』という情報だけでは動かない。『傘を持って出かけてください』という行動まで言わないと意味がない」と注意されました。情報を出すだけでなく、誰かに変わってもらうのは面白いと思い、テレビ局やコンサルも考え始めました。
また、私は0を1にするよりも、1を10にする方が向いているタイプでもありました。理系出身でも研究職に就くより開発を支援するコンサルになった方が社会の役に立てるのかなと。
──自分が生き生きと仕事をできるイメージが持てたのですね。
深尾:それこそ、子育ても大変で、仕事もつらかったら地獄じゃないですか。だから仕事を楽しんでいる姿を子どもに見せないと申し訳ないなって。気持ちとしては「一緒にいられる時間が短くてごめんね、でもお母さんに楽しく働かせてくれてありがとう」という感じです。
粂井:「子育てを取るか仕事を取るか」とトレードオフに考えてしまう人も少なくないと思いますが、私も「将来の子育てを考え、業務が緩めの仕事に就く」という発想はありませんでした。仕事も子育てもやれるだけやる、という考えです。
──学生時代の理想は粂井さんが「専業主婦」、深尾さん「エース社員」と全く違うのに、仕事にやりがいを求める点は共通していますね。
プランを考えるのは家事の合間。育児で変わった「時間と頭の使い方」
──ここからは、お2人のお仕事について、教えてください。深尾さんは入社からこれまでどのような仕事に携わってきましたか?
深尾:入社から製造業中心に担当してきました。最近はデジタルトランスフォーメーション(DX)が話題となっているため、関連の案件をご相談いただくことが増えました。
──1日の働き方は、どのようなスケジュールですか?
深尾:子どもたち2人に6時に起こされるところから、私の朝は始まります。朝食や保育園の準備をして、会社に着くのは8時半ごろです。そこから社内や顧客先で稼働をし、18時半には退社します。作業日は出社せず、テレワークをすることも。19時半には子どもたちを保育園へ迎えに行き、寝かしつけるのが21時半ごろです。22時半には家事が終わり、そこから仕事をする日もあります。でもどれだけ忙しい日でも体調を崩さないように24時半には寝るようにしています。
──まさに怒涛(どとう)の1日ですね。
深尾:そうですね。子どもが生まれてから、頭と時間の使い方が変わりました。例えば、家事や移動している時間は、頭の中で仕事について考えることに当てています。会社に着いたら、すぐに資料に落とし込めるようにするためです。
朝活、コーチング、勉強会──社外の人と出会うことを後押しするカルチャー
──粂井さんは、どのようなプロジェクトに携わっていますか?
粂井:2017年に入社し、現在は業務改革のプロジェクトをしています。その企業の業務を減らすために、現場の人たちの声をたくさん聞きながら手を動かし、社長や役員に報告する仕事です。経営層と現場の声のつなぎ役になることで、「コンサルにはこんな価値もあるんだな」と再確認しました。
──人との関わりを大事にしたい粂井さんとの相性は良さそうですね。
粂井:はい、人に深く関わる実行支援は私にマッチしているなと思います。また、去年からは、組織開発やコーチングなどをテーマにした仕事もしています。経営者向けのコーチングと経営コンサルティングサービス「IDELEA(イデリア)」の中で、企業の5〜10年後を見据えた次世代経営陣やマネージャーの人材育成プログラムに関わっています。
──粂井さんの1日はどのようなイメージでしょうか?
粂井:私は毎日違うスケジュールで働いています。例えばある日は朝7時からコーチングのセッションを行っています。日中は、お客さまへのプログラムやワークショップを提供したり、組織開発のセミナーや社内外のミーティングに参加したりします。15時で帰宅する日もあれば、20時から自宅で仕事をする日もあります。時間の使い方は、自主性が尊重されます。
新型コロナウイルスの影響で在宅勤務中心になる前は、週4~5回は飲み会や社会人グループの勉強会に参加したり、その他にも英語やコーチングの学習などに時間を使ったりもしました。自己研鑽(けんさん)が趣味というわけではありませんが、新しい人との出会いの場に行くことは大事にしています。
──仕事もプライベートもアクティブですね!
粂井:NRIは社員が広く活動することを求めているため、上司やメンバーも私の活動を応援してくれています。平日にコーチングの講習会に参加することもありますが、安心して休めます。
イクメンでドヤ顔はもう古い? NRI社員は多様性に敏感なアーリーアダプター
──今回、新型コロナウイルス感染拡大の影響で働き方に影響を受けたビジネスパーソンは少なくありません。お2人の働き方はどのように変化しましたか?
粂井:出社の概念は変わりましたね。私の部署は月1〜2回のみ出社の人もいます。担当業界にもよりますが、社内・社外ミーティングもオンラインで行うようになり、対面が当たり前ではなくなりました。
深尾:私は第二子出産から職場復帰して3日目に全社的に出社禁止となったため、在宅勤務している隣の部屋で子どもが遊んでいる状況でした。
そのときはミーティングが終わった瞬間、扉を開けたら母に戻るということの切り替えができず……。「おかあさん、おしごとがんばって」と書かれた折り紙のチューリップを出されても、「うーん」と苦笑いしてしまう状況だったんです。喜ぶ母の顔と仕事の顔が交わり、あのときは精神的につらかったですね。今では、在宅と出勤のハイブリッドなど働き方の折り合いが見つかったと思っています。
──コロナの影響を抜きにしても、働きながら妊娠、出産を経験する上での懸念点はありませんでしたか?
深尾:初産のときは不安でしたが、女性のキャリアを支援するための全社的なネットワーク「NRI Women's Network(NWN)」のおかげで大分負担は軽減されました。妊娠届を提出した段階で、妊娠時における体の変化や、個別差があることなど上司が理解できるように、妊婦について説明した冊子を配り、NWNの担当者も交えた三者面談を開催してくれます。
性別によらず、ライフイベントやそれまでの経験によって理解や想像できる範囲が異なります。出産や妊娠の不安など「自分からうまく言えないこと」を上司に伝えてもらえたのはありがたかったです。その場で、出産後の復職への意識や働き方の希望なども伝えることができます。
また、NRIでは、ライフイベントにもキャリアにも前向きな女性を「フルキャリ」と定義づけ、ライフプランを大切にしながらキャリアを積める環境・支援を整えています。こういった支援もあり、楽しく働くことができているのかなと思います。
──人それぞれ違うことを当たり前にすることが、多様性につながりますよね。
粂井:NRIにはアーリーアダプターが多いので、働き方の多様性を受け入れる土壌が整っているのだと思います。
──どういうことでしょう?
粂井:とにかく世間のトレンドに敏感なんです。例えば、「イクメン」という言葉が出てきたら、あっという間に価値観が切り替わりました。保育園へのお迎えも当たり前だから、ドヤ顔している人なんていません。育休・産休を男性が取っても「どうぞどうぞ」という雰囲気です。
それから入社して驚いたのが、男女関係なく「保育園お迎え」「旅行」などカレンダーにプライベートの予定を書いていること。「この期間は連絡が取れません」、「PCを持っていかないので対応不可」と普通に書いてあります。
深尾:主張することが愛でられる文化ともいえるよね。カレンダーに予定が書いてあるから、突発の打ち合わせも「家庭の予定を動かしてでも優先することなのか?」が問われるというか。部と年次によって違うところもありますが、仕事を断る権利が社員自身にあるという表れだと思います。
結婚するか子どもを産むかも未知数。柔軟性を持って未来を待ちたい
──今後、NRIで挑戦したいことは何ですか?
深尾:今の仕事も楽しいのですが、事業開発のような仕事をしてみたいです。新しい業界やビジネスモデルにコンサルタントとしてだけでなく、事業を作る人間としても参加したい。今はB to B企業関係の仕事が多いので、B to Cビジネスも学んでいきたいです。そのために子どもたちには早くディスカッションパートナーになってほしいと思います(笑)。
──子どもは最も素直な消費者ですからね(笑)。
粂井:先頭に立って戦う人が好きなので、そんな人がいつでも才能を発揮できる場や、周囲の人が輝くような環境を作っていきたいです。NRIで良いコンサルタントをたくさん見てきたので、私は彼らと同じことをするのではなく、自分らしさを磨くことを大事にしてきました。
──「最初は何がやりたいか分からない」と入社した当時とは違い、やりたいことが明確ですね。
粂井:仕事もプライベートも、いろいろ面白そうなことに飛びついてきたことが良かったのだと思います。点を作っていたことが、のちに線としてつながるキャリアを体感しました。
だからこそ10年後の私の姿も想像できません。誰しもが新型コロナウイルスの感染拡大は予想していなかったように、世の中がどうなるかも分からないですし。特に女性のキャリアは、良くも悪くも読めないところがたくさんある気がしています。
結婚するか子どもを産むかも未知数ですし、「もしパートナーが海外転勤したら、もしかしたら私がついて行くのかな……」などと考えたらきりがありません。未来を描くことは大事だけど、こうだと決めつけるのではなく、柔軟性を持っておきたいです。
女性はあくまでもカテゴリーの1つ。大切なのは性別ではなく、あなたがどう働きたいか
──就活サイトを見ていると「女性が働きやすい会社」とアピールしている企業をよく見かけます。学生からすると「どこか本当に働きやすいのか」と迷う人もいるかもしれませんが、何を基準に判断すればいいでしょうか。
深尾:自分の働き方を交渉できるかだと思います。完璧に働きやすい環境を用意している会社はないので、自分がやりたいことを伝えたときに受け入れてくれる会社であれば、自分で働き方を変えていけます。こちらが権利を主張しても、正当な仕事をしていれば、その要求をのんでくれる柔軟な会社であることのほうが大切です。
──「女性を特別扱いしない」という社風を働きやすさに挙げる企業もありますが、お2人はどう思いますか。
深尾:女性であることも、カテゴリーの1つだと思っています。カテゴリーの分け方は男女もあれば、理系か文系かもあるし、ソリューションや業界を切り口にした方法もあります。女性ということがその人を形容する1つであることには間違いありませんが、でもそれ以上の軸が私たちにはあります。だから男女を区別しないことを求めるのは、ちょっと違うような気がしていて。
粂井:性別も1つのカテゴリーという考え、すごくしっくりきました。NRIは自由な労働環境なので、性別よりも自分で行動を決められる積極性があるかが大事だと思います。
深尾:NRIの女性は、性格やライフステージなどに違いがあっても、「自分はどうしたいか」をしっかり主張できる人たちが多いよね。だから女性というところを生かすこともあれば、違ったカテゴリーで戦うこともできる。自身の所属するカテゴリーを生かしながら働いていると思います。
──最後に、この記事を読んでくれた就活生にメッセージをお願いします。
粂井:正直、会社に入らないと分からないことが9割です。そして、どこの会社に入っても最初は大変なことが多いでしょうから、納得して入るのがすごく大事です。インターンやOG・OB訪問などを活用して「人に会い切った」と思える就活をしてほしいです。キャリアはその後どうにでも柔軟に描けると思います。
深尾:本当に自分がその会社でいいと思うかどうかは、最後は必ず自分に聞いてあげてください。私もメーカーとNRIで迷ったときに、最後は「丸の内OLが良い」というミーハーな自分の声を聞くことにしました(笑)。周囲にかっこつけ過ぎず、自分のために就職先を選んでほしいです。
周囲はいろいろなアドバイスを言いますが、その会社に行くのはあなたということを忘れないでください。自分の毎日を考え、大事なことの優先順位を決め、入社先を決めてほしいと思います。
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野村総合研究所(NRI)
【ライター:スギモトアイ/撮影:赤司聡】