10月2日。就活生にとって待ち望んだ瞬間でもある内定式の日に、広告業界に衝撃が走りました。
「米ベイン、広告3位ADKを買収 TOB実施」
日本経済新聞電子版の速報で流れたこのニュースに、「えっ」と声が漏れた人も多いかもしれません。
簡単にいうと「業界3位で就活生にも人気の広告代理店「ADK(アサツー ディ・ケイ)」が、米投資ファンドのベインキャピタルに約1500億円で買収され、上場廃止になる」ということです。
しかし、この情報だけではよくわかりませんよね。
まず、どうしてこんなことになったの? このベインキャピタルって何者? TOBって何のこと?
みなさんのそんな湧き上がる疑問にお答えすべく、今回の電撃ADK買収劇をザックリ解説します。
なんでADKは「身売り」したの?
結論から言うと「前に提携してたところと合わなかったから、仕切り直しをするため」です。
ADKは約20年間、世界最大の広告グループWPPと提携していました。しかし欧米と日本における広告業界のモデルや商慣習の違いから、思うようなシナジーを生み出せませんでした。具体的にADKはWPPについて「ビジネススタイルや考え方の違いがあり、両社にとって利益のある形を作れなかった」「中長期的な経営戦略について考え方の違いが顕在化していた」と語っています。
そこでADKが新たなパートナーに選んだのが、投資ファンドの巨人「ベインキャピタル」。実はこの会社、いま日本でかなり勢いがある会社です。
ベインキャピタルとは?
ベインキャピタルは、ボストンに本社を置く世界的な投資ファンドです。外資コンサルのベイン・アンド・カンパニーのシニアパートナーによって1984年に設立されたファンドですが、今は法的関係・資本関係は存在しないので完全に別会社です。
投資ファンドの中でも非常に大きく、同社のホームページによると現在の運用額は全世界で750億ドル(約8兆4,000億円)に達します。
日本では2006年にオフィスを開設し、主に外食・消費者向けサービスの分野の企業再生・支援で評判を高めました。学生になじみのあるところとしては、ファミリーレストランのすかいらーくや大江戸温泉物語グループの再建に関わってきました。最近では、東芝が半導体事業の売却先に選んだ「日米韓連合」をベインキャピタルが束ね、2兆円もの売却案件をまとめたということで一層名声を高めました。ちなみに日本法人代表の杉本勇次氏は三菱商事の出身です。
そんなベインをパートナーとした理由について、ADKは「日本で長期の投資やコンサルティングの実績があり、広告やマーケティングにも知見がある。数年かけて話をする中で、当社の戦略を理解してもらえるパートナーだと判断した」と語っています。似たようなケースでは、マーケティング調査大手のマクロミルは2014年にベイン傘下に入って経営改革を進め、2017年に再上場を果たしました。
この時のマクロミルも、いったん上場を廃止しています。その理由はM&Aや新規事業の立ち上げなどコストが先行する取り組みを進めるには、上場廃止により短期的な業績変動に左右されない体制づくりが必要だからです。つまり「より高くジャンプするためにいったんしゃがむ」ということですね。
プライベート・エクイティ・ファンドって何?
ベインキャピタルは投資ファンドの中でも「プライベート・エクイティ・ファンド」という形態です。
プライベート・エクイティ・ファンドの仕組みはこんな感じです。
まず投資家から資金を集めて、企業の株式や特定分野の事業を取得
→社内外のプロフェッショナルな人材を傘下に収めた企業に送り込み、経営に深く関与
→バリバリ再生させ、企業価値を高める
→外部へ売却
→高額の利益Get!
要するに「買ったところをめっちゃ成長させて売って、その差額で儲ける」ビジネスです。
TOBって何?
ベインキャピタルはADKの株式をTOBで取得し、買収を完了させる予定です。
はい、出てきました。TOBという謎のアルファベット。横文字アレルギーの筆者にとっては蕁麻疹が出そうですが、この単語は就活生だったら知っておいて損はありません。
TOBとは「株式公開買付」のことです。
・目的の銘柄の 「株式」 を取得するために、
・その買付内容を 「公開(宣言)」 し、
・取引所を通さずに不特定多数の株主から 「買い付ける」。
この行為をTOB(株式公開買付)と言います。
要するに、株主に対して「○○円で株買うから、持ってる人ゆずって~」ということです。もちろん、オイシイ取引じゃないと株主はそうそう売らないのが市場の原理。なので、TOBで発表される株価は市場株価より、プレミアム価格を数割上乗せした株価で発表されます。そうすると市場で売らずにTOBで宣言した相手に売った方が得になるので、TOBがスムーズに進むということです。
緊急企画「ADK買収解説」、いかがでしたでしょうか。
実はまだまだ情報が錯綜しており、TOBの期限まで何が起こるかわかりません。ADKは買収されるのか、それとも買収は失敗に終わるのか。どちらにしても、広告業界志望者は目が離せません。
Presented by POTETO / Writer Kensho KUREMOTO