「滑舌を良くしたい」「『え? 何て言ったの?』から卒業したい」
声に悩める方々へ、現役声優が実体験に基づいて「『いい声』のつくり方」をお伝えします。
ワンキャリアをご愛読の皆さん、こんにちは。
声優として活動しております、藤東知夏(ふじとう ちか)と申します。
だんだんと暑さが増してきましたが、元気にお過ごしでしょうか?
以前「【現役声優が解説】『緊張で声が出ない』『滑舌に自信なし』 そんなアナタに贈る、就活でも使える『いい声』のつくり方」という記事を書きました。
たくさんの方に読んでいただき、「私も実践してみます」などのうれしいコメントもいただきました。本当にありがとうございます!
さて、今回は「『いい声』のつくり方」シリーズ第2弾として「発音と滑舌(かつぜつ)」に重点を置いて、解説していこうと思います。就職活動の面接を控えた学生さんや、「もっと自分の声を磨きたい」という皆さんのお役に立てば幸いです。
それではさっそく、「『いい声』のつくり方」スタート!!
<目次>
●発音と滑舌のキホン──滑舌って業界用語って知ってました?
●図で解説! いい声と発音は「口の形と舌の位置」が全て
●手軽に「セルフ滑舌チェック」 滑舌が悪化する5つの要素とは
●Stay Homeでも滑舌練習、早口言葉よりもまずは「舌のトレーニング」から!
発音と滑舌のキホン──滑舌って業界用語って知ってました?
「滑舌って、結局何なんですか?」
そう聞かれた際、何となくは知っていても、いざ説明するとなるとやりにくい……私たち声優でも悩むことも。
そこで、まずは発音とは? 滑舌とはなんぞや? という定義から解説していきます。
発音とは、言語を音声で発することを指します。
……うん、これだけだといまいちよく分かりませんよね(笑)。
例えばですが、中学校の英語の授業などで発音を習うとき、「『R』は舌を巻くように発音する」「『V』は軽く下唇を噛(か)むように」など、口の形や、舌の位置を先生に教えられたことはありませんか?
英語同様、日本語(五十音)の発音ももちろん、口の形や舌の位置が決まっているのです。
一方の滑舌とは、もともとはアナウンサーや俳優など、声を使う職業の業界用語で、口の動きを滑らかにするために行う、発音の練習のことを指します。
そこから、「発音や発声がはっきりとしていて、滑らかな話し方」という意味に転じ、今では「滑舌が良い/悪い」といった、発音や発声に対しての評価として使われるようになりました。
図解で説明! いい声と発音は「口の形と舌の位置」が全て
定義の説明が終わったところで、いよいよ本格的な解説です。
発音の良し悪しは、「口の形と舌の位置」で決まります。まずはこちらをご覧ください。
こちらは日本語の母音「あ・い・う・え・お」の正しい口の開きと舌の位置を図解にしたものです。縦軸は、口の開きを、横軸は舌の前後の位置を表しています。色味はそれぞれ口の形を分類しています。
図にすると分かりやすいですが、口の形も舌の位置も、母音5つを発音するだけで、こんなにも目まぐるしく変わっているのです。
余談ですが、日本語の母音は5つであるのに対し、中国語は6つ、英語は16個(細かく分類すると26個)あるといわれています。
子音はさらに細かく分類されており、舌の位置だけではなく、歯や口蓋(こうがい)(口の上側の部分)についての動きも決められています。全てを紹介すると長すぎるので(!)、分かりやすい3種類をご紹介しましょう。
われわれはしゃべるときに何気なくやっていることですが、口の中ではこのようなことが繰り広げられています。
もし「自分は、サ行が苦手だ」「英語の発音がうまくいかない」と悩んでいる方は、口の中の形や、どこで発音をしているのかを分析して、滑舌練習をすると効果が上がるかもしれません。
その際には、先ほどの表にあった「発音記号」を使って調べるとスムーズに進むでしょう。これは、あらゆる言語の発音を表記するために使われる人工的な記号です。なじみがないものだと思いますが、ご興味がある方はぜひ調べてみてください。
手軽に「セルフ滑舌チェック」 滑舌が悪化する5つの要素とは
ここまでの話で分かる通り、良い滑舌には正しい発音が欠かせません。
しかし、一音一音が正しければ万事解決……というわけでもありません。面接で自己PRをするときなどは、文章、つまり言葉を1つのフレーズとして話す必要がありますよね。
ここでは発音での問題以外に、滑舌が悪くなる理由を探っていきます。基本的には以下の5つに大別でき、それぞれに対策があります。
▼滑舌が悪くなる5つの要素
1. 口を大きく開きすぎている、または小さい
2. 姿勢が悪い
3. 普段、口呼吸をしている
4. 舌の筋肉が緩んでいる
5. 早口になっている
1. 口を大きく開きすぎている、または小さい
一般的に、発音を良くするためには口を大きく開けるのがいいとされていますが、「大きく」がどの程度か分かりにくいため、めいっぱい開けてしまう方もいます。
実際にやってみると「めっちゃしゃべりづらい……」と感じるはず。口を開きすぎると、あごに余計な力が入り、口の中を滑らかに動かせなくなります。
とはいえ、逆に口の開き具合が小さすぎても、口の中の形が変わりづらく、発音が不明瞭になるので良い滑舌とは言えません。声量も出にくいです。
結局「適切な口の大きさってどれくらい?」という話になるのですが、これは人によってさまざまであり、一概にこれがいいとは言えません。ご自身でいろいろと探っていただくのが一番いいかなと考えています。
参考までに、私は明るいキャラクターなどを演じるときは、普段自分がしゃべっているときの口の大きさよりも一回りは大きくしています。また、口角も上げ、明るい音の響きを出しています。口の形を変えるだけで、それだけ声が変わるのです。
2. 姿勢が悪い
前回の記事でも、姿勢と腹式呼吸についてお話ししましたが、滑舌を良くする上でもこれらはとても大切です。
姿勢が悪い、例えばうつむいたまま口を開けようとしても、開きにくいはず。他にも首や肩に力が入っていると、舌にも力が入ってしまい滑らかに話せません。体の力を抜き、自然体の良い姿勢で話すのがいいでしょう。
3. 普段、口呼吸をしている
人の呼吸には「鼻呼吸」と「口呼吸」の2種類があります。
口呼吸とは、その名の通り、口から息を吸う呼吸ですが、口を常に開けているため、舌が緩んでしまうといわれています。そのため、舌の筋肉が衰えてしまい、思うようにコントロールができず滑舌が悪くなります。
滑舌以外にも、口呼吸は常に口が開いているため口の中が乾きやすく、唾液の量が減って虫歯になりやすかったり、口臭の原因になったりすることもあります。
呼吸法なんて意識したことがなかった! という方は、この機会にぜひ鼻呼吸をするよう意識してみてください。
4.舌の筋肉が緩んでいる
口呼吸の部分でも触れた通り、舌の筋肉が衰えると滑舌は悪くなります。筋肉が衰えているかどうか、簡単に調べる方法があるのでご紹介します。
「自然に口を閉じたとき、あなたの舌の位置はどのあたりにありますか?」
下の歯の裏にくっついている、上の歯と下の歯の間にある……そんな方は「低位舌(ていいぜつ)」の可能性があります。口を閉じたとき、上あごの前歯の少し後ろ(スポットと呼ばれるポコッとしたふくらみ部分)に舌がくっついているのが理想的な状態です。
舌はほぼ筋肉でできており、200g程度の重さがあるといわれています。筋肉が衰えると重さに耐えきれず、喉の奥に舌が垂れ下がった状態になります。これが低位舌です。
低位舌は、滑舌が悪くなるだけではなく、睡眠時無呼吸症候群や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を引き起こす可能性もあるため、鼻呼吸を心がけ、以下のような舌のトレーニングで筋肉を鍛えることをおすすめします。
【舌の上げ下げ運動】
・天井を見るように、顔を上に向け、あごを上に突き出す
・舌を出し、鼻につけるように引き上げる
・舌を出し、あごにつけるように引き下げる
・舌の引き上げ・引き下げを5回ずつ続ける
【あいうべ体操】
・「あー」と口を大きく開く
・「いー」と口を大きく横に広げる
・「うー」と口を強く前に突き出す
・「ベー」と舌を突き出して下に伸ばす
上記4つを1セットとし、1日30セットを目安に毎日続ける※出典:みらいクリニック「あいうべ体操」
5. 早口になっている
緊張や呼吸の浅さから、早口になってしまっていると、滑舌は悪くなりがちです。
上述の通り、発音は一つ一つ口の形や舌の位置が変化します。早くしゃべろうとすると、次から次へと口の形は急いで変化を繰り返します。そうすると、早さに口がついていかず、コントロールを失って言葉を噛んだり、正しい位置で発音ができなくなってしまったりすることがあります。
また、滑舌とは少し違いますが、誰かと会話をする際、相手は耳で聞いた言葉を頭の中で情報処理をして意味を理解します。そのため、しゃべるスピードが早すぎると、情報処理が追いつかず、結果、相手に伝わりづらくなってしまいます。
私自身も、朗読などをするとき、お客さんに物語の情景をしっかりと思い浮かべていただくために、普段のセリフ読みよりもゆったり話すことが多いです(もちろん、緊迫したシーンやリズミカルな会話を求められる場合は、多少テンポよく話すときもありますが)。
面接で面接官に志望動機などを話す際、早口すぎると情報や情景が共有できず、伝わりづらくなる可能性があります。緊張で早口になる方は、いつもよりゆっくりと話すように心がけてみてください。呼吸が浅い方は、一度深く深呼吸をすることでリラックスするとともに、ぜひ腹式呼吸での発声を思い出してください。
Stay Homeでも滑舌練習、早口言葉よりもまずは「舌のトレーニング」から!
ここまで、発音と滑舌について、簡単に解説してきました。
滑舌を良くする練習というと、いわゆる早口言葉や「外郎売(ういろううり)」をとにかくたくさんやろう! となりがちですが、そもそもの正しい発音を知らず、舌の筋肉トレーニングをしていなければ、それほど効果が上がらない可能性が高いです。まずはそこから見直してみてください。
正しい発音ができているかどうかは、自分では気付けない場合も少なくありません。かく言う私も、とある演技のワークショップで「日本語の『す(su)』の発音が、中国語の『す(si)』っぽい」と指摘を受けたことがあります。
自分ではまったく気付けなかったので、録音して自分の「す」を聞きまくったり、ご指摘いただいた講師の方に詳しく伺ったりして修正しました(多分、直ったはず……!)。
録音をして自分で聞いてみることはもちろんですが、ご家族やお友達など、周りの方にも聞いてもらって、気になった発音を指摘してもらうこともいい方法かもしれません。
ちなみに、先ほど紹介した舌の筋肉トレーニングは、小顔効果やアンチエイジングも期待できます。毎日続けて、いい声とともにシュッとした顔も手に入れちゃいましょう。
私たちは日常で何気なく会話をしたり、声を発したりしていますが、実は口や舌の筋肉は相当頑張っています。ぜひ気にかけてあげてくださいね。
それでは、健康には気をつけて就活を頑張ってください!
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(Photo:BrAt82 , fotobook , arigato , TierneyMJ , TZIDO SUN/Shutterstock.com)
※こちらは2020年7月に公開された記事の再掲です。