東大生のベンチャー企業への関心度が高まっているという。
以下のONE CAREERの記事では、東大・京大生の約2割が真剣にベンチャー企業への就職を検討しているというデータを示している。
・【6/1速報:東大京大・21卒就職ランキング】マッキンゼーを抜いた1位の企業の意味/人気ベンチャー新御三家 など
確かに、5~6年ほど前は人気ベンチャー御三家としてグリー、DeNA、サイバーエージェントが注目されていた。
しかし、驚くべきことに直近の東大・京大で最も支持されているベンチャー企業(新御三家)は、ビズリーチ、フリークアウト、Speee。この3社だという。
「旧」御三家は既に上場しているし、売上や利益、時価総額など、当時でも伝統的な大企業に劣らない規模感だった。また、一部の特殊な専門性を有する新卒に「初任給1000万円」を提示するなど、給与水準も大企業に引けを取らないものだった。
他方、新御三家については、未上場(ビズリーチ、Speee)か、上場していても時価総額は200億円に満たない(フリークアウト、2020年3月3日現在)。給与水準も銀行や商社、コンサルといった、東大・京大生の多くが就職する業界と比べると競争力はないだろうし、知名度もそんなに高くないはずだ。
それなのに、彼らはなぜこうしたベンチャー企業に注目するようになったのか。
個人的に考えている理由は3つ。数億、数十億といった巨額のイグジットを達成する若手起業家が増えてきたこと、官僚や弁護士の人気が下がったこと、そして、若いうちから経営に関与したり、裁量の大きな仕事ができたりといった、成長環境に期待する傾向があることだ。
<目次>
●ベンチャー企業の「経営者」になりたいのか、「社員」になりたいのか
●資産もステータスも裁量も。ベンチャーの経営者と社員では、立場が全く異なる
●「ベンチャー企業 VS. 大企業」の誤解 大企業の方がいいのは当たり前
●転職における市場価値も「大企業」の方が有利?
●それでも、新卒でベンチャー企業に就職する価値がある3つのケース
・(1)将来、起業や独立をする意図が明確な場合
・(2)入社時点で相応のストックオプションを付与される場合
・(3)年収やステータスにこだわりがなく、とにかく自分の好きなようにやりたい場合
ベンチャー企業の「経営者」になりたいのか、「社員」になりたいのか
若くして大金を手にできる可能性があり、自らの裁量で自由に働ける──と聞くと、ベンチャー企業が魅力的に映るところはあるだろう。
しかし、ベンチャー企業に飛びつく前によく考えてほしいことがある。それは、自ら起業して「経営者」になりたいのか、それとも、他人が作ったベンチャー企業に「社員」として就職したいのかということだ。
書籍『金持ち父さん 貧乏父さん』などで既に知られている話であるが、起業すれば、規模は小さいながら、形の上では「資本家」階級だ。確率が低くても当たればデカい「ハイリスク・ハイリターン」のポジションに就ける。
他方、他人が作ったベンチャー企業に社員として入社するだけだと、しょせんはサラリーマン。「労働者」階級だ。大企業のサラリーマンになるのと何ら変わりはない。
さらに経営が安定していないようなベンチャーならば、「ハイリスク・ローリターン」という、不利なポジションになってしまわないだろうか? 両者の差は、皆さんが思っているよりも非常に大きいのだ。
資産もステータスも裁量も。ベンチャーの経営者と社員では、立場が全く異なる
まずは「ストックオプション(※)」の問題だ。ベンチャー経営者にとって最大の資産は株だが、CxOクラスですら、ストックオプションは数パーセントしか持たせてもらえないのが一般的だ。部長クラスともなれば0.5%前後だろう。
新入社員の場合だと、形だけごくわずかに付与してもらえるか、ゼロの場合もある。これではイグジットできたとしても、金銭的な恩恵を受けることができない。
ステータスの面でも、経営者(取締役)と単なる社員とでは格段の差がある。経営者であれば、他の経営者とか投資家などと交流する機会が多いだろうが、社員であれば同じようにはいかないはずだ。
さらに、仕事の内容を自由に決められるのは経営者であって、従業員ではない。ベンチャー企業に行くと、たとえ新入社員であっても、裁量を持って面白い仕事ができると考えるのは早計だ。
ベンチャー企業というのは、ある意味ワンマン企業であるので、何をやるか、それを誰にやらせるかを決めるのは経営者、あるいは外部株主である。朝令暮改は日常茶飯事だし、当初意図した事業がもうかりそうになければ、どんなに情熱があってもピボットするほかない。
(※)……株式会社の従業員や取締役が、自社株を定額で取得できる権利。上場を目指すベンチャー企業がインセンティブとして社員に配ることがある
「ベンチャー企業 VS. 大企業」の誤解 大企業の方がいいのは当たり前
先ほど、ベンチャー企業に社員として入る場合、大企業のサラリーマンになるのと変わらないと書いた。
ベンチャー企業の人気が出てきたこともあり、最近ではさまざまなメディアが「ベンチャーと大企業、どちらに就職するのが良いか」という議論を取り上げている。
しかし、これはフェアな比較ではない。
大企業のサラリーマンとベンチャー企業の経営者を比べるなら、「ミドルリスク・ミドルリターン」と「ハイリスク・ハイリターン」の比較になるので、議論の対象になり得るだろう。
ところが、大企業とベンチャー企業、サラリーマン同士の比較ならば、「ミドルリスク・ミドルリターン」と「ハイリスク・ローリターン」を比べることになる。これならば、大企業の方が良いのは明らかだ。
例えば、給料などの経済面においては、大企業の方が明らかに恵まれている。特に、日系大企業の場合、退職金や企業年金、福利厚生が充実しているところが多い。これらを考慮して、長期的な視点で比べれば、なおさら差は広がるだろう。
転職における市場価値も「大企業」の方が有利?
また、重要だが見落としやすいポイントとして「転職時における市場価値」という観点がある。これまた、ベンチャーが有利というわけではない。
中途採用の場合、現時点での職種、役職、経験年数などで市場価値は決まる。その際には、会社名と現在の年収水準が参照される。このため、似たような仕事をしていたとしても、ネームバリューや給与水準が高い大企業の方が評価されることも少なくないのだ。
ベンチャーに行ったならば、歩合的な給与体系で年収を増やしたり、昇格してタイトルを上げたりしなければ、評価はされにくい。また、裁量の大きさや業務範囲の広さをアピールしても、それが市場価値につながるとも限らない。この点は心に留めておこう。
さらに、ベンチャー企業でこそ得られる「失敗経験」はほとんど評価されない上、下手をするとマイナス評価にもなりかねない。
好況期には、証券会社からベンチャー企業に転職する人はそこそこいるが、そこで失敗した場合、結局、条件(企業名や役職、年収)を落として、同じ証券業界に戻ってくるパターンが多い。
「よくぞ、リスクを取ってベンチャーで挑戦した。ウチは挑戦する人材を評価する」などと言って、良いポジションを用意してくれる企業などないのである。
そもそも、どうしてもベンチャーに行きたければ、新卒でなくとも中途でいつでも行ける。他方、いったん新卒でベンチャーに入ると、大きく成功しない限りは、途中で大企業に転職するというのは難しい。従って「迷うならば大企業に行け」という結論になるのだ。
それでも、新卒でベンチャー企業に就職する価値がある3つのケース
ここまで長々と「ベンチャー企業を選ぶ道は甘くない」と述べてきたが、以下のように、新卒でベンチャー企業に就職した方がいいケースもある。
(1)将来、起業や独立をする意図が明確な場合
将来的に必ず起業(独立)するが、経験を積むべく、勉強目的でベンチャー企業に就職する。それならば、大企業では得られないメリットを享受できるだろう。
ベンチャー企業に行けば、大企業と比べて、嫌でも幅広い業務を担当しなければならないし、自分が責任者として意思決定をする機会は多くなるはずだ。営業活動も自分で決めるつもりで外交しなければならないし、クレームも自分の段階で何とか食い止めることが求められる。
そして、経営者に近い立場で働けるため、将来フリーランスとして独立したり、起業を考える上では良いトレーニングになる。
もっとも、単なる便利屋として使われるだけで終わる可能性もあるし、周りに大企業のような高度な専門性を有する仲間がいるとは限らないため、大した専門性やスキルを習得できないこともある。この点は要注意だ。
(2)入社時点で相応のストックオプションを付与される場合
先ほど、単なる新卒社員でベンチャー企業に入社をしたとしても、ストックオプションは期待できないと書いた。
しかし、高度なプログラミングスキルがある、学生時代からWebなどで稼いでおり、Webコンサルティング回りのスキルを有する、あるいは、学生時代からベンチャーで働いて、既に実績を出していた、といった人ならば、例外的にストックオプションが付与されることがあるかもしれない。
人材不足が叫ばれる中、ベンチャー企業が真に優秀な社員を採ろうと思えば、これぐらいのことをやらないと人は集まらないはず。今後、このパターンが増える可能性はあるだろう。
(3)年収やステータスにこだわりがなく、とにかく自分の好きなようにやりたい場合
「起業で一発当てて若くして億万長者になりたい」「ステータスの高い会社に所属して尊敬されたい」といった欲望がなく、自分のペースで働きたいという価値観の人はいるだろう。
サラリーマンのように人から指示されることは嫌で、自由に働きたい。とはいえ、いきなりフリーランスで独立する方法も分からないので、将来独立できるためにいったん就職する。
そう考えるならば、Webコンサルなど、将来フリーランスとして独立しやすいスキルや人脈が得られるベンチャー企業に就職するのも一つの手だろう。
*
ベンチャーやスタートアップ企業というのは、内情や実態が見えづらく、それ故に過度な期待を抱いてしまうこともあるかもしれない。しかし、ここまで述べてきたように、自らベンチャーを起業することと、そこに新卒として就職することは全く異なる。
もちろん、ベンチャー企業には大きな魅力もあるのは確かだ。ならば、まずは自らが起業することを考えるべきではないか。できないとすれば、なぜできないのか、それは能力や経験の問題なのか。それとも自信がないのか、面倒なのか、リスクが怖いのか……。
自らが起業できない場合でも、経営者としてではなく「労働者」という立場でも、ベンチャー企業に就職したいのか。このあたりを慎重に考えていけば、自ずと道は見えてくるだろう。
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