「MARCHから総合商社に内定」については、あちこちのwebメディアで取り上げられている。それらを読んでみると、「◯◯人にOB・OG訪問」「◯社のインターンに参加」といった、回数勝負的な方法ばかりが強調されている気がする。それらの方法を否定するつもりはないし、1つの手段として有用だと思うが、情報をうのみにしてスタンプラリー的に訪問を繰り返していてもそううまくはいかないだろう。
私の周りには商社で働く大学の同期や後輩が多く、商社について情報収集する機会には恵まれている。今回は彼らから仕入れた話をもとに、MARCH、関関同立からの総合商社内定法について検討したい。
<目次>
●内定者データで読み解く総合商社:大学ごと採用枠が決まっている?
●MARCH・関関同立から商社内定を目指す3つの方法
・(1)ガクチカはブルーオーシャンを狙え
・(2)採用サイトだけでなくIR情報を見よ
・(3)英会話ができなくても、TOEICの点数があればよし
●無い内定を回避! 商社を目指すなら他の企業からも内定を取っておこう
内定者データで読み解く総合商社:大学ごと採用枠が決まっている?
2018年のデータでは、大学別の総合商社内定者数は以下のようになっていた。
総合商社の中には業界内順位に比例する「入社難易度」がある。普通に考えれば、上位の商社ほど東大・京大・早慶などのトップ大学の学生が多く、MARCH・関関同立からの内定は難しくなるはずだ。
しかしこの表を見る限り、必ずしもそうではないことが分かる。例えば、明治大学からの7大商社内定者は各社1〜3人に収まっており、入社難易度に応じて内定者数に優位な差があるわけではない。この事実から、商社各社には数人の「MARCH・関関同立入社枠」があるのではないか、という仮説を立てられる。
この説が正しければ、自分の大学から商社を受ける学生の中でトップ10人以内に入れれば、内定できるということになる。したがって、「三菱商事は東大のトップ学生ばかりなので、MARCH・関関同立から目指すことは難しい」という理屈は正確ではない。確かに内定できる人数は少ないが、東大の外銀・外コン内定を持つ猛者と戦う必要はないのだから、諦めずに商社を目指す意義はあると言えるだろう。
(他方、東大・京大がほとんどいない商社なら競争率が低いので入りやすい、とも言えない)
また、商社内定を目指すことには、商社に受かること以外にも大きな意義がある。
商社が求める人材は、王道のグローバル人材である。少子高齢化による国内市場の縮小は全業界共通なので、商社が求める人材は他の人気企業でも求められる。したがって、仮に商社に内定できなかったとしても、商社対策によって相応のスペック・スキルを習得していれば、他の人気企業の内定を取れる可能性は大いに高まるはずだ。
大学内のトップ層に入れれば内定のチャンスはあるわけだし、商社対策は他の優良企業の就活にも生きる。こうなると、難易度が高くても商社に挑戦する意義はあるといえよう。
MARCH・関関同立から商社内定を目指す3つの方法
商社を目指す学生は、ワンキャリアで内定者のエントリーシート(ES)を見ただけで安心してはいけない。ESの書き方、グループディスカッション(GD)、インターン対策などのテクニックも重要だが、その前に基本的なステータスを高めることが大切なのだ。
(1)ガクチカはブルーオーシャンを狙え
ここで強調したいのは、他の学生とは一味違った学生になることだ。自分の大学の中で倍率何十倍という勝負を勝ち抜くには、相当なインパクトがないと難しいだろう。そのためには、他の学生との違いを作ることが有効だ。ゼミ長、サークル副代表、家庭教師といったありふれた話では差別化は厳しいといえよう。
では、何をすればいいかというと、一番おすすめしたいのが自ら起業してみることだ。
総合商社に限らないが、時代の変化に伴って企業は既存の財やサービスだけで収益を上げることは難しくなっている。そのため、新規事業を創造する素質がある学生は非常に高く評価されるはずだ。
起業といってもそれほど高度なものが要求されるわけではない。他の学生と一緒に家庭教師派遣会社を作ったとか、ブログを作ってアフィリエイトで月に数万円稼げるようになったとかでも、起業のうちに入るだろう。その程度の事業でもやっている学生は少ないので、十分に新規性はある。特に、商社にはネットビジネスに強い人はそれほど多くないし、長らく副業も禁止されてきた訳だから、ネットビジネスで成果を出せれば刺さりやすいと考えられる。
また、事業創造にはビジネスセンスだけではなく、周りの人を巻き込んでいくリーダーシップも欠かせない。1人でブログを書くのにとどまらず、ブログを他の学生と一緒に運営したり、ライターへの外注を行ったりすれば、他人を巻き込んで事業を拡大するスキルも身につくだろう。
逆に、「海外でヒッチハイク旅行をした」「家庭教師で生徒の成績が伸びた」などの周りの人を巻き込んでいないエピソードではそれほど評価されないと考えられる。たとえ「100人規模のサークルの代表で皆を引っ張った」でも、出来上がった組織を引き継いだだけで何も創造していなければ面接でアピールしにくい。何より、これらのエピソードはありふれているので、面接官の記憶に残らない。各校のトップ層に入るのだという志があれば、こういったガクチカでは不十分なことは明らかだ。
(2)採用サイトだけでなくIR情報を見よ
総合商社の面接では、どの部門をやりたいか、なぜ当社でやりたいかといった定番の質問をクリアする必要がある。したがって、総合商社それぞれの特性を踏まえた上で面接に臨まねばならない。何も調べないで、安易に「伊藤忠で資源・エネルギーをやりたい」などと言うと、「なんで三井物産じゃないの?」と突っ込まれ、落選につながりかねない。
総合商社は、もうかる可能性があるあらゆるビジネスを展開するというモデルなので、情報収集・分析能力というのは不可欠な素養だ。自分が受ける商社の強みや特徴を知っておくのは有利にはたらくだろう。少なくとも、事業ポートフォリオ、中期経営計画、大型買収案件、企業理念あたりは理解しておきたい。個人投資家向けのIR情報は分かりやすいので、各社のIRにはくまなく目を通しておこう。
(3)英会話ができなくても、TOEICの点数があればよし
英語ができなければ門前払いされるようなことはないが、商社がグローバルに事業を展開する以上、英語力があるに越したことはないだろう。最良なのはコミュニケーションをとれることだが、英語面接があるわけではないので、実践的な会話力までは不要だ。経歴としてアピールするならば、TOEICのスコアを取っておけばとりあえずOKで、最低でも800点は取っておけば十分「英語ができる」と胸を張って言えるだろう。
MARCH・関関同立生は、大学受験で英語を頑張ってきているので素養はあるはず。早いうちから計画的に勉強して、TOEICスコアを取っておこう。
無い内定を回避! 商社を目指すなら他の企業からも内定を取っておこう
商社内定は簡単なことではないので、商社しか受けないというのは「無い内定」になるリスクを高めてしまう。東大生でも、外銀・MBB・総合商社(しかもトップ3社)のみを回って、全滅するというのは珍しくない。MARCH・関関同立の学生に限らないことだが、もう少し内定を取りやすい業界を見ておくことは非常に大事だ。
さらに、他社の内定を取っておくことは、商社の選考でも有利にはたらく。
その理由としては、第一に、他社の内定を取っておくと心理的に余裕が生まれ、本命の商社の面接で実力を発揮しやすいからである。反対に、内定ゼロで臨むとプレッシャーが半端ではなく、落ち着いて対応できないこともある。専門商社、それほどメジャーではないメーカー、ベンチャー企業など、内定を取りやすいところから徐々にランクを上げていけばいいのだ。
第二の理由としては、他の業界を知ることにより、商社の面接でより深いビジネスの話をできるからである。例えば、商社でプラント事業をやる場合、プラントエンジニアリング会社、銀行、損害保険会社などと一緒に仕事をする。商社の顧客やパートナーの業務を熟知しておけば、商社のビジネスを深く理解できるだろう。これは商社社員にだけOB・OG訪問した学生とは差別化できるポイントだ。
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このように、MARCH・関関同立から本気で商社内定を目指すなら、いろいろ準備が大変である。そうなると、準備は早ければ早いほどいい。極論、大学入学と同時に対策をスタートする、あるいは高校の時から始めてもいいかもしれない。「学生の本分は学業だ」などといった冷ややかな声を浴びせられることもあるかもしれないが、そういった外野の声はあなたには関係ないことだ。
皆さんが努力の末に商社の内定を勝ち取れることを願っている。
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※こちらは2020年2月に公開された記事の再掲です。
(Photo:Benny Marty , Olivier Le Moal , KieferPix , Olga Danylenko, logoboom , l i g h t p o e t/Shutterstock.com)