こんにちは、ワンキャリアの多田薫平です。
ワンキャリアに1人目の新卒として入社し、今は事業企画や採用コンサルティング、キャリアアドバイザーなどをやっています。曲がりなりにも4年間、1年に1,000人以上の就職活動生と会って相談に乗り、さまざまな「悩み」を聞く生活を続けてきました。
特集「就活の羅針盤」は、今まで聞いてきた就活生の悩みを元に始まりました。悩んだところで絶対に答えが出ないことを考えていたり、本当に考えるべきは別の問題だったりする。そうならないための思考法を提示しています。
最後となる第5回は、自己分析がテーマです。就活生の悩みを複雑にしている原因は自己分析にあります。その理由と対処法を詳しく紹介していきます。
自己分析が就活の悩みをややこしくしている理由
──特集「就活の羅針盤」では、「就活生の悩むべき問題は5つだけ」と予告編で伝え、4つの問題に向き合ってきました。残るは自己分析の話ですね。
多田:おさらいになりますが、就活の悩みというのは「選ぶ問題」と「受かる問題」の2つに分かれます。選ぶ問題は状況によって細分化できるので、「悩むべき問題は5つだけ」ということになりました。
「選ぶ問題」は「志望企業や入社する企業を決められない」という悩みです。「受かる問題」は「ESや面接を通過する方法が分からない」という悩みです。どちらも大事なのは、自分の頭をクリアにする思考法です。だから、1〜4回ではこの思考法を伝えてきました。
ところが、自己分析に悩むと、この「選ぶ問題」と「受かる問題」は複雑になってしまいます。
──どうして、複雑になるのでしょうか。
多田:自己分析に悩んでいる状態は、自分のステータスが分からない状態です。すると、「選ぶ問題」では自分に合う企業がどこか分からなくなります。「受かる問題」では自分の強み・弱みが分からなくなり、面接官が納得できる説明が難しくなります。
──なるほど。確かに「私はこういう強みがあります。だから御社のこの事業で活躍できると思うので、志望しました」と自信を持って面接で話せるのは、理想ですよね。
多田:この問題がさらに深刻になるのは、そもそも就活生の多くは「選ぶ問題」「受かる問題」「自己分析の問題」という構造で自分の悩みを分析できていないからです。
──志望動機が不十分で面接に落ちたとしても「面接対策しないといけない」とだけ考えていたら、いつまでたっても根本的な問題は解決しないですものね。理屈は分かりましたが、実際に自己分析ってどうすればいいのでしょうか。
自己分析で明らかにすべきことはたった2つ
多田:まずは自己分析をする目的を明らかにすることです。「自己分析ができるようになりたい」と思っていたら、それは手段が目的化しています。就活のゴールは「納得感を持ってその会社に意思決定する」ことです。自己分析はそこにたどり着くために必要な手段でしかありません。
──確かにドツボにはまって「自分探しの旅」に出るというのは、就活あるあるです。では、自己分析で明らかにすべきことは何でしょうか。
多田:2つあります。1つは「自分がパフォーマンスを発揮しやすい環境」を知ることです。これは「選ぶ問題」に関係してきます。
──もう1つは何でしょうか。
多田:「自分の強み/弱み」を知ることです。こちらは「受かる問題」に関係してきます。過去の経験と一緒に、自分の強みや弱みを面接官に伝えることで、面接官も納得できる説明になります。
──でも、「自分の強み/弱み」ってそんなにすぐに分かるものでしょうか。分からないからみんな悩んでいるのではないでしょうか。
多田:それは、自己分析を1通りの方法だけでやっているからではないでしょうか。
「過去の経験を探り続ける」というドツボ
──「1通りだけ」ということは、他にもあるということですか。
多田:はい。自己分析の方法は「帰納的」「演繹(えんえき)的」の2通りあります。1つずつ説明しましょう。
まず、「帰納的」の方ですが、下の図を見てください。
──自分の過去の経験の中から見つけた共通点が、「自分の強み/弱み」だということですね。
多田:はい。そして、就活生の多くはこの方法で自己分析をしています。
ただ、「帰納的」な自己分析には1つの大きな問題があります。それは「自分の強み/弱み」を自分の言葉で考えないといけない点です。過去の経験の共通点をより抽象的な言葉に置き換えないといけないのですが、この作業は人によって得意・不得意があります。
──不得意な人は、ずっと自己分析の「抽象化」のプロセスで悩むのですね。過去の経験を探り続けるドツボにはまると、解決しないですからね。
多田:そこで、知ってほしいのが「演繹的」な自己分析です。こちらも、図で示しました。
──なるほど。「自分の強み/弱み」を診断してもらい、結果に当てはまる過去の経験を探してくるわけですね。
多田:はい、おそらくこちらの方が「自分の強み/弱み」を知る手段としては速いのではないでしょうか。ストレングスファインダーやエニアグラムなど、自己分析に使えるツールはあります。その内容をすべて受け入れるというよりは、納得できる部分があったら、過去の経験とひも付けてみるのが、いいでしょう。納得できるということは、自分でも意識できているということですから。
ただ、このときに1点だけ気を付けてほしい点があります。
「最上志向」「学習欲」……。単語レベルで食い付いていませんか?
──気を付ける点とは、どんな点でしょうか?
多田:診断結果の文章をしっかり読むことですね。例えば、ストレングスファインダーだと、次のようなリポートがもらえます。
──かなり詳細ですね。
多田:はい。そして、この文章を読んで「自分に当てはまる」と思う箇所を見つけることが大事です。ストレングスファインダーは「最上志向」「学習欲」といった短い言葉で自分の資質が書いてあります。
ですが、この言葉に飛びついても、「最上志向」とはどんな強みがある人でどんな弱みがある人かは分かりません。リポートにはそういった説明が入っているので、しっかりと読んでほしいです。単語レベルで食いつく傾向は、他の場面でもよくある就活生の傾向なので、気を付けてほしいです。
──Instagramのハッシュタグに反応するような感覚で自己分析をすると、痛い目にあうのですね。「自分の強み/弱み」については、分かりましたが、これだけでは、選ぶ問題の方が解決しないですよね。「自分がパフォーマンスを発揮しやすい環境」はどうやって考えればいいのでしょうか?
「4つのP」でパフォーマンスが上がる環境を考える。ヒントは受験勉強にあり
多田:例えば、受験勉強のときを振り返ってください。カフェや自習室で1人で勉強した方がはかどりましたか? それとも、みんなで勉強会をした方がはかどりましたか?
──自習室の方がはかどりました。
多田:そうした感覚を企業選びでも大切にしてほしいです。受験勉強のときは無意識にはかどる環境を選んでいたのだと思いますが、企業選びで無意識に行うことは難しいです。だから、頭の中を整理して「自分がパフォーマンスを発揮しやすい環境」を探してほしいです。
──確かに、パフォーマンスが上がる環境が分かれば、自分が働きやすい企業の条件も分かってきますね。具体的にどう整理すればいいのでしょうか。
多田:これは、第2回で話した「企業の魅力因子4P」(※)の話に関係してきます。
(※)……モチベーションに特化した経営コンサルティング会社「リンクアンドモチベーション」が提唱した、企業の魅力をつくる要素のこと。
──4Pとは、Philosophy(理念・目的)、Profession(仕事・事業)、People(人材・風土)、Privilege(特権・待遇)のことですね。この4つがそろっていると、人はその企業を魅力的に感じ、働くモチベーションが高まる、という話でした。
多田:はい。そして、この4Pを就活の企業選びに当てはめると、次のようになります。
・People(人/風土):どんな社員と働けるのか? どんな組織風土なのか?
・Profession(仕事/事業):どんな業務があるのか? どんな事業なのか?
・Philosophy(理念/目標):どんなビジョンや目標を持っている会社なのか?
・Privilege(制度/待遇):どんな制度があるのか? どんな待遇があるのか?
──会社の職場環境をこの4つのPで分析し、自分が過去にパフォーマンスを発揮した環境との相性を照らし合わせることで、「選ぶ問題」を解決するのですね。
多田:そうです。第2回で、「企業を絞り込むとき、事実に基づいて自分なりの解釈をすることが大事だ」と話しました。解釈をするための判断軸を作る手段が自己分析です。自分のパフォーマンスが高かった環境を小中高大と振り返ると、自分に合う企業の環境が分かるようになります。
──今までの説明で、自己分析を企業選びに活用する方法が分かりました。これは志望動機などにも応用できそうですね。
多田:もし、ESや面接で志望動機を聞かれたら、この4Pうち3つは過去の環境についても触れた上で説明してください。ですが、そのためには、まず今まで話した「選ぶ問題」を解決することが大事です。就活生が「受かるために志望動機をしっかり話せるようにならないと」と考える気持ちは理解できますが、まず「選ぶ問題」を解決しないと、結果的にはESや面接で通過するのは難しいと思います。
ちなみに、第4回で、面接やESのポイントとして「分かりやすいか」「Why起点であるか」の2つを挙げましたが、「Why起点であるか」はこの部分に該当します。
「Why起点」というのは、「なぜ御社の環境が自分に合うのか」を出発点にESを書いたり、面接官に話したりすることです。そのときに大切なのはファクト、つまり過去の実体験です。
例えば、会社へのイメージなどを面接で聞かれたら、OB訪問の話や事業を例に出して「自分はサッカー部のキャプテンだったとき、こんな役割で、こんな人に助けられました。だから、御社に入れば成長できると思いました」と話すことが大事です。
──自己分析がしっかりできていると、ESや面接の悩みが解決できる部分は多いのですね。
多田:はい。くどいようですが、自己分析は「受かる問題」を解決するためだけにやるわけではありません。「選ぶ問題」を解決する上でも大事だということを忘れないでください。
──なるほど。自己分析で企業を選ぶ判断軸をしっかりとした上で、ESや面接にも生かすのですね。
多田:第1回〜第5回までを読んでくださると分かりますが、自己分析がハブになる形で、就活の悩みはどこかで結びついています。図にすると、こうなります。
だから、就活に悩んだときに大切なのは、自分の悩みがどこに該当するのかをまず確認することです。ずっと悩み続け、どうすれば分からなくなったときは、この特集を読んで、自分の立ち返る場所を見つけてもらえると、うれしいです。
【特集:就活の羅針盤】
・【新特集スタート】就活生の悩むべき問題は5つだけ。モヤモヤした視界を切り開く「就活の羅針盤」
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(illustration:rudall30/Shutterstock.com)
※こちらは2019年12月に公開された記事の再掲です。