初年度から年収1000万円超え。3年後にアソシエイトに昇格すると年収2000万円。
30歳でVP(バイスプレジデント)になれると年収3000万円超、MD(マネージングディレクター)になると年収1億円も……という、夢のある外資系金融の世界(特にフロント部門)。
しかし、仕事と競争は超ハードだし、パフォーマンスが悪いとクビになるリスクも存在する。また、自分が頑張っていたとしても、本社がコケると、非収益部門の取り壊しや大規模なリストラに巻き込まれて、会社を去らなければならないこともある。
比較的穏やかな外資系運用会社(バイサイド)でさえ、組織が小さいだけに、拠点長や本部長が交代すると、ガラッと雰囲気が変わることになり、先住民の一部が追い出されてしまう、なんてことだってあるのだ。
では、外資系金融機関をクビになった場合どうなるのか、その行き先に興味を持つ人は多いだろう。今回の記事では、リストラされた人たちの行き先について、歴史的に振り返ってみようと思う。
外資系金融機関とリストラというと、10年ほど前の「リーマンショック」が代表的な出来事だが、外資系金融をクビになった人たちの行き先という問題は20世紀の時代からあるものだ。
若い読者の皆さんの興味からは少し外れるかもしれないが、昔の話も含めて見ていきたい。
<目次>
●他の外資系金融機関に転職するのは「かつての」王道
●「まったり高給」な国内系金融機関への転職だって悪くない、ただし30代まで
●IBD関係者ならば「FAS」も有力、リーマンショックで台頭
●事業会社への道は厳しい。若手ならばベンチャーもアリか
●資金があるならセミリタイアし、マンション経営をするのも手
他の外資系金融機関に転職するのは「かつての」王道
外資系金融をクビになった場合、最も望ましい行き先がこれだろう。
同業他社に転職できるなら、年俸水準を維持できる可能性があるし、場合によっては、年収が上がることさえあるからだ。しかも、今までのスキルや業務経験をそのまま持ち越すことができる。
リーマンショックやITバブル崩壊&9.11同時多発テロ事件のころのように、世界的に一斉に景気が悪くなる場合は難しいが、そうでなければ、外資系の同業他社に移るというのが「かつての」王道であった。
振り返ると、20世紀は特に恵まれていた。
グローバル金融機関の大型合併(買収)が始まる前は、外資系金融機関の会社数がとにかく多く、選択肢が豊富だったのだ。
軽く挙げるだけでも、ABNアムロ証券、INGベアリング証券、ドレスナー・クラインオート・ワッサースタイン証券、TD証券、スミス・ニューコート証券、DLJ証券、コメルツ証券、SGウォーバーグ証券、バンカース・トラスト銀行、キダー・ピーボディ証券などなど。これだけでも、とにかくたくさんあったことが分かるだろう。
もちろん、リーマンショックでなくなったリーマン・ブラザーズやベアー・スターンズも存在していた。これだけ行き先が多いと、特に格上の外銀に勤めている場合、ランクを下げた転職の可能性は大いにあった。
しかし、グローバルの大型M&Aやリーマンショックを経て、転職可能な外資系金融(特に外銀)は大きく減ってしまった。さらに、欧州系の投資銀行部門の収益性はなかなか好転しない。
そのため、外資系金融をクビになっても、外資系の同業他社に移れるとは限らなくなった。厳しい世の中だ。
「まったり高給」な国内系金融機関への転職だって悪くない、ただし30代まで
外資系金融機関と並ぶ王道として挙げられるのは、国内系金融機関への転職だ。
この場合、最大の問題点は年収が大幅に減ることだろう。特に、外銀のDirector(SVP)以上のシニアポジションにいた人で年収5000万円以上あった人たちが、国内系金融機関に転職した場合、年収は良くてもせいぜい2000万円くらいになると思われる。
もっとも、この場合の年俸ダウンは必ずしも悪い話とは限らない。安定とワークライフバランスを得られるからだ。
例えば、外銀で40歳くらいまで働き、2億円ほどためられたのなら、そこから国内系に移り、年収1500~2000万円くらいでのんびり定年近くまで働くことができたなら、それはそれで良い人生といえるのではないか?
実際、40歳を過ぎるとクビにならなくても、自主的にセミリタイアというイメージで、国内系金融機関に移る人は昔からいた。要領の良い「勝ちパターン」といえるだろう。
他方、VPに昇格する前のアナリストやアソシエイトの段階で、外資系金融をクビになって国内系金融機関に転職する場合、このような優雅な展開にはならない。国内系金融機関の一員として、一生懸命頑張っていくことになる。
もちろん、厳しい外資系金融の世界で揉(も)まれてきた経験はムダにならない。国内系金融機関の中でプレゼンスを高め、よりよいキャリアを歩むのは十分可能だ。
余談だが、20世紀のころは、外資系金融機関であまり成功できなかった人たちの行き先として「準大手証券」というものが数多く存在していた。
三洋証券、和光証券、第一證券、勧業角丸証券、新日本証券、東京証券、国際証券──名前くらいは聞いたことがある、という企業も中にはあるだろう。このように、一連の合併前は、多くの証券会社が存在していた。
さらに興銀証券、三和証券、富士証券、三菱証券、さくら証券といった銀行系証券会社も存在していた時代もあったのだ。
しかし、ご存じの通り、今は外資系ばかりか国内系まで合併などで減ってしまったため、逃げ場が減ってしまったのは、外資系金融の人間にとっては残念な話といえる。
それから、国内系証券においては、野村證券や大和証券のように、非銀行系の大手は管理職以上の中途採用のハードルは非常に高い。年齢による絞り込みも存在するので、特に40歳以上の場合、国内系金融機関への転職はかなり難しくなると考えておいた方がいい。
IBD関係者ならば「FAS」も有力、リーマンショックで台頭
FASとは、Financial Advisory Serviceの略で、Big4会計事務所系のM&A業務に係るDD、Valuationなどの財務アドバイザリーサービスを行う組織を指す。具体的には、以下の4社だ。
・KPMG FAS
・EYTAS(EYトランザクション・アドバイザリー・サービス)
・デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー
・PwCアドバイザリー
年収の水準は、マネージャーで1400~1800万円、ディレクターで1600~2200万円、パートナーであれば、2000万円超えのベースにボーナス(?)と比較的高額だ。ただ、これは外資系金融といっても、特にIBDの人たちの行くところだろう。
それなりに大きな組織であるため、受け入れの余力があるのもポイントだ。リーマンショックの際には、外銀をリストラされたIBD関係者は、FASとSMBC日興証券(IBD)が吸収したと言われたくらいである。行き先としては十分だろう。
事業会社への道は厳しい。若手ならばベンチャーもアリか
外資系、国内系を問わず、元外資系金融の者が入りにくいのが事業会社だ。
ITエンジニア系なら行き先はあるのだろうが、財務関係のポジションに就くのはそんなに簡単ではない。
若手ならば何とかなるかもしれないが、30代、特に40歳以上となるとポジションも限られるし、カルチャーフィットが異なるという観点からも結構難しい。
キリン、味の素、資生堂、新日鉄、旭化成といった優良な日系メーカーが採ってくれたらいいのだろうが、そもそも日本の事業会社は中途採用を積極的に行っていないので現実的には難しい。
一方、最近だと、外銀の若手が自らベンチャーを立ち上げて成功するケースも見られるようだが、それは「攻め」の意味で起業だ。リストラで外銀を追われて、仕方なしにベンチャー企業に転職するのとは大きく異なる。
Web系(マーケティングを含む)に特に強いわけでもない、リストラされた外銀の人に対する需要はそこまで強くはない。とはいえ、最近では外銀や外コンの人に絞った求人をしてくるベンチャー企業も増えてきているようで、若手ならばチャンスがある。
他方、30代半ば以降になると選択肢はかなり絞られる。40代以降になると、ITエンジニアやFinTech企業向けのコンプライアンス要員を除くと、年齢的に難しくなると思われる。
リーマンショックのあと、本当に行くところが見つからず、仕方なく友達がやっているベンチャーに行ったというケースを何件か知っているが、その後、成功したという話は特に聞いたことがない。
資金があるならセミリタイアし、マンション経営をするのも手
ある程度のシニアな人たちで、それなりのお金をためた人たちの場合、「マンション経営」という道も存在する。
外資系金融の人は収益不動産投資に関心がある人が多い。現役のときから、コツコツと投資を始め、ノウハウを蓄積しつつ、保有物件を増やしていくのだ。もちろん、レバレッジ(銀行借入)を使うこともある。
40歳を過ぎ、リストラされたことを契機にセミリタイアして、マンション経営に専念するほか、自発的に退職してマンション経営専業になる人もいる。そういえば、外資系運用会社をクビになった、とあるMDの人は、渋谷区でマンションを一棟持っており、リタイアすることにしたという話を、最近聞いたことを思い出した。
これらの選択肢を見れば分かる通り、生きていく上で「リスク管理」という考え方は不可欠だ。最悪の場合も想定して、ある程度の貯蓄はしておくことが大事なのだろう。
稼げるうちにできるだけ稼ぎ、後々楽をする……外資系金融マンはあらゆる意味で「初速」が大切なのだ。
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(Photo:anek.soowannaphoom, l i g h t p o e t, conrado, EXZOZIS, 06photo/Shutterstock.com)
※こちらは2020年1月に公開された記事の再掲です。