※本記事は、noteに掲載した記事を転載・一部加筆したものです
(転載元note:「人気企業ランキングを片手に、ラベルを漁り続ける君たちへ(30歳、4つの後悔)」)
こんにちは、ワンキャリ編集部のやまぐちです。最近、同じくワンキャリアの社員、寺口浩大さんのあるツイートが目に留まりました。
昨年の4月に書いたこのnote、時期なのか見つけていただくことが増えました。長く読まれ続けてよかったけど、ホントは、こんなものはなくてもよくなってほしいな。
— 寺口 浩大 🌐 ONE CAREER Inc. (@telinekd) September 3, 2019
人気企業ランキングを片手に、ラベルを漁り続ける君たちへ|Kodai Teraguchi @telinekd|note(ノート) https://t.co/7jZzIUDfPg
本格化する21卒の就活。「志望業界も職種も特に決まっていないから、とりあえず人気企業から受けよう」と考えている人も少なくないと思います。
しかし、その人気企業ラベルは私たちが思っているよりも儚(はかな)いものなのかもしれません。社会人10年目の彼が伝える4つの後悔、ぜひご覧ください!
はじめに
今回の記事は、めっちゃ長い。だが、きっと何回も読み返せるものになったと思う。
社会人になって知ったことで、社会に出る前に知っておきたかったなぁという後悔を基に、未来の才能に向けて書いてみた。
4つの後悔
自分の就職活動、転職活動時に持っておけばよかったと思う観点を4つに分けて書く。
・「周りに自慢できる企業の内定ラベル集め」と縁を切ればよかった
・「手触り感」という言葉を理解していればよかった
・ビジネスモデルについて少しは勉強しておけばよかった
・転職マーケットについて調べておけばよかった
これらは、社会人になって気づいた人は結構いると思うのだが、いろいろな利害関係や背景から、伝える機会がなかなかない。そもそも、何で時間をかけて後悔なんて晒(さら)さなあかんのかと。普段上司に抑圧されてんだから、せめて就活生にはドヤりてぇと。つかそもそも忙しいわと。普通の感覚だ。
だからこそ、変態的に失敗の露出狂で、エブリデー暇人の僕こそが、しっかりまとめることに、それなりの価値を感じている。
では、順番にいこうか。
「周りに自慢できる企業の内定ラベル集め」と縁を切ればよかった
人気企業ランキングだけ見て入社先を決めるのは、住みたい街ランキングを見て高値の不動産つかむのと同じ。
両者に共通しているのは、「ここに住んでいる自分スゲー」「ここで働いている自分スゲー」というラベル依存症。
だが、決定的な違いがある。圧倒的にラベルの寿命が違う。実感だが、どこに住んでいるかは、わりと長く表面的な自己肯定感を高めるのに使える。
一方、「いわゆる人気企業に勤めている」というラベルの効能は、入社前に切れた。むしろ「◯◯大学なのにメガバンなの?」みたいなことをたくさん言われ、大学も会社もコンプレックスになり、両方隠して生きるようになった。
きっと社会人0年生で、何者でもない自分に価値を感じられなくて窒息しそうになっているときに初めてラベルが貼られて、そのラベルに依存するのは、とても楽なんだろうけど。
何年か働いて気づいたが、もはや、今自分がいる8年目の世界では「◯◯に勤めている」という事実だけで戦おうとする人はいない。というか「まだ、そんなことを言ってんの?(笑)」とせせら笑われる。「そなんだぁ、おっきいね。で、何を思って、何やってんの?」としか聞かれない。名刺や肩書は、だんだん仕事をしてくれなくなる。
内定先マウンティング、入社先マウンティング、配属先マウンティングは、あくまで「自信のない自分の精神安定剤」くらいに思った方がいい。多くの人がその病に陥るが、そのクスリに依存し続けると、いつしか抜けられなくなって、滑稽な姿を晒し続けては、すごい人たちから「あ、まだそのフェーズの人なんだ」と白い目で見られちゃうので。ちょっと気持ちよくなったら、腹八分目で早々に足を洗うことをおすすめする。
合コンマーケットでは、もう少し長く使えるけどね。
「手触り感」という言葉を理解していればよかった
この後悔については、特に届けたい人がいる。
今も毎日のようにどこかで発されているだろう「大きなインパクトを社会に与えたい」という言葉を、キラキラした目で発している、そこのあなたにこそ届けたい。
メッセージはシンプルだ。
「社会的インパクトの大きさ」と「感じるやりがい」は、必ずしも比例しないということだ。
「大きなインパクトを与えたい」も「誰かの役に立ちたい」も「感謝されたい」も「自分にしかできないことをやりたい」も同じ。やっと気づいたけど、要は「自分の存在価値の確認と証明作業」だと思っている。
ここで見落としがちなのが「手触り感」だ。「介在価値の実感値」とも言い換えられる。
一つ、実際に経験した話をしたい。
当時僕は、金融機関で業界アナリストとしてM&Aの案件に「携わっていた」。「プロジェクトファイナンスやM&Aのような大きな案件に携わって、社会に大きなインパクトを与えたいです!!」と言い続けたら、優しい人事部の方と、当時の部長がチャンスをくれた。あざます。
が、結果的にその好意を裏切った。
数年前、ある大きな買収案件の評価や調査を行っていた。分析やレポーティングは深夜まで及んだ。帰ってからもその次の朝も、休日も、作業自体は細かくて、ただただめんどくさくて。
でも、「社会的に大きなインパクトを与える!」瞬間の達成感を信じて、取り憑(つ)かれたように、叱られ、悔しくて泣きながら(ホントに泣いた)、職務を全うした。
その案件は、日経新聞の一面に掲載された。
「これが、僕らの仕事だよ」と上司が言った。きっと本当に誇りを感じていたと思う。
僕は……疲労感以外何も感じなかった。むしろ、あるはずの達成感がそこになかったことがつらかった。そして何より、ごほうびがないことが分かった上で、もう一回同じことを頑張れる自信と気力はなかった。
同じ頃、対照的な出来事があった。
ある日、知らないおばあちゃんに何気なしに席を譲ったことがあった。おばあちゃんは「ありがと」と笑顔で言ってくれた。それがなぜか、めっちゃうれしかった。
僕は本能的に思った。
「あ、こっちの方がいいや」
それ以来、キャリア相談や面接で「大きなインパクトを!」と言ってくれる人には、決まって「手触り感」の話をしている。
手触り感(介在価値)=インパクト × 自分で決めて自分でやった感
なのかなぁと、今は思っている。
ちなみに、僕にとって「手触り感」の敵は「歯車感」だ。だが、歯車には歯車としての誇りもあるらしい。昔、同僚のパイセン(以下π)と仲がよかった。その方は、淡々と仕事をし、上司に対してコメツキバッタのようにヘコヘコする。ある日彼とこんな会話を交わした。
僕「そんな上のことばっかり気にして、ダサくないすか? 楽しいですか? πさんのこと好きなんで、もっとカッコよくいてほしいです。」
π「僕はね、とにかくここでやりたいことがあるんですよ。そのために早く偉くならないといけない。頭下げてそれが早まるんだったら、いくらでも下げますよ。歯車の誇りってやつっす笑」
若干のジョージアのCM感を感じながらも、自然に敬服した。覚悟が決まっている人はなんか気持ちいい。
このふたつの考え方は単なる美学の違いで、おそらく正解はない。しかし、僕には歯車の誇りの持ち方がどうしても分からない。同じような経験をしたことがある人がいたら、ぜひ教えてほしい。
ビジネスモデルについて少しは勉強しておけばよかった。
最近、ミッション・ビジョン・バリューを設定する企業が増えた。いつしか「ビジョンへの共感」という言葉が流通した。あるベテラン人事は「最近の学生さんは皆ビジョンを持っている。まるで持たなければいけないという決まりでもあるかのように」と仰っていた。
素晴らしいビジョンを掲げている企業がたくさんある。そこには軒並み「何だかよさそうなこと」が書いてある。
ただ、実現するための手段(ビジネスモデル)と実現可能性(マーケットのニーズとビジネスモデルの優位性)については、まるで会話がなされていないように思える。
(というか、そもそも背景や文脈を凝縮した数文字のテキストそのものにどうすれば共感できるのだろうか。だいたい一緒のことを書いているし。だいたい何か解決したり、何かを通じて社会に貢献したり、テクノロジーを使って何かを変革したり、テキストそのものはペラい。大事なのは背景であり、歴史であり、コンセプトだ。共感する前になぜそのテキストを選んだのか聞きたい)
これも自分の話で恐縮だが、少しは役に立つかもしれない。
僕は、教育(ホントは学習と呼びたい)にとても関心がある。学ぶことは本来楽しいはずなのに、勉強になると大抵の人は学びを「楽しくないもの」と認識する。研修も学びのはずなのに、いつしか「仕事の役に立たない休憩時間」と認識する。これはとても面白いことだ。そんなもんで、前の会社で、人材育成支援サービスを提供していたことがあった。超シンプルに言えば「教育」を提供し「対価」をいただくというモデルだ。これだけ聞くと納得感がある。
しかし、こうも考えられないだろうか。
1.「対価」をいただかなければ「教育」を提供できない
2.「対価」をいただくための「教育」を提供しなければならない
1. について。これは単なる言い換えに過ぎないが、意外と重要だと考える。さらに言い換えれば、価値を届けたい人がいても、金をもらえなければ、価値を届けられないということ。
一例をいうと、toBサービスの場合、個人が教育を受けたくても、法人が必要ないと意思決定すれば、そこに属する個人に教育を届けられない。これは仕方ない。資本市場のグランドルールの上でビジネスをやるからには当たり前だ。
2. について。マーケットには「顧客」がいて「競合」が存在する。バリュープロポジションについては一度調べてほしいのだが、価値というものは顧客が望み、競合よりも自社が優れているときにおいて初めて発生する。
何が言いたいかというと、いくら素晴らしいビジョンを掲げていても、マーケットのニーズがなく、競合優位性のあるビジネスモデルを有してなければ、顧客から選ばれない、すなわち稼げない。
稼げないと経営が苦しくなる、経営が苦しくなると、身銭を稼がなければならなくなる。本質的なサービスを届けたくても、生き残るために、素晴らしいビジョンを掲げながら、ドブに落ちている1円玉を拾うような仕事をしないといけないこともあるということだ。
それが悪いこととは言わない。ただ、ドブを漁りながらも、そのビジョンを語り続ける信念と覚悟が自分にあるかどうかは、その組織の仲間とやっていけるかどうかは、イメージをしておいた方がいい。
できることなら、ドブを漁らなくてもいいように、「強いビジネスモデルを有している」または「創るノウハウを持っている」組織で、自分も強いビジネスを創る人になれるのがいいなぁと思う。
転職マーケットについて調べておけばよかった
この後悔のメッセージは、以下のようなことを仰っている方におすすめだ(決してその発言自体が悪いわけではない)。
「まずは、研修の整った企業で基礎的なスキルを……」
「まずは、厳しい環境に身をおいて圧倒的に成長し……」
「まずは、どこでも通用するようなスキルを身に着けて……」
……どうやら企業を金のもらえるジムだと思っている人が少なからずいるようだ。その感覚はヤバイ、すぐ捨てた方がいい。パラサイト予備軍になっちゃうので。あと、成長は仕事のための手段で、成長そのものは仕事ではないくらいに思っておいた方がいい。
ここでは2つの言葉を贈りたい。
「僕たちリーマンは組織と契約し、先行投資されている。企業に属する限りは、今どの程度、被投資額をペイしているかくらいは考えておきたい(会社はゴールドジムじゃねぇんだよ)」
「つけようとしているその箔(はく)は、どこに対しての箔なのか?(まずは、の次をイメージしておきたい)」
一つ目について。採用、育成に関わる先行投資、ランニングで発生する人件費をペイするためには、何年で何をしないといけないかというマインドセットがあってほしい。あらかたの損益分岐点はちゃんと計算しておいた方がいい。分岐点を超えていれば胸を張って卒業できるし、逆に、負債の状態で「会社ガー、上司ガー、」とダサい発言をして恥をかかずに済む。
※一方で「おまえにいくらかけたと思っているんだ」という発言はいささか乱暴だ。全員40年で投資回収するという前提があるのであれば、雇用時にしっかり期待値調整をしたい。中には3年でペイして卒業したい人もいる。だが「3年で」を言うと、たいていの企業では落ちる。全員40年物国債だからだ。金太郎飴(あめ)製造工場にとってジャンク債購入はリスクでしかない。
二つ目について。ずっとお世話になっているヘッドハンター(以下H)の方に相談したとき(3年前頃)にいただいた言葉そのものだ。会話をそのまま紹介する。
僕「そろそろ出ようと思うんですが、人事コンサルとしての自信も経歴もまだないです。やはり、一流の外資ファームで修行し直したほうがいいかなと」
H「そうなんですね。そこでどんなことをするつもりですか?」
僕「人事戦略設計とかチェンマネとか、いろんなPJに関わりたいと」
H「なるほど。その次にしたいことはありますか?」
僕「スタートアップで学習支援の事業を作りたいです。あとキャリア教育」
H「いいですね。一つ気になったんですけど、何でファーム挟むんですか? デカい組織人事系のファームのクライアントって金を持っている大手ですよね。寺口さんが経営者だったとして、大きな組織のチェンマネができる人ってほしいですか?」
僕「いや、組織でっかくなってからでいいっすね」
H「箔つけたい気持ちは分かる。自分を安心させるための箔なのか、次につながる箔なのかは考えた方がいいよ」
この会話を忘れられない。この「箔の話」をしてもらわなかったら今ここで楽しく仕事をしていない。本当にありがとうございます(見てくれているかな)。
また、別のヘッドハンターから言われたこの言葉も鮮明に覚えている。
「困るんですよねー。27歳くらいの有名企業出身の人。自信満々で自分にあった企業はないか? とかって来てくれるんですけど、そもそも社内で通りやすい資料作る能力しかない人が多くて……。で、年収も仕事に対して、もらいすぎているから、200万くらい下げてやっとボーダーですよ。一流企業に属していたというプライドも高いので、ほぼ新卒扱いになると理解してもらうのに一苦労です」
ぐうの音も出なかった……。
今は「元◯◯が在籍!」がわりとはやっているが、多分そのうちなくなっていくだろう。元◯◯があふれて差別化要素でなくなり、より、ジョブの経験ストックとラーニングのログが個人にひも付いて可視化される。元◯◯だけでは何も判断できなくなる。
じゃあどうすればいいのって。
もし「一生その会社で成り上がってやる!」と決めていないなら、「まずは……」の次を少し見学しておいた方がいい。夢に向かって、全力で逆走していることも往々にしてあるから。
なんなら、入社先を決めた時点で中途マーケットについて調べておくのもいい。ヘッドハンターにメンターとしてついてもらうのものいい。転職をするしないに関わらず、大事なのは「外気に自分を触れさせておく」ことだ。社内だけだと、すぐに凝り固まるから。
落ちたお菓子に3秒ルールがあるように、ぬるま湯にも◯年ルールがあるように思える。サンクコストはどんどん切りにくくなる。
まとめ
最後に、最近「今、私が新卒で入りたい会社はここ!」ってコンテンツを最近見かけた。この問いに、有名人でもないくせに、勝手に答えてみようと思う。
僕が今新卒で入りたい会社は……
「ない」というか「ぶっちゃけ分からん」
確かに今が一番楽しいけど、昔の経験が生きているような気もする。でも、無駄な遠回りもした気がする。うん。やってみな分からん。
ここでもメッセージはシンプルで。
上記の4つの観点は選択肢を絞る上では役に立つが、最終的な意思決定の要素にはならないということだ。
じゃあ、最終的に、どうやって意思決定すればいいの? ってなるんだけど。
そこはもうあれでしょ。
「えいやっ!」
でしょ。
……キャリアを訳すと「轍(わだち)」というらしい。つまり、走っていて気づいたら自分の後ろにできている足跡がキャリアらしい。
多分、覚悟を伴った選択を正解にするプロセスで、苦しんだり楽しんだりすること自体がキャリア形成なんだと、今は思う。
僕は今、身分不相応な人たちとたくさん話す機会に恵まれているが、自分の周りのイケてる大人たちは、選択をするとき時に正解を意識しない。むしろ、仮の解を覚悟を持って選択し、「正解と信じるもの」に近づけるプロセス自体を楽しんでいるように見える。
ただ、人間は元来、「天才言い訳クリエイター」の才能を持っていると思う。自分の中に言い訳クリエイターの才能を感じる人は、未来の言い訳を、事前にブレストをしておいて「ここは後から言いっこなしね!」と自分との約束を決めておいた方がいい。
もちろん、自分がコントロールできない要因で精神や肉体の危険が解決できないなら、一目散に逃げたらいい。生きてこそ、だ。
ただ、自分と交わした約束は、自分のためにも、できる限り守り続けてほしいなぁ。
間違っても、居酒屋で「会社の自分は本当の自分じゃない!」と言って、横の席の若い才能を失望させないように。
意外と若者は大人を見ている。
カッコよく生きようぞ。
▼過去の記事はこちら
・トゲピーのホンネ(その組織に「尖った人材」を受け入れる器量と覚悟はあるか?)
・人気企業ランキングを片手に、ラベルを漁り続ける君たちへ(30歳、4つの後悔)
・就活生が150人死んだって。人事は何人死んでんだっけ。
(Photo:New Africa/Shutterstock.com)