こんにちは、清原です。
現在私は、社会人2年目としてIT企業で働いていますが、大学時代にプログラミングを勉強したり、長期インターンで分析の仕事をしたりというような経験はありませんでした。
マクドナルド、ジーユー、ヤマト運輸といった大企業の現場でアルバイトをしていたのです。
前回の記事「家庭教師のバイトよりもマクドナルドのバイトがためになる理由」では、私がマクドナルドでのアルバイトを通じて鍛えられた、消費者感覚に寄り添ったマーケティングスキルについてお話ししました。
今回は、私がジーユーのアルバイトで体験したことや、そこから得たもの、さらには接客経験の重要性についてお話ししたいと思います。
ジーユーもマクドナルドと同様に、単純作業の繰り返しで、給料に加えて何かしらのスキルは身に付かないのでは、と思う方もいるかもしれません。
しかし、私はアパレルショップであるジーユーでITについて学ぶことができましたし、「接客業」だからこそ得られたものもあります。そしてそれらは、面接のアピールとしてのガクチカにとどまらず、その先の人生にも大きく影響を与えていると思います。
<目次>
●ジーユーのセルフレジの仕組みからITを学ぶ
●試着室という面白い空間こそ、接客力と営業力を磨ける
●店員とお客さんの両方を体験した私が、裾上げの仕事から学んだこと
ジーユーのセルフレジの仕組みからITを学ぶ
まずは、大学2年生のときにジーユーで働き始めた理由をお話しします。
私は、アルバイト先を決める前に候補の職場を見に行くようにしていました。どうせ時間を使って働くなら、給料に加えて、何か別の価値も得たいと考えていたからです。
仕組みや売り方などをもっと知りたいと思えるか。これがアルバイト先に選ぶ基準になっていたわけです。
実際、ユニクロやセブン-イレブン、ミスタードーナツなど、いろいろなお店に足を運びました。そして、ジーユーを見たときに、あるものに自分の好奇心が激しくかき立てられたのです。
それは、セルフレジです。
ジーユーのセルフレジは、箱の中に洋服を入れたら自動で合計金額を計算してくれるものでした。よくある、商品のバーコードを1つ1つ読み取らせるタイプに比べて、明らかにスピードが速い。
使った瞬間に「仕組みはどうなっているのか?」「どういう技術が使われているのか?」「セルフレジにすることでどれぐらいの人件費が削減できているのか?」「倉庫などの裏側もハイテクに管理されているのか」など、たくさんの疑問が湧いてくるほど感動しました。
セルフレジの仕組み自体はインターネットで調べれば分かることですが、業務的にどの程度インパクトがあるのか、倉庫管理でどのように使われているのかといったことについては、非公開情報であるため、働いてみないと分かりません。
現場に潜入してその謎を解消したいと思い、1年間ほどアルバイトをしました。
ジーユーが採用していた、新しいITを使ったオペレーションは、客として買い物に行っただけでは絶対に目にできないものでした。実は、商品の在庫を管理する倉庫などでも、セルフレジの技術が応用されていたのです。
さらに、セルフレジ導入によって、どのような良い効果や悪い効果があったのか。これらを現場で体感したことは、現在も、IT企業での私の仕事に大いに生きています。
新たな技術の論理的な部分自体は、机上でいくらでも学べますが、実際にそれが現場で活用されることで、現場がどう変わるのかは、現場にいないと体感できません。
例えば、新たなツールやシステムを導入する際、計算上は効率や売上が上がるとされていても、現実では、新たな業務的な制約が生まれてしまい、現場に受け入れられず効果が出ないというケースはたびたびあります。現場側からそれを経験したことがないと、いざ自分が導入する側になったときに、適切に効果を上げることはできないでしょう。
このジーユーでの経験は、現在IT企業で働く自分にとって大きな教訓になっています。導入を検討する人たちの都合だけを意識するのではなく、本当に現場でそれが受け入れられるのか、お客さんは受け入れてくれるのかを徹底的に考えるようにしているからです。
このように考えると、アパレルショップでのアルバイトなのに「IT」を学ぶということもできてしまうのです。
試着室という面白い空間こそ、接客力と営業力を磨ける
先ほどは、少しITに寄ったお話をしましたが、いわゆる接客スキル、営業スキルもアパレルショップで大いに学べます。
私はたくさんのアルバイトを経験しましたが、中でもアパレルショップの「試着室」には独特の面白さがあると感じています。
ファストファッションの試着室には、試着室担当の店員がいます。お客さんの試着の対応や、部屋の清掃などの仕事を担っていますが、彼らの仕事の1つに、お客さんが買わずに返却した商品をきれいに畳んで店頭に並べ直すという仕事があります。
読者の皆さんも、洋服を試着して気に入らなかったら店員さんに返したことがあると思います。このように、お客さんがわざわざ直接、店員に商品を買わないという意思を表明してくれる場面は、他の接客業を見渡してみても極めて珍しいと考えています。
すると、「なぜお客さんはその商品を買わなかったのか?」という思考が生まれます。しかも、ただ単に興味がなかったのではなく、試着するほど気になっていたのに、買われなかった理由を分析できるのです。
例えば、お客さんに商品説明をしたのに買われなかったとしたら、その説明がお客さんの満足のいくものではなかったのかもしれないと分かり、次は違う表現にしてみよう、などと考えることができます。
他の業界では、買わなかった理由はあまりはっきりとは分かりません。しかし、試着室では、因果関係をかなり詳細に特定し、対応を修正して次のお客さんで試すことができるのです。
つまり、自分の接客の良し悪しのフィードバックをより具体的にかつ、短いスパンで繰り返せるということ。試着室という場は、接客力や営業力を高めるために最適な場所なのです。
店員とお客さんの両方を体験した私が、裾上げの仕事から学んだこと
私は誰もが人生で一度は接客業を経験した方がいいと考えています。それは、第1回からここに至るまでにお話ししてきた「消費者感覚を養える」や「データ分析の精度が上がる」などの理由もあります。しかし、1番の理由は、店員とお客さんという「相反する立場を経験できる」からなのです。
ジーユーでのアルバイトでこんなことがありました。
アパレルショップには、裾上げという仕事があります。ズボンの丈を短くしたいお客さんに、どれぐらい短くするかを聞いて、ピンで長さを固定するという内容です。
働き始めて数日目に、初めて裾上げ対応をする機会がありました。そこで、マニュアル通りに丁寧にやったのに、あまりお客さんの反応が良くありませんでした。次の日も裾上げ対応があって、前回よりもっと丁寧に対応したにもかかわらず、お客さんの表情はそんなにいいものではありませんでした。丁寧に接客したはずが、お客さんに満足してもらえなかったのはなぜでしょうか?
そこで裾上げのフローをお客さんの立場から体験するために、他の店舗に行きました。店員さんから、マニュアル通りに「どれぐらいの長さにされますか?」と聞かれたところで、「どれぐらいって言われても分からないし、いい感じの長さにしてほしい」と思っている自分に気付きました。
店員の立場の自分は、マニュアル通り丁寧な接客を提供したつもりでしたが、お客さんの立場の自分が求めていたものは、何センチという長さの正確性でなく、単なる「ちょうど良さ」でした。「ちょうど良さ」がどのくらいなのか、店員に提示してほしいと思ったのです。
この経験から、正確な長さにこだわらないお客さんが多いのではないかと考え、自分が店員として裾上げ対応をするときはまず「皆さんは、大体これぐらいにされます」と、一般的な目安を伝えるようにしました。これによって、嫌な顔をされることが減り、店員として提供するサービスと、お客さんが求めるサービスのギャップを埋めることができたのだと思います。
接客の基本は、もっと言うと対人関係の基本は、どれだけ相手の気持ちや状況に対して想像力を働かせ、自分と相手との心のギャップを埋めることができるかです。マニュアル通りの対応では、ギャップは埋まりません。
しかし、いきなり何にも知らない相手のことを想像することは不可能と言っても過言ではない。
店員とお客さんでいえば、実際にお客さん側として自分が接客されることで想像力を養い、店員の立場になったときに、その想像力でお客さんとのギャップを補う。この作業の反復が、知らない相手に対しても想像力働かせて対応する力を養っていくのではないかと思っています。
それはつまり、顧客ニーズをつかんで満足度を高めることにつながり、ひいては接客力や営業力を高めることができるのです。
また、この努力を繰り返ししていると、相手側の立場を経験できない場面でも応用できるようになるものです。
就活の面接などはその典型例でしょう。実際に面接官になることは難しいですが、面接官ならどういう人を採用したいかという想像の精度は、接客業を通じて確実に身につきます。
相手の立場を想像する力というのは、あらゆる場面で必要とされます。接客業での経験は、その力を鍛えることに大きく貢献するのです。
たかがアルバイトと侮るなかれ。アルバイトにはこれだけ学ぶ機会があふれているのです。
コロナ禍のいま、現場にたって接客の仕事をしている方は本当に大変だと思います。本当にありがとうございます。
私は、この記事で、自分自身の学びについてお話してきました。
いま現場で働いている人は、大変な環境だと思うのですが、私が学んだ以上のものを得られる機会であふれています。
気をつけつつも、自分自身の学びという資産を蓄積していってください。
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(Photo:Who is Danny/Shutterstock.com)