ワンキャリア執行役員の北野唯我が執筆した『転職の思考法』が発売2カ月で10万部のベストセラーになりました。今回はその出版元でビジネスマン向けに連載した記事を、学生の皆さん向けにリバイスしてお届けします。
サラリーマンが輝いて見えた夜明けのこと
UFJの預金残高は、赤信号を灯していた。
もともと数百万円以上あった貯金残高は、ついに7万円を切った。そして俺は今、無職、26歳。握りしめた手には「夜行バスのチケット」以外何もなかった。
新宿駅のバスターミナルに降り立ち、朝日を見ながら俺は悟った。
—「レールから外れること」
これは日本でいうと、死を覚悟することだった。もちろん、これだけ社会保障が発展した国において、現実的な「死」の感覚はない。「ビジネスパーソンとしての死」だ。肌がヒリヒリした。
そもそも、資本主義の社会には、3つのプレーヤーが存在する。(1)投資家、(2)経営者、(3)従業員だ。そして無職の俺はどのレイヤーにも所属していなかった。そしてそこに戻れる見込みは、限りなく0%に近いように見えた。
社会から「お前は不要である」というレッテルを押し付けられた気分になりながら朝の地下鉄に乗ると、不思議な感覚を覚えた。普通に大企業で働き、文句を言いながらも「毎朝出社する場所がある人」がやたらに羨ましく見えたのだ。
地獄の底から見えるサラリーマンは、一瞬だけ輝いて見えた。
レールから外れることが、これだけデメリットになる国はない
先日、25歳の男の子と出会った。彼は若いころにいろいろ苦労し、今まさに、新しいスタートを切ろうとしていた。「25歳はギリギリですよね」と語る彼は、素晴らしい出会いに恵まれていたが、多くの人はそうはならない。
これはデータを見るとわかりやすい、「離職期間が長いこと」は資本市場で死ぬための、大きなファクターになりえる。顕著なのが女性で、一度離職した人が正社員に再雇用される割合は、国際的に見ても低い。実際、転職に成功した人のうち、10ヶ月以上の離職期間がある人は全体の8%弱にとどまる(出典:厚生労働省「平成27年転職者実態調査の概況」)。
だが、これはおかしな話だ。もしも、1年の離職期間が影響を与えるのだとしたら、留年や浪人はどうなるのだろうか。出産と育児休暇はどうなるのだろうか。
金融機関をはじめとして「ブランク」を気にする企業は多く、僕らは完璧であることを求められている。だが、人生100年時代において「1年」など、誤差の範囲であるはずだ。
「25歳以降」は挑戦できない。あまりにも早く「仕事との結婚」を求められる僕たち
もう少しデータを丁寧に見たい。そもそも「仕事を変える」とはどういうことだろうか。1つは「業種を変える」ということであり、もう1つは、「職種を変えること」だ。そして日本は後者、つまり「職種選び」がとても難しい国だ。
出典:求人情報・転職サイトDODA(デューダ)「未経験の業種・職種に転職できる可能性はどれくらい?」
その理由はシンプルに「職種を変えること」が、25歳を超えると、とても難しいことだ。
だが問題は別にある。それは、この「職種」をコントロールできる権利が、実質的には企業がもっていることだ。日本のほとんどの企業は「総合職一括採用」を行っている。この制度は、入社してから配属が決められる制度であり、すなわち、入ってから「何をするか決まる」わけだ。
言うならば「君は◯◯商事に勤めたいのであって、マーケティングがしたいわけではないよね?」と問いかけられているわけだ。
そしてあみだくじで選ばれた場所に不服があれば、25歳までに早急に声を挙げる必要がある。それ以降は遅い。かつて元Googleの村上氏はこう語ってくれた。
北野:村上さんは、これまでのキャリアを通じて、数々の意思決定をしてきたと思います。学生にとって、就職活動は、人生初めての大きな意思決定の機会です。正解が見えないなか、意思決定をするうえでの秘訣はなんですか。
村上:私は、人生は「あみだくじ」だと思っています。つまり、選んだことがないのに、そっちを選ばなかったことを後悔するなということです。もしかしたら、そっちの道の方がもっと酷かったかもしれないわけだし、自分の決断を後悔することはやめなさいと。あとは、どんな選択をしても、その選択の結果として手に入れられることは、すべて手に入れ、身につけろというふうに思っていますね
引用:ワンキャリア「前Google日本法人名誉会長村上氏が即答!「もう一度、就活をするとしたらどこに入るのか?」誰もが予想しなかった意外な会社とは(前編)」
そう、キャリアとは、あみだくじなのだ。
年上が語る価値観に違和感を感じても、それは全く変ではない
仕事選びは、ときとして「家族」を巻き込むことが多い。親は子を心配し、子どもは親に心配をかけたくないと願う。両方とも思いがあり、無知であるがゆえにおきる衝突。だが、必ずしも、年長者がキャリア選びに対して、聡明であるとは限らない。むしろ新鮮な感覚を持ち、社会のトレンドを捉える力は、若い人こそ強い。つまり
「大企業で違和感を感じること」
それは、全くもって異常なことではないのだ。50年以上前に作られたビジネスや、制度システムが、今の僕らの肌感覚に合っている保証はなにもない。50年前に作られたものといえば、「白黒テレビ」であり、あなたは白黒テレビで「YouTubeを見ろ」と言われたら、どう思うだろうか。アプリケーションは変わる、だが、インフラはそう簡単には変わらない。単純にそれは「組み合わせの問題」でしかないのだ。
大企業で働けないこと、それを周りに言うと「変だと思われること」。
これは決して、あなたの感覚が変なのではないのだ。むしろ、既存のシステムに違和感を感じれる、天才である可能性も十分にあると思うのだ。僕は彼にこの言葉を送りたくなった。
※この記事はダイヤモンド・オンラインに同タイトルで掲載した記事の転載です。
(Photo:Stebelskyy Yuriy/Shutterstock.com)
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