2019年11月、ワンキャリアは人事向けイベント「嘘(うそ)がバレる時代だからこその採用『狭』報戦略 〜八方美人になるな〜」を開催しました。
ブログやSNSなどで誰もが情報を発信できるようになった今、採用についても、クチコミなど求職者(学生)発の情報が増え続けています。企業が発信する情報の嘘は簡単にバレる時代になったといえるでしょう。
企業のブランドを守るためにも、より誠実に、そして、より透明性の高さが求められるこれからの採用活動において、企業は求職者や社員に対して、どのようにコミュニケーションを取るべきなのでしょうか。
そこで今回は、新卒から中途まで、採用市場の第一線で活躍しているプレイヤーをゲストに迎え、弊社の寺口や参加者の皆さんと議論を行いました。
この記事では、本イベントの中でも就活生の参考になるような内容をピックアップ。特に広報や採用の仕事に興味がある人は、ぜひご覧ください。
▼ゲスト
乾 将豪さん(株式会社CRAZY 経営企画室 採用責任者)
久保 圭太さん(株式会社PR Table PRコンサルタント)
渡邉 慎平さん(ナイル株式会社 社長室 採用人事マネジャー)
▼モデレーター
寺口 浩大(株式会社ワンキャリア 経営企画室 PR Director)
イベントには50人ほどの採用関係者に来場いただきました
#嘘バレ の時代を紐(ひも)解くキーワード
イベントでは、4人が考えてきた「#嘘バレの時代を紐解くキーワード」を発表し、参加者の関心が高いキーワードについて、議論するという形で進められました。
まず、取り上げられたキーワードは「個のメディア化」。先ほど触れたように、誰もが情報を発信し、まるでメディアのような影響力を持てるようになった今、採用活動でも社員個人の影響力を生かそうという企業は増えてきました。
ただ、そうやって人事が願えど、現場がついてくるかは別の話。参加者の1人からこんな質問が出てきました。
「ウチの会社は、SNS音痴の社員が多くてメディアに出たがりません。でも、求職者が持つ会社へのイメージと内実にギャップがあるため、社内の様子を伝えるために社員にメディアに出てもらいたいのですが……」
SNSにあまり触れていない世代などでありがちな話ですが、どうすればいいのでしょうか?
「◯◯と言えば▲▲」というタグを浸透させ、市場価値を高める
寺口:意識して社外に露出しようとしなくても、社内での行動次第で、自然と社外にも発信力を持たせることができると思います。簡単に言うと、「社内外の両方でレアになる」ということです。
まずは、社内で「◯◯と言えば▲▲(名前)」というような印象を持たれるようにしましょう。「タグ付け」みたいなイメージでしょうか。◯◯は自分の存在意義とも捉えられます。
この部分を磨くことで、社内だけではなく、社外にも通用するレベルにできるといいですね。そうなると、自然と社外にも発信されやすくなります。その流れを促していきましょう。逆に個人の観点で言えば、「何のタグを自分に付けるのか」を意識して、社内で行動することが大事なのだと思います。
ワンキャリア 経営企画室 PR Director 寺口 浩大
渡邉:個人的には、やりたくない社員に無理強いするのは止めたほうがいいと思いますが、個のメディア化は発信を通じて自分の市場価値を高めるチャンスにもなるので、発信する意義を理解してもらって、積極的に関わる意欲的な社員を増やすことが大事ですね。よく、年収は「業界×職種」で決まると言われますが、個のメディア化によって、その上限を超えることができると考えています。どんなに実力があっても、業界年収や職種年収には相場があります。
しかし、個人がメディア化、ブランド化していくと、そこにフォロワーがつき、「この人が言っているから」という影響力を持つようになります。そうすると「この人と働きたい」「この人を採用したい」と思ってもらえます。そして、「この人が来てくれるなら、これくらい払う」というように、指名性のキャリア形成ができるようになって、市場相場の年収上限を超えることがあるのです。
皆さんはどう思いましたか? 私はこの考え方は就活でも通用すると思っています。エントリーシート(ES)や面接で必ずと言っていいほど聞かれる「学生時代頑張ったこと(ガクチカ)」では、サークル、部活、アルバイトなどについて話す人が多いと思います。
そこで、各組織の中での自分の位置付け=タグ付けを意識して話すことで、短い面接時間の中でも、自分の存在意義が伝わりやすくなるはず。面接官にとっても、入社後のイメージがしやすくなるかもしれません。
学生の皆さんも、ぜひ一度キャッチコピーを考えるような感覚で「自分と言えば▲▲」を考えてみては、いかがでしょうか。もちろん、入社した後も同じこと。常に自分のキャリアを戦略的に考え続けることで、市場価値も高まっていくのでしょう。
採用の基準を明確にし、ターゲットに確実に届ける。人事が考えるべき「採用『狭』報」戦略とは
さて、次のキーワードは「採用マーケ?」です。「?」とついているのは、採用マーケティングという言葉の定義があいまいで、はっきりしていないからとのこと。
近年では、採用広報というポジションが登場するなど、採用活動にPR(パブリック・リレーションズ)やマーケティングの考えを取り入れようとする動きが盛んです。それを指して、採用マーケティングという向きもありますが、広く会社を知らしめるだけでは、採用にはつながらない──それが採用「狭」報の第一歩なのです。
渡邉:マーケティングとは、生活者と企業との関係作り、そして約束ごとだと考えています。また、生活者をファンに持っていくプロセスだとも考えています。
ナイルは現在、中途採用が中心ですが、これまでスカウトやエージェント、そしてリファラル(社員の知人の紹介)といった接点を持つ中で「とにかくいろんな人に会社のことを知ってもらって応募数を増やそう」といった露出脳的な考え方はしておらず、「既に知ってくれている人にどれだけナイルのことを正しく知ってもらえるか」、そして最終的に「ナイルを受けたいと思ってもらえるか」を重視してきました。
ナイル株式会社 社長室 採用人事マネジャー 渡邉 慎平さん
寺口:まさに「狭」く「報」じるですね。ブログなどのオープンな場での情報提供などはあまりやらなかったんですか?
渡邉:そうですね。数は少なくてもファンになってもらうことに注力していました。あえて採用の入り口を狭くしていたわけです。ただ、来年からはナイルを知らない人に向けて、もっと露出度を上げることにチャレンジしていきたいと考えています。
久保:「採用の入り口を狭くする」に関して言うと、PR Tableでは採用の判断基準をあらかじめ「会社の性格」として公表しています。
LIKE(好き)、DISLIKE(嫌い)でそれぞれ言語化して並べているのですが、会社説明会の場でも、必ず社員から説明するようにしています。
例えば、LIKEに書いてある「成長できない人は置き去りにする」「ハイパフォーマーの声を中心に取り入れる」といった性格は、好き嫌いが分かれるポイントだと思います。ただし、良い悪いではなく、合うか合わないかというだけなので、そういう点を理解した上で自分の性格に合っているな、と感じる人だけが選考に進んでほしいと思っていますね。
株式会社PR Table PRコンサルタント 久保 圭太さん
寺口:これくらい厳しく、そしてはっきり言った方が、応募者と企業、どちらにとっても幸せなのかもしれませんね。
「エモ」と「ロジ」、どちらが欠けても人は動かない
参加者:確かに狙った人に来てもらえるようなメッセージの出しかたは大事ですよね。ウチの会社では最近、20〜30代の方々の応募を狙って求人票をエモめに作ったのですが、若い人からの応募が全然来なくて……。皆さんは、採用に「エモ」は効くと思いますか?
寺口:エモ要素とロジックは出し分けていますね。ワンキャリアの場合、もともとクールでロジカルなイメージを持たれやすいので、エモい人もロジカルな人も楽しめる会社として打ち出すようにしています。どちらかに振り切るのではなく、役割を分けるイメージです。
乾:エモの効果は、年齢や時代によっても異なると思います。最近の傾向としては20代半ば〜30代後半の人は、ロジカル重視のいわば「左脳的」な人が多い傾向にあります。エモは若い人の方が伝わると勘違いされがちですが、最近は情報が増える中でエモの「うさん臭さ」を感じているのかもしれません。
一方で40代や50代の人は、1人で生きていけるほどのスキルや余裕があり、「人生をかけても良い」と思える場所を探している場合も少なくありません。一周回って働きがいややりがいを探している方も多い場合があります。そのため、年齢層の高い方がエモが効くイメージがあります。
株式会社CRAZY 経営企画室 採用責任者 乾 将豪さん
渡邉:エモは悪くないと思いますが、使いどころを間違えてしまうと、応募者の誤解を生んでしまいます。エモだけでは人は動きませんが、ロジックだけでも人は動きません。
新卒採用で言うと、エモを押しすぎると、エモしか残らなくなるんですよ。後出しでロジックを出しても遅いんです。新卒採用をやっていたときは、「学生の皆さんが会社を選ぶときは、ある程度ロジックで固めて2社くらいまで絞ったところで、最後はロジックではなく感情(エモ)で決めるのがいいよ」と伝えてましたね。
寺口:個人的な意思決定のバランスの割合としては、ロジックは7割、残りの3割は覚悟の醸成だと思います。どんなにロジックで固めて合理的であっても、最終的に「自分で決めた」という感覚がとても大事です。ロジカルに考えた上で、最後は「えいやっ!」って決める覚悟が大切だと思います。オファーされたからという理由で働いても長続きしないのは、つらいときに、よりどころになる覚悟(自分で決めた感覚)がないからかもしれません。
「7割がロジック、3割が直感が大切」という話は、就活での会社選びにも通じます。
複数社から内定をもらって、年収や福利厚生、仕事内容などで2社まで絞っても、それ以上はロジックだけで判断するのは困難です。そこで周りからの意見に流されて決めてしまうと、後で人のせいにして責任逃れしてしまうこともあります。「自分で決めた」という感覚は、同時に「自分で責任を取る覚悟を決めた」とも言えるのかもしれません。
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