志望動機──それは就活の永遠のテーマ。なぜ弊社なのか? なぜ第一志望なのか? どこまでいっても完璧な答えは出ない。その中でいかに最適解を見つけていくかが重要なのだ。
しかし、JT(日本たばこ産業)人事部の顔・妹川久人氏は「そもそも、うちでは志望動機を聞いていない」と言う。その言葉の真意、そしてJTが今年から3月選考を始める理由を、ワンキャリア北野唯我が問うた。
<目次>
●「志望動機」は重要じゃないです。書類選考でも聞いておりません
●面接で教えてほしいのって、究極は「Why So?」と「So What?」の2つだけ
●好きな話をする。その状態が、面接の最終系かもしれない
●好きなことって意外と変わる。「好きのウェイト変化」を意識せよ
●「やりたいことあるなら、すごく苦労するぞ」人事部長の先輩からの深い一言
●何かを変えていくプロセスに「自己決定」を入れることが、あなたのやりたいことを知るスタート地点
●自分たちの生き死には自分たちで決めましょう
●適切に変わる、それが未来への投資。なぜJTは3月選考もスタートするのか?
●ぶっちゃけ、3月何%、6月何%って決めてるんですか?
「志望動機」は重要じゃないです。書類選考でも聞いておりません
妹川 久人(いもかわ ひさと):95年JT入社。物流、営業を経験した後、財務省出向。その後、経営企画、事業企画などで国内たばこ事業の中長期戦略策定・実現の一端を担う。2015年より人事部、現在人事部長。2020年より執行役員サステナビリティマネジメント担当。
北野:就活生が、この時期考えるのが志望動機です。そして「将来何がしたいですか?」という質問。今さらなんですが、「志望動機」って、どれぐらい重要なんですか?
妹川:答えから言うと、重要じゃないです。書類選考でも聞いておりません。
北野:え? 聞いていないんですか?
妹川:はい。
北野:じゃあ、なんで、いろんな企業でこの質問を聞くんでしょう……。僕が学生なら疑問に思いそう。
妹川:おそらくですが、人事が、もし志望動機を聞くとしても、それは志望動機を聞きたいわけじゃなくて、その人を知るための問いの1つだから。確かに分かりやすい例が志望動機かもしれないんですよ。相思相愛なのか、とかが分かるのは。
北野:つまり、志望動機も「あなたを知るための手段」だと。
妹川:そうです。重要なのは、自分ってどんな人間なのか。そして、それを何かに例えることです。
その方法は、志望動機かもしれないし、好きなものや嫌いなものとかかもしれない。そういうことを語ってもらって、一緒にその人を深掘りして、その人を知るっていうのが大事だから。
だから、正直言っちゃうと志望動機でどういう答えだからいいとかっていうのはないです。もちろん「この会社をつぶしたいんです」って言われたらどうかなと思うけど……。
でも僕だったら、「それなんで?」って聞くもんね。ほんとにそうなのかなぁ、違うんじゃないとかってね、なるかもしんない。
北野:面白いですね。
面接で教えてほしいのって、究極は「Why So?」と「So What?」の2つだけ
北野:志望動機を聞かないなら、妹川さんは何を聞いているんですか?
妹川:僕の言葉じゃないから悔しいんだけど、言い得て妙だなぁっていうのがあります。もう言っちゃいますね、JTの場合って「Why So(なぜそうなのか?)」と「So What(だからなにか?)」しか聞きません。
北野:そうなんですか?
妹川:うん、だってダイアログ(対話)してるもん。
北野:へー、Why SoとSo What。
妹川:つまるところ、それしか聞いてないです。さっきの志望動機だって、結局その人がどんな人か知りたいから質問しているわけですよね。もちろん、人事はいろんな言葉使うけど、どんなこと言っても、Why SoとSo Whatしか聞いてないと思います。
北野:面白い! でも、言われてみれば、究極的に面接の質問は、この2つに収斂(しゅうれん)されるかもしれないです。しかし、疑問も残ります。だってそれだと、全ての企業が同じ質問をして、同じ人を採用したい! となっちゃいますよね?
好きな話をする。その状態が、面接の最終系かもしれない
北野 唯我(きたの ゆいが):1987年兵庫県生まれ。新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局で勤務し、米国留学。帰国後、ボストンコンサルティンググループに転職し、2016年ワンキャリアに参画し執行役員就任。『転職の思考法』と『天才を殺す凡人』は合計26万部。新刊は『分断を生むエジソン』『オープネス 職場の空気が結果を決める』。
北野:言い換えれば、JTだからこその「究極の質問」ってのは、ないんですか? ということです。
妹川:究極は「好きな話をする」ですね。
北野:好きな話?「◯◯が好き」みたいな?
妹川:そうです、ただ、自分が発信するだけにならないようにする必要があるので、どちらかというと、聞く側の面接官も時には話す側にも回るのが大事ですよね。何か共通項が出たりすると勝手に盛り上がる。だから、普通に友達と話す感覚ですよね。
北野:つまり、好きなテーマを話し合うこと、それが面接の最終系かもしれない、と。これは分かりますね。僕も面接で、必ず聞くのが、「○○のことなら何時間でも語れるってぐらい、好きなことってありますか?」って質問です。
妹川:そうそう!
北野:一方で、これを言うと「好きなことなんてないよ!」って答える学生さんもいる気がします。好きなことを聞かれると一番困るという面もある。これについてはどう思いますか?
妹川:大事なのは、好きの「ウェイト」を知ることだと思うんです。
北野:好きのウェイト?
好きなことって意外と変わる。「好きのウェイト変化」を意識せよ
妹川:北野さんは、昔好きと思ってたことと、今好きって思うことって、広く言えば同じでも、「好きのウェイト」が違ったりすることってありません?
北野:ありますね、「食べ物」とかそうです。
妹川:仕事も一緒だと思うんです。大事なのは「好き」っていうことすら多分変わるよ、っていうこと。そして、その感情には素直になってよくて、素直になっているからこそ、これなんで好きなんや? とかを、点検できるんじゃないかなと思います。
北野:「好きの点検」。なるほど。
妹川:もう1つは、「それってどういうことだろう?」と深掘りすること。好き嫌いって言っても、言葉にはいろんな意味があるわけですよね。例えばね、僕は例示として「好き嫌い」と言ったんだけど、もうちょっと言うと、好きを追い求めている人と、嫌いを遠ざけたいって違うもんだと思うんですね。
北野:例えば、「◯◯が嫌だから、◯◯したくない」というのと「◯◯が好きだから、大変だけど追い求める」みたいなのは違うと。
妹川:そうです、同じ「好き嫌い」でも、いろんな種類がある。だから、それってどういうことだろう? と一段深掘りすることで、より深く話せるようになる。これは大事なことですよね。
北野:学生よ、「それってどういうことだろう?」と深掘りせよ、と。
「やりたいことあるなら、すごく苦労するぞ」人事部長の先輩からの深い一言
北野:妹川さんも、やりたいことって変わりました?
妹川:変わりました。僕は、たまたま人事部長やることになったんだけど、人事部長の先輩の助言がすごく面白くて。「人事としてやりたいことあるなら、すごく苦労するぞ」って言ったんですよ。
北野:あー、面白い。人にまつわる仕事は、やればやるほど「答えがない」ですから。すごい深みを感じますね。
妹川:やりたいことないなら徹底的に人に任せれば苦労しないよ、特にうちの会社は、みんなしっかりしてるからって。でも、やりたいことあるなら、とても大変だよ、って。
それで僕すごく救われたのと、こんな僕が人事に合っているかどうか分かんないけど、やれるところまでやろうと。いい年になって、自分の色を持たずにサラリーマンやるのは、やだなあっていう感覚で。いい意味でセルフィッシュでいたいなぁ、と。
でもやっていくうちに、好きになっていくんですよね。
北野:まさに、やりたいことに変わっていった、と。
何かを変えていくプロセスに「自己決定」を入れることが、あなたのやりたいことを知るスタート地点
北野:では、そのやりたいことが変わるとして、「最初の一歩」はどうやって見つければいいと思いますか? 学生さんが、明日からでも「やりたいこと」を見つける方法です。
妹川:僕、何でもいいと思ってるんだけど、スタートはやっぱり、自己決定をプロセスに入れること、だと思っています。
北野:自己決定をプロセスに入れること……?
妹川:例えばシステム。これはITのシステムという意味だけじゃなくてね、人材マネジメントとかも含めてね。何かが変わる際に、自分で決めた、という感覚を持つのはとても大事。
自分がおかしいと思うこと、こうじゃないか? って思ったところは変えていく。言われてやるんじゃなくて、自己決定を入れるだけで、自分の得意とか、好きとか、少しずつ分かるようになっていくんですよね。
北野:なるほど。いろんなことを、「自分で決めた」上で、試すことが大事だと。
妹川:そうです。すごく乱暴に言うと、得意なことは、どんなことだって人の役に立つことになり得ると思ってるから。それに、どこからスタートするかよりも、好きなことを「点検できるか」ってすごく大事だなぁって。
北野:自分のやりたいことを知るためには、「自己決定」と「点検」が必要だと。なるほど。
自分たちの生き死には自分たちで決めましょう
北野:少し話題が変わりますが、今、日本企業は苦しんでいますよね。実は、最近出した本(『分断を生むエジソン』)の登場人物が背負っているテーマが「負け方」なんですよ。
妹川:この告知は、記事に入るんでしょう?(笑)
北野:(笑)。その中で、「戦略的敗北」って業(ごう)を背負った、キャラクターが出てくるんですよ。このキャラクターが、日本は負け方がちょっと下手だったんじゃないか? って仮説を話すんですよ。要は、第二次世界大戦とか見ても、最後の最後までめちゃくちゃ必死に抵抗した結果、大々的にダメージをくらったみたいな。
日本の人口が減っていくっていうのは、これまで10戦やって7勝3敗だった世界が、10戦やって3勝7敗になる世界になるってこと。そのとき、「リーダーのあるべき姿」は変わるわけですよね。野球に例えると、強いソフトバンクを経営する監督と、昔弱かったときの横浜を経営するときの監督で違うじゃないですか。
妹川:なるほど。
北野:つまり、僕が聞きたいのは、これからもJTは強くあり続けられるのか? ってことなんですよ。JTは強かった。でも、これからもそうなのか? と。
妹川:私流の言葉で言うと、自分たちの生き死には自分たちで決めましょうってことですね。弊社に限らず日本企業は今、いろいろと直面していて、厳しいっちゃ厳しいっていう部分もあります。予測では、2050年には人口が1億人切るでしょう? 2100年にはもしかしたら、5,000万人かもしれない。
でも、長い歴史を見てると、日本の人口って1,000万人か2,000万人でずっと来てて、たまたまこの数百年の人口がピョンと跳ね上がって、急に下がるってだけなんですよね。ぴょんと跳ね上がったときのプロトコルとか仕事の仕方に合わせて人材マネジメントとかが設定されてるんで、少なくとも同じことしててもあかんていうのが分かってるじゃないですか。
アクティブに動かなければ、変革のときに足かせになるっていうのを考えると、じゃあ逆に正解は分かんないなら、正解がこれかもしれないって、どんどん逆にこっちから正解を作っていく。ただそれだけなんですよ。
北野:なるほど。国難が分かっているなら、先手を打て、と。
適切に変わる、それが未来への投資。なぜJTは3月選考もスタートするのか?
北野:変化というと、今年、JTさんは3月選考も始めると聞きました。つまり、3月選考と6月選考の年2回になる。あらためて、これはどうしてなんでしょうか?
妹川:就活をされてる方にもいろんな方いらっしゃるでしょう。それをひとくくりにして、皆さん何月にどういうプロセスを経て、6月になったら面接してとかって、シンプルにおかしくありません?
北野:僕はそもそも、選考解禁の話自体が「職業選択の自由」に反してるんじゃないか、と思っている派なので(笑)。
妹川:学業もされてるから、自分はこの5月6月がすごく大事なときなんだっていう方もいると思う。でも、「いつでもいい」ってなるとそれはそれで困る。
北野:そうですね、それ。自由すぎるのもまた困ります。
妹川:そう、「ほんとに自由でいいよ」って言われても困る。自由ってすごく怖いんです。そうすると、少しでもテーラーメイド的に、いろんな時間の過ごし方の中で、この時期の面接はどうですかとオファーしてみたいなという思いから、3月選考を始めました。
ぶっちゃけ、3月何%、6月何%って決めてるんですか?
北野:これぶっちゃけ、3月何%、6月何%採るって決めてるんですか?
妹川:いえ、決めていないです。
北野:ないですか。じゃあ3月でこの人、めっちゃいいけど、6月選考もあるから、ちょっと保留かなみたいなことは、ないですか?
妹川:ないですね。他社さんは分からないけども。別にきれいごとじゃなくて、大人の関係でお互いが選び選ばれっていうのが前提なんですよ。それに僕は、うちの会社をもっと知ってくれたらなぁっていう感覚もどこかにあるんですよ。その前提で行くとね、JTで頑張りたいですって、僕らはそう来てくれるとうれしいなぁって思ってる。
北野:もう1つ、聞いていいですか? 3月で落ちたら、6月も受けられますか?
妹川:残念だけど、システム的に1回しか受けられなくなっちゃってます。僕はダメと思ってないけど。
北野:なるほど、分かりました。3月か、6月か、学生にとってベストな方を選んで欲しい。JTもそこで判断したいと。最後に、就活生の皆さんに伝えたいことはありますか?
妹川:JTはいい意味で変だし、いい意味で変わろうとしているし、いろんな人が主人公になれる会社です。昨日より今日、今日より明日と思える人と出会えればうれしいなと思います。僕らと一緒に遊んでみたいという人が扉をノックしてくれることを待っています。
北野:ありがとうございました。
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【ライター:yalesna/カメラマン:竹井俊晴】