東大・京大就活ランキング第1位。コンサル業界の中でも、就活生から圧倒的な支持を集める野村総合研究所(以下、NRI)。
1965年に日本初の本格的な民間総合シンクタンクとして創業したNRIは、1990年代に経営戦略コンサルティングにも進出し、長く日本社会の発展に貢献してきました。
そんなNRIは、日本社会の現在とその未来に何を感じているのか。同社パートナーの倉林さん、そして採用担当の吉竹さんに詳しく伺いました。
「各産業はプラットフォーマーとオペレーターに二分される」NRIパートナーが考える日本企業の未来
──NRIのパートナーとして多くの日系企業を支援してきた倉林さんから見て、日本社会は現在どのように変化していると思いますか。
倉林:現在、人々の価値観が変化の局面にあると考えています。
これまでは、基本的に右肩上がりに進化を続ける科学技術と連動して、人々の価値観が変化してきました。しかし今日になって、「何を信じるか」という人々の価値観だけが大きく変化していると感じます。
長らく経済や企業が成長すれば個人の幸福度も高まると信じられてきましたが、この数年で、科学技術の進歩は必ずしも個人の幸せにはつながらないと皆が気付き始めたのです。「幸せの規範」がない中で、「自分にとっての幸せ」が何なのか、一人一人が真面目に考えるという時代がやってきます。
──価値観が変わる局面というのは、非常に興味深いです。個人の価値観の変化は、企業の経済活動にどのような影響を与えるのでしょうか。
倉林:評価者が非評価者に指示を出すピラミッド構造が崩れていき、専門性を持った人材がプロジェクトごとに集まるような、フラットな組織構造へ変化していくでしょう。若い社員が「出世したから何なんだ」「給料が増えたら幸せなのか」という問いを持つ中、組織のフラット化を進めないと、これまで人気のあった大企業でさえ若い人を引き付けられなくなっているのです。
倉林 貴之(くらばやし たかゆき):株式会社野村総合研究所、パートナー。2001年に新卒入社し、インフラ、マーケティング領域を担当したのち、消費財・サービス産業のコンサルティングを専門とする。2016年からパートナーとなり、現在に至る。これまでに経営戦略、事業・機能戦略、業務改革、経営基盤改革といった一連の経営戦略コンサルティングプロジェクトを多数経験。
──組織がフラット化すると、大企業が抱えている多数のマネージャー社員が役割を失うことになりそうです。
倉林:その通りです。30代半ばから50代の中堅社員も、今後はマネジメントに徹するのではなくプレイヤーとしても活躍することが求められるでしょう。
また、テクノロジー起点での時代の変化も進んでおり、デジタルトランスフォーメーション(DX)が経営の大きなテーマになっています。しかし「50歳のおじさん」がDXをリードしていくのは正直難しい。そのため、感覚的にデジタルが分かる若い世代へ権限を委譲せざるを得ないのです。
若手の知恵が必要となる以上、クライアントも、そしてNRIも変わっていく必要があります。
──そのような変化に対応できた企業は、各業界の中でも主導的な立場に立つことになるのでしょうか。
倉林:はい。これから日本の各産業は生産性を高めるために、プラットフォーマー(※1)企業とプラットフォームの上に乗るオペレーター企業に分業化していくでしょう。いち早くDXと組織のフラット化に成功した1社か2社が、プラットフォーマーとして、業界の中でも非本業の機能をオペレーターに提供し、それ以外のオペレーターは各種の専門機能を担うことになります。
プラットフォーマーは圧倒的に強い立場に立つことができるため、各業界のトップ企業はこのポジションを狙いに行くべきです。
(※1)プラットフォーマー……商品、サービス、情報を提供する基盤となる企業。多くの企業が、プラットフォーマーのサービスを基盤として自社サービスを提供している
──近年、IT産業でプラットフォーマーとなったGAFA(※2)が、非IT領域にも進出を進めていますよね。
倉林:確かにGAFAは勢いを増していますが、彼らがどれだけ強くなっても、産業ごとのプラットフォーマーは存在し続けるというのが私の予想です。例えば、Googleが自動運転に参入してきましたが、すぐには大手自動車会社に太刀打ちできないと思います。各業界のプラットフォーマーの後ろにGAFAのような業界横断的プラットフォーマーが存在しているという構造になるでしょう。
(※2)GAFA(ガーファ)……米国に拠点を持つGoogle、Amazon、Facebook、Appleの4つの大手IT企業。プラットフォーマーとして情報を独占し、その行動には世界的に注目が集まる
ビジョンのないコンサルタントにクライアントは導けない
──クライアント企業の事業環境が変化することで、コンサルタントに求められる役割も変化しているのでしょうか。
倉林:はい、将来の不確実性が高まってきている中で、クライアントから求められる仕事の質は変わってきています。
コンサルタントの仕事には、クライアントがどこに進むべきかを指し示す「ナビゲーション」と、明らかになっている課題を解決する「ソリューション」の二つがあります。
かつては、クライアントが持ち込んだ課題をコンサルタントが検証し解決するというソリューションの仕事が中心でした。しかし昨今は、彼らが「向かうべき場所」を指し示すナビゲーションを期待されることが増えています。そのため、コンサルタントは世の中がどの方向へ進むかを自ら考え続ける必要があり、コンサルティングの仕事は私が入社した頃より難しくなったと感じますね。
吉竹:これまで私が担当した製造業のコンサルティングでも、「自社の事業環境は将来にわたってどう変化していくか」「その中で自社の強みをどう生かして勝ち筋を見いだすのか」を考える仕事がほとんどでした。
時代の不確実性を読み解き、クライアントをナビゲートしていくためには、分析や論理的思考だけでは足りません。コンサルタントには右脳と左脳の両輪で考え、まだ誰も見たことのない未来を構想する力が求められるのです。
吉竹 恒(よしたけ ひさし):株式会社野村総合研究所、経営コンサルタント、採用担当。2014年の入社以来、経営戦略コンサルタントとして40件近くのプロジェクトに従事。自動車業界をはじめとする製造業界の成長戦略立案や事業戦略立案を経験。2018年4月より、コンサルティング事業本部の採用担当に就任。著書に『決定版 EVシフト―100年に一度の大転換』(東洋経済新報社)。
──多くの学生は「コンサルはあくまでも事業会社のサポーターであり、自分のビジョンを持っていない」と考えているようです。このようなイメージについてどうお考えですか。
倉林:これまでの話を踏まえれば、「各業界がどうなっていくのか」「日本企業はどこへ進むべきなのか」というビジョンを持たないコンサルタントに仕事を任せられないのは明白でしょう。ビジョンを持ったナビゲーターとしての価値を認めてもらえているからこそ、NRIにコンサルティングの依頼が来ているのだと考えています。
吉竹:私自身、「日本の製造業界のビジョンを創り出すこと」を仕事にしてきました。
欧米の企業は、業界のビジョンを示してデファクトスタンダード(※3)を作り出すことに長けていますが、日本企業はこれが苦手。私は製造業に関するさまざまなプロジェクトを通して、業界全体が進むべきビジョンをクライアントに示すことがありましたし、本を出版することで世の中にそのビジョンを発信する機会もありました(※4)。
(※3)デファクトスタンダード……「事実上の標準」の意。特定の製品が市場に普及することで、公的な認証がなくても、業界の標準として認められるようになった規格
(※4)出典:『決定版 EVシフト―100年に一度の大転換』(東洋経済新報社、2018)
──「ビジョンのないコンサルタントに仕事は任せられない」とは、学生のイメージを大きく覆す回答かもしれません。NRIのコンサルタントが「各業界についてのビジョン」を持っていることは分かりましたが、NRI自身が「日本社会でこのような役割を担いたい」というビジョンはあるのでしょうか。
倉林:先述の通り、日本の各業界はプラットフォーマーとオペレーターに分かれていくと思いますが、その産業構造の変革の一端はNRIが担うべきだと考えています。
そのためにNRIは、各業界のプラットフォーマーになり得るリーダー企業に対し、コンサルティングを超えて資本の投入や事業共創も行い始めました。クライアントからも「NRIさん、一緒にビジネスをやりましょう。逃がしませんよ」と言われることが多くなっています(笑)。
顧客とともに栄える。産官学から信頼を勝ち取るNRIの精神
──過去に倉林さんが携わった業務の中で、「NRIならでは」の仕事にはどのようなものがありましたか。
倉林:特に印象に残っているのは、ある大手日系IT企業とともに取り組んだ、ハウスクリーニングのマッチングサービス事業の立ち上げです。
ハウスクリーニング業界には適切なマッチングサービスがなく、サービスと価格が不釣り合いであるという課題がありました。これについては、経済産業省や地方自治体も頭を抱えていたのです。
──面白い取り組みですね。NRIはサービス立ち上げにどのような形で参加したのでしょうか。
倉林:私たちが注力したのは、クライアントと中小事業者の他、大学や政府機関を巻き込んだビジネスモデルの構築です。
このプロジェクトの鍵は、オンラインマーケティングに疎い各地域の中小事業者でも使えるサービスにすることでした。そのためには、例えば「話した言葉を全てデジタル情報に変換する」といった、大学で研究されているような最新技術が不可欠です。もともとシンクタンクとして創業したNRIは産官学に強いネットワークを持っているため、こうした連携を促進させることができました。
吉竹:国や自治体から直接依頼をいただくこともあります。
例えば、国に依頼されてNRIがコーディネートした各業界の主要プレイヤーによる委員会は、宇宙開発、ヘルスケア、サービス、インフラ、スマートシティなど、多岐にわたります。これも、長く産官学と連携してきたNRIならではの仕事ですね。
──NRIコンサルタントが共通して持つマインドのようなものはありますか。
倉林:NRIには「顧客とともに栄える」という共通のマインドが根付いています。顧客が栄えた結果として、自社の繁栄があるのです。
また、先代社長が信頼関係を構築するための要素として「品質」と「先進性」を挙げていました。高品質なコンサルティングを提供しつつ、顧客の数歩先を見据えた行動をする。全てのコンサルタントがそれを実践してきたからこそ、行政や多くの企業と信頼関係を築けてきたのだと思います。
吉竹:共に栄えるというマインドを反映してか、NRIにはおせっかいな人が多いですよね(笑)。顧客だけでなく、同僚にも協力を惜しまない。若手が先輩にレクチャーをもらうために時間を30分取ったつもりが、気付けば2時間も教えてくれたというのはよくある話です。人へのおせっかいが、いつか自分に返ってくるということが分かっているのです。
人材輩出企業としてのNRI。未来を見据えるコンサルタントを育てたい
──倉林さんは新卒入社したNRIでパートナーを務めていらっしゃいますが、普段どのような仕事をしているのでしょう。
倉林:クライアントの経営陣と、社会・業界やクライアント企業の将来展望・課題について議論し、NRIが価値を出せるテーマを見いだす仕事が中心です。その上で、テーマにアプローチする適切なチームを組んで、プロジェクトを組成しています。
また、プロジェクトを通じて得た知見をベースに、社会や業界の展望について自分なりの考えを発信する活動も行っています。
──倉林さんのように社内で活躍される方の他に、NRIを卒業される方もいると思いますが、他ファームのパートナーとして活躍されている卒業生の事例を教えていただけますか。
倉林:例えば、A.T. カーニー、Strategy&、アクセンチュア、ドリームインキュベータ、デロイトなどのファームにはNRI出身のパートナーがいます。
事業会社だとLinkers、freee、モスバーガーを展開するモスフードサービスなどの役員にNRI出身者がいますね。最近は起業をする人も増えてきました。
吉竹:若手のうちに外へ出る人は、大手よりもベンチャーへの転職や起業が多い印象です。私の周囲にも、最近退職して起業した同期がいます。
──各業界でNRI出身者が活躍されているのですね。率直なご意見を伺いたいのですが、外資系ファームが勢いを増す今日、あえて日系ファームであるNRIに新卒入社する魅力として何が挙げられますか。
倉林:二つあると思います。一つは、NRIにはシンクタンクのDNAがあること。政策提言を行うシンクタンクでは、日々の業務の中でも大局的に物事を考える機会が多くあります。入社して2、3年たつと、各業界がどうなっていくかというビジョンを語れるようになるでしょう。ナビゲーターとしての素地が、そして自ら主体者となって実行していくという責任感が育まれる環境があるのです。
もう一つは、若手の成長スピードが早いことです。NRIでは若手でもクライアントの前に出る機会が多いため、経営コンサルタントとして早く成長して自立することが求められます。ある意味、若手を若手として扱わないような雰囲気を感じますね。
吉竹:外資系ファームから転職してきたある若手社員が、「NRIに入社してから自分なりの意見を求められる機会が増えた」と話していました。逆に、NRIから外資系ファームに移った社員は高く評価されていると聞きます。NRIは、業界の中でも若手育成に定評があるようです。
──外資系ファームでは、社員に「Up or Out」のプレッシャーがかかって早く成長できるとも言いますが、NRIにはそれがありませんよね。なぜでしょうか。
倉林:「Up or Out」のプレッシャーは、日本の将来を考えるというNRIのミッションに適さないからです。
「この半期でどれだけ売れるか」といった短期的な成果を求めたり、「結果が出なかったらクビにする」という方針を掲げたりすると、コンサルタントに恐怖感を与え、未来を考える余裕を奪ってしまいます。NRIは日本社会の未来を考える人材を育成するために、コンサルタントが安心感を持って働ける環境を提供したいのです。
自己成長よりも、価値提供に情熱を持てる人物と働きたい
──ここからNRIの2021年卒採用について伺います。今年の夏インターンシップで昨年から変化したポイントがありましたら教えてください。
吉竹:インターンの大筋はこれまで通りですが、倉林さんをはじめとするパートナーが参加するなど、内容はブラッシュアップされています。
──たとえインターンに参加しても、内定が出るのは2020年の6月ですよね。
吉竹:夏インターンでNRIに興味を持ってくれた学生を待たせてしまうのは申し訳ないと思っています。
ですので、夏インターンで頑張ってくれた学生には、NRIとのマッチングを図ってもらう機会を存分に提供していきたいと考えています。
採用活動において私たちが大切にしているのは「学生にとって、本当に望ましい採用プロセスになっているのか」ということです。就活が長引くことは、学業との兼ね合いもあり、多くの学生にとって最適ではないでしょう。
おのおのの学生が最も都合の良いタイミングで選考を受けられるよう、通年採用へのシフトを検討しているところです。
──採用を全面的に見直すとは、大きな決断ですね。それでは、NRIが求める人物像を教えていただけますか。
吉竹:コンサルタントの役割の変化を考えると、これまで以上にクライアントに寄り添い、未来を語れる人物が求められます。転職を意識する学生が増えていることは健全な傾向だと思いますが、セカンドキャリアを見越した自己成長以上に「クライアントや日本社会に価値を提供したい」と考えられる学生をNRIは求めています。
──最後に、この記事を読む就活生に向けてメッセージをお願いします。
倉林:自分とじっくり向き合うことができるのは、就活の醍醐味(だいごみ)です。当たり前だと感じるかもしれませんが、周囲に流されずに、自分で情報を収集し、自分で働き方を決めてほしいと思います。
吉竹:不透明、不安定な時代だからこそ、自分自身が安定することが求められます。そのためには、自分なりの物差しや仮説を持ってキャリアを描いていけるかがポイントです。人気企業ランキングや就活偏差値に従うのではなく、自分だけの観点を持って就活に臨んでください。
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【2017年度】なぜ商社や広告代理店を抜いて、NRIが就活ランキング3位なんですか?
【ライター:スギモトアイ/編集:辻竜太郎/カメラマン:保田敬介】