外資系金融・コンサル・ベンチャー志望の就活生の耳にも入るようになった「ベンチャー・キャピタル(VC)」。
しかし学生向けにVCについて解説するコンテンツは少なく、その実態は謎に包まれているといえよう。
実は日本国内におけるベンチャーキャピタリストは年々増えており、ベンチャーキャピタリストになるための敷居は低くなってきている。また、一昔前までは新卒でベンチャーキャピタルに入るのは厳しいから、まずは金融機関で働くというケースも多かったようだが、「新卒でベンチャーキャピタリスト」というキャリアパスは現実的な選択肢になりつつあるのだ。
この記事ではスタートアップ企業の買収情報や資金調達情報を提供するサービス「datavase.io」を運営する私から学生の皆さんに向け、ベンチャーキャピタリストの実態と彼らのキャリアパスについてお話しさせていただきたい。
VCのビジネスモデル
本題に入る前に、VCとは何か簡単に説明しておこう。
VCとは、ハイリターンを狙った戦略的投資を行う投資会社(投資ファンド)のことである。
VCは主に高い成長率を有する未上場企業(スタートアップ企業)に対して投資や経営コンサルティングを行い、投資先企業の価値向上を図る。このように投資先の経営にまで携わる投資スタイルは「ハンズオン」と呼ばれており、時には投資担当者が投資先企業の社外取締役に就任して経営の一端を担うこともある。
VCの報酬には二種類あり、投資した企業を上場(株式公開)させたり、他のファンドなどに転売(Exit)したりすることで利益を得る成果報酬と、個人投資家や機関投資家から集めた資金を運用することで得られる管理報酬が存在している。
VC市場は以下の図に示したように、ファンド運用者(GP)/ファンド/ファンド投資家(LP)/ベンチャー企業という4つの主体から構成されている。本記事で扱うVCとは、ファンド自体と、ファンド運用者である(GP)を指すものとする。
ここからは、datavase.ioに掲載されている日本の著名なVCのパートナーの経歴を分析し、VCを運用するベンチャー投資家の謎に包まれたキャリアをひも解いていくことにしよう。
ベンチャーキャピタリストの70%はトップ大学出身
ベンチャーキャピタリストの約70%が、東大・京大・早稲田・慶應・一橋などのトップ大学を卒業していた。
LPとよばれる事業会社や個人投資家から資金調達するVCの代表にとって、信用は何よりも必要となる。学歴社会の日本では高学歴人材でなければファンドの代表になることは厳しいともいえるだろう。
ベンチャーキャピタリストの就活:約55%が金融機関、約21%がVC新卒入社
言うまでもないことかもしれないが、ファンドの代表者の過半数以上が新卒入社先として銀行、証券会社、M&A仲介などの金融機関を選んでいた。
上述の通り、LPはベンチャーキャピタルにファンドリターンを求めるが、投資先である起業家もまた、ベンチャーキャピタリストにCFO的役割を求めることも少なくない。ベンチャーキャピタリストを目指す者にとって、ファーストキャリアで財務のスペシャリストとしての資質を磨くことができる金融機関は、就活で必ず見ておくべき就職先といえるだろう。
しかし現在のトップキャピタリストの約21%は、ファンドに新卒で就職しているという事実も見落としてはいけない。
特に彼らの新卒入社先として目立つのは老舗VCのジャフコだ。ジャフコの魅力はシードステージの企業に大型の投資を行い、投資先企業のメンバーの一員として起業家をサポートできることではないだろうか。そのため投資家として必要な知識とともに、ベンチャー企業で働いて得る経験を得ることができる。
ベンチャーキャピタリストの最年少は20歳に
近年ネット業界はバブル絶頂期にあり、起業家/投資家の双方にとって資金調達の障壁は低くなっている。
このような市場動向を受けて、1億円を資金調達しその2%である200万円を運用するといった若手のベンチャーキャピタリストが増えつつある。2018年、投資ファンドUpstart Venturesの代表に弱冠20歳の上杉修平氏が就任し、日本最年少のベンチャーキャピタリストとなった。現役慶應大生の彼は高校時代から起業に興味を持ち起業家コミュニティに所属していたが、投資家と交流を重ねるうちに起業家ではなくベンチャーキャピタリストを志すようになったという(※1)。
このような事例は海外では珍しいことではなく、日本でも一般化していくかもしれない。
(※1)参考:THE BRIDGE「20歳の現役慶大生がファンド「Upstart Ventures」代表就任ーー200名規模の98世代起業家コミュニティ手がける」
ベンチャーキャピタリストに必要なこと
ベンチャーキャピタリストは上場株に投資する投資家とは大きく異なる。
デューデリジェンス(※2)がほぼ不可能な企業に対して投資を行うベンチャーキャピタリストは、投資先の創業者の可能性を信じて企業価値を算定し、資金を拠出してくれるLPに対してその企業に投資するメリットを説明しなければいけない。また起業する側より、投資する側がやや多い日本においては、お金をちらつかせるだけでは有望な企業に投資することが困難だ。
投資先企業の次回資金調達までのサポートから、IPO(新規公開株)やバイアウトといったエグジットまでの間、いかに事業に貢献できるかを起業家に説明しなければパートナーとして認めてもらえないのである。
(※2)デューデリジェンス……投資先企業の価値やリスクを調査すること
実際に、シリコンバレーのスタートアップと対等にコミュニケーションがとれるVCは1割程度であると米国のトップベンチャーキャピタリストであるビノッド・コースラは言及する。残りの9割のVCは、トップ1割が投資したスタートアップが資金調達を終える直前に滑り込みで投資しているのである。起業家に認めてもらうことの難しさがお分かりいただけるだろう。
また、起業家をサポートする方法は金銭的支援や事業のアドバイスに止まらない。
例えば米国のVCであるAndreessen Horowitzは、投資先に対してエンジニア人材やオフィス、住まいを一部無償で提供している。
このように資金だけでなく人材やインフラの課題に対しても支援を提供できるVCこそスタートアップから求められているのではないだろうか。
また、これまでベンチャーキャピタルに対する評価は一部のコミュニティ内でしか入手できないブラックボックスであった。しかし、datavase.ioなどの投資家のクチコミを見られるサービスも普及してきた。これにより情報の非対称性は改善され、起業家サイドはより投資家をシビアに選定しすることになるだろう。
【datavase.io】
datavase.ioは企業情報の検索サービス、いわば企業分析用Googleです。普通に検索するだけでは出てこない、年間10,000社を超える国内外の企業情報、1,000を超える市場情報を提供しています。
また2019年1月時点で、投資家の評価件数は世界一です。
いかがだっただろうか。
優秀な学生はコンサルや投資銀行を検討することが多いが、私は皆さんにVCという選択肢を提案したい。
ファイナンスの専門知識、事業経験、起業家ネットワークを同時に得られるVCは、将来起業を志す学生にとって魅力的な就職先ではないだろうか。