こんにちは、ワンキャリ編集部です。
ワンキャリアが総力を挙げてお届けする人気企画、総合商社特集。今年は「総合商社の現場力」と題し、第一線で輝く若手・中堅社員に焦点を当ててお送りします。現場で活躍する商社パーソンは、魅力的な仕事に携わる一方、多忙を極めるためOB・OG訪問が難しいのが実情です。インタビューを通して、普段なかなか知ることができない総合商社のリアルと、大義を持って働く商社パーソンたちの気概を味わってください。
今回は丸紅の現場力に迫ります。2009年入社、紙・板紙製品部 紙貿易課に配属され、現在は丸紅紙パルプ販売に出向している青木沙耶香(あおき さやか)さんにお話を伺いました。
<丸紅の「現場力」 押さえるポイントはここ!>
・丸紅のカルチャーは事業部をまたいで協力し合う文化
・現場の若手が持つべきは、担当する商材への影響力と責任感
・丸紅は総合商社の意味を問い直す「変革期」にある
「総合商社」特集ラインアップ
住友商事/伊藤忠商事/三菱商事/三井物産/丸紅/双日
中国で、総合商社のサプライチェーンを実感。国を越えて協力体制がつくれる強さ
──青木さん、今回はよろしくお願いいたします。早速ではありますが、青木さんが「商社の現場」を感じたエピソードを教えていただけますか?
青木:中国やインドネシアの製紙メーカーと連携し、日本国内向けにテッシュペーパーを開発・販売する業務です。新規ビジネスのパートナー探しから携わっており、現場で動くメンバーが私だけだったときもあります。市場を把握するために、小売店や現地の製紙メーカーへ1人で足を運び、人脈づくりから販売戦略まで担当していました。自分が成約した商品を初めて店頭で見たことは、今思い出しても感慨深いです。
■青木 沙耶香(あおき さやか)さんのプロフィール
2009年4月:紙パルプ総括部 総務企画課 配属
2011年:紙・板紙製品部 紙貿易課(海外貿易業務)
2013年:丸紅紙パルプ販売に出向 現在、同社 情報用紙部 情報用紙課 課長補佐
──中国やインドネシアの工場にも足を運んでいたと。海外現地での仕事に苦労を感じることはありましたか?
青木:社内外の協力体制づくりや、日本と海外のクオリティの差を埋めることが大変でしたね。例えば、日本では柔らかいティッシュが好まれますが、中国で柔らかいティッシュを製造するには技術的にハードルがあります。ビジネスとして成立するかが分からない段階だったこともあり、「なぜ、ここまでやらなくてはいけないのか?」と主張する工場を説得することは骨が折れました。
──認識の差をどのようにして埋めたのか、教えてください。
青木:心掛けたのは、お願いの背景をしっかり伝えることです。日本ならではのティッシュの柔らかさや高品質を理解してもらうために、顧客ニーズをよく知る小売店の方に工場への同行をお願いしました。彼らと連携して、世界でも群を抜く日本のティッシュ消費量や使用するシーンの多様さを工場の技術責任者に伝え、説得に当たったのです。その結果、中国側が状況をイメージできるようになってくると、だんだんと協力も得られるようになりました。一方で、現地では丸紅の現地スタッフが通訳をしてくれたので、言語の面でコミュニケーションに苦労することはありませんでした。
──商社を志望する学生の中には、自己成長のためにも、海外現地では通訳を介さず仕事をしたいと考える人が多いのではないでしょうか。
青木:確かに通訳なしで海外の事業会社に送り込まれた後輩の話を聞くと、「もし自分がタイムスリップできるなら、現地語での交渉にチャレンジしてみたかった」という思いもあります。その反面、語学にマインドや時間を割かなくてよい分、本来の業務や交渉の内容面で伝えるべきことに集中できました。これはビジネスを素早く進める上で、とても重要なことです。
──各国の言語や商習慣に精通したネイティブとチームを組むことで、ビジネスを大きく前進させられる側面もありますね。丸紅では、現地スタッフが通訳を務めることは多いのでしょうか?
青木:はい、当時は珍しくありませんでした。私の通訳を担当してくれた現地スタッフは、丸紅の現地法人で原料のトレードを担当していました。原料サイドで製紙メーカーと接点のある者なので、交渉もスムーズでしたね。商社としてサプライチェーンを持っている強みを感じられました。また、私がWeChat(※1)などのツールを駆使して日本側の戦略や成約状況を共有したことで、スタッフ自身も商品に情熱を持って、製紙メーカーへ私の話を伝えてくれたと思っています。
(※1)WeChat(ウィーチャット):中国トップシェアのメッセンジャーアプリ
──では、総合商社の中でも「丸紅」ならではの強みについて聞かせてください。
青木:丸紅の強みは、部門を越えて協力し合う文化があることです。大きなプロジェクトを手掛けるので、「やる」と決めるまでのハードルがないわけではありませんが、一度動き始めたら部署の垣根なく助け合う姿勢があります。責任感の強い人が多いので、それぞれ試行錯誤しながら協力し合っています。
「君が入社したら面白いことになる」ポジティブな反応にひとめぼれ
──青木さんの就活時代の話も聞かせてください。そもそも商社は第一希望でしたか?
青木:いいえ、違います。私は大学で研究していた、環境ビジネスに関われる仕事を軸に就活を進めていました。そのため総合商社以外にも、環境ビジネスに関わるメーカーやベンチャー企業の他、排出権ビジネスを取り扱う金融機関なども受けていました。
──丸紅には、どのような理由で入社したのかを教えてもらえますか。
青木:ひとめぼれでした。丸紅は、一次面接から「この会社なら自分がやりたいことができるのでは?」と思えたんです。就活中、私は志望動機を会社に合わせて変化させるのではなく、一貫して「環境ビジネスに携わりたい」と言い続けていました。
他社では「環境ビジネスをやっている部署に配属されなかったらどうするの?」とネガティブな対応をされることがほとんどでしたが、丸紅は「環境ビジネスに直接携われる部署は限られているけれど、それ以外の部署でもビジネスを立ち上げることができる。君が来てくれたら面白いことになるね」と唯一ポジティブな反応をしてくれました。
──実際のところ、今の業務は青木さんが取り組みたいことに直接的に結びついているわけではないと思います。働いてみて、どのような思いを持っていますか?
青木:確かに環境事業に所属しているとはいえ、働き出すと環境ビジネスに関係のないことも多かったです。ですから最初のうちは、「自分がやりたいことを実現するためにも、まずは一人前のビジネスマンになりたい」というモチベーションで仕事をしました。実績が積み重なると、業務の中で自分のしたいことに近づくことができますよ。
「自ら考え、アクションする」事業部をまたいだ連携は増えている
──上記のお話に関連して、学生が総合商社のキャリアに対して持つ不安についても伺います。「総合商社は入社しても配属リスク(※2)がある」と心配の声が寄せられます。現場の目線からいかがでしょう。
(※2)配属リスク:新卒で配属される部門によりキャリアパスが左右されるリスクを指す
青木:学生の皆さんにとって、総合商社は縦割りのイメージがあると思います。しかし、丸紅では着実に事業部をまたいだ動きは増えていますし、今後も増えていくと思います。幅広い事業に魅力を感じられる人や、いろいろな領域とコラボレーションしたい人も楽しめますよ。
──「下積みが長い」「キャリアのつぶしが利かない」という心配も同様に寄せられますが。
青木:下積みが長いという印象はありません。若手から現場にも出ますし、上司からはむしろ仕事を任せてもらっている印象の方が強いです。キャリアのつぶしという点は、「ジェネラリストとスペシャリスト、どちらを選ぶか?」という話になるかと思いますが、それは丸紅の中で今まさに議論しているテーマの1つです。
私個人の意見としては、商社パーソンはスペシャリストになるというよりも、ある程度その業界を理解した上で、仕事で培った幅広い人脈を活用して問題解決の仕掛けやビジネスモデルを構築することが求められていると考えます。
「変わろうとする丸紅を感じた」ビジネスプランコンテストに参加
──丸紅では、近年新たな体制や制度が導入されています。昨年のインタビューではIoTビッグデータ戦略室の設立や、中期経営戦略で「強い『個』」を掲げているとのお話がありました。青木さんは、社内のビジネスプランコンテスト(以下、ビジコン)に参加しているそうですね。
青木:はい。ビジコンが本年度開催されたのですが、丸紅が変わろうとしていることが分かる、インパクトのある制度導入だと思います。実際、この制度が発表されたとき、あちらこちらで社員がこの制度について話をしているのを聞きました。
──青木さんがビジコンに参加したきっかけは何ですか?
青木:私は「丸紅アカデミア(※3)」というプログラムに関わっています。ベンチャーキャピタルや海外スタートアップなど社内外のゲストスピーカーから新しいビジネスを創造するための知識を得たり、丸紅がイノベーションを起こすために何ができるかを考え、議論するプログラムです。本プログラムをきっかけに過去にうまく形にできなかった環境ビジネスのアイデアを見直していたら、ビジネスモデルとして成立する可能性が見えてきたため応募しました。
(※3)丸紅アカデミア:2018年度よりイノベーションのための取り組みとして導入。世界中の丸紅グループから選抜された人材が、徹底した思考と議論からイノベーションを作り出す場
──ビジコンの中には、「発案して終わり」という事例も多々あります。丸紅の場合は、いかがでしょうか。
青木:既存のビジネスに依存する危機感は、丸紅の全社員が持っていると思います。実際に、ビジコンのアイデアを相談すると、どの事業部も協力の手を差し伸べてくれます。危機感がある分、この試みが社内のさまざまなチャレンジの促進につながることを期待しています。「発案して終り」にならないよう事業を創っていかなくてはなりませんね(※4)。
(※4)最終審査が1月17日(水)に行われ、青木さんは見事「事業化挑戦チケット」を獲得した。今後、自分のアイデアをビジネスにするために活動していく
手帳に「成長記念日」若手の成長を自らの喜びとする文化
──青木さんからみて、丸紅の若手はどのような形で活躍の機会がありますか?
青木:丸紅では、上司が率先して若手に挑戦させる文化が強いです。特に印象的なのは、部下や若手を徹底的に応援したり、褒めたりするところです。中には「うちの部下は◯◯がすごいんですよ!」とお客さまの前で後輩社員を紹介することもあります。このように若手のときから先輩に応援してもらうため、自分が先輩になったときも後輩を応援する文化が根付いているのです。私自身も、指導している後輩が成長していく姿を見るのが楽しくてたまりません。自分の手帳に、「今日は◯◯さん(後輩の名前)の成長記念日」と書き込んでいるくらいです(笑)。
──後輩の成長を楽しむ様子が、ありありと想像できます。人材活用の観点では、丸紅は女性総合職の活躍を推進している印象があります。一例として、2014年から「紅 novation Program」と呼ばれる、若手女性総合職とその直属上長を対象に意識を高める研修プログラムが始まっていますね。こうした女性総合職の働き方を支援する動きについて、青木さんはどう感じますか?
青木:「結婚・出産をしたから退職する」という考えはなく、ワークライフバランスをマネジメントしている人がほとんどです。こうした働き方の変化に伴い、私が入社して約10年間で時短勤務を活用する人が増えていると肌で感じています。それだけ丸紅でもワーキングマザーの比率は高くなっているのです。
また、働き方の柔軟性は女性総合職に限らず、全社が向き合うべき課題だと思います。育児だけでなく、介護によって今までのような働き方ができない社員も増えてきました。こうした社員をサポートするための社内説明会も行われています。テレワークも実験的に取り入れているので、これらが制度として整備されてくると、より働きやすい環境が整うのではないでしょうか。
自分の幹を変えずに挑もう。利害関係なく企業訪問ができるのは今だけ
──これまでのお話から、青木さんが丸紅でイキイキと働いているように感じます。「これまでに辞めたい」「仕事がつらい」と思ったことはないのですか?
青木:正直に申し上げると、何度か悩んだことはあります。しかしその時の状況を振り返ると、どれも「自分は貢献できているのか?」と感じたときでした。若手時代、自分のやることが空回りしてしまって結果が出ないときや、自分の強みを生かしきれていないとき、「私が丸紅で働いている意味はあるのか?」と考えることはありましたね。
──就活生はもちろん、これから社会人になろうとしている人も同じ壁に当たり、悩むと思います。青木さんがその状況を乗り越えた方法を教えてください。
青木:私が実行したのは「別の視点からの代案」を周囲に発信し続けることです。もちろん全ての案が採用されるわけではありませんが、意見を発信し続けることによって、結果的に別のところで自分の案を試すチャンスが巡ってくることがあります。
──最後に、この記事を読んでいる就活生にメッセージをお願いします。
青木:何を自分の軸にしたいのか? 何をしたら楽しいのか? という、「自分の幹(みき)」を見つける努力をしてください。利害関係なく企業を訪問できるのは就活だけですし、人生の中でこんなにも自分と向き合う時間はありませんから。このアドバイスはOG訪問で会う学生たちに必ず伝えています。
──自分の「幹」というのは、面白い表現ですね。
青木:自分の幹が見つかると、「この企業では、面接でこう言えば喜びそうだ」と、自分の意志を曲げて発言することがなくなります。たとえ表面上の言葉を変えて内定を得ても、就職後にミスマッチを感じて苦労してしまいます。自分の幹を見つけて、自分を変えずに企業を見ていけば、その後のキャリアにも悔いはないはずです。就活は貴重な時間なので、ぜひ楽しんでください。
──青木さん、本日はありがとうございました。
「総合商社」特集ラインアップ
住友商事/伊藤忠商事/三菱商事/三井物産/丸紅/双日
【インタビュー:スギモトアイ/ライター:yalesna/カメラマン:友寄英樹】