※こちらは2019年11月に公開された記事の再掲です。
ロジカルシンキングで世界は救えない。今必要とされているのは人と組織をつなぎ、成果を出すマネジメントだ──。
一昔前までは、会社の1つの部署内でビジネスは完結していましたが、昨今は全社横断で進めるプロジェクトも増えており、さらには、異業種の会社同士でのコラボレーション事業などが進んでいます。
そのようにビジネスが複雑化している今、プロジェクトを円滑に進めていく上で注目されているのが、プロジェクトを支える組織「PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)」です。
裏方とも言える存在ですが、米国では、プロジェクトマネジメントはMBAと同等レベルの必須スキルとなっている一方、日本ではあまりその存在や重要性が認識されていないのが現状です。その理由はなぜか、そしてなぜPMOが注目されているのか。3期連続で増収増益、東証一部上場も果たしたPMOのパイオニア、株式会社マネジメントソリューションズ(MSOL)の代表取締役兼CEO 高橋信也氏に詳しく伺いました。
高橋 信也(たかはし しんや):株式会社マネジメントソリューションズ代表取締役社長兼CEO。福岡県出身。修猷館高校卒業、上智大学経済学部卒。ゼミは組織論、日本的経営の研究。大学卒業後、アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)入社。CやC++によるプログラミングから業務設計まで幅広い工程を経験した後、2001年よりキャップジェミニのマネジャーとして経営管理・業績管理のコンサルティングプロジェクトに携わる。コンサルタントとしての外部の目からだけではなく、内部の目でマネジメントを経験したいとの思いから、ソニーグローバルソリューションズへ入社。当時の最年少プロジェクトマネジャーとなる。グローバルシステム開発プロジェクトのPMOリーダーとして活躍。インドにおけるオフショア開発を経験。2005年 株式会社マネジメントソリューションズを設立し、現在に至る。(所属部署はインタビュー当時のものです)
「プロジェクトマネジメント」の重要性が分からない日本
──PMOや「プロジェクトマネジメント」という言葉をこの記事で知る学生も少なくないと思います。まず、その概要や必要性を簡単にご説明いただけませんか。
高橋:必要性も何も、プロジェクトマネジメントは必須のスキルだと思います。欧米だとMBAと同じくらいの重みがあります。欧米が全て進んでいるとは言いませんが、ここに重要性を感じられていないのは、遅れていると言わざるを得ません。
──恥ずかしながら、MBAと同じくらいの重みがあるとは知りませんでした……。
高橋:プロジェクトマネジメントにはPMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)という国際資格があります。資格保持者は全世界に87万人以上おり、そのうち約40%が米国、中国は15万人で約18%を占めています。一方の日本は3万6000人程度で全体の4%ほどと言われています。プロジェクトや事業が失敗してしまうのは、大体はマネジメントスキルが不足しているから。これではビジネスで諸外国に後れを取るのは当たり前です。
──というと、事業を率いるような人はプロジェクトマネジメントのスキルが必須であると?
高橋:リーダーはもちろんですし、起業などを考えている人ならなおさらです。本質的には全てのビジネスパーソンに必要だと言っても過言ではありません。
仕事というのは規模が大きくなれば、関係者が増え、計画通りに進まないことも増えてきます。トラブルも起きるでしょう。そういったさまざまな事象に対応し、プロジェクトを完遂できるようマネジメントするのがプロジェクトマネジャー(PM)です。とはいえ、プロジェクトマネジャー1人でできることにも限界がある。そこで、その実行支援を行う組織が私たちのようなPMOというわけです。
──具体的には、どのような業務を行っているのでしょう。
高橋:基本的にはプロジェクトの課題や進捗(しんちょく)を可視化し、プロジェクトを管理するためのプロセス導入や改善に携わることで、プロジェクトマネジャーの意思決定をサポートします。正しく状況を見られなければ、正しい意思決定はできません。案件によっては、プロジェクトマネジャーそのものをお願いされることもありますよ。
──ありがとうございます。ただ、プロジェクトマネジメントやPMOは「システム開発やエンジニアの世界の話」と考えている学生は少なくないように思います。
高橋:確かにそう考えている人は少なくないと思います。日本におけるPMP資格保有者もほとんどが大手のSIer(システムインテグレーター)です。しかし、昨今は新薬開発から新書出版など、IT(情報技術)領域に限らずプロジェクト単位で動く仕事が増えています。今後はどのような業種、業界でもプロジェクトマネジャーと、それを支援するPMOという存在は不可欠となるでしょうね。
事実、弊社が抱えている案件のうち、ITやシステム開発関連のものは3割程度。それ以外は全て非ITの案件です。最近では、エネルギー関連事業者のイノベーションプロジェクトや、自動車業界の新規ビジネスプロジェクトといった案件にも携わっています。
あなたは「リスク」の本当の意味を知っているか?
──確かに貴社のIR(投資家向け情報提供)を見ると、ここ3年ほど売り上げも営業利益も右肩上がりでマザーズへの上場、そして2019年10月には東証一部上場も果たしています。マネジメントソリューションズが設立されたのは、15年ほど前のことですが、高橋さんはやはりニーズがあると見込んで創業されたのでしょうか。
高橋:確かにコンサルから事業会社に転向した後、「これほどの大企業でもプロジェクトマネジメントで失敗するのか」と驚き、そこに日本の未来を憂うほどの課題とニーズを感じたことが創業のきっかけになりました。ただ、正直に言えば、設立当時はここまで需要が伸びるとは思っていなかったですね。
──そうなんですか? それでは、今なぜPMOの需要が高まっているのでしょうか。
高橋:端的に言えば、変化が前提の時代で、さまざまなプロジェクトが発足するものの、現場でマネジメントができていないからです。特に今は「名ばかりPM」が増えており、プロジェクトマネジメントを熟知した人間が現場に入っていかないと、プロジェクトがうまく動かない。
名ばかりPMの中には、プロジェクトマネジメントで求められている「10の領域」を知らないのはもちろん、プロジェクトを各タスクに分解した「作業分解構成図(WBS)」すら、きちんと書けない人がいる。こんな状況で外部にプロジェクトを丸投げしているのです。発注側もスキルが必要なのですが、そのスキルを持ち合わせていないこともあります。
──プロジェクトマネジメントのスキルがないまま、PMをやるとどうなるんですか?
高橋:物事が進まない、あるいは途中で頓挫することが多いでしょうね。ビジネスにおける共通言語を知らないと、議論がバラバラになります。
例えば「リスク」という言葉ひとつとってもそう。プロジェクトの関係者が集まった会議で、「◯◯のリスクについて話し合いましょう」となっても、人によってリスクのイメージには差があるはず。プロジェクトマネジメントの世界では、リスクという言葉に明確な定義があります。共通言語があることでコミュニケーションのムダやムラを減らせるのです。
──そこまで重要なスキルやPMOが日本に浸透しないのは、なぜなのでしょうか。
高橋:皆さんの耳に入るニュースだけでも、世界は大きく変化しているのに、日本にはどこか「もう学ぶことはない、これで良いのだ」という雰囲気があるように感じます。大企業の経営者たちもPMが必要なことは分かっているはずなのに、自社で学ぶ機会を設けたり、社員教育に投資したりすることもなく、SIerやITコンサル企業に丸投げということも多い。こうした現状に苛立ちとともに、強い課題感があります。
こうした雰囲気は、かつての高度経済成長が前提であった年功序列や終身雇用制度に起因するところも多いと思います。新陳代謝が必要でしょう。
これは、我が国の問題として、国としても現状を知り、視野を世界に向けていくべきだと思います。「これで良いのだ」の意識が変わらないままでは、日本は本当にダメになりかねません。
ビジネスにおける「ソフトスキル」を体系的に学ぶのがプロジェクトマネジメント
──実際、プロジェクトマネジメントのスキルを高めようと思った時、どういう部分が「壁」になるのでしょうか。
高橋:「ステークホルダーマネジメント」と「リスクマネジメント」の2つですね。これらは身につくまでに特に時間がかかります。
ステークホルダーマネジメントというのは、利害関係者に事業への協力を促すスキルです。ステークホルダーが増えるほど、関係者ごとに事業への関心の差が生じます。仕事をしていると、乗り気ではない関係者への参画を促し、利害の衝突が起こる関係者への説得など困難な状況に直面することもしばしば。いわゆる「政治」ですね。だからこそ、良好な人間関係を構築するスキルが求められます。
もう1つのリスクマネジメントは、組織内のリスクにおける全般に対応するスキルです。組織的なリスクを検知したり、その度合いを評価したり、リスクへの対策を講じたり。どちらも場数をこなす必要があるので、身に付くまでにそれなりの年月がかかります。20代のうちに独自の型を確立できるのは、センスのある人だけでしょう。
──ビジネス上のいわゆる「ソフトスキル」を体系化して学んでいく、というイメージでしょうか。
高橋:そうですね。多くの人は「ステークホルダーマネジメント」や「リスクマネジメント」に関する用語を知っていても、残念ながらその意味を深く理解していません。ましてや最新のケースを学んでいるわけでもないため、お客さまとの議論も上辺だけで終わってしまいます。
それこそ、先にお伝えしたように、一朝一夕で身に付くものではないため、お客さまに評価されるレベルになるには7年ぐらいはかかると思ってください。弊社の新卒でも5〜6年ぐらいでたどり着ける領域でしょう。
「会社を使って『あなた』がどうなりたいかを大切に」 高橋社長の流儀
──今新卒の話が出ましたが、MSOLに新卒で入るとプロジェクトマネジメントのプロフェッショナルになれるということでしょうか。
高橋:もちろん、今の社員もさまざまな場所で活躍していますが、卒業生も面白い道に進む人が多いです。約5年前に退職した人が、今青森でカフェを始めとする飲食店を6件ほど経営しています。実はこの間、彼にMSOLで学んだことをどのように今の事業に生かしているかを講演してもらいました。苦労しながらも、今は年商1億円に届きそうなぐらいにまで成長したそうです。
──すごい。MSOLから飲食店の経営というのは、珍しいキャリアですね。
高橋:彼に経営手法を聞くと、MSOL時代の学びやマネジメントを生かし、効率的な経営をしていることが分かりました。ビジネスに対するマインド、経営リソースの最適化のほか、Web情報の活用、パンケーキという都会らしさを用いた販売戦略など、東京から地元へ戻ってきた彼だからできる方法を駆使して、人々をひきつけています。
──退職した人材にも友好的だという印象を受けます。
高橋:先日、新卒採用を開始した年(2012年入社)に入社した最後の一人が、事業会社で経営企画として働くために退職しました。退職理由は、「MSOLで得た知見を生かし、次のフェーズにチャレンジしたい」。寂しかったですが、頑張れよと皆で送り出しました。
新卒は自身の市場価値のためと、弊社の投資対効果でいえば、3年は働いてほしいと思いますが、それ以降で、自身のやりたいことや、目指す道が見つかったのなら、卒業を止めることはありません。私は入社式の時、次のことをあいさつで伝えるようにしています。
「市場価値の高い人材になるためにも、3年はMSOLで働くと良いでしょう。うちの会社でどうなりたいかよりも、うちの会社を使って『あなた』がどうなりたいかを大切にしてほしい。自分らしいキャリアを見つけ、卒業という形で転職したら、今度はうちのお客さんになってもらえるとうれしいです」
──まるで転職を勧めるような内容ですね。ここまで、ハッキリと宣言する企業はなかなかないと思います。
高橋:僕自身が、コンサルティング企業から外に出たからこそ見えた景色があるからです。「コンサル的」に仕事を進める中でねたみやそねみを受けたり、鼻っぱしらが折られたりという経験を何度もしてきました。しかし、これらの経験がコンサルタントとしての深みを増すきっかけになったのも事実。外に出るのを止める権利はないと思ってます。
ロジカルシンキングでは、現実解は出せない。人には「感情」というファクターが働く
──MSOLでは卒業生も含めてPMO人材が多数活躍しているようですが、新卒で入社するとどのようなキャリアを描くことになるのでしょうか。
高橋:研修後は先輩とともに案件にアサインされ、最初の1〜2年はプロジェクトの管理を担うことになります。その後は3年〜4年をかけてリスクマネジメントやステークホルダーマネジメントなど、なるべく全てのフェーズを体験してもらいます。
どんなプロジェクトにも対応できるという意味で、お客さまの前に一人前のPMOとして立てるのは5年目や6年目かと思います。実案件でのOJT以外にも、社員自らが企画するセミナーも2日に1回のペースで開催されており、他案件で得られた知見も日々共有されていますよ。
──ある意味、コンサルタントの成長と似ているように思います。
高橋:「20代は多くの知識やスキルを磨いた方が良い」「経営全般の知識を20代で獲得」とうたうコンサルティング企業も多いですが、表面的であるように感じます。
確かに、彼らの企業には多様なプロフェッショナルがいます。しかし、それではプロジェクトが変わるたびに上司のプロフェッショナリティも変化するため、得られる経験の深さは学生たちが思うよりも浅いんです。
──コンサルは浅い……ということですか?
高橋:いいえ、その辺りはもともとの素養次第だと思います。センスがある人は、どんな状況からでも、深みをもって学ぶことができるから。どうしてもコンサルの宣伝だと、実績を出しているセンスのある人たちが表に出てきます。それを見た学生たちも「僕たちも同じようになれるかも」と変な期待を抱いて、コンサルの門をたたく。
そこから、仕事を通して、学びの浅さに気付いて自ら成長できるか、誤解をしたまま30代になってしまうかはその人次第だと思います。例えば、ロジカルシンキングが実案件では使い物にならない、ということも多いですよ。
──使い物にならない!? それはなぜでしょう。
高橋:ロジカルシンキングでは、机上の正解は出せても、現実解は出せないんです。人には「感情」というファクターが必ず働くから。
人や組織を扱う以上、合理性だけでなく感情にも向き合う必要がある。人、組織をつなぎ、物事を推進するプロジェクトマネジメントスキルの方が組織内では高い効果が期待できます。人間ってロジカルに説明されたからといって、全員が素直に納得するわけではないでしょう。実際にその通り行動してもらえるかどうかは、別物なんです。ロジカルシンキングでは、プロジェクトも、世界も救えないんですよ。
プロジェクトマネジメントに向くのは「他者の痛みが分かる人」
──逆にプロジェクトマネジャーって、どんな人が向いているんでしょうか。
高橋:経験則にはなりますが、ある種の「脛(すね)に傷」を持っている人は特に伸びやすいと思います。自分自身が悩み、苦しみ、乗り越えた何かがある人。だからこそ、面接でも過去の失敗や、そこから学ぶ姿勢を重要視しています。
サークルの部長として離散したチームをまとめるのに苦戦していた学生、子供の時に両親の離婚がきっかけで非行に走っていた経験を持つ学生など……。それぞれが、どうやったらうまくいくのかを考え、もがく中で自分なりの学びを得ています。誤解を恐れずに言うと、大学3〜4年まで何も苦労せずに来た人たちは伸びにくいんです。
だからこそ「俺は完璧だ」と言うような人はMSOLにはあまり合わないでしょう。自分に自信を持って、MSOLを志望してくれている人には申し訳ないですが。
──これまでの話を通して、プロジェクトマネジメントというのは、グローバルで活躍できるスキルという印象を持ちました。
高橋:「グローバルで活躍」は少し大げさかもしれません。これからの日本は、世界以前にアジアの中で激しい競争にさらされます。これからのアジアで生き抜くために必要なスキルと言っていいでしょう。それこそ、2017年のPwC英国の調査レポートによれば、2050年までには、日本のGDP(国内総生産)をインドネシアが抜くかもしれないと予想されているぐらいです(※)。
さらに言うと、同じアジアでも、日本のような島国と中国などの大陸では、仕事のやり方は全然違います。アジアの中でも仕事の多様化が進んでいるのです。スピードも全く違います。これにいかに対応するかが、これからのビジネスパーソンが試される部分。グローバルで活躍するためにも、そもそもアジアで食べていくだけのスキルがないと勝負にすらならないことを忘れないでください。
(※)参考:PwC Japan「PwC、調査レポート「2050年の世界」を発表 先進国から新興国への経済力シフトは長期にわたり継続」
大人にはない「直感」という武器で、就職活動を乗り越えろ
──最後にこれから就活を始める学生へのメッセージをお願いします。
高橋:「就社活動ではなく、就職活動をしましょう」です。実は10年前から私が学生に伝えるメッセージは変わっていません。言い換えると、学生たちも変わっていないということになります。
このメッセージの意図は、「これからどうやって稼いでいきたいのか?」を自分の頭で考えてもらいたいことにあります。つまり、人生100年時代の中で「食べていくレベルの稼ぎと成長で良いのか?」ということをもう一度内省してほしいです。
──どうしたら、自分の考えや意思を感じ取ることができるのでしょう。
高橋:「自分は何者なのかを考えること」です。自分が好きなことや、やりたいことを20代そこらで見つけてきなさいと周囲の大人は言いますが、正直、今の皆さんがいくら考えてもまだ分からないことが多いと思います。だけど、君たちには直感があります。それが大きな武器なんです。
感性が衰えている大人たちは「20年そこらしか生きていないお前たちに、何が分かる」と言うかもしれません。しかし面白いことに、若い君たちの直感ならそれが分かってしまいます。
ぜひ、自身の得意なこと、それが難しいなら、得意と言えるかもしれないことから分析してみてください。そして、苦手なことは今日からやめましょう。それぐらいの思い切りを持って行動してみてください。
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