※こちらは2019年1月に公開された記事の再掲です。新型コロナウイルス感染拡大の影響などで、働き方やライフスタイルに変化が起きている部分もあります。
こんにちは、トイアンナです。突然ですが、あなたはいくら稼ぎたいですか?
就活、転職、結婚。20歳以降の人生は、年収を抜きに語れません。しかし、年収は「高ければ高いほどよい」とも言えません。たとえ高給でも、激務で心身をすり減らして働ける人は、そういないからです。
とはいえ、学生の段階で「年収◯◯万円が自分の暮らしにピッタリだ」と言える方はごく一部ではないでしょうか? そこで今回は、年収400万円台~3000万円台まで、各年収レンジのアラサー男女へのヒアリングをもとに、リアルな暮らしぶりをお見せします。やみくもに高年収を目指す前に、進路を考える参考となれば幸いです。
年収400万円:地方勤務&福利厚生で充実した暮らし
年収400万円の世界【1】
・メーカーの地方工場に勤務
・地方は物価が低く、余裕のある生活
・妻とは転勤先で出会う
30〜34歳の平均年収は403万円(※1)。いわゆる「普通の大人」はこの年収で暮らしています。
年収400万円の知人は、大阪を拠点とするメーカーの生産管理部門。別の県にある工場で働くため、地方へ転勤しました。家賃は1LDKで3万円。自動車がないと暮らせない不便さにも、すぐ慣れたといいます。
「もともとぜん息持ちで、空気がきれいなところで働きたかったんです。ですから今の勤務先は大満足。ご飯も安いし、同じ年収で東京に住むより、かなり余裕がありますね。月に1回は外食しています。このまま異動願いは出さず、永住したいです。」
と、余裕のある暮らしぶりです。私生活も充実しているようで、
「弊社はこの地域ではトップ企業の1つなので、正直モテます。ただ僕はもう嫁がいるんで……。嫁とは転勤後に出会いました。会社で飲みに行った居酒屋の、バイトの子です。20代後半で結婚するのが普通という空気がありますから、都内で暮らすより結婚は早くなるかもしれません。」
と、早婚になりやすい事情を明かしてくれました。
さらに、都内に住むホテル勤務の方は、こう教えてくれました。
年収400万円の世界【2】
・都内ホテルに勤務
・勤務先の福利厚生で、休暇もおトク
・まかないと夜間勤務で貯金できる
「んー、忙しいせいかもしれないですけど、思ったより貯金できてます。今は夜間勤務も多いので、休みでも昼間は外へ出歩かなくって。ホテルビュッフェの余りがまかないで出ますし、福利厚生で系列のホテルは割引だったので、年に1度は旅行していますよ。ぱっと見の給料は普通ですけど、こういう福利厚生が地味にうれしいですよね」
このように、同じ年収400万円でも、福利厚生の有無や勤務地によって暮らしぶりは激変。「福利厚生たっぷりの年収400万円」は狙い目といえそうです。
なお、福利厚生には (1)法人向けの福利厚生提供サービスを利用できるパターンと、(2)自社サービスが割引になるパターンの2つがあります。特に後者は分かりやすく、例えばメーカーでは自社製品が割引になるケースが多数。入社するまで実態が見えにくい福利厚生ですが、OB・OG訪問で「お休みの日は何をされていますか?」などと質問して探ってみましょう。
(※1)出典:平均年収.JP「30歳、31歳、32歳、33歳、34歳の平均年収を解説します!」
年収600万円:ホワイトな働き方なら人生を謳歌(おうか)できる
年収600万円の世界
・都内の出版社に勤務
・安定収入、残業ほぼなしのホワイト企業
・早く帰って趣味に熱中
次に、年収600万円で30歳を迎えた男性からお話を伺います。
「小さな専門出版社に勤めています。毎年専門書の改訂版を出すので、売上が安定している分、年収も安定していますね。急な残業もめったにないので、毎日定時退社してます。
会社を出てからその足で、バンドの練習に行ってます。楽器って練習時間を割かないといけないので、時間に余裕のある社会人じゃないとキツいですよね。周りにはもっと年収を上げたら? とか言われますけど、バンドやってる限りは今のままがいいかな」
ヒアリングによると、年収600万円クラスの30代は、熱中する趣味を持っている方が圧倒的に多くいました。カメラ、楽器、クラシック鑑賞など、「これだ!」と決めた趣味へ時間を割くためにホワイトな働き方を選んでいるようです。
年収600万円ラインの業種としては、看護師、診療放射線技師、歯科技工士、精神保健福祉士など資格職が多めです。通常の就職ルートでは大学職員、システムエンジニア、BtoBメーカー、コンサルティングファームの人事・財務担当などが挙げられます。総合商社の一般職も30代で年収600万へ達するため、「一般職=低所得」と勘違いすると痛い目に合います。
なお、「基本給は安いが、残業代込みで年収600万円超え」という業界は、激務の覚悟が必要です。募集要項に「みなし残業◯◯時間」という単語が入っていたら注意が必要です。
年収800万円:都内で家族を養えるけど……。独身は「幸福度が高い」
年収800万円は、外資系メーカー、日系投資銀行、不動産デベロッパー、インフラ、銀行などが該当します。
ここから都内でも家族を養える年収になってきます。専業主婦がいる世帯の年収は「600~799万円」が最頻値ですが、これは地方も含めた結果。筆者の推測ですが、都心の専業主婦世帯は年収800万から現実味を帯びると思われます。
そのためか、年収800万円以上の男性は既婚率がぐっと上昇するようです。しかし妻子を養うとなると、暮らしぶりは「豊か」とまでは言えないようです。既婚者の男性は、こう語ります。
年収800万円の世界【1】
・都内の日系大手IT企業でSIerとして勤務
・家族を養うと「カツカツ」
・家族計画は入念に設計
「カツカツだねー、正直。子供のために貯蓄したら、あとは新卒のときみたいな暮らしをしています。学生でバイトしまくってたときの方が楽しんでたかも? でも、うちは嫁さんが弁当を作ってくれてるし、飲み会も少ないからまあ平気かな。ただ、うちの子にも僕と同じように中学受験はしてほしいから、そうすると2人目は無理かなって話してるよ。もともと不妊治療で子どもができたのもあって、また100万円近くも治療にお金を使うのもなって……」
一方、独身世帯の年収800万円はプチぜいたくを楽しんでいるようす。
年収800万円の世界【2】
・都内の外資IT企業で営業として勤務
・激務の年収1000万円より「ちょうどいい」
・海外旅行や外食など、プチぜいたくを謳歌
「んー、この年収がぶっちゃけちょうどいい感じ。前はもっと年収高い仕事してたけど、やっぱ激務だよね、年収1000万超えると。徹夜はもうしたくないなあ、って思ったらこのへんの年収ラインが一番幸福度が高いんじゃない? 年に何回か韓国とか香港行って、そこそこのブランドでコスメとかバッグ買えて。さすがにオートクチュール!(高級店で1点ものの服を仕立てること)とか、毎日高級レストランで食事! とかは無理だけどさ。あー今日疲れたからシャンパン飲んで帰ろーとか、そういうのができるのは楽よー」
共働き世帯が過半数となった今、子供ができるまでは結婚しても独身時代と似たライフスタイルが継続できるとみてよさそうです。
年収1000万円:皆の憧れと思いきや、税金でごっそり持っていかれる
30歳で年収1000万といえば、だれもが夢見る「高所得」ライン。業界としては広告代理店、マスコミ、外資系コンサルティングファーム、外資系投資銀行のバック・ミドルオフィス、総合商社、保険、メガバンク、外資IT、医師などが挙げられます。
しかしそのリアルは、所得税に苦しむ地に足のついた生活でした。
年収1000万円の世界
・都内の外資系コンサルティングファーム勤務
・激務と所得税で、幸福度は思いのほか比例しない
・海外旅行や高級車を「衝動買い」
「所得税って年収900万を超えると33%になるんですよ。(参考:695万円超から900万円以下は23%)収入の1/3以上持ってかれたら、もう手取りとか……泣けるよ。しかもうちの会社は福利厚生もないし。ぜいたくのレベルでいうと、まあコンビニで値段を気にせず弁当が買えるくらいだね。独身なのにこれだから、もう相手を養ってる既婚者はマジすごいわ。尊敬する」
筆者注:とはいえ海外旅行に年1回以上行ったり、200~300万円台の車を購入する方は多い。激務のストレスからか、車や海外旅行など大きな額の衝動買いをする傾向があるようです。
思いのほか、年収と幸福度が比例しないのが年収1000万円の世界のようです。この壁を突き破るには、年収1500万円超えを目指すか、所得税を考慮して年収900万円以下へキャリアチェンジを選ぶかです。実際に筆者の周囲でも、「年収1000~1400万円ラインだと激務になるうえ、所得税が高いから」とキャリアチェンジを選んだ方が複数いました。
年収2000万円〜:雲の上の生活かと思いきや、質素倹約に励む
そして最後に、30歳で年収2000万を超えるごく一部の事例をご紹介します。なお年収2000万円以上は全年齢で人口の0.5%しかいません。
年収2000万円以上の世界【1】
・都内在住の経営者
・収入はほとんど事業に投資
・「稼いでるから使う」マインドにはならない
経営者の男性はこう語ります。
「なんかあまり年収って概念ないですね。業績によって役員報酬を変えちゃうから安定しないし、経費で済ませるものも多いので。収入はほぼ全部次への投資に使います。本を買って勉強したり、会社へ貸し付ける形で設備投資の足しにしたり。趣味は筋トレですけど、ジムの会費とプロテインくらいしかかかってないしな……。スーツはさすがに取引先になめられないよう仕立ててますけど、それくらいですかね。会社の借金も数千万あるし、いざとなったらそれを背負うのは俺ですから。稼いでるから使ってやるぜ! ってマインドにはならないですね」
また、外資系投資銀行の方からは、さらに消極的な話が出ました。
年収2000万円以上の世界【2】
・港区在住の外資系投資銀行勤務
・年収2000万円でもモテない!?
・収入は激務生活の維持費に消える
「年収2000~3000万じゃ、女の子に相手にしてもらえないんですよ。なんかこう、パーティとかで『そういう女の子』が湧いてくるんですけど、自分は低年収扱いですから。周りもこれくらいの年収だし、自分がお金を持ってるって感じはしないかな。前みたいに外資系投資銀行員だから1億円稼げるって時代でもないしね。会社の近くに住まないと(激務すぎて)寝られないから家賃も高いし、意外と維持費に消えてる感じがする」
確かにお住まいは一等地、確かにパーティは会員制。それでも「お金があるから幸せ」とはいかないのが現実のようです。とはいえ当人たちはニコニコ楽しそうに働いています。その理由は「激務が好きだから」「追いつめられると生きてるって感じがする」「業務が毎日センター試験を解いてるみたいで楽しい」と、収入以外にやりがいを見いだしているようでした。
あなたが「自分らしい」と思える年収を目指そう
年収400万円から2000万円以上まで、目まぐるしい暮らしのギャップはいかがでしたか? 学生の皆さんに知っていただきたいポイントは2つです。
1つ目は、年収と優秀さは相関しないということ。例えば出版社などは正規雇用の枠が狭く、非正規雇用やアルバイトで働くケースも多々あるため、優秀な方でも年収が低くなりがちです。逆に雇用が安定した業界では、「あの使えない人が年収1000万……?」といった愚痴が聞かれます。
2つ目は、年収が上がると激務率が上がるということです。会社員で年収が1000万を超える方は、多くの場合は年収と引き換えに激務になることがほとんどです。子供の運動会へ行けない、それどころかデートする時間すら取れない。そういう暮らしでもなお「仕事って楽しい!」とアドレナリンを出せるタイプが高年収の世界で楽しく働いているようです。
なお、「ホワイトが至高」という考え方にも注意が必要です。ホワイトな業界は安定しているがゆえに業務に変化が少なく、好奇心旺盛な方にはしんどい環境かもしれません。マナーや礼儀に細かく、協調性が強く問われる傾向もあります。それより「みんなで同じ成果へ向かって全力疾走したい」気持ちがあるならば、あなたは激務でも楽しく働けるタイプかもしれません。
仕事選びの適性については借金玉さんが扱っていますので、ぜひ読んでみましょう。
・「事務職」で検索してる君に問う。デスクワークの適性、本当にありますか?【営業はいいぞ】
あなたが「楽しい」と思える暮らしを想像できたら、それがあなたにフィットする働き方です。年収の上下は、幸せの上下ではありません。目先の年収に惑わされず、自分の幸せを追求していきましょう。
(Photo:pathdoc/Shutterstock.com)