ワンキャリア執行役員の北野唯我が執筆した『転職の思考法』が発売後2ヵ月で10万部突破のベストセラーになりました。
今回は『ブランド人になれ!』(幻冬舎)の著者で、スタートトゥデイのコミュニケーションデザイン室長を務める田端信太郎氏との特別対談<後編>を学生の皆さん向けにリバイスしてお届けします。
最終回である後編のテーマは「自分という名の『ブランド』で仕事ができるか? そのための会社選びとは?」
──先ほど北野さんはROIという言葉を使われましたが、まさに転職って、1銘柄しか買えない株のようなものなんですよ。
北野唯我の言葉を受けこのように返した田端氏。両氏とも転職を『「次の2〜3年の自分」という株への投資』と捉えていました。業界の動向も視野に入れ、ビジネスパーソンが自分という「ブランド」を形成し自分の価値を高める「転職」を提言していきます。
有名企業から転職した経歴を持ち、奇しくも同じ時期にそれぞれの著書が発売された二人の特別対談<後編>をご覧ください。
タグをつけて「ブランド人になれ!」
北野:田端さんの新刊『ブランド人になれ!』のタイトルは、『トム・ピーターズのサラリーマン大逆襲作戦 ブランド人になれ!』(CCCメディアハウス)のオマージュなんですよね。田端さんの考える「ブランド人」の定義はなんでしょうか?
北野唯我(きたのゆいが):兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。
田端:簡単に言えば、「自分の名前で仕事ができる人」ですね。誤解されがちですが、これは起業家やフリーランサーの話ではなくて。サラリーマンこそ、会社の名前ではなく個人で勝負できるようになれ、ということです。
北野:ただ、いまの日本では、自分の名前で活躍しているサラリーマンはかぎられた業界で働くきわめて少数派の人々です。僕がちょっと疑問なのが、そんな国でこの「ブランド人」という概念は根付くのかということ。そこはどうお考えですか?
田端:いやいや、日本人はブランド人的な感覚がもともと強いんですよ! たとえば真田幸村の旗印は六文銭ですが、あれは三途の川の渡し賃。「いつでも死ぬ覚悟ができているぜ!」という意思表示であり、自分のブランド化なんです。だいたい、戦国武将の兜っていかに戦の場で自分が目立つかを考えていたでしょう? いちいち大声で名乗って自己アピールするなんて、発想がブランド人そのものですよ。
北野:なるほど、歴史的に見ても素地はあると。では、「ブランド人予備軍」の人にアドバイスするとしたら?
田端:……「オレに教えを乞うているようじゃダメだ!」。
北野:ええっ。本の存在意義が(笑)。
田端:まじめな話、『転職の思考法』にも「自分にタグをつける」ことが大切だと書いてありましたよね。それとまったく同じで、「自分はどんなブランドになるか?」を真剣に考えるべきなんですよ。タグはその人を象徴するものだから、僕みたいになろうと思っても、残念ながら「田端信太郎の劣化コピー」にしかなれない。真田幸村をパクって六文銭を掲げても意味がないんです。
北野:ええ、そうですね。
田端:自分だけのタグだから価値が出るわけで。たとえば、「田端はビジネスパーソンの上位5%しか相手にしていない」と言われることもあるので、逆に95%を対象にした夜回り先生的なキャリア相談のプロがいたら、僕とは違うブランド人になれるわけです。エルメスもユニクロもブランドであり、それぞれ求められているように、「自分はどんなブランドになるか」を決めればいい。
田端信太郎(たばたしんたろう):スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室長。1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げる。2005年、ライブドア入社、livedoorニュースを統括。2010年からコンデナスト・デジタルでVOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年 NHN Japan(現LINE)執行役員に就任。その後、上級執行役員として法人ビジネスを担当し、18年2月末に同社を退職。3月から現職。
北野:では、田端さんは「この人みたいになりたい」はなかったんですか?
田端:そうだなあ……。あっ、ロールモデルはいましたね。
北野:へえー! ちょっと意外です。誰でしょうか?
田端:「iモード」生みの親、夏野剛さんです。夏野さんにとっての「iモード」を自分の「LINE」にしよう、という意識を持って転職しましたから。アントレプレナーではなく、組織の中で活躍したという点もロールモデルとしてぴったりだったんです。
北野:なるほど。大切なのは、ロールモデルを持ちながらも同じタグは目指さない、ということかもしれませんね。
自分の「学習曲線」を考えているか?
北野:ブランド人としてタグをつくるためにも、自分をどの環境に置くかはよく考えなければなりません。だからこそ、会社選びは重要なんです。日本ではよく「石の上にも3年」、つまり会社に入ったら最低3年間は耐えよと言われますが、僕はまったく意味のない呪いだと思っていて。
田端:というと?
北野:大事なのは時間ではなく、そこでどれだけ学べたかです。僕自身は新卒で入社した博報堂を3年半、その後入社したBCGは10ヶ月で辞めたのですが、とくに後者は「早すぎるのでは?」と周りから散々言われました。でも、みんなが同じことを同じ年月で学べるかというと、そうではありません。野球少年が10年猛練習したところで必ずしも大谷翔平選手のようになれないのと同じで、何年経っても半人前の人もいるし、1年で学び尽くせる人もいる。一律で「3年いないとダメ」って、そんなはずないんです。
田端:職種との相性もありますよね。かのマイケル・ジョーダンだって、バスケとゴルフではやっぱりバスケのほうが「向いている」わけで。北野さんの場合、BCGでは10ヵ月で学び尽くしたんですね?
北野:うーん、怒られそうですが、1年目に「大体わかったな」とは思いました。それで周りを見回してみると、その次に大きく学べる機会があるとすれば4~5年目にやってくるプロジェクトマネジャーへの昇進だと考えた。つまり、2年目から3年目にかけては成長がゆるやかになるぞ、これはROI(投資収益率)が低いと考え、転職したんです。
田端:自分はどれだけ学べるのか、という考え方は大切ですよね。新しい環境の1年目、2年目はぐぐっと伸びるけど、年月を重ねるごとに学習曲線が緩やかになっていくことを自覚しないといけない。
田端:この図を見てもわかるように、転職を繰り返すジョブホッパーは累積で見るとかなりの学びがあると言えます。まあ、あえて一般化すると、2〜3年で次のステージに移るとちょうどいいというのが僕の肌感覚ですね。
北野:田端さんはいま転職1年目ですから、猛烈に学んでいる最中なんですね。
田端:そうですね、ビジネスモデルも企業の考え方もガラッと変わりましたから。
「伸びるマーケット」をどう見極めるか?
北野:田端さんは見事に「伸びるマーケット」を捉えているなと感じるのですが、転職を考えるうえでも「どの業界を狙うか」は非常に大切です。僕の基本的な考えは、「伸びている業界を狙え!」。なぜかというと、伸びていないマーケットはその仕事に就ける人の数がピークを過ぎて減少局面に入っています。つまり、そのマーケットでは、すでに経験を積んだ先輩たちが減り続けるイスを奪いあっている。後から入った人が奪いにいくのは難しいからです。
田端:基本の考えは同意です。ただ、あえて意見すると、その見極めは本当にむずかしいですよね。たとえば、「いま仮想通貨業界に転職するか?」という議論。2017年と2018年で仮想通貨を比較したら、売上だけ見れば明らかにシュリンクしています。でも、2017年と2027年だとわからない。その業界をどう見るかは、時間軸の捉え方でも違うわけです。まあ、僕なら「いまだからこそ行くべき」と判断しますが、最後は自分が決めるしかない。全部のシグナルが青信号の転職って、絶対にないんですよ。
北野:それはそのとおりですね。
田端:それでも、傾向を見極めようとするのはとても大切です。僕が株を好きなのは、企業のサイクルを客観的に見るのに役に立つから。「この業界は山登りの何合目か」「春夏秋冬のどのサイクルか」といった大局観が身につきます。
北野:では、若者も転職の前に株を学んだほうがいい?
田端:いや、20代は能力を高めるのが最優先だと思います。30代になって、使える金が大きくなった状態で始めればいいんじゃないでしょうか。僕自身、株を始めたのは30歳前後でしたし。
北野:なるほど。僕は新卒の子に株の話をするときは、東証マザーズを見たほうがいいとアドバイスしています。どういう商品やサービスに対してどれくらいのバリエーションがつくのか、つまり「どれくらい期待されているのか」というプロの評価がわかりますから。
また、おすすめなのが、新しく上場する企業の社長インタビューと財務諸表を見て、株価を予想するゲーム。「営業利益は1億円なのに400億円の値がつく」みたいなベンチャーがときどき出てくるので、その理由を考えるんです。
田端:うん、それはマーケットを理解するためのいい方法ですね。
緊張と緩和のバランスを見極めよ!
田端:先ほど北野さんはROIという言葉を使われましたが、まさに転職って、1銘柄しか買えない株のようなものなんですよ。「次の2〜3年の自分」をどこに投資すべきか比較検討するわけですから。僕も、たまたま前澤さんからオファーをもらったからLINEとZOZOを比較検討することになりましたが、オファーがなかったらまだLINEに在籍していたかもしれませんし。
北野:LINEに不満があっての転職ではなかった、ということですね。
田端:そうですね。ただ、学びの傾きが弱くなってきたのは事実ですし、あとは……タイミング的に、プライドの問題もクリアしていたというのは大きいですね。
北野:プライド、というと?
田端:「うまくいかなかったから逃げたとは言われたくない」というプライドです。もし前澤さんに誘われたのがLINEの上場前だったら、「もう1、2年待ってください」と言っていたと思いますよ。
北野:ああ、そこでやるべきことをやり尽くしてから、と。
田端:はい。実際、LINEに広告営業として入社してしばらくは、社内でも開発リソースをなかなかもらえなかったんですよ。スタンプやゲームの課金のほうが、はるかに売上になるから。それがいまや、広告事業が売上のおよそ半分を占めるようになった。「いま辞めても逃げたとは言わせない」と胸を張って思えたから、いいタイミングだったんですよね。
北野:タイミングは大事ですよね。『ブランド人になれ!』にも、「R25」を立ち上げた後、仕事がルーティンになってきたタイミングで次の転職を考えるようになったと書いてありましたが。
田端:そう。安定稼働してきたということで喜ばしいはずなんですが、いかんせん僕は狩猟民族。どうも物足りなくなっちゃって。
北野:「緊張と緩和のバランス」が崩れたんですね。本書にも書きましたが、仕事を辞めるタイミングは「緊張と緩和のバランス」が適切ではなくなったときなんです。RPG(ロールプレイングゲーム)でも、雑魚とばかり戦っていたら飽きるし、ボス級とのバトルばかりでは疲れてしまいますよね? 雑魚戦とボス戦を繰り返し、ときどき街に繰り出したりイベントがあったりするから、いいリズムでやり続けられる。仕事も同じで、自分に合った適切な緊張と緩和のバランスを見つけなければならないと僕は思っています。
田端:緊張と緩和のバランスが崩れているかどうかを見極める方法も書いてありましたね。あれ、非常に明快だなと感じました。
北野:直近の半年の間に感じた、「強い緊張の場面」を書き出してみるやり方ですね。その「緊張の場面」を、目線が社内に向いている「悪い緊張」とマーケットに向いている「いい緊張」に分けてみる。「悪い緊張」が10以上あったら職場を変えたほうがいいし、「いい緊張」が3つ未満だったらもっとむずかしい業務にチャレンジしたほうがいい。
<例>
・いい緊張……競合プレゼン、案件獲得、顧客の新規開拓
・悪い緊張……パワハラ、上司の顔色を伺う、派閥争いに巻き込まれる
田端:自分にとっての緊張と緩和のバランスを見誤ると、心身ともに悪い方向に向かうことになりますからね。
北野:ええ。本当はルーティンを好むタイプなのに、狩猟民族が活躍する会社にいたり……。このバランスも定期的にチェックしてみてほしいですね。
もうお時間になりましたが、今日は本当に楽しかったです! この2冊が同じタイミングで出たということに社会の流れの変化を感じますが、実際に行動を起こす人が少しでも増えることを願っています。
<対談おわり>
※この対談は全3回です。前編・中編はこちらから。
※この記事はダイヤモンド・オンラインに同タイトルで掲載した記事の転載です。
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