どうも、前回、「総合商社の投資部隊の仕事」について書いた伊藤哲士です。前記事が想像以上に反響がありまして、世の中の総合商社への関心は高いんだなぁと思いました。
今回は総合商社シリーズ版ということで、「総合商社の海外駐在」について僕の実際の駐在体験をベースに書いてみたいと思います。例によって、またまた長くなりますよ。
とある20代総合商社社員の海外駐在の例を、以下の3パターンに分けて紹介していきます。
(1)海外の事業会社へ出向
(2)先進国の都会支店に勤務
(3)研修支店に勤務
まず、あなたは「総合商社の駐在」というと、どのようなイメージを思い浮かべますか?
本社勤務よりも高待遇で給料数倍、大きな家に住めて仕事もやりがいでいっぱいというところでしょうか。ちなみにわれわれは、駐在時に貯金がとてもたまるので「駐在ガチャ」と呼んでいます。小さな宝くじに当たる感覚ですかね。当時の待遇を考えると、なぜ商社を辞めてしまったんだと後悔に苛まれる日々を送っております。
前回の記事でも総合商社(というか日系企業)は、「配属リスクが大きいので意図しないキャリアを歩むことになる可能性が高い」と述べましたがこれは駐在についても同じことです。「総合商社の駐在」と聞いて就活生がまずイメージするのは【(1)海外の事業会社へ出向】でしょう。まさに「吾輩(わがはい)は商社マン」と言えるやつです。投資先の会社で外国人社員をリードし事業を大きくしていく、なんてやりがいのある素晴らしい仕事なんでしょう。
しかし、「20代」で(1)の「海外の事業会社へ出向できる」社員は一握りです。
というのも、40代以降の世代の社員が限られたポストを埋め尽くしており、若手にはなかなか回ってこないという実態があるためです。会社は出世できなかった社員が腐らないようにポストを与えなければなりませんからね。
30代以降になれば、役職付きで海外の事業会社へ出向する可能性は少し大きくなり、40代になると子会社社長として出向する可能性はかなり確実なものとなるでしょう。20年という長蛇の列を待てるスプラッシュマウンテンが大好きな人間であれば納得のいくキャリアになるでしょう。起業やキャリアアップを考えている学生は少し考え直した方が良いのでは、というのが軽い結論です。
繰り返しになりますが、海外駐在で「アタリ駐在」といえるのは(1)だけ! 残りの(2)(3)は「ハズレ駐在」といえるでしょう。どんだけ確率が低いんだって思うでしょう。
ざっくりいうと、(2)だとスキルにならない資料作りと本社への報告書作り、(3)だと支店勤務になり資料作りに明け暮れる・出張者対応などのパシリしかさせてもらえない、ということも普通に有り得ます。海外の事業会社に出向したいと思っていたのに……。
そんな悲しい現実を受け入れた人に向け、(1)(2)(3)と順を追って海外事業会社への出向について話を進めていきます。
<目次>
●1. アタリ編:「吾輩は商社マン」いざ、海外の事業会社へ
・念願の海外駐在の幕開け
・事業会社で怒涛の勤務スタート!!
・「突破力」:ゼロから作り上げる経験
●2. ハズレ編:「おれって、商社マンだよな?」違和感だらけの出向
・「あれっ? 内容が本社と変わらない?」先進国の都会支店の場合
・「あれっ? おれって、パシリ?」研修支店の場合
●3. あなたは「どう働きたいか?」総合商社への志望動機を見つめ直してほしい
1. アタリ編:「吾輩は商社マン」いざ、海外の事業会社へ
念願の海外駐在の幕開け
入社5年目独身商社マン、効率的な仕事ぶり、充実した私生活を送るあなたはある日、直属の上司から会議室に呼ばれることになる。
(コンコン、ガチャ)
上司:おー、来たか。座って座って。どうだい? 最近は。単刀直入に言うけど、1カ月半後に当社100%子会社のインドネシアにある「ネシアウルトラケミカル」への出向社員として現地駐在してもらうことになったから。現地から人が足りないって要請があってね。社長と君の2人体制でやってもらうから。担当していない会社だと思うけどローテーションの流れで君になった。まだ結婚していないから家族は大丈夫だよな? ビザとか事業内容の担当者からの引き継ぎはもう始めといて。じゃよろしく。
若手社員:(よし!! 念願の海外の事業会社へ出向だ!!)どれくらいの期間でしょう?
上司:3年くらいかな、今のところ。
こうした雑なやりとりが終わり、デスクに戻ったあなたは仕事そっちのけで出向先の会社のことを調べ始める。
「設立してまだ1年のトレーディングの会社か……。あれ、ジャカルタじゃないのか、どこだ? うわ~めっちゃ田舎やん……遊ぶ場所なさそう……。帰国したら30歳か……、今の彼女と結婚した方が帰国した時に手当とかあるのかな? でも1カ月じゃ踏ん切りがつかないな……、付き合って3カ月だし……。帰国してからも結婚できるよな? よし……。」
こうして残された日本生活は、関連部署・取引先の送別会ラッシュと社内若手がお節介に開いてくれる送別合コンで、数々の伝説を残しながら1カ月が20倍速で過ぎる。付き合っている彼女からは「結婚か別れるかのどっちかにしましょう」と悪魔のようなLINEメッセージが毎日届く。遠距離ではなぜダメなんだ。
仕事の引き継ぎも終わり、彼女に別れを告げたあなたは清々しい気持ちで海外へ出発の日を迎える。
空港には同僚が見送りに来てくれて、「頑張れよ! 連絡してな!」「おう、一旗上げてくるぜ!」というような定型文のやりとりを終え、さっそうと飛行機のビジネスクラスに乗り込む。
(ビュウウウウウウ……、アテンションプリーズ……ビーフ、オア、チキン?)
戦場へ向かう飛行機で飲む赤ワインは格別だ。
事業会社で怒涛(どとう)の勤務スタート!!
現地に着いた。日本と比べて蒸し蒸しするぜ。よし、やってやる、やってやるぞ~!!
海外で住まいも決まり、無事、駐在生活がスタート。海外拠点支店長に挨拶(あいさつ)した後、出向先の事業会社に出向き、社長から早速業務引き継ぎの開始だ。任された仕事は総務、営業全般。ふむ、雑だ。他にも何か問題が起きた時も対処してほしい、とまさに何でも屋だ。社員もまだ15人と小規模な会社でオペレーションを改善するべきものがいっぱい。
「なんてやりがいのある現場なんだ!!」
軽い引き継ぎが終わり、実際に業務に入っていく。着任初期は取扱商品知識と会社の事業オペレーションを覚えることで大忙し。気づけば問題が起きたりお客さんからクレームがきてその対応に追われる。外国人は日本人とは違い仕事に情熱はなさそうだ。定時を過ぎて残っている社員はいない。おれが頑張らなくちゃ……。早々に深夜残業が続く日々が始まる。土日も田舎なので自己啓発で日々、充実だ。ジムに通って体も引き締まりテストステロンが溢(あふ)れ出している。日本に帰ったらモテ確定だな、ふふ。Facebookに「おれは現場で頑張っているよ!!」と長文で日本の皆さんに報告。いいねの数が今のおれの支えだ。
こんな日々が続くが、そうも言っていられない時期が始まる。現場では問題の起きる数が尋常ではないのだ。毎日のように何かが起こる。
・取引先から入金がない
・あったはずの在庫が盗まれてる
・外国人社員がストライキを起こす
・従業員が社長を訴える
・客先から自分宛にクレームメールが乱射される
仕事がどうしても回らなくなって外国人社員に仕事を振れば「日本流の仕事を押し付けるな、日本人だけでやってろ」とお怒りを買ってしまい、ますます仕事が増えていく一方だ。
そして追い打ちのように毎日本社からメールが届く。
・「訴訟の件どうなってるんだ? 早く報告書作って送れ」
・「資料の提出まだですか? 業績管理が進まないんですが」
・「なんで収益が微減してるのかご説明ください」
・「BS(※1)にある無形資産ってなんですか?」
・「来週部長が出張行くからアテンドよろ」
・「仕事してるんですか?」
・「やる気ありますか?」
うむ、現場と本社で凄まじい温度感の違いだ。こちらがしのぎを削ってる間「おまえらは飲み会してるだけだろ!」「事件は会議室で起きてるんじゃねぇ!」という怒りを抑え、仕事の落ち着き始めた23時から吐きそうになりながら報告書を作り始める。
こうして気づいたらあっという間に3年だ。後任も決まり、帰国の日が決まる。やりきった気持ちいっぱい、外国人社員からの信頼も数々の折衝を乗り越え獲得、語学力も飛躍し現場で鍛えられた自信を手に、本社勤務に戻る。顔つきは、さながら「一流商社マン」のようになっていることだろう。
さぁ、日本で本格的な婚活の始まりだ。(ちが
(※1)……「Balance Sheet」の略称で会社の経営状況を提供する「貸借対照表」を指す。
「突破力」:ゼロから作り上げる経験
ここまでは華やかな海外駐在とは裏腹に、泥臭い現場社員の駐在生活を描きました。前回の記事でもお伝えしたように、上記の例は肌感からいえば20代の海外駐在の社員の1〜2割が入社10年以内で経験できる程度でしょう。私の中ではこのような【(1)海外の事業会社へ出向】は、かなり「当たり」を引いたものだと考えています。社長と二人三脚で経営課題を考え、外国語で外国人社員を動かしてオペレーションを確立する仕事を経験できるのですから。若い内から現場経験を積めるのは最高の機会ですよね。
商社勤務を志望する学生は泥臭く新興国でビジネスしたいという人が多くて、故に商社は発展してきたのだと思っていたんですが、社内では「田舎で忙しくてかわいそう」みたいな声が結構あります。このような声を聞いた時、これがあの「打って出る」が代名詞の天下の総合商社の実態かと思うと少し寂しくなったのも良い思い出。
話は戻りますが、「実際に異文化の外国人社員をまとめ上げ、オペレーションを確立した」という、この経験は転職活動をする際にも高く評価されます。社内でも、あの人は現場を分かっている、商売の難しさも分かっている、と信頼も厚くなる。会議でも現場経験を元にした発言ができるので、他の人とも差が出てきますからね。2〜3年間はコリドー街で派手な遊びはできないですが、リターンはかなり大きいと思います。「起業とは違う」と上述していますが「なんとかなる、いや、なんとかする」という意識で業務遂行してきたのであれば起業でもあらゆる方面で生きることでしょう。「突破力」というやつですかね。
「このような現場経験ができる機会を得られれば、起業も問題なくできそうだよね?」
商社志望の就活生で、「将来、起業したいと考えている人」はそう思ったんじゃないでしょうか。そういう就活生は、この駐在経験をイメージしてると思うんですよ。でもね、この経験、起業とはやはり大きく違う部分があるんですよね。
それは、倒産や事業継続に対する「リスク」の意識です。
なぜなら商社の子会社や関連会社でしたら「資金調達」するのも日本本社から「保証」を入れてもらって現地で借入するか増資してもらうだけで、「事業失敗して生活が苦しくなる」なんてリスクを負うことなんてまずないですから(稟議書(ひんぎしょ)はまた大変なんですけどね)。会社がつぶれても涼しい顔して本社に戻るだけです。しばらくは借りてきた猫みたいな顔して仕事することになるんですけどね。
スタートアップと違って「与信力最強のキメラ」こと本社が付いているので、最悪ダメでもなんとでもなる、という意識で子会社社長やってる商社のおっさんは本当にいっぱいいます。給料も本社勤務時より爆増、最高の遊戯です。ここが起業家とサラリーマンの大きな違いですよね。
生活を安定させながらアップサイドも特に求めていない起業疑似体験をしたい、という人にはうってつけでしょう。一つだけ、パワハラ系の社長とセットで海外の事業会社へ出向になってしまうと地獄ですが、それも運ですね。おバカ社長であれば自分のプレゼンスが上がるのでラッキーです。優秀な社長と働くのがベストであることには変わりありませんが。
2. ハズレ編:「おれ、商社マン……だよな?」違和感だらけの出向
「あれっ? 内容が本社と変わらない?」先進国の都会支店の場合
海外駐在は待遇こそ満点なのですが、今後の転職などのキャリアを考えた上でのハズレが明確にあります。次は、ハズレの一例として、【(2)先進国の都会支店に勤務】(ニューヨーク、シンガポール、ロンドン辺りだろうか)として駐在を言い渡された場合です。
「えぇー!! 先進国勤務なんて超勝ち組じゃん!!」と思いますよね?
僕も駐在する前はそう思っていましたし、昔めちゃくちゃ好きだった女の子に「ニューヨーク駐在になったら結婚してあげるよ」と言われたことがあるくらい世間から見ても勝ち組です。(他の国への駐在になったのであっさり振られましたけどね)
それでは、まず、ハズレ駐在としている一つ目、【(2)先進国の都会支店に勤務】についてニューヨークを例に書いていきます。
あなたは上司から「来月からニューヨーク行ってくれる?」と告げられ、「ついに、おれもみんなの憧れニューヨーク駐在や……、みんなの憧れNY駐在やで!!(2回目)」と舞い上がることでしょう。それもそうだ、誰もが住みたい街、ニューヨークに駐在で行けるなんて最高だ。おれのGrateful Daysが始まる。東京生まれHipHop育ちもついにニューヨーカーに。そう思うはずだ。
しかし、日本では営業部だったのに、ニューヨーク支店に勤務して配属されたのはバックオフィス。
そして、メインの仕事はその地域近隣の投資先会社の「事業管理」で、新規案件を作るようなものはない。
なんでこうなってしまったのか?
というのも、先進国の支店勤務は大体の場合が多数の30代後半~40代社員と一緒に仕事をすることになり、さらにその上に部長、支店長がいる。そうなると当然、一番下っ端のあなたの仕事は「資料作り」と「本社への報告書作り」になってしまうのだ。事業パートナーの会議についていき、議事録係を拝命し、その内容を子会社と本社へ共有だ。ふふ、米州の中心機能をおれが担っているぜ……たぶん。
近場の国への出張は何度も行くことになるだろうが、それは現場の状況を報告するための出張であり、ビジネススキルが上がるものでもないし商売を作る力がつくことはないだろう。子会社出向している社長の話を上司と一緒に「ふんふん、なるほど、ふむふむ」な日々が延々と続く。
そしてしばらくするとふと気づく……。
『あれっ……? これって……、もしかして、本社投資部隊に配属されて最初にやった、投資管理業務が海外版になっただけやないか!!!』
このまま2年〜3年が過ぎ、あんなに貯金がたまると言われていた駐在員生活だったが現地の物価が高いことを考慮に入れておらず、貯金が全然できてないことにも気づく。そして、本社に帰任する日を迎えるのだ。あれ? 貯金もないし資料作りスキルしかついてない?
よ、よし……!! 日本で本格的な婚活の始まりだ……!!
ここまでが、先進国の都会支店のお話だ。
若手にとっては転職、起業を見据えた経験値を積むという面でプラスになるか? と問われればハテナです。
メリットといえば、社内政治を制するためのコネクションを得ること。つまり、社内の実力者である30代後半~40代社員と密接に関わることでサラリーマン道を学べることでしょうか。彼らは出世コースに乗っており、先進国で役職についているパターンが多い。
30代で先進国の海外支店への配属を経験すれば、海外のビッグパートナーと議論を詰めるといった巨大案件を進められるので、それは大きなやりがいにつながるだろう。30代後半、40代になればまた海外の事業会社出向のチャンスは巡ってくると思うので、転職などを考えず待てるのであれば問題ないので首を長くして待ちましょう。
「あれっ? おれって、パシリ?」研修支店の場合
この他にも研修を名目に半年~1、2年ほど海外支店配属される若手、第二のハズレ駐在【(3)研修支店に勤務】が多数存在するが、その仕事はただのパシリであるパターンが多い。
日本からの出張者対応のために配車表と格闘を広げ、お店・ホテルの予約で大忙し。仕事を振られたと思ったら「会議室の準備しといて、資料作成しといて、本社に資料転送しといて」と言った感じ。「シトイテ」の質が本社時代より下がっている。ひどい支店は、研修若手社員にリムジンで空港の周りをグルグルさせ、出張者アテンドさせたり、予約できないお店にひたすら一人だけで待たせ続けたり、「アテンドマニュアル」を作成させるところもあるみたいです。泣ける。
でもいいのさ、海外の憧れの街に住めるんだからね。休日はセントラルパークでお散歩、夜は他日系企業の駐在女子とCanary Wharfでディナーだ。ふふ。
一つの実例として、年上の社員がこの研修で現場経験を名目に同期が働いていた事業会社に少しの間お手伝いしにきていたが、年下の同期が先輩をパシリに使うという奇妙なことが起きていました(稀(まれ)ですが)。
3. あなたは「どう働きたいか?」総合商社への志望動機を見つめ直してほしい
さて、ここまでの流れをまとめてみましょう。20代の駐在の可能性としては大きく以下の3パターンを紹介してきましたが、ご紹介した理由を添えて書くとこうなります。
(1)海外の事業会社へ出向
→アタリ:生かせる経験を積める
(2)先進国の都会支店に勤務
→ハズレ:結局、本社と同じ
(3)研修支店に勤務
→ハズレ:ほぼパシリ同然
あなたがもし上司に海外駐在の話をされた時、3つの指標のどれに近いかを検証すると良いでしょう(言われた瞬間普通は断れないんだけどね)。駐在も配属リスクは常にあります。これは日系大手企業ならどこでも一緒ですよね。
だいぶ極端な例を3つ書いてしまったので、誤解のないようにそれぞれの逆の側面も説明します。
(1)海外の事業会社へ出向
→「社員数が多くすでにオペレーションも確立されている会社であれば」やることは事業管理がメインになってしまう場合もある。
(2)先進国の都会支店に勤務
→「新興国の僻地(へきち)」だったりすると「新規案件を何が何でも作らなければならない」というプレッシャーがあるので、その場合は良い経験が積めるかもしれない。
(3)研修支店に勤務
→支店ではなく「僻地の事業会社」で働く場合も稀にあるので、その場合は(1)と同じような良い経験ができる。
駐在スタイルはバリエーションが多いですが、商社に安住するのであれば、駐在先はあまり気にしなくてもいいかもしれないです。配属リスクを気にすることなく、仕事を選ばないのならばプライベートは重視できます。
もしくは自分が超能動的に動いてやりたい仕事を引き寄せる、という気概で仕事をするのであればもしかしたらチャンスは生まれるかもしれません。ただ、これが難しいという実態が商社人事が一番考え直さなければならない部分です。
日系大手企業に配属リスクはどこにでもあるので、結果的には「商社」or「スキル重視の会社」の選択ではなく「日系大手企業」or「スキル重視の会社」という当たり前の選択になってしまいましたね。つまり、雇用形態でいう、「メンバーシップ型」or「ジョブ型」(※2)というわけです。配属リスクに関しては商社だからといって他の日系企業とは違うというわけではないです。
商社は他の日系企業と違い「起業スキルが身につくし、転職も有利になる」と思っているのであればその考え方は少し改めるべきかと思います。まあ、その可能性は多少はあるかもしれませんが、(1)のような経験を得られる確率はあまり高くないです。
ぶっちゃけて言えば、「起業は明日からでもできる」でしょう。起業で実績を出すところまで頑張れば、そこで金銭資産を大きく得られなくても、強い人脈と商売知識という生涯役に立つ資産が手に入るのです。
簡単ではありませんが「サラリーマンで経験を積んでから起業しなきゃ」というのは少し違うかなと最近思う次第です(もちろん優秀な共同創業者と出会える、取引先との人脈が得られる、などの可能性はありますが)。
今回紹介した例が全てではなく、色んな駐在パターンがあるのでOB訪問でもして情報収集するようにしましょう(私のように、小さな自分を大きく見せることに長けた人間が商社には多いので、OB訪問がどこまでワークするかは知りませんが。30歳前後の人にキャリア観を聞くのが良いかもしれませんね)。
就活、頑張ってくださいね、未来の「商社マン」たちよ。
(※2)……メンバーシップ型とは職務・労働時間・勤務地を限定せずに働く「無限定正社員」の雇用形態。日本特有で新卒一括採用、年功序列や終身雇用を前提にしている。一方で、ジョブ型は「限定正社員」であり、欧米アジア諸国では主流の雇用形態を指す。(参考:首相官邸「今後の労働法制のあり方」、内閣府「規制改革会議雇用ワーキング・グループ報告書」)
【伊藤哲士の総合商社シリーズ】
第一回:『総合商社で投資がしたい』君へ。長いけど読んでくれ。投資業務の理想と現実
第二回:また長くなっちゃいました。総合商社の「海外駐在ガチャ」のアタリとハズレ。
第三回:社内でヒマして年収2000万。商社のエリート窓際族「ウィンドウズ2000」の光と闇を教えよう
第四回:「学生起業のすゝめ」内定後〜入社まで、君たちはどう過ごすか?【基礎編】
第五回:「学生起業のすゝめ」内定後〜入社まで、君たちはどう過ごすか?【実践編】
※こちらは2018年3月に公開された記事の再掲です。