ワンキャリアが発表した「就職人気ランキング」でマッキンゼー、BCGに次いで3位、日系企業では堂々の1位に君臨した野村総合研究所(NRI)。学生の間でもNRIの「隣人の構造面接」や「リベンジ制度」など特徴的な選考が話題になり、夏のインターンには100人の募集に数千人の応募が殺到する程の人気です。
今回は入社20年間コンサル一筋の川越さんと、採用プロモーションを手掛ける山本さんにお話を伺いました。日本のコンサルティングファームの魅力と使命を余すところなくお伝えします。
日系で1位ですか? でも、常に危機感を持っています
北野:野村総合研究所(以下NRI)は、ワンキャリアの東大・京大生就職人気ランキングにおいて、マッキンゼー・アンド・カンパニーやボストン コンサルティング グループに次いで3位となりました。日系企業では三菱商事を抜いて首位と、新卒採用の人事からは驚きの声もありました。ストレートにお聞きしますが、なぜNRIは上位校の学生から、ここまでの人気を誇るのでしょうか?
川越:前提として、我々はそれほど「人気がある」とは思っていません。就職人気ランキングで上位に選ばれるのはもちろん嬉しいことですが、「皆さんが本当に弊社を選んでくれるのか」という危機感を常に持っています。採用上の競合も広いので、商社さん、デベロッパーさん、政府系金融さん、官公庁さん、投資銀行さん、広告代理店さん、ベンチャー企業さんなどと常に戦っているような心境です。あえて私たちが支持される理由を語るなら、「手を抜かずに全力投球する、採用担当者のプロ意識」にあると思います。
川越 慶太(かわごえ けいた):野村総合研究所 コンサルティング人材開発室長
1991年、野村総合研究所入社。20年間、公共政策の立案・実行支援や公的組織の改革に従事(首都移転、地域開発、民営化、業務改革、PFI、BOP等)し、福岡市長のアドバイザーや公益認定等委員会参与などを歴任した。主著に『BoPビジネス戦略(東洋経済新報社)』などがある。
北野:私が「採用担当者の全力投球」を感じるのは、まず選考の面白さです。NRIはコンサルティングファームとしては珍しく、「隣人の構造化面接」などのユニークな選考や、選考に落ちた学生への「リベンジ制度」など、面白い取り組みをされていますよね。
「論理のパーツを並び替えできるか?」NRIの構造化面接は、コンサルの本質を見ている
山本:はい。知らない方もいらっしゃると思うので説明すると、「隣人の構造化面接」とは、「グループ面接で隣になった学生が、お互いの自己紹介を分かりやすくまとめ直して説明する」という選考です。相手の自己PRを1分間聞き、構造化のために補いたい内容を2分間で質問します。最後に質問への回答をふまえ、相手のエピソードを1分間でまとめ直して説明するという流れです。
山本 航(やまもと わたる):野村総合研究所 コンサルティング人材開発室 採用担当
2012年に野村総合研究所入社。製造業やインフラ産業に関する事業戦略立案や業務コンサル領域を手掛ける。2016年4月より現職。新卒キャリア採用の企画や各種プロモーション、選考等の設計や運営、面接を担当する。2016年10月には長女誕生に伴い、育児休暇を取得。
北野:この面接は、NRIの特徴的な選考と言われますね。そもそも、どのような目的で実施しているのですか?
山本:この選考では「相手の言葉や論理のパーツを組み立て直す」という、コンサルとしての能力を測っています。私たちの日常業務は、業界の専門家やステークホルダーを巻き込みながら、彼らの知見を1つの論理として組み立てていく仕事です。ですから傾聴する力は勿論のこと、自分の頭の中に「情報の地図」を描きながら会話することが大切なのです。面接でも、学生さんが「今聞いたエピソードには、この要素が抜けているな。だから完全な論理構造にはならないぞ」と頭の中で設計できているか、限られた時間をどのように活用して足りない情報を補うかという点を見ています。
北野:つまり面接では、学生が「その場で論理を組み立てていけるのか?」を見ているわけですね。
川越:そうです。頭を回しながらでないと、良い質問はできませんからね。他のコンサルティングファームの選考はケース面接が中心ですが、3年生や大学院1年生の夏時点の「慣れ」に評価が左右される懸念があります。優秀なのに「ケース面接に不慣れ」というだけで選考に落ちてしまう学生が多くいるのです。
そこで、NRIでは「ケース面接よりもう少し簡単で、なおかつ自己PR以外を話してもらうにはどうすればいいか?」という発想から隣人の構造化面接を考案しました。このように、私たちは選考のあり方や方法を採用担当者がどんどん追加・修正しています。ちなみに、構造化面接は対策する学生さんが増えすぎてしまったので、実は今年から止めました(笑)。
超人気インターンの理由は「自分よりも凄いコンサルタント」と議論できる楽しさ
北野:独自の選考は、常に改良が続けられていると。その理由は目新しさではなく、コンサルタントの目線で合理性を追求した結果なのですね。ここまで選考について伺いましたが、NRIが支持されているのは、インターンの圧倒的な人気によるところも大きいと感じます。NRIのインターンって、上位校の学生にとって「コンサルの登竜門」みたいになっていますよね。
山本:NRIのインターンが面白いという声は、弊社の内定を辞退された学生さんからも聞きます。インターンの「仕事の本質的な楽しさを感じてもらう」という目的を考えると、コンサルのインターンは経験豊富な社員に自分の考えを正面からぶつけられることが魅力です。NRIのインターンは、社員が学生に対して徹底的にフィードバックを行います。そこから顧客の真の問題意識やコンサルタントの視野の広さに気付いたり、そのプロセスの醍醐味を感じていただけると思います。
北野:フィードバックの手厚いNRIのインターンが人気なのは、裏を返せば、学生はインターンに「新たな刺激や成長」を求めているということでしょうか?
山本:そう認識しています。学生さんと接していると、我々の思った以上にフィードバックや成長を求めていると強く感じますし、実際にインターン中の「超短期間」で大きく成長する学生さんも少なくありません。
弊社はインターン中、3回のフィードバックを実施します(※面接FB、中間FB、最終FB)。特に3日目に行う「中間フィードバック」は、非常に素晴らしい結果が出ています。インターン中の行動をもとにフィードバックを行うのですが、「君はロジックのチェックはよくできているけれど、発言の積極性が低かったね」「もっとチームメンバーの意見を聞いた上で、次の展開を考えてみよう」など、強みと改善点を伝えています。
一人ひとりにコメントするのは大変ですが、フィードバックを経て行動が大きく変わる学生さんも結構いるんです。フィードバックの存在を知らない現場社員が、「あの子3日目くらいから変わったよね」と言ってくれたりするのは、我々採用チームにとっても嬉しい瞬間ですね。
北野:成長できるから、NRIのインターンは人気だと。なるほどと思う一方で、ただ「成長」を謳うインターンは世の中に山ほどありますよね。
山本:はい。ですから、数あるインターンの中で学生さんに評価いただいたのは本当に嬉しいですし、私たちの姿勢が伝わった結果だと信じています。実際に「ゼミの先輩に勧められた」「周囲の就活生からNRIのインターンが特に良かったと聞いた」と、参加者からもよく言われます。脈々と続いていく口コミやブランドが、今の人気を支えてくれるのだと思っています。
新卒で日本の首都移転計画を描く。国の根幹を作る案件に携われるNRIの魅力
北野:インターンの充実度が伝わったところで、気になるのは「入社後に働く場所」としての魅力です。川越さん、NRIの魅力はどこにあると思われますか?
川越:大きく2点あると思います。1つは「官民問わず、国の根幹に関わる案件を経験できること」です。NRIの案件は、8割が民間企業向け、2割が公共部門向けなので、キャリアを通じて官民双方の仕事に携わることができます。公共関連ならば、私が入社して最初に携わった「日本の首都を移転する」案件が一例でしょうか。
北野:日本の首都を移転する?! めちゃくちゃ面白そうな初仕事ですね。
川越:「新しい首都とは何だろう」とか、「人口の基盤はどのくらいなのか」「どういう要件を満たすと首都に適しているのか」ということを議論し、構想するプロジェクトでした。これはまさに、官民に強いNRIだからこその案件といえます。2つ目の魅力は、「最初の10年ならNRIだよね」と言われるほどの成長機会だと思います。これは新卒でNRIに入社し、その後外資系ファームのパートナーを務めた方の言葉です。
NRIの裁量権:2年目が50代、40代、30代メンバーを束ねるリーダーに
北野:「最初の10年ならNRI」とは興味深い言葉です。具体的に、どのような成長機会があるのですか?
川越:3つあります。1つは「マルチアサインの機会」。次に「若手でPL(プロジェクトリーダー)を経験する機会」、最後は「自分の名前で仕事をする機会」です。まず1つ目のマルチアサインは、若手が複数プロジェクトを同時並行で担当することを指します。最近はフル常駐というスタイルもありますが、平均2〜3つ、多い人だと7〜8つのプロジェクトを同時にこなすこともあります。「放り出されて鍛え上げられる」という意味では粗野かもしれませんが、腕に自信のある人や、様々な分野のプロジェクトをしっかり経験したい人には、やりがいの大きいフィールドだと思います。
北野:2つ目の「若手でPLを経験できる」点はいかがでしょうか。
山本:NRIでは、3年目までにほとんどの人がPLを経験します。もちろん大規模なプロジェクトばかりではありませんが、会社として「力のある若手に敢えてチャレンジさせる」方針は一貫しています。実際に、私は2年目で初めてのPLを経験しました。数千万円規模のプロジェクトを5人チームで担当したのですが、メンバーは自分のほかに50代、40代、30代、そして1年目の後輩というチーム編成でした。PLの仕事はもちろん、1年目社員と働くのも初めてのことで、ベテランメンバーにいろいろと聞きながら手探りで進めました。
北野:コンサルにおいて、若手でPLを務めるメリットは何でしょうか? 裁量権について言うのなら、外資系ファームのメンバーレベルでも得られそうですが。
山本:PLとメンバーでは、プロジェクトに対する視座が大きく異なります。それを若手のうちに、周囲のサポートを得ながら経験できる価値は非常に大きいと思います。PLとしてクライアントと接し、仮説を作っていく中で、初めて顧客目線が身に付いたと思います。「3回先のミーティングの議題まで考えろ」という先輩からのアドバイスは、今も記憶に残っていますね。
北野:若手からのPL経験は、中長期的に見て大きな成長機会ということですね。3つ目の魅力、「自分の名前で仕事する」とはどういう意味でしょう?
川越:NRIと他ファームを比べて一番違うのは、「対外発表の多さ」だと思います。例えば、取材対応や講演、本の執筆などは入社1年目から推奨されています。若くてもNRIの看板を背負っていくことを早くから期待されているのです。外資で言えばマネージャーやパートナークラスが担当する部分を、若手からプレッシャーを与えられながら取り組むので、かなり鍛えられるんじゃないかと思います。
「なぜ広告代理店や総合商社じゃなく、NRIに依頼されるのでしょうか?」
北野:なるほど。山本さんは、NRIで働く魅力を実感したプロジェクトはありますか?
山本:はい。入社4年目に携わったプロジェクトで、三菱地所さんと「丸の内・大手町・有楽町エリアを『健康的な街』にする」という仕事をしました。ご存知の通り、三菱地所さんは街づくりの圧倒的なノウハウをお持ちです。一方NRIは、街全体を健康に変えていくための構想を描き、実行まで伴走することができます。具体的には、このエリアで働く人たちを健康にするために、どのようなコンセプトで、どのようなヘルスケアプレーヤーを巻き込み、どのようなシステムで支えていくか、ということを構想し、その実現を支援していきます。戦略立案から実行支援、システム構築までを構想するプロジェクトでしたので、この案件が私の経験した中では最も「NRIならでは」だったと思います。さらに、このような案件に若手でもアサインされ、裁量が与えられるのは非常に大きな経験になりました。
北野:スケールの大きさを感じる一方で、大型案件というだけなら他社でも担当できそうです。どのような所が「NRIならでは」だったのでしょうか?
山本:2つあります。まず、我々には「ヘルスケア業界に関する知見」がありました。NRIは、他社に先駆けて健康保険組合や企業の人事部向けに医療費適正化のコンサルティングを提供しつづけてきています。それに加えて、「ヘルスケア関連企業」とのつながりもあります。具体的には医療機関や健診センター、デバイスメーカー等です。2点目が、「国」とのつながりです。国としては、「健康増進による医療費削減」という国策へ、どのように結びつけるかが狙いになっています。一方、民間の視点では、「官」がプロジェクトに関わると予算もつきますし、官からのお墨付きがある程度欲しいという想いもあります。官からのインセンティブをいかに使えるか、その人脈とノウハウと部門があるということは、NRIならではだったと思います。
北野:しかし、「官民にまたがる人脈とノウハウ」がNRIのアドバンテージなら、広告代理店や総合商社でもできますよね。
山本:広告代理店さん、商社さんとの差別化を敢えて言語化するなら、やはり「コンサルティング」が付加価値となります。関係者を束ねて構想を作るだけでなく、顧客や実働部隊の中に入ってプロジェクトを動かしたり、オペレーション設計や実行も担ったりできるところに価値があると考えています。また、今回のケースであれば、エリアの中で完結するポイント経済圏の構想と構築までスコープにいれて議論しています。ヘルシーな料理を食べたらポイントが貯まり、それをまた次の健康活動へ充ててもらうということです。街への広告やイベント開催を最終アウトプットにせず、システム構築まで含めた提案ができるのは、システム部門を持つ私たちだからこその強みです。
北野:ちなみに、そのプロジェクトのゴールはどこにあるのでしょうか?
山本:まずは、三菱地所さんが所有しているビルの入居企業を巻き込みながら、大手町・丸の内・有楽町エリアを健康化し、この地域のブランド価値を高めていくことです。ただ、最終的には、このような健康的な街モデルを全国へ展開し、「健康都市ニッポンを作る」ことが目指すべきゴールだと思います。
求められるのは顧客へのおせっかい。NRI社員は「爽やかなオタク」
北野:インタビューも終盤です。観点を変え、コンサルタントに必要な資質についてもお聞きします。お二人から見て、どのような学生がNRIのコンサルタントに向いていると思いますか?
山本:究極的には、お客様のことをどれだけ好きになり、どれだけおせっかいを焼けるかだと思います。支払われる高額なコンサルフィーに見合った仕事のために、どこまでやりきれるかが大事です。ですから、「コンサルはサービス業だ」という思いがなければ、どんなに知的好奇心を持っていても足りません。その点、NRIには「他者に何かをしたい」というマインドを根底に持つ社員が多いです。だから、自分の仕事に関係ない分野でも頑張っちゃう、聞きに行っちゃう、時間を使っちゃう、議論しちゃう。それもまた、我々の一つの魅力だと思います。
川越:どれだけ頭の回転が早く、能力が高くても、自己成長志向だけが強めな「手っ取り早くキャリアアップしたい」とばかり思う人は、顧客の課題を理解するための苦労を避けがちになると思います。ですから私たちは、選考時点の能力だけで合否を決めません。それでも能力の高い人を採用すれば、入社数年は部下として重宝するでしょう。そこをグッとこらえて、その業界や国・企業に思い入れを持てる、長期で顧客との関係性を作れるコンサルタントを育成するのがNRIの方針です。
山本:以前インターンに参加した女子学生からは、「NRI社員って爽やかなオタクですよね」と言われました。格好いいネーミングではありませんが、個人的に一番しっくりきた表現です(笑)。
コンサルタントに、絵に描いた餅の「公共人」は要らない
北野:「NRI社員は爽やかなオタク」というのは、面白い表現ですね。ほかに、NRIにマッチする学生の特徴はありますか?
川越:公共部門を目指す学生さんを面接する際に、「絵に描いた餅の公共人ではないか」どうかは注意しています。弊社は公共部門に強みを持っているので、志望動機として開発経済、貧困問題、教育格差是正などの課題解決を掲げる方も多くいます。ですが、ただ理想論をかざすだけでは、単なる評論になってしまいます。NRIはNPOでもボランティア団体でもなく、あくまでも民間企業です。「ビジネスの世界の中で公共課題をどうやって解決するか」という洞察がないと、持続的かつ根本的な解決にはならないと思っています。
北野:その資質を、面接でどうやって見極めているのですか?
山本:私の場合は「どうやったらそれが実現できると思う?」「その仕事はお金にならないと思うけど、どうやったらマネタイズできると思う?」とダイレクトに尋ねています。同じ「貧困問題を解決したい」と志す人でも、ただ理想論を掲げる人と、もがきながら現実的なビジネスを考えようとしている人は大きく違います。
北野:日常的にビジネスの要素を考えている人は、率直な質問をしても自分なりの答えが返ってくると。
100名しか参加できない大人気インターンシップの進化は止まらない。史上初の「ケース面接生放送」がスタート
北野:NRIとワンキャリアは、10月17日(火)に「NRI LIVE!」を開催します。生放送でケース面接を動画中継するという、新卒マーケットでは先進的な取り組みです。改めて開催にあたっての背景を教えていただけますか。
山本:お陰様で弊社のインターンには数千の応募がありますが、夏は100名しか受け入れられません。本当に申し訳なく、もったいないなと。また、海外留学生や地方の学生さんは、インターンどころか説明会やセミナーへ参加する機会も少ないかと思います。インターンに参加できなかった方にも、コンサルの楽しさ、NRIの良さ、社員の魅力やフラットさを何とか伝えられないかとずっと考えていました。これまでも不合格になった学生さん向けのイベントを実施してはいるのですが、それすらも会場の大きさで人数は限られてしまいます。
そこで、「ならばWEBだ!」と生放送の実施に踏み切ったのです。今までこのような問題意識を強く持っていたので、今回の動画配信も私が発起人となって、自らどんどん進めています。
北野:当日は、19卒の就活生がNRIの現役コンサルタントに提案を行い、その場でフィードバックを受けるという、非常にインタラクティブな内容ですね。当日は私も出演しますが、どのような展開になるか楽しみです。
山本:ありがとうございます。NRIのインターンは一方的にコンサルの楽しさや魅力を伝えるだけでなく、学生さんの疑問に包み隠さず答えられる点に価値があります。今回の動画配信は、視聴者の方々もコメントで生放送に参加できるので、全ての学生さんに、少しでもNRIのインタラクティブさを体感いただければと思います。
北野:川越さん、山本さん、本日はありがとうございました。
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聞き手
北野唯我(KEN):日系大手、外資大手を経験し、現在、株式会社ワンキャリアの執行役員 兼 産業アナリスト。