※こちらは2017年6月に掲載された記事の再掲です。
10億円の現金を扱っても心は動かない、働く意味が分からなかった金融マン時代
10億円の現金、見たことありますか?
新卒で金融機関に就職した僕は、それくらいの金額を日常的に扱っていました。物理的な意味で、とっても重たいです。1,000万のレンガを触るのは日常的なことでした。
仕事に就いた頃は「すごい」という感慨がありましたが、そんなのほんの数週間のことで、気がついたら「たくさんの現金」というものへの感動は消えてなくなっていました。このお金がどう使われるか、イメージがまったくできないからです。そりゃあ、あるとこにはあるよな。でも、僕とは一切関係ないよな。そういう感覚です。
また、当時の僕は「自分自身のお金」についても興味を失っていました。福利厚生が手厚かったので、自分にいくらの収入があり、いくら消費しているかなんて考える必要がなかったんです。給与明細なんて見ていなかったし、どうでもよかった。僕のような物欲のない人間が食っていくには十分過ぎる給料が得られたので、組織にしがみついている限り上等な暮らしが出来ることはわかりきっていました。
安定しているといえばそうですが、濁って腐ったような暮らしでした。働くモチベーションと、お金に対する一切のリアリティが失われていたと思います。
お金は尽きれば死ぬ「銃弾」だった。起業して初めて知ったお金の意味
起業してからこの感覚は吹っ飛びました。逆に言えば、お金のリアリティを舐め切っていたからこそ、他人の大金を預かって起業なんていう大それたことができたという面も多々あります。「金融マン時代に扱っていた金額と社会的地位でリアリティも幸福感も沸いてこないなら、もう二桁くらい上の金額があればハッピーになれるかな?」そんなことをぼんやり思ってました。
経営者になった僕に、お金は常に現実のものとして迫ってきました。必死で働いて、お金はいくらあっても足りませんでした。従業員に給料を払い、取引先に代金を払ったら会社のお金がまるで足りない。自分の役員報酬を全て会社に貸し付けるような状態になって、僕は切実に「お金が欲しい」と思いました。僕はこの時やっと、お金というものの意味を知った気がします。それは、喩えると銃弾です。戦場で弾が尽きれば後は死ぬしかない。それだけの話です。そして、自分の部隊の銃弾が尽きれば自分が死ぬだけでは済まない。
その時期になるとお金に困窮した友人というのも出てきました。特に起業界隈では、実にしばしば人間は困窮します。たかが100万円にも満たないお金が払えなくて、このままでは人生が立ち行かなくなってしまう、社会的信用が一切合財失われてしまう、そういう話です。返って来ない可能性が高いとしても、100万やそこらなら貸してあげたい。そういう相手って、たまにはいるじゃないですか。でも、手元にお金がなければそれさえ叶いません。誰かを助けるにはお金がかかります。僕は、彼らを助けることができませんでした。かつて僕に気持ちだけでお金を貸してくれた人を、100万円の金が用立てられず見殺しにもしました。こうして初めて、「お金が欲しい、そのためなら労力もリスクも取ってやる」というブチキレた精神統一ができるようになったわけです。
そこには確かに、お金に対するリアリティと働く理由がありました。今までとの違いは何だったのでしょうか?
お金が欲しい、もっと強くなるために。それが僕の欲望だ
サラリーマン時代の僕と今の僕の違い、それは「欲望」の有無でした。
金融機関に勤めていた頃、僕は何のために働いているのか分かりませんでした。毎日大金は扱うけれど、それは僕とは別に縁のないお金で、生活に困ることもなければ大きくお金を使うこともない。もちろん、磐石なキャリアと安定的な収入を大切に思う価値観は大変に正しいと思いますが、僕は当時、どうしてもその価値を感じられませんでした。というよりは、その価値を全くわかっていませんでした。
僕は、自分の欲望がどこにあるのか全くわからなくなってしまっていたんですね。
僕は今、切実にお金が欲しいと思っています。それが、僕が汗水垂らして働く理由です。自分の生活のためではなく、もっと強くなるために。ここまで来てやっと僕は自分の欲望が理解できたんですね。僕は強くなりたい。それは、例えば許しがたい出来事が起きた時にコストや勝ち負けを度外視して裁判を起こせる強さですし、大事な人が困っている時に返ってくるかどうかを無視してお金を貸してあげられる強さです。そして、自分とともにある人に対して惜しみなく与えられるだけの強さです。
僕は一度会社をコカしてしまっているので、その時に迷惑をかけた皆さん、特に大損させてしまった出資者に恩返しをするだけの強さでもあります。そして、もう一度起業でリベンジマッチをするための強さです。お金が欲しいです。本当にお金が欲しいです。
もちろん社会的地位や名誉も滅茶苦茶欲しい、出来ればどこかの組織に所属して得られるものではなく、僕自身のものとして自由に振り回せるパワーが欲しい。好む人間を助け、気に入らない人間には中指突き立ててやれる腕力が本当に欲しい。「あ、そうか、僕はこれが欲しかったから起業したのか」って起業に失敗してから気づきました。
俗物でもいい、自分の欲望を言葉にしよう
就活でのキャリア選択に話を移せば、「いい会社に入りたい。いい給料を貰ってモテたい」というような、ある種俗っぽい欲望を強く持てる人というのは、とても有能な人です。「いい暮らしがしたい」「尊敬されたい」「ちやほやされたい」、いずれも素晴らしい欲望です。
このような欲望を貫ける人は、働く上でも尽きざるモチベーションの源泉を持っています。見栄っ張り、強欲、とても素晴らしいことです。少なくとも、僕みたいに自分の欲望一つを理解するのに20代を丸ごと費やした人よりは遥かに有能です。もし、あなたがそういう人なら、誰に恥じることもなくそれを大切にしてください。それは本当に大切なものですし、あなたは有能です。欲望が明確でわかりやすいことにはメリットしかありません。「俗物」でいいのです、そこから働く理由が生まれるならそれでいいのです。
どんな業種であれ、仕事とは果てしなく続く持久走です。何故自分が走るのかわからなくなってしまうことはよくあります。そういう場所では、シンプルで揺るがない欲望を持っている人間が圧倒的に強い。逆に言えば、不明瞭で言語化しにくい欲望は人生のハンデとさえ言えると思います。自分が何をしたいのか、何を求めて働いているのか不明瞭な状態で走り続けるのは、とても辛いことです。
だからこそ、じっくりと自分の本当の欲望がどこにあるのか考えてみてください。できれば、言葉にしてください。そして、それを何度も反復してください。
欲望のエンジンをブン回せ。そこに「キャリアとお金」のリアリティが生まれてくる
欲望が定まれば、お金にリアリティが生まれます。毎月なんとなく口座に入る数字を「便利な紙っぺら」ではなく「生きるため、戦うための銃弾」として認識することが可能になります。
お金にリアリティが生まれれば、キャリアの価値も見えてきます。起業してよかったのは、この辺の値段感覚がシビアに理解できたことです。自分が欲しいものや、自分の仕事につく値段がざっくりわかるようになります。何にだって値札はつくし、値段がつくものは何だって買えます。もちろんお金さえあればというお話ですが。
あなたがどのようなキャリアを考えている人なのか、どういう欲望を持ち、どの程度のお金を求めている人なのか僕には分かりません。しかし、自分が本当に望んでいるものを間違えることのないように、自分の欲望に可能な限り忠実であってほしいと思います。どんなキャリアにも苦痛や屈辱は必ずついて来ます。望みを叶える道のりは決して楽ではありません。それを踏破するには、シンプルで強力な欲望と、そこから生まれるモチベーションが必要です。
その先に、あなたの望むキャリアとお金はついて来るはずです(残念ながらリスクも)。あなたの人生が真っ直ぐな欲望とリアリティ、そして尽きざるモチベーションとともにあることを祈ります。
欲望のエンジンをブン回せ。やっていきましょう。
「キャリアを考える 親のこと」特集
Vol.1 トイアンナ:就活を邪魔する親と、感謝される親の違いとは?LINEで見るトップ学生の本音
Vol.2 りょかち:「大人サンプル」を親以外に増やすことの効能
Vol.3 ニャート:地元で就職する気がなくても、地元の企業分析だけはやっておこう
Vol.4 北野唯我(KEN):父よ、母よ。まずはお前が仕事を楽しめ。「就活のアドバイス」はその次だ。
「キャリアを考える お金のこと」特集
Vol.1 トイアンナ:読むだけで10万円節約できる! 就活を生き抜くためのマネー術
Vol.2 岡崎マキ:【給料高いってめっちゃいい志望動機だと思います】私が仕事選びで失敗したお給料の話
Vol.3 借金玉:お金が欲しい、強くなるために。金融マンを辞めて気付いた「欲望」の話
Vol.4 北野唯我(KEN):会社のカルチャーを見抜くには「金の使い方」を見よ。