こんにちは、ワンキャリ編集部です。「総合商社特集」の特別企画として、「商社人事インタビュー2017」を連続掲載スタート。最終回は、三菱商事を特集。人事部 塚田光さんにインタビューを行いました。前半は塚田さんご自身の経験に、後半は「三菱商事の色」に迫ります。
インドの同世代が持つハングリー精神に触れ、初めて「日本人の自分」を意識
三菱商事 人事部 採用チーム 塚田光 氏(つかだひかる):
2013年入社。広報部にて社外への報道対応関連業務を担当。その後、ドバイにて中東・中央アジア地域の人事総務や地域戦略などの実務研修を行う。2016年10月より新卒採用を担当。
ーー塚田さんは、2013年入社ということで就活生との距離も比較的近いと思います。まずは塚田さんの就活当時の話を教えてください。当時、総合商社に就職したいと思われたきっかけは何でしたか。
塚田:きっかけは、東日本大震災直後に挑戦を決意したインドの企業でのインターン経験でしたね。インドに行ったのは、高度経済成長期の国の勢いやそこで働く人の想いを肌で感じたかったからです。
私は平成元年生まれで、経済が急成長する盛り上がりをあまり感じたことがない世代、日本が停滞しているのが普通という世代です。それ故なのか、書籍やテレビで触れる日本の高度経済成長期に生きていた人の想いや国の勢いに、なんとなく「憧れ」を持っていました。そこで、BRICs*の加盟国のうち、公用語が英語のインドの企業にインターンに行くことにしました。
*BRICs:ブラジル・ロシア・インド・チャイナの4カ国を指す。アメリカの証券会社 ゴールドマン・サックスが2001年に名付けた
ーーそのインドでのインターンが「商社志望」へとつながるんですね。そこではどんな体験があったんでしょうか。
塚田:一つショックを受けたことがありました。現地で出会った同世代の学生たちの「ハングリー精神」です。彼らの「村を代表してここにいる」という気概の凄まじさに、「世界で活躍するということは、こういう人たちと戦わなければならないということだ」と身震いする思いでした。
この経験は同時に、「日本人としての自分」を初めて意識することにもなりました。彼らから「日本の経済は、これからあまり伸びない」と言われることも多く、何も言い返せない自分に悔しさを感じ、日本人として日本経済の成長に貢献したいと強く思うようになりました。それが、最終的に総合商社を選んだ原点です。
当事者意識の違いを感じ、コンサルを辞退し三菱商事へ
ーーインドでの経験を経て「日本人として日本経済の成長に貢献したい」と思われたとのことですが、就活時に興味を持たれたのは総合商社だけだったのでしょうか。
塚田:いえ、意外かもしれませんが、最初から総合商社を見ていたわけではなく、外資コンサルや外資金融などを見ていました。それは日本への貢献を考えた時に、「幅広い業界に携われる」「影響力がある」「グローバルなフィールドで働ける」という3つの軸が必要だなと感じ、その3つに外資コンサルや外資金融が当てはまると考えたからです。
実は、外資系戦略コンサルティングファームさんなどから、ご縁をいただいたところがあり、その内定者向けインターンプログラムに参加しました。ただ、インターンを経験するうちに、少しずつ違和感を持ち始めてきました。何か、物足りなさがあるというか……。
ーーその違和感、物足りなさの原因は何だったのですか。
塚田:これは個人の考え方や、向き、不向きの話だとは思いますが、違和感の原因は当事者意識の違いでした。車の助手席で行先を示す、プランを描く側なのか、それとも実際に運転席に座ってハンドルを握る側になるのかという違い。つまり、助言やアドバイスをしていく側なのか、実際に事業を実行していく、最終的には「事業経営」を行っていく側なのかという違いです。
私の大学のゼミの指導教授は、外資系戦略コンサルでパートナーも務めた方でした。それもあってか、ゼミでは、業界団体や消費者へのインタビューを基に分析を行い、実際に企業に提案をすることも多くありました。今思うとコンサルの仕事に近い部分があったのかもしれません。
その中で、正しいと思って企業に提案しても「うちには合わない」とか「意味は分かるし論理的だけれど、それはできない」と言われてしまうことがありました。当然、学生レベルの提案であったためかもしれませんが、提案する側と、実行する側のそういうギャップって、結構あるのではないかと思ったんです。良い地図やプランがあっても、実行する経営していく難しさや困難な状況ってあるんだろうなと。
ーー車の助手席で行先を示す人よりも、車を運転する側をやりたいと思われたんですね。
塚田:そうですね。事業会社が戦略を実行する難しさももちろんありますが、いい提案も実行しなくては意味がないなと思いました。当事者意識を感じられる仕事をやりたいというのが、自分の4つ目に必要な要素だと気がついたのです。今思えばそれは、「事業経営」に携わりたいという思いでした。
最後はゼミの教授などにも相談して納得感を持って総合商社を選びました。教授からも「商社は時代によって形も変わるし、どこの国でどんな仕事をするか想像しにくいかもしれないけど、国づくりから携われるチャンスがある。フロンティアを感じられるよ。」と後押ししてくれました。
4年目のドバイ滞在では10カ国の出張も:「グローバル研修生制度」の活用
ーー次は、塚田さんの入社後の話を教えてください。入社直後は広報部に配属されたそうですがどういった業務をご担当されたのでしょうか。
塚田:広報部で対外メディア対応を約3年間担当しました。新聞、TV、雑誌などを通じて、三菱商事を広くみなさんにお伝えする仕事です。一番印象深いのは、「公益財団法人三菱商事復興支援財団」の広報担当をしていた頃のことです。兼務ではありますが、出向もしていました。当財団では支援している企業が多くあり、ホテルや水産加工会社など業種も様々です。ホテルのオープン記念式典や新しい工場の竣工式などで、広報として支援させて頂く機会もありました。どういう式典にするか、どういうメディアにどんなメッセージを伝えるか、支援先企業の方と一緒に汗をかきながら仕事をしたことは今に繋がっていると感じています。支援先企業の記事が出て、良い反響があったと企業の方から直接連絡があったときはとても嬉しかったですね。
ーーその後、4年目のタイミングでドバイに長期滞在され、ついこの前の秋までいたそうですね。
塚田:そうですね。三菱商事では「グローバル研修生制度」を設けており、若手のうちに、全員が海外経験を積むことを必須としています。私が行ったのもこの制度で、三菱商事の中東・中央アジア地域の統括拠点があるドバイに約半年間、滞在しました。中東・中央アジアと言うとイメージが湧かないかもしれませんが、サウジアラビアやイラン、ウズベキスタン、オマーン、トルコなどが地域にあり、実際に約10カ国に出張しました。ビザの関係なども含めて、仕事がないと行く機会がない国も多く、ドバイでの実務研修は自分の価値観や世界観を広げる良い機会となりました。
ドバイで再確認した三菱商事のビジネスを支える人の思い
ーー10カ国はすごいですね。各国を回る中でどういった業務をご担当されたのでしょうか。
塚田:人事・総務を中心に一部、地域戦略や経理などの実務研修も行いました。グローバル研修を通じて、地域内にある各国のビジネス慣行や法律、人材の特徴などへの知見を深めることができ、広報部時代とは違う畑で、仕事の幅を広げる良い機会となりました。
一番の学びは世界中にある三菱商事グループのビジネスの現場に行き、それを支える多くの社員に会うことができた点です。三菱商事はグループ全体で約7万人の社員がいて、連結対象会社は約1,200社、90カ国に200を超える拠点があります。広報部にいたので、その数字は頭に入っていましたが、実感はありませんでした。実際に現場を訪れ、社員の働く姿やその思い、志に触れると数字だけではピンとこない、三菱商事のフィールドや、社会や世界に貢献する社員の気概をあらためて感じることができました。
三菱商事の社員に息づく「三綱領」は、拠り所
ーーここまでは塚田さんご自身のご経験をお伺いしました。ここからは違った角度でお話をお伺いしたいです。学生が知りたいのは、総合商社の中における「三菱商事の色」。一言で言うと、三菱商事はどんな会社でしょうか。
塚田:三菱商事は経済価値だけでなく、社会価値や環境価値をとても大切にしている会社だと思います。大げさかもしれませんが、社会・日本・パートナー、そして世界のためにと思って働く社員が多いです。加えて、その時代のニーズに答えるだけではなく、社会の変化を捉えて常に新しいビジネスをつくってきた会社だと思います。それらの源泉は「所期奉公」、「処事光明」、「立業貿易」から成る三菱商事の企業理念「三綱領」*だと思います。
*三綱領:三菱商事の企業理念。「所期奉公(しょきほうこう)」は事業を通じ、物心共に豊かな社会の実現に努力すると同時に、かけがえのない地球環境の維持にも貢献する。「処事光明(しょじこうめい)」は公明正大で品格のある行動を旨とし、活動の公開性、透明性を堅持する。「立業貿易(りつぎょうぼうえき)」は全世界的、宇宙的視野に立脚した事業展開を図る。という意味
ーー「三綱領」、この理念って本当に大事にされているのでしょうか。
塚田:非常に大事にしていると思います。日本で働く社員だけでなく、グループ全体で、グローバルに共有されているもので、社員の一人ひとりに息づいている、拠り所となっているものだと思います。打ち合わせや会議で「三綱領」という言葉が出てくることもあるほどです。4年目の私でも肌で感じていますし、どの年代に話を聞いてもそう話していますね。
「『下積み』の認識にいい意味でギャップがあった」
ーーもう少し「三菱商事の色」への理解を深めるために、塚田さんから見て、「入社する前に気付いていなかった三菱商事の良いところ」を教えていただきたいです。
塚田:正直、就職活動をしていた頃の三菱商事のイメージは、下積みが長く、若手ができる仕事はあまりないのではないかと思っていました。ただ、入社して「こんなにたくさんやらせてもらえるの?」といい意味で驚きました。入社して1年が経たないうちに、三菱商事のことを記者に直接説明したり、2年目では記者会見の司会を担当したりと多くの経験をさせていただきました。
これをはじめとして、私がイメージしていた「下積みが長い三菱商事」のイメージとはいい意味でギャップがありました。当然これらの経験は待っていれば与えられるというものではないと思います。目の前の業務を真摯に、全力で取り組んできた延長にあったものだと思いますし、一つひとつの仕事経験が今の自分の肥やしになっています。
ーーどうしてその「下積み」に関するいい意味でのギャップが生まれるのでしょうか。そういうイメージで商社を選択肢から外してしまう学生も少なからずいるのかなと思い、勿体無いなと思います。
塚田:学生側が持つ「下積み」のイメージと実際の仕事にズレがあるのが原因だと思います。かつての私もそうでしたが、学生さんが持つ「下積み」のイメージは「何もできなくてずっと見ているだけ」とか、「コピーばかりしている」とかではないのかなと。でも決して、商社における下積みは「ただ見るだけ」ではない。いきなり経営人材にはなれないからこそ勝負できるレベルまで経験を積み上げていく、それが正しい「下積み」と捉えていますし、それだけの経験ができる土壌が三菱商事にはあると感じています。
ーーその正しい「下積み」で経験を積み、大きな仕事のチャンスを掴むために重要なことはなんでしょうか。
塚田:経営人材を目指すと言う意味では私自身もまだまだ道半ばですが、4年目までの経験で重要だなと思っていることは、信頼関係を築いていくことだと考えています。これは、学生の皆さんが経験されているアルバイトや部活でも同じではないでしょうか。新しく入ったアルバイトの方や新入部員などにいきなり「ひとりで全て切り盛りして」ということはない。でも、その人がやる仕事ぶりや人間的魅力があって、信頼のおける人だと思えたらどんどん次のステージにいけると思うのです。会社も同じです。信頼関係があれば、たくさんの成長の機会があると思います。
今日のこの場も、「任せるね」と採用チームリーダーに言われ、お話しさせていただいています。経営人材となるために、若手のうちから自分の予想を超えるさまざまな仕事を経験できる。三菱商事はそんな会社だと思いますね。
経営人材に必要なのは、「事業構想力」と「事業実行力」
ーー先ほどからお話に挙がる「経営人材」についてもう少し詳しく教えてください。
塚田:三菱商事は目指す企業像として、経営能力の高い人材、つまり経営人材が育つ会社を掲げています。経営人材には、「事業構想力」と「事業実行力」の大きく2つの資質があると考えています。
「事業構想力」は、世の中の変化を先読みして、社会から求められる新しいビジネスを構想する力です。これが経営人材には絶対に必要だと思います。これがなければ、「商社冬の時代」といわれた時代に総合商社は無くなっていたかもしれません。しかし、先人の皆さんが変化を捉え、時代に合わせて会社の形を変えたから今も総合商社はある。今後もこうした苦難への対峙はやってくるでしょう。その際、時代を先読みして大きな絵を描く力は必須になると考えています。
ーーなるほど。商社業界が変革期に置かれていることを考えると「事業構想力」は一層重要になってきますね。「実行力」についてはいかがでしょうか。
塚田:高度な意思決定が求められる場面において、全員が賛成するものってあまりないと思うんです。どんなものにもメリットとデメリットがある。だから、全員が納得していないものを実行するという大変なことをしなければなりません。関係者がたくさんいる総合商社は、実行がなおさら大変です。そのため、困難を乗り越え最後までやり抜く「実行力」が必要です。
とはいえ、いきなり事業構想力と実行力を兼ね備えた経営人材になれるわけはありません。それを承知しているから、経験を積ませるためのOJT(On the Job Training)*の現場を多く用意しています。あくまでOJT。研修は補完的なものかなと。当然失敗もしますが、経験を通じて、人の巻き込み方をはじめとする実行力を鍛錬できるように設計しています。
*OJT:オン・ザ・ジョブ・トレーニング。現場での日常業務を通して育成すること
社会人になって出せる「熱量」の最大値。これは学生時代で決まる
ーー最後に、ワンキャリアを訪れる学生に向けてメッセージをお願いします。
塚田:さまざまな国の発展に貢献したいと思っている人、これからの社会のためにビジネスを創りたいと思っている人、こういった人にはぜひ三菱商事の門戸を叩いてほしいです。利益だけを求め自分のことしか考えられないような人は、どんなに能力があってもあまり活躍できないかもしれません。三菱商事はこれからも時代に合わせて形を変えていくのだと思いますし、これからの三菱商事を一緒に創っていく同志が集まれば良いなと思っています。
会社に入ってから出る熱量、エネルギーの最大値、この源泉は学生時代に培われると思います。ですから、学生時代にはぜひ、そういった熱量を育ててほしいです。
ーー本日はありがとうございました。
ワンキャリ編集部からのコメント
三菱商事の塚田さんへのインタビュー、いかがでしたか。皆さんが少しでも総合商社、また三菱商事への理解を深めるきっかけとなれば幸いです。さらに商社業界や三菱商事への理解を深めたい方はこちらをご覧ください。
・これまでの 三菱商事 公式インタビューはこちら
[1]
「三菱商事だからこそ、やるべきことがある」三菱商事の人事部採用チームリーダーが語る、“日本の若者へ果たすべき使命”と“経営人材を育てるキャリア論”
[2]
三菱商事の「経営人材」育成システム:連結事業投資先1,200社の経営人材を、いかに育てるか
昨年公開した本記事では、今回は語られなかった以下の内容についても、触れられています。是非ご一読ください。
(1)「Same Boat」で手ごたえを感じられる投資 *[1]の内容
(2)採用実績がない大学にも足を運び、講演を行う理由 *[2]の内容
(3)一緒に船に乗るのが商社。コンサルは航路図を教え、投資銀行は新しい船の購入を薦める *[2]の内容
(4)計画的ローテーションで将来のキャリアの幅を広げるのが今の商社の考え方 *[2]の内容
・「商社人事インタビュー2017」その他の記事はこちら