こんにちは、ワンキャリ編集部の編集長KENです。今回、三菱商事が「1day ビジネスワークショップ」を開催するにあたり、三菱商事 人事部 採用チームリーダー 下村氏への独占ロングインタビューを行いました。
三菱商事が日本の若者へ果たすべき使命から、下村氏が一度だけ「三菱商事を辞めたい」と思った際の秘話まで、多岐にわたるテーマをお届けします。
日本を牽引するという気概。常に「健全な危機感」を持ち続ける、三菱商事の血
下村 大介氏:
三菱商事株式会社 人事部 採用チームリーダー。1995年、三菱商事入社。人事部で新卒採用を経験後、営業グループへ異動。新エネルギー分野への新規参入、欧州地域でM&A案件などを手がける。2015年1月より現職
KEN(聞き手):
ワンキャリアの若手編集長。28歳。新卒で博報堂経営企画局、ボストン コンサルティング グループを経て、現在執行役員としてベンチャー経営に携わる
KEN:本日はお忙しいところ、ありがとうございます。早速ですが簡単に下村さんの経歴を教えていただけますか。
下村:最初は人事部で5年勤めました。そこから営業に異動し、新規事業開発、ベンチャーの立ち上げなど様々な経験をさせてもらいました。昨年1月から再び人事部で採用を担当しています。
KEN:ありがとうございます。今回の「1day ビジネスワークショップ~つぎを創る仕事~」は、大学生全員が参加可能なイベントです。全学年を対象とした、その背景はどこにあるのでしょうか?
下村:私には「若者がポテンシャルを最大限発揮できる社会を作りたい」という夢があります。日本の未来を担うのは今の学生の方です。だから高校生や大学生に、「自分達で未来を創ろう」という元気がなければ日本の未来は絶対によくならない。
三菱商事の採用責任者として、学生を元気にするためにできるだけのことをやってみたい、と思いこのイベントを開くに至りました。
KEN:つまり、採用活動の枠を超えた、「学生への投資」だと。それを三菱商事がやる意義はどこにあるとお考えでしょうか?
下村:これまで20年以上、三菱商事で働いた経験からも、三菱商事には「世のため、人のためになることをしよう」という文化が根付いていると思います。採用責任者としては良い人材を採用するのは当然のことですが、それだけで本当に良いのかという思いがあります。
せっかく将来有望な若者達と直接コミュニケーションできる仕事をしているのだから、関わった人たちのポテンシャルを覚醒させるためのお手伝いをしたい、モチベーターになりたい、という気持ちでこの仕事に取り組んでいます。イベントの目的が単純にリクルーティングではないので、学年による制限は設けていません。
KEN:素晴らしいなと思う一方、三菱商事という「大きな山」を動かし、キャリア教育を実現するのはとても大変だろうなと想像します。「商社は官僚的で新しい取り組みを嫌う」という声もあると思いますが、実態はどうなのでしょう。
下村:よく言われますが、そんなことはないですよ。逆に三菱商事だからこそ、誰もしていないことにも挑戦するんだ、というプレッシャーはあります。そういう厳しさはありますが、「本気で言えば本気で返してくれる」会社ではありますね。
もちろん無責任なことを言っていたら相手にされませんが、ちゃんと問題意識をもって発言すれば必ず応えてくれます。それは1年目でも20年目でも同じです。
現状に甘んじないで健全な危機感を持っている人が活躍できる環境は間違いなくあります。だからうちの会社は面白いんです。
KEN:1年目でも「健全な危機感を持てば活躍できる」と。なるほどと思う一方、ストレートに言って下村さん、それって本当ですか。採用向けの美辞麗句じゃないですか?(笑)
1年目から、関係者を巻き込み仕事を創るチャンスがある
下村:もちろん、「これさえあれば成功します」、みたいな単純な話ではないです。運やタイミングもあるかもしれないし、何度挑戦してもなかなか壁を越えられずに苦しんでいる人もいるでしょう。ただ、そういう風土や環境があることは本当です。
KEN:まだ少し疑っています。(笑)実際に若手でも活躍した事例をお聞きすることはできますでしょうか?
下村:自分のことで恐縮ですが、私が1年目のときに、社内の採用管理手法を革新したこともその一例です。
今となっては信じられないような話ですが、当時は学生情報や採用プロセスの情報は全て書類で管理していました。学生への面接日時の連絡は若手が行うのですが、「◯◯さんには電話をかけたか」「△△の面接枠はまだ空いているか」といった情報の共有が大変で、学生さんから折返し電話が来たときなんかは、もう、てんやわんやでした。学生の資料がどこかにいったとなれば、若手が総動員で探しまわっていました。(笑)
そんなことをやっているうちに「この状況は自分がなんとかしなくちゃな」と思ったんです。それでシステム部局の友人に相談して、2人で学生の管理システムを開発しました。
KEN:1年目で管理システムを開発されたと。結果はどうだったのでしょうか?
下村:書類が減って机はスッキリするし、情報管理も瞬時に出来て、めちゃくちゃ効率的になったので、若手社員のみんなが喜んでくれました。その噂が社内に広がって、いつの間にか常務以上の役員が集まる会議でこの改善事例を発表することになって。社長から、「こういう創意工夫をドンドンしていこう」と言われたのは、良い思い出です。
KEN:なるほど、他にも事例はありますか?
下村:まだまだありますが、もう一つだけ挙げるとしたら、初のボストン出張も思い出深いです。採用担当者として2年目くらいの頃、商社なのに国内の大学だけ追いかけていて良いのかなと思ったんです。それで色々調べて、企画をまとめて上司に提案したら、「そうか。じゃあお前が行って見てこい」と言われ、当時、どの総合商社も参加していなかったボストンキャリアフォーラムに行くことになりました。やはり思ったことは言ってみるもんですよね。
「三菱商事が日本の若者を盛り上げないで、誰がやる?」
KEN:1年目から社内を巻き込み、動かされたわけですね。納得しました。「キャリア教育」という文脈で最近、学生を見ていて変わったなと思うのは、「人生の時間軸」です。例えば商社は、外資コンサル・外資金融と比べて「成長する時間が遅いこと」を懸念にする学生が多いと思いますが、この違いについてはどのようにお考えですか?
下村:何を基準にして早い、遅いと考えるかですよね。人間の筋肉にも、速筋と遅筋という二種類の筋肉がありますが、瞬発力に長けていてマッチョになるのが速筋で、持久力があって体を維持する体幹を強くするのが遅筋と言われています。たとえば、筋トレの成果を、見た目の筋肉量という基準で判断したいと思えば速筋を鍛えればよいわけです。
商社の場合は、どちらかというと、若いうちに遅筋を鍛えましょう、という感じです。見た目に惑わされず、若くて吸収力のあるうちこそ底力を付けようという考え方だし、遅筋のように体の7~8割を占める重要な基礎をしっかり鍛えておけば、将来大きく育つと考えています。
こう言うと、確かに総合商社は、地味かもしれませんね。筋肉量が目に見えて大きくなり、いかにもカッコいい外資系企業に惹かれる若い人がいるのも理解できます。(笑)
KEN:面白い例えで、外資系が「速筋が鍛えられたマッチョ」、商社が「バランスの取れた肉体」というイメージが湧きました。(笑) そもそも教育方針が違うと。
下村:そうですね。三菱商事で仕掛ける仕事は、世の中に対するインパクトも十分で、世界中にある色々な課題に対して、我々なりのソリューションを提供していくという仕事です。生きているうちに一度は取り組む価値のあることだと思います。
そういった仕事をこなせるようになるには1~2年の修行期間では不十分で、20代は挑戦と失敗を繰り返しつつじっくりと育成し、30代からは現場に出て経営を支える人材として任せていくというのが三菱商事の人材育成方針ですね。
KEN:下村さんの人材に対する想いはよく分かりました。しかし、だとすれば、日本で圧倒的な人気を誇る三菱商事の立場を考えれば、もっともっと人材への投資額を増やして欲しいです。個人的には「三菱商事や、日本を代表する企業が日本の若者を盛り上げないで、誰がやるの?」とすら感じてしまいます。我々ワンキャリアもまだ小さな企業ですが、そういう意気込みで働いているので。
下村:そういう言葉は響きますね。僕自身、日本にも志のある若者がまだまだ大勢いると信じているので、共感して頂ける人には、出来るだけのチャンスを提供していきたいと思います。
採用実績がない大学にも足を運び、講演を行う理由
KEN:ここまでの話を聞いて、私が学生なら「カッコイイ」と感じる一方、「どうせ、今回のイベントも上位大学対象でしょ?」というひねくれた考えも浮かびそうなのですが実際どうでしょう。
下村:KENさんはそうじゃないでしょうけど、人間、ひねくれていたらそこで成長が止まっちゃいますよ。(笑)確かに上位校の学生の多くは、相当な努力をしてきただろうし、入学後もさらに刺激的な仲間と切磋琢磨していることも多いので、魅力があります。ただ、高校3年生時点でのちょっとした学力の差で、上位校に入らなかったからと言って、自分の価値を過小評価してしまうのは、あまりにもったいない。予備校が発表する大学入試偏差値ランキングで上位でなくても、個性のある大学も最近は増えてきていますし、個別に話をすると熱い想いがあったりして、魅力的な学生さんが結構いますよね。
KEN:私も同意です。
下村:先程も言ったように、若い人の才能、ポテンシャルにものすごく期待している人間で、それを開花させることに喜びを感じています。ですので、意外と思われるかも知れませんが、実際に採用実績がほとんどない大学にも足を運び講演を行ったり、学生と話す場を作るようにしています。キャリア教育に関するプロボノ的な取組も行っています。時々採用活動を忘れて「未来を創るのは君たち自身だ」と檄を飛ばしたりもしていますよ。(笑)従って、上位校限定といった狭い了見でこのイベントを実施することはありません、というのがご質問に対する回答です。
経営人材に必要なのは、人を惹きつける魅力
KEN:今回のテーマは「経営人材の育成」 です。下村さんは経営人材にはどのようなスキルやマインドセットが必要だとお考えですか。
下村:まずスキルや業界・商品に関する知識は絶対に必要なので、一生懸命勉強する必要があるでしょう。ただ、これらについては教材もあるし教えてくれる人もいるので、努力を重ねれば身につけていくことができる。でも経営者に必要な要素はスキルだけじゃない。むしろそれよりも大事な人間の器というか、大局観とか哲学、そこからにじみ出る人を惹きつける魅力といったものでしょう。これらのマインドセットは、そう簡単に身につくものではないですし、やはり、失敗や挫折の経験を含む色々な経験を積んでこそ、身につくものなのだろうと思います。
KEN:なるほど。下村さんがそのような要素が求められた仕事を具体的に教えてもらえますか。
下村:5年ほど前に携わっていた新エネルギー発電の案件開発が印象に残っていますね。私自身は文系で発電に関する知識は何もなかったのですが、新エネルギー発電に対する可能性、ポテンシャルに魅力を感じ、案件の発掘、開発をしていました。当然、知識が全然ないので発電の仕組みから各国の電力需給バランスや、新エネルギーに対する法制度の勉強は集中的に行いました。ファイナンスもある程度の知識はあったと思いますが、プロジェクトファイナンスの実務についても、Financial Advisor等にも助けてもらいながら一気にブラッシュアップしました。そういう知識面は外部の助けも借りながらなんとかなるのですが、プロジェクトを前に進めるためには、色々な利害関係者の調整、リーダーシップが必要になります。特に海外案件の場合は、交渉にもお国柄がでるので一筋縄ではいきません。
KEN:交渉の場に「お国柄が出る」とはどういうことでしょうか?
下村:例えば、スペイン企業の場合、イベリアンスタイルというそうですが、交渉はとにかく強気の一点張りでした。アングロサクソンの場合は、対案を出しながら双方の利益の極大化を目指すべく活発に議論するはずなんですが、びっくりしました。何回「交渉決裂か」と思ったか分かりませんね。
30代で、1,200億円のプロジェクトをリード。利害関係者の気持ちがひとつになる経験
KEN:海外の案件は確かにタフな場合が多いと聞きます。それからどうされたんですか。
下村:とにかく粘って、出せるだけの知恵を絞りました。プロジェクトの関係者にも色々助けてもらいました。ファイナンスをつけてくれる銀行とも本音で語り合い、最終的には非常に競争力のある金利を提示してもらうことができました。プロジェクトコストが1,200億円で、その多くを銀行からの借り入れで回すわけですから、金利条件が非常に効いてくるわけです。他にも経産省の貿易保険をかけるためにも様々な努力をしましたね。プロジェクトの意義や魅力を理解してもらうために現地に一緒に行ったこともありました。
結果として、相当良い条件を提示して頂くことになったのですが、もうその頃には完全にSame Boat、つまり銀行さんも貿易保険さんも、「三菱商事の案件」ではなく「我々の案件」という気持ちでひとつになっていましたね。最終的に契約締結までに1年以上かかり苦労しましたが、それだけに、より一層印象的ですね。
何度も挑戦し失敗から学ぶことで、成功確率を上げる。「経営人材」はその繰り返しで育っていく
KEN:上記の話もそうなのですが、ここまでの話は、下村さんが優秀だからできたことなのでは、と気になります。私の周りには、入社して優秀な先輩・後輩に埋もれ、「平均的な商社マン」としてモヤモヤしている同期がいるのですが、どうでしょう?
下村:今はモヤモヤしているのかもしれませんが、諦めずに挑戦を続ければ、誰でも何かしらの良い仕事を創ることができると思います。さっきの上位校の話にも通じるのですが、自分を他人と比較して、自分はこの程度だから無理だなと決めてしまうと、そこで成長はとまるし、チャンスも回ってこなくなる。
せっかく総合商社にいるのなら、あとはアンテナを高く張って、自分の問題意識に従って行動するのみです。そうすれば何らかのフィードバックが得られるでしょうし、多くは失敗とか否定的なものかもしれませんが、そこから学べば次の仕事のチャンスに繋がるわけです。その都度愚直に失敗を受け止めて軌道修正をしていき、成功の確率を少しずつあげていくことでしか成果は出ないと思います。
連結1,200社のグループ経営の実力:「商事から経営層に人材を出して欲しい」と言われる育成力
KEN:他に三菱商事の経営人材育成がわかるエピソードなどあれば、お聞かせ願えますか。
下村:三菱商事の連結企業はおよそ1,200社あるのですが、各社の社長、副社長といった経営人材は三菱商事から送り込んでいます。20代のうちは、実務知識や業界知識を幅広く吸収するのと、海外トレイニーとして異文化で鍛えられる経験を積んでもらうことになりますが、早い人では20代から、遅くとも30代には現場に出て実践的な経営の経験を積んでもらうことになります。
仕事の種類にもよりますが、プラントビジネス等であれば20代で海外事務所長を務める社員が何人もいますし、比較的小規模な会社であれば30才で経営を任されるケースもありますよ。
KEN:平均的に見ても、経営を学べる機会はあるということですね。
下村:そうですね。その結果、具体的な名前はあげられませんが、大手食品メーカーや有名アパレルブランドなどの大企業から「三菱商事から経営層に人材を出して欲しい」と言われることも多くあります。やはり経営人材として鍛えられているのでどこにいっても活躍できる人が多いですね。そして、この流れはこれからはさらに加速すると思います。なにしろ会社が各ステークホルダーにコミットする「中期経営戦略2018」にも経営人材を育成すると謳っているくらいですから。
辞令に反対してでも「ここに残りたい」。出向で感じた、ベンチャースピリット
KEN:話を少し変えますが、下村さんは、三菱商事を辞めたいと思われたことはありますか?
下村:大変なことはたくさんあるのですが(笑)、大変だから辞めたいと思ったことはないですね。でも一度会社を辞めるか悩んだことはありました。31才の時に、三菱商事が全額出資するベンチャーを立ち上げて経営をしていた頃です。
東証マザーズへの上場も視野に入れ、新しい仲間を何人も採用して日々会社を大きくするために奮闘していました。ようやく会社が軌道に乗ってきたタイミングで、世の中を騒がす事件の影響もあってIPOの審査基準が厳しく見直されることになったんです。
KEN: 2005年前後のことですね。
下村:そうです。こういう動きもあって親会社である三菱商事の方針も変わり、IPOを前提とした成長戦略を大幅に修正せざるを得なくなり、私自身も本社に戻るように辞令がきました。自分としては相当コミットして邁進してきたのでとても悔しかったし悩みました。
信頼関係を築いてきた取引先やお客様の顔が浮かぶし、会社の仲間達も不安そうな顔をしながらも頑張っている中で自分だけ戻ることに耐えられず、一度は「ここに残って最後までやりきろう」と決意しました。
KEN:それでも、最終的には三菱商事に戻られた。なぜでしょう?
下村:最終的には、その会社で一緒に働いてきた仲間に後押しされたことが決め手になりました。彼らは「三菱商事が下村さんを求めているなら戻るべきです。きっとこの会社でやり遂げるべきことは全てやったから、下村さんは呼び戻されるんです。後のことは自分たちでなんとかするので任せてください」と言ってくれたんですよね。
KEN:部活の卒業式みたいですね。(笑)そうした仲間の存在があってこそ、苦難を乗り越えてこられているわけですね。
一緒に船に乗るのが商社。コンサルは航路図を教え、投資銀行は新しい船の購入を薦める
KEN:最近の商社志望者は外資系コンサル、外資系投資銀行を併願する人も多いと思います。このような会社の仕事と商社の仕事の違いはどのようなところにあると思いますか。
下村:コンサルティングファームや投資銀行とも、よく一緒に仕事をしますので大切な仕事仲間です。違うのは立ち位置であって、主体的に、手触り感をもって経営をするのが商社だと思います。
シンプルなたとえ話で説明しましょう。仮に、大海の向こうの新大陸を目指そうという野望に燃える青年がいるとします。ただ青年の前には一艘の小舟しかありません。
この状況に対して、コンサルティングファーム的なアプローチは、過去20年分の天気図と海難事故の調査レポート、過去の成功例・ベストプラクティスの紹介、最新の海図に基づいた航路図を売ることです。場合によっては、舟の操舵法マニュアルを付けてくれるかもしれません。
投資銀行的なアプローチは、こんな舟では危ないと言って、より大きな船が載った分厚いカタログを見せつつ購入資金も出しますよ、と持ちかけることでしょう。あるいは、必要な食料品や水を買う資金をたっぷり渡す代わりに、新大陸で成功したら相応の分け前を払うよう契約で縛りをかけるかもしれません。
KEN:では、商社の場合はどうでしょう?
下村:商社の場合は、まず新大陸で何がしたいのか、その青年とビジョンを共有した上で、青年と一緒に舟に乗って航海をします。もちろん、やるからには成功しなくてはいけないので、事前に入念に航路プランも練ります。小舟では不安なので必要なら立派な船も調達するでしょうし、十分な食糧も準備します。その大海の航海経験があるベテラン船乗りも知人だったりするので、ビジョンを共有して仲間に加えます。
コンサルティングファームや投資銀行とは、我々が必要と思った時に、それぞれの機能を補完してもらうよう依頼するという関係です。いざ航海に出たら不測の事態に直面することも多々あるでしょうが、その場その時に知恵を働かせてベストの判断を下し、とにかく最後まで諦めずに新大陸を目指します。
新大陸に到着し青年が大きな果実を手にして、初めて商社はその一部を分けて頂くのです。商社は果実を得るだけでなく、航海で得た「経験」と「仲間」が残るので、また新しい挑戦も出来るというわけです。ちょっと単純化しすぎているし、美化しているかもしれませんが、端的に言うとこういうことです。
配属リスクとは、キャリアの固定化。計画的ローテーションで将来のキャリアの幅を広げるのが今の商社の考え方
KEN:もう一つ、商社志望の学生が気にするのが「配属リスク」です。採用に関しても、三菱商事は部門別採用は行っていませんよね? 私からすると事業ベースの志望動機は興味がないのかな、という印象を受けます。
下村:確かに三菱商事の面接では、志望動機をそれほど深掘りしません。まだ働いたこともない学生さんには仕事の具体的なイメージを持つことは難しいからです。むしろ、これまで20年間、どういう人生を過ごしてきたのか確かめる方が、よほど意味があります。
また、若手のうちに色々な仕事を経験させるべく計画的なローテーションがあるので、自分の経験の幅を広げると当時に、自分に向いた仕事が見えてくるかと思います。それに配属面談でよく内定者の志向性を見極めて配属していますので、7割以上の人は志望しているグループに配属されていますよ。
付け加えて言えば、グループを超えた異動制度もあって、何を隠そう私自身も、初期配属でコーポレートの人事部に配属されたのですが、5年で営業グループに異動しています。いずれにしても、そんなに心配する必要はないですよ。
信・知・力、3点を兼ね備える人材と一緒に働きたい
KEN:三菱商事の求める人材像について教えてもらえますか?
下村:三菱商事の求める人材像は非常に明確で、「信・知・力」を兼ね備えている人です。
「信」は、高い倫理観を持ち、多くの人と信頼関係を築く力のことです。仕事の基本は信頼関係です。信頼・信用できない人の周りには良い人は集まりませんし、いくら頭脳明晰だったとしても経営を任せるわけにはいきません。仕事の根幹の部分だと思っています。
「知」は変化への想定力、課題解決力のことです。商社の仕事はチャレンジングなことも多く、難しい課題に直面することも多々あります。そういう時に、事業を取り巻くリスクや将来のあり姿を想定し、衆知を集めて解決策を考えぬくことが大事です。
そして最後の「力」は最後まで粘り強くやり抜く実行力、ということです。諦めずに粘り強く仕事を進める人でなければ立派な仕事は出来ません。頭でっかちで口先は達者だけど全然実行力がないという人は要らないですね。どれか1つだけではなく、3つの力をバランス良く兼ね備えている人を求めています。
KEN:なるほど、「信・知・力」ですね。それでは最後に学生へのメッセージをお願いします。
下村:キャリア教育の部分でも話したように、ポテンシャルの高い人こそ社会にどう貢献するかという視点でキャリアを考えて欲しいですね。与えられた才能を自分のために使うのも結構ですが、それを周りの人を幸せにする為に使えば、もっと大きな喜びが生まれるということも知って欲しいです。そうした志を持った人が一人でも増えれば嬉しいし、できれば一緒に働いてみたいです。
KEN:さすが三菱商事ですね。本日はありがとうございました。
下村:偉そうなことを言ってすみません。こちらこそ、ありがとうございました。
こうしてインタビューを終えた。録音をやめると下村さんは「いやー、録音されてると思うと構えちゃうね。オフレコトークだったら幾らでもネタが湧き出てくるんだけど」と気さくに笑っていた。高い志と人としての魅力を兼ね備えた人だと感じた。