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【密着取材】茂木健一郎、天才の鍵は、グリット(Grit)にあるーコモディティ化する偏差値

コラム
2016年11月2日(水) | 16,901 views

1,500人から選抜された11名は、「夏の軽井沢」に招かれた。


その名も、突き抜ける人財ゼミ。第4回となる今回、ONE CAREERからライターKENが潜入。前編では、「人財の陳腐化に抗う、異才の策」と称し、経営コンサルタントの波頭亮氏の講義内容を紹介した。


第2弾では、茂木健一郎氏が登場。「東大なんて、バカじゃね」という発言から、特異的な能力を開化させる「望ましい困難(Desirable difficulty)」という最先端の概念まで、全てをお伝えしていきたい。


茂木健一郎:
東京工業大学大学院客員助教授(脳科学、認知科学)、東京芸術大学(美術解剖学)・東京大学・大阪大学・早稲田大学・聖心女子大学などの非常勤講師も務める。東京大学理学部・法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所・ケンブリッジ大学を経て現職。


茂木:僕は「Genius(天才)」について話したい。


僕が東大に入ったとき、がっかりしたんですね。なんでこんなレベル低いんだろうって。その気持ちは今でも変わらなくて、普段から「東大なんて、偏差値なんて、バカじゃね」といっていると、東大生って自分たちのアイデンティティを偏差値にしか見出せない人も多いから、それが否定されたと思ってすごく怒ってきます。「俺は駿台の予備校の模試で何点とりました」みたいな。


本当にどうでもいいなと。なぜかというと、これからの時代「偏差値が高い」とかの頭の良さというのはコモディティ化するわけですよ。価値がなくなるわけ。

これはあらかじめ断言しときますけど、本当に価値がなくなります。

弁護士や医者のような国家資格で独占的なビジネスをやっている人から仕事がなくなる理由

いくつか例を挙げます。


例えば、1997年にカスパロフというチェスチャンピオンがIBMのスーパーコンピューター(ディープブルー:Deep Blue)に負けちゃったんですけど、その進化系にあたる「ワトソン」が2011年に今度はクイズで人間のチャンピオンに勝っちゃったわけですよね。


ワトソンは今どんどんビッグデータ化していて、法律の診断においてはいわゆる法律家よりもワトソンの方が正確な法律判断をするんですよね。あるいは人間の医師も同じで、人間の医師の診断は確率のある疾病の「上位5個」までしか目がいかない。ワトソンはもっと確率が低いものまで検証しようとするから、所詮メディカルドクターの出る幕はなくなるわけですよね。そうして弁護士や医者のような国家資格で独占的なビジネスをやっている人から仕事がなくなっていきます。


じゃあ、「何に価値があるか?」というと、いわゆるブルーオーシャン、統計的学習則では扱えない初めての事象を切り拓く人。これを「Genius」と定義しますけど、そういうものにしか価値がないんですよ。

Geniusを決める要素は、IQではなく、「Grit」になりつつある

もう少しだけ加えると、チャールズ・スピアマンという人が「gファクター」という要因があるってことを統計的に見つけました。


これは、要するに地頭の良さ、一つの分野だけじゃなくていろんな知的な領域について共通するものです。最近ではその「gファクター」がどこら辺の脳活動と関連するかが見えてきて、前頭葉の海馬の活動に関係しているってことが分かっています。簡単にいうと、地頭がいい人っていうのは「どれくらい自分の目の前のタスクに集中できるか」で分かる。これがIQの高い人になるわけです。


そして、それと似た概念として最近「グリット(Grit)」という概念がでてきた。


要するにIQの高さよりも、「やり抜く力」の方が成功と相関が高いと統計的に見えてきた。裏にはいろいろリサーチペーパーがあって、統計的に処理して才能があるかないかということよりも、とにかくゴールに向かってやり抜く力というものが重要だとそれが「グリット」という概念です。


例えば、有森裕子さん。彼女も全く才能がないって言われて、高校の陸上部の監督には「お前、無理だから入れない」って言われた。にも関わらず、1ヶ月の間、その監督をストーカーして部活に入れてもらったんですよ。リクルートの陸上部に入って、小出義雄って監督に習うんですけど、なぜ入れたかっていうとリクルート事件で入れたんですよ。誰も行かない。でも彼女はやめなかったんですよ。

松岡修造もそうなんですよ、修造はユースの時に才能がないと何回も言われたらしいです。で、才能があると言われた人はその後に居なくなっちゃったんですよ。才能がないと言われた松岡修造や有森裕子だけが残って、それが「Grit」だと。

アンリ・ルソーは東京藝大に入れない

こういった例は他にもあります。

例えば、アンリ・ルソーって皆さん知っていますか?


彼はフランスの画家なんですが、彼の絵って一見すると素人が書くような絵なわけ。シンプルなのよ、絵の構成が。今はMOMA(ニューヨーク近代美術館)とかに展示されてるくらい洗練されてるわけ。でも、アンリ・ルソーは東京藝大の入試に通らないよね。だけど書き続けてピカソが発見したことをきっかけに有名になった。彼の絵は、芸術なのか絵画なのかそうじゃないかという論争がずっとあって、だけど今は認められてる。こういう例があるんで、若い学生にも、諦めちゃいけないってことを言いたいんですね。


いままでお前には才能がないとか、お前には無理だとか、お前はクラブには入れないとか、お前はここから先に行けないと言われた経験がある人、もしそれが本当にやりたいことなんだったらそう簡単にあきらめるのは止めましょう。


今度は、「グリットを持つ人々に、社会は何を期待するのか?」。

それは「文脈から外れて考える」ってことです。

世間は「バカじゃないの?」というが、よく考え抜いたら「理が通っていること」。これをやってほしい

「文脈から外れる」というのを違う言い方すると、「世間はバカと思うけど、実際には賢いことを考える」ということです。イーロン・マスク*も勝つのはここだと言い切っています。


あるいは、スティーブ・ジョブスが言った「stay hungry, stay foolish」は世間から見るとバカであれということ。自分でよく考え抜いて理が通ってるんだけど、世間はそれを「何それバカなんじゃないの?」というようなことをやってほしいという話なんだよね。


*イーロン・マスク…南アフリカ共和国出身のアメリカの起業家。スペースX社の共同設立者およびCEOを務める。

特異的な能力を開化させる、「望ましい困難」という概念

最後に、皆さんに知ってほしいのは「Desirable difficulty(望ましい困難)」という概念です。


困難があったほうがそれを乗り越えようとしてオリジナルな能力が発達するという考え方です。例えば、難読症の方は難読症という状況があるがゆえに他の能力を発達させて、それがユニークな天才的な能力になるみたいな。なんで何か苦手なことがあるとか、恵まれない環境になるってことは必ずしも悪いことではないというようなリサーチがあるんです。


これは認知科学でも非常に注目されている概念の1つで、アインシュタインの脳の研究みたいに脳科学的な裏付けもできてる感じですね。それで君たちに質問したいんです。


あなたにとって望ましい困難はなんでしょうか? あるいは何ですか? そしてあなたは望ましい困難をどのように乗り越えましたか? さらにもし君たちがなんらかの困難に直面しているんだとしたら、あなたはそれをどのようにして望ましい困難に変えることができるでしょうか?


これをぜひ、考えてください。


ーー第1弾・波頭亮氏の講演はこちらから

波頭亮 vs 茂木 健一郎対談:人財の陳腐化に抗う「異才の策」

KENの執筆後記: 

突き抜ける人財ゼミに求められているのは「単なる賢さ」とは少し違う。今回参加した彼らには意志がある。グリットがある。そんな彼らが第一線の講師陣と2泊3日で時間を共にする。


「化学反応」が起きないわけがない。


突き抜ける人財ゼミは来年も行われる。毎年応募者は拡大し、今年は1,500名を超えた。小さなムーブメントから始まった動きは、毎年多くの人を巻き込み、まさに「日本の若者への投資活動」になりつつある、来年は倍以上になるだろう。


大企業が大企業でありつづけるのは、社会に還元する使命があるから。まさにそれをイベント自ら体現しているイベント、そう感じた2泊3日だった。


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北野唯我(KEN)
取締役
北野唯我(KEN)

北野 唯我(きたの ゆいが):株式会社ワンキャリア 取締役CSO/作家
新卒で博報堂の経営企画局・経理財務局勤務。米国・台湾留学後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ワンキャリアに参画、現在取締役として戦略・採用・広報部門を統括。2021年10月、同社は東京証券取引所マザーズ市場に上場。作家としても活動し、30歳のデビュー作『転職の思考法』(ダイヤモンド社)が20万部、他に『天才を殺す凡人』(日本経済新聞出版社)などで、著者累計40万部。

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