※こちらは2016年11月に公開された記事の再掲です。
こんにちは、ワンキャリ編集部です。
本日は、女性のキャリアWEEK特集最後の記事をお届けします。
「女性であること」を理由に進路を阻まれることは、現代においても珍しいことではありません。しかし、周囲の制止を乗り越え果敢に自分のキャリアを選択する女性もいます。今回は周囲を説得しIT業界へ就職、現在もSIer(※1)として活躍するAさんからお話を伺います。
(※1)SIer(システムインテグレーター):IT関係のコンサルティングから実際のシステム運用まで一括して責任を負う企業、あるいは従業員のこと
初めてジェンダー差を感じたのは「大学受験」
──女性は途中まで男性と同じように育てられるのに、突然「ピンクの門」が用意され、別のキャリア選択を余儀なくされるという議論があります。Aさんにとってそんな「ピンクの門」はどこから始まったのでしょうか。
Aさん:大学受験ですね。高校までは「頑張って勉強しろ」と言われてきたのに、大学受験からいきなり「女の子なんだから」と手のひらを返されました。私には兄がいるんですが、兄の大学進学では無条件で『浪人・私大・一人暮らし』の3大セットが許されていました。しかし私の場合はまず「大学行きたいのはなぜか」を説明して、学費を融資してもらう許可が必要だったんです。ナチュラルに「女の子なのに勉強するの?」の世界でした。
──兄妹で待遇の差に驚かれたことと思いますが、どうやって進学を果たしたのでしょうか。
Aさん:先生の力を借りられたのが大きかったですね。高校が進学校でして、就職する学生はほぼゼロ。先生方が生徒全員進学するものだという雰囲気を作ってくれましたし、学校のカリキュラムには当たり前に大学入試対策が入っていた。おかげで反対していた親も「それが当たり前なのかな?」と受験の雰囲気に飲まれてくれて(笑)。私立への進学は無理でしたが、実家から通える国公立大学なら……という条件付きで許可をもらえました。
大震災を機に、プログラミングの世界へ
──現在はSIerとして活躍されていますが、その道に興味を持たれたきっかけは何でしたか?
Aさん:直接のきっかけは、東日本大震災でした。ちょうど高校を卒業して、入学までの期間はモラトリアムゲット! と安心した直後に東日本大震災が起きたんです。テレビで津波の様子を見ながら、これからこのままではいられなくなるのだろうなと不安でいっぱいになりました。
そして「何か私も支援をしたい」と思っていたときに、復興支援の形としてクラウドファンディングがあることを知ったんですね。「何かチャレンジしたい」という人がネットを介して資金を集めるクラウドファンティングのWebサービスを作るには、エンジニアが欠かせないですよね。それで、そういう道もあるかなと。
最初は興味を抱いただけでしたが、その後自分でも驚くことにプログラミングの世界に引かれていきました。
──しかし、大学は経営専攻っておっしゃっていましたよね。プログラミングとは、学問領域の距離がありそうですが。
Aさん:そうなんです。大学の教授陣や先輩方にプログラミングの勉強をサポートしていただいて、何とか大学2年から履修することができました。指導教官や先輩に恵まれていたからできたことだと、感謝しています。
地元就職をしないために、留学を選ぶ
──その後、就職活動はどう挑みましたか。
Aさん:IT企業を受けたいとは思っていたんですが、正直にいってIT企業にはいいイメージがなくて……経営学を勉強してそっちで働いた方がお給料も高そうだなとか(笑)。ITは長時間労働にブラック企業といったイメージに縛られていましたね。
それに敷居の高さもありました。大学入学前からプログラミング言語を書ける人がざらにいる世界で、大学2年から勉強を始めて、しかも女でエンジニアになれるのか? と不安には思っていました。
──「女性」という部分にも引っ掛かりを感じていたんですか。
Aさん:そうです。親は私に地元での就職を望んでいたんですが、私の住んでいた地域には下請けSE職の求人しかありませんでした。それこそ長時間労働じゃん……というところから不安になりました。
それで、何とかして就職するときには家を出ないといけないな、と考えるようになったんです。でも親が反対することは火を見るよりも明らかでしたから、就活自体に熱意がなくなっていました。
留学先で進路を選び取る勇気を手に入れた
──そこからどうやって打開策を手に入れましたか?
Aさん:ちょっと就活に身が入らない……それなら環境を変えようかなと考えて、留学することにしました。英語ができればプログラミングにも役立つし、小さい頃から憧れていたのもあります。親には反対されるだろうと思って、頭金を払ってから報告するというあこぎな手段を取りましたけど(笑)。
──すごい行動力ですね。今から振り返って、留学はいかがでした?
Aさん:借金はしましたが、力になったと思っています。今就活をされている方へ伝えたいことなんですが、留学へ行くなら学生の今が一番です。憧れているなら絶対にチャレンジしてほしい。
私の場合は留学先で、有名企業で働くエンジニアさんから背中を押してもらったことが大きな力となりました。「まだ若いのに『習い始めたのが遅すぎる』なんて、何言ってるの。今から勉強すれば十分間に合うよ」「これからの時代はエンジニアだよ」と、勇気の源になる言葉をいっぱい掛けてくれました。
また、日本企業の海外支社勤務として活躍するエンジニアさんにもお会いしました。エンジニアとして就職しても、日本では年功序列で管理職になってしまうことがままあるそうなんですね。でも、「管理職にはなりたくないんだったら海外で就職すればいい。実力をつければ何歳でも活躍できる」と言ってくれました。
周囲の支援や留学を通じて「女の子なのに」を超えられる
Aさん:帰国後、就活に本腰を入れました。さくっと終わらせようと思って(笑)。早い時期から就活を解禁していた外資系の企業を10社ほど受けました。就活の軸は2つ。プログラミングが続けられそうなことと、留学資金を返すお給料をもらえることです。
英語とプログラミングが多少できることから好感触をいただけ、無事に内定できました。内定後は独学でプログラミングの勉強を続けて、入社時に後れを取らないよう頑張りました。上京して参加した3カ月のエンジニアインターンが特に実りがありましたね。入社した会社とは別の会社だったんですが、実際に最先端の現場を感じながらすごいエンジニアさんたちと一緒に働くことで、どんどん自分の好奇心が刺激されて。もっともっと学びたい欲がむくむくと湧いてきました。
──新卒就活から、現在の暮らしはいかがですか?
Aさん:一言でまとめるなら伸び伸びとしていますね。現在もSIerとして働いていますが、いろいろなものから開放されたなと。インターンで生まれた好奇心は今でも私を駆り立ててくれていて、勉強を続けています。きっと留学して環境を変えなかったら、今でも地方だからという思い込みで自分の可能性を狭めていたと思います。
親子関係にも変化があって。留学して私が変わったことを感じたらしく、いい感じに子離れしてくれました。「もう勝手に1人で生活しろ」って(笑)。親は私のことを心配していたんだなと、今は冷静に思えます。
でも、親の考えや常識が私の世代にも当てはまるとは限らない。親が学生だった頃や就職した頃と、今の就業環境は変わってしまっています。親と子供の間で、どうしようもないほど認識の差ができていることもあるかもしれない。もしこれをご覧になる方が同じ身動きの取りにくさを抱えていらっしゃるなら、周囲のあなたを支援してくれそうな人を頼って、また場合によっては留学というカードを多少、無理に切ってでも前に進んでほしいと思います。キャリアを諦めずに進むことで、人生を満喫している先輩がここにいるぞ、ってね(笑)。
──ありがとうございました!
全4回:女性のキャリアWeek
第1弾:女性のキャリアを考える上で欠かせない「就職・結婚・出産」。女性のキャリア記事まとめ6選!
第2弾:「銀行は女性にとって働きづらい」は本当?メガバンクvs外資系対談(前編)
第3弾:「女性が輝く?外資は男女ともに働きづらいですよ」メガバンクvs外資系対談(後編)
第4弾:「女の子なのに」と止める周囲を説得しうるキャリア選択とは?SIer女性へのインタビュー