1879年の創業以来、社会と人々の「いざ」を支え続けてきた東京海上日動火災保険。同社は長年、時代とともに変わりゆくさまざまな「リスク=課題」と対峙(たいじ)し、保険商品の開発・提供を通じてこれらの課題解決に取り組んできました。近年は保険の枠を超えたリスクソリューション事業を展開するなど、幅広い事業分野で世界中の社会課題解決に取り組んでいます。
そして2026年度、同社は大きな転換点を迎えます。職種を総合職に一本化し、「同意に基づく転居・転勤制度」を実現するなど、画期的な人事制度改革に踏み切るのです。この改革により、社員一人一人の意思とキャリアビジョンを最大限尊重し、持てる力を最大限発揮する新しい仕組みが整います。
今回は人事企画部 部長の目黒誠之氏に、この改革に込めた思いと、これからの東京海上日動が目指す未来像についてお話を伺いました。
目黒 誠之(めぐろ まさゆき)
1998年に入社。長崎支店や経営企画部などでの勤務を経て、東京海上ホールディングス事業戦略部にて、新規事業開発に従事。現在は、東京海上日動火災保険の人事企画部長として、人事政策全般を指揮する。100年後もお客様の「いざ」をお守りするため、人事制度・運用変革やDE&Iの推進、エンゲージメント向上の支援などに取り組む。
<目次>
●人事制度の改革に踏み切る背景とは?
●My Aspirationをもとに、キャリアを描く
●人事制度を刷新しても、変わらないこと
●見えない壁を壊し、社員のポテンシャルを解放する
人事制度の改革に踏み切る背景とは?
──早速、人事制度を刷新した背景について教えてください。
目黒:以前までの当社は、国内外を問わず活躍できる「総合職」と、特定のエリアで勤務する「エリア総合職」という2つのキャリアコースがあり、入社する際にどちらかを選択する必要がありました。そして総合職で入社した社員は、社命によりいつでもどこへでも転居・転勤することになります。
これからの時代は、複雑化・多様化する社会課題に直面するクライアントに対して、当社は有事だけではなく平時にもお役に立つために、保険の領域に留まらず、保険以外のソリューションも提供していきます。こうしたビジネスモデルの変革に合わせ、新たな事業やソリューションを生み出せる将来有望な人材をより多く採用していかなければなりません。
他方、社会的に夫婦共働きが一般的となり、若年層の働き方に対する価値観も大きく変わっている中で、全国転勤のある人事制度が、採用や人材のリテンションにネガティブな影響を与え始めていました。
こうした流れを受け、2021年度頃から「転居・転勤を伴う人事制度を見直すべきでは?」という議論が交わされ始めました。
ただ、東京海上日動は全国47都道府県に支店があることも強みの一つであり、全国転勤によりさまざまな拠点で経験を積んだ総合職の社員と、その地域に根差しその地域の活性化に強い思いを持ったエリア総合職の社員が協働することで、各支店が盛り上がっているのも事実です。経営側でも転居・転勤に同意が必要になると、「エリアごとに人材の偏りが生じ、競争力が弱まるエリアも出てきてしまうのでは?」という声も上がっていました。
このようにさまざまな意見や思いが交錯する中、コロナ禍で働く場所にとらわれない柔軟な働き方を全社で推進した結果、そうした働き方も活用した新しいビジネスモデルの検討が進みました。これが追い風となってプロジェクトを動かすことができ、2026年度より新たな人事制度の導入にこぎつけることができました。
──さまざまな障壁がある中で、最終的になぜ刷新に踏み切ったのでしょうか?
目黒:損害保険事業は、ビジネス活動のどの瞬間にも人が関わる「People’s Business」です。つまり人の力がなければ、当社の事業は成り立ちません。
この心に立ち返り、社員一人一人の力を最大化するにはどうすべきか? と改めて考えて導き出したのが「その人自身が望むキャリア、働き方の実現に向けて、会社がそれをより一層後押ししていくことが重要だ」という結論でした。自分自身の成し遂げたいという意思に基づき仕事に向き合うときのパフォーマンスが高いことは言わずもがなですので、社員一人一人のこうした「My Aspiration(願望、大志)」に基づいた人事異動を行う新たな制度を構築することを目指しました。
My Aspirationをもとに、キャリアを描く
──人事制度は、具体的にどのように変わるのですか?
目黒:総合職・エリア総合職の垣根は取り払い、一本化します。その上で、人事異動は本人のMy Aspirationに基づいて検討します。まず、社員一人一人がMy Aspirationを起点として、希望するキャリア像、仕事内容、勤務地などを申告します。My Aspirationやキャリアビジョンは簡単に描けるものではありませんから、上司との1on1などを通じて解像度を高めていきます。こうして社員が申告した内容に基づき、次の異動部署や勤務地を会社が検討・決定します。
そのため、本人の同意なく転居・転勤が決まることはもうありません。新たな人事制度のもとでは、例えば思い入れのある地域の活性化に貢献しながらキャリアアップしたい方や、新たな地域で新たな業務に挑戦し成長の機会を得てみたい方など、多様な社員の志向・思いに基づいた人事異動を実現したいと思っています。
ちなみに、これまでは首都圏や関西圏のみで総合職を採用し全国各地に配属していましたが、総合職へと一本化する今後は、全国各地での総合職採用を強化していきます。
思い入れのある地域でキャリアを築き、その地域に貢献したいという思いや志を持った方の採用を積極的に行い、人によっては異なる地域へ転居・転勤をして成長、キャリアアップを実現していく。このような形で全国各地をさらに盛り上げていければと考えています。
──新しい人事制度の運用に向けて今抱えている課題はありますか?
目黒:当社には、社員自らがキャリアビジョン実現のためにチャレンジしてみたい職務に応募できる「JOBリクエスト制度(※)」という社内公募制度があるのですが、この制度の活用と実現をさらに推進したいと考えています。自らのMy Aspirationを明確にし、これに基づき新たな職務を自ら選択する社員をさらに増やしていきたいです。
そのために、日本中の支店に魅力的なポストをさらに増やしたり、社員全体のMy Aspirationを整理・分析したり……など、多角的な対策を進めていこうとしているところです。
(※)……社内のさまざまな職務(国内外)に自ら手を挙げて異動できるキャリア形成の仕組み
──東京海上日動には多くの社員がいるため、「My Aspirationが会社の方針にマッチしていない」という方が出てくる可能性もあるのではないでしょうか?
目黒:そうですね、全員が会社の方針にピッタリ沿ったMy Aspirationを持っているわけではないと思います。実はこれを解決するために、上長と本人で1on1を行い、当社が掲げるパーパスと本人のMy Aspirationをうまく重ね合わせていく「LINK対話」という施策を2024年4月よりスタートしました。
東京海上日動で希望のキャリアを実現するにはどうしたら良いか、「対話」することでそれぞれの最適解を見つけ出してもらえたらと考えています。
人事制度を刷新しても、変わらないこと
──ここまでは人事制度の刷新による「変化」についてお聞きしましたが、反対に「これまでと変わらない部分」もあるのでしょうか?
目黒:「JOBリクエスト制度」の推進など、本人のMy Aspirationを重視するスタイルへと変わっていく一方で、会社からのアサインによる人事異動も行っていくことは変わりません。
というのも、当社はこれまでの人事制度でも、本人の将来やキャリアを考え抜いた上で人事異動を決めていたからです。一人の将来を客観的に見据えて、本人が気づいていない最適なキャリアを提示する従来のやり方も、人によっては必要ではないかと考えています。
ただし、何度もお話ししているとおり、本人の了承を得ずに転居・転勤を求めることはありません。仕事よりも私生活を大切にしたいタイミングもあると思いますので、転居・転勤を伴う異動は必ず同意の上で決定します。
──会社が、本人が気が付いていない最適なキャリアを提示することもありますが、転居・転勤に関しては同意の上で行われるということですね。
目黒:その通りです。
また今後は、東京海上日動の中だけでなくグループ会社へ出向したり、グループ会社から東京海上日動へ来たりする異動もこれまで以上に増やしていけたらと考えています。例えば、当社グループにはヘルスケア事業を展開する会社もありますが、ヘルスケア事業に興味があり、挑戦してみたいというアスピレーションを持った東京海上日動の社員がその事業に携われるようになったら、社員の可能性をもっと広げられるかもしれません。
会社の垣根を超えて、活発に人材交流ができる体制を作れたらと思います。
見えない壁を壊し、社員のポテンシャルを解放する
──人事制度の刷新によって、組織が今後どのように変化することを期待していますか?
目黒:今回の人事制度改定では、ジェンダーフリー、エイジフリー、ボーダーフリー、ワークスタイルフリーという「4つのフリー」の浸透を加速させることを掲げています。例えば、これまで首都圏以外の地域で働いていた社員の中には、「本当はやりたい仕事があるけど、地方に住んでいるからかなえられない」という方も多かったのではないかと思います。そのような見えない壁を取り払い、一人一人のポテンシャルを解放していきたいです。
また、これまでの東京海上日動は、同じような人が同じような場所に集まる、同質性が高い会社だったと思います。しかし今後は、地域にいるエリア総合職のメンバーも、本人の希望に応じてこれまで以上に異動の範囲が広がっていくことになりますし、国内外の離れたエリアから人が集まったり、年代の違う社員が同じ仕事に就いたりすることで、かつてないイノベーションが起きるのではないかと期待しています。
──就活中の学生に向けて、メッセージがあればお願いします。
目黒:損害保険事業は、若い方からするとややお堅いイメージがあるかもしれませんが、実は「人や社会の新しい挑戦を後押しする」という、とても社会貢献度の高いやりがいのある仕事です。また保険は、時代によって常に変化する「リスク」から身を守る商品であるため、状況に応じた進化や変化も求められます。
そして東京海上日動は、海外ネットワークも豊富に持つグローバルカンパニーです。海外拠点のポストは今後さらに増えていくでしょう。「世の中のトレンドを知りたい」「日本を飛び出して勝負してみたい」「自らの手で新しい価値を作ってみたい」と考えている方は、ぜひ一度話を聞きに来てほしいです。
人事制度の刷新によって、これから若手社員の活躍の幅はさらに広がっていきます。東京海上日動の現在の体制や常識、凝り固まった思考を壊そうとしてくれる方は大歓迎です! 新卒の皆さんの入社によってどんな化学反応が起こるのか、とても楽しみにしています。
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【制作:BRIGHTLOGG,INC./撮影:遠藤素子/編集:鈴木崚太】