多くの国内系のアセットマネジメント(アセマネ)は銀行、証券、生保、損保の非上場子会社が大半であり、外資系は投資銀行系の一部の例外を除き、新卒採用を行わない。
このため、近年まで就活生にとってなじみが薄く、多数のハイスペ学生が応募をするような業界ではなかった。
しかし、外資系アセマネがそれなりに高給で、まったり働ける「定時帰りでも年収3,000万!? The「まったり高給」な外資系運用会社、あなたは興味ある?」ことが知られてきたのか。あるいは、外銀や国内系証券の専門職があまりにも難関のため流れてくるのか。理由は分からないが、新卒採用市場でも、それなりに存在を認知され始めたようだ。
関係者からしたらうれしい話ではあるが、アセマネ志望の就活生について若干気になることがある。
アセマネの志望動機が「人々を笑顔にしたい」でいいのか? 人事に聞いてみた
ONE CAREERなどの就活メディアには、過去の通過したエントリーシート(ES)が掲載されている。私はそれを見てショックを受けた。志望動機があまりにも浅すぎるのだ。
「貴社のような●十兆円もの巨大な資産を運用する会社で働いてみたい」であれば、まだかわいげがある。しかし、「運用力によって日本の産業を元気にしたい」というのは何だ? アセマネはどうやって日本の産業を元気にするのだろうか? どうせIBD(Investment Banking Division:投資銀行(部門)の略)が本命で、そのコピペなのだろう。
納得がいかない志望動機の数々が目に付く中、「究極」の志望動機が見つかった。
「資産運用で人々を笑顔にしたい」
ちゃんと調べれば中学生でも、もう少しマシなものが書けるだろ……。
私は憤慨し、国内系アセマネの人事に話を聞くことにした。この世界は狭く、外資系も国内系もいろいろとつながりがあって、お友達は多いのだ。
鷹津:アセマネのESの志望動機、あまりにもひどくないか? 外銀や国内IBD志望者も併願しているんだろう?
人事:鷹津さんは外資歴が長くて、経験者のレジュメしか見ていないからそう感じるんだよ。俺はもう慣れた。ご存じのとおり、会社側は金融プロ職の志望動機なんて興味がないんだ。だって志望動機なんて、給与水準の高さとスキルの習得に決まっているだろう? ESなんて形式的な学歴フィルター。あとは面接で絞ればいいんだよ。
鷹津:それは分かる。でも本気でアセマネを受けているハイスペ学生も多いはずだ。通過するために、クオリティの高いESを書こうと思わないのか?
人事:確かにアセマネが本命であれば、絶対にESで落ちたくないと考える。だからこそ、学生はリスクを取りたくないんだ。エッジを効かせたESを書けばぶっちぎれるかもしれないけど、ESはとりあえず通過すればOKなんだよ。エッジを効かせたESを書くのは、学生からしたら逆にリスクだ。無難に前例を踏襲して、学歴や英語などで通過を狙う方が手堅いんだよ。
鷹津:ぐぬぬ……。確かにそうかもしれないが、納得できないなあ……。
まあ、そういうわけで、オジサンのおせっかいかもしれないが、内定率を高めたいなら、以下のような準備はしてほしいという要素をまとめてみた。学歴フィルターを逆転する武器になるかもしれない。
アセマネ志望の君に問う。志望職種は絞れているか?
(1)外資系への転身を考えているなら、運用か営業かの実質2択
銀行や証券ではなく、あえてアセマネを志望するのは、将来何らかのプロを目指したいからであって、やりたい職種は決まっているはずだ。
将来的に外資系への転職を考えている場合は、対象となる職種は営業か運用かの2択だろう。どんなところでも、この2つの部門は必ずある。
もちろん、人事、経理、コンプライアンス、IT、オペレーションといったミドル・バック部門も存在し、これらの職種で成功を収める人もいるが、特殊なのでこれはいったん置いておく。
運用志望なのか、営業志望なのか。ここがあやふやだと、モチベーション不足、研究不足、一貫性がないなど、面接で良い印象を残すことは難しくなる。この点は明確にしておきたい。
また、この2職種では対策も当然異なる。
(2)商品開発・商品企画は、ゼロから商品をつくる組織ではない
「商品開発」「商品企画」というと聞こえはいい。国内系アセマネにはこの手の名称の組織は存在する。
しかし、商品企画的な仕事は、営業部門が機関投資家や、証券や銀行などの販売会社からニーズを吸い上げて、運用部門・本社と相談して決定、といった流れで進む。
国内系アセマネの商品開発系の組織は、基本的には営業と運用との橋渡し的な部署であり、独自にゼロから商品を開発するような組織ではないのだ。
また、外資系アセマネに関して言えば、商品企画系の部署の求人は、運用部門や営業部門と比較してはるかに少ない。本音を言えば、商品系を志望部署とするのはあまりお勧めできない。
(3)実際の花形は営業部門!? 運用部門と営業部門の職務内容を正しく理解しよう
OB・OG訪問を受けたり、SNSで相談を受けたりすると、とりあえず運用部門志望という学生が結構多い。アセマネの花形だと安易に想像してしまうのも分かるし、伝統的には、運用部門の方が営業部門より社内の地位が高いという傾向はあるので理解できなくもない。
しかし、特に外資系においては、リサーチ、銘柄選択、売買執行などの実質的な運用業務は海外拠点で行われる。このため、日本では運用を「管理する」仕事であることが多い。
外資系の日本拠点の役割は、海外拠点で運用されたプロダクトを日本に持ち込み、ファンドや、一任運用という形態を通じて投資家に届けることだ。
そう考えると、むしろ花形は営業部門だと言うこともできるし、実際、外資系の求人は営業職の方が運用職よりも多い。
このあたりは分かりづらい部分ではあるが、重要な点なのでよく理解しておく必要がある。過去にまとめているのでアセマネを志望する人は下記の記事を読んでいただきたい。
【決定版】トップ就活生からも熱い視線!? 「アセマネ」の職種と業務、外資系への転職事情まで中の人が徹底解説
運用なのか、営業なのか、自分が希望する職種を決定する。兎(と)にも角にも、これが出発点なのだ。
自分で投資したことある? アセマネを受ける際に準備しておきたいこと
(1)「GPIF」「SDGs」……頻出用語の理解は、運用部門・営業部門共通して必要だ
アセマネはそもそも何をする会社か、入ってからどんな仕事がやりたいのかが不明確な状態かつ、コピペしたESを提出しても、確かに学歴やガクチカが良ければ、ESが通る可能性はある。
しかし、アセマネ各社の新卒採用枠は若干~30人程度と、他の金融機関と比べて非常に少ない。ハイスペ就活生であっても、あまりに準備不足の状態で臨めば全滅しても不思議ではないだろう。
国内系はほぼ全てが非上場なのでIR資料を読み込むことはできないが、採用ページや関連書籍はある程度読み込み、以下の用語くらいは知っておいてほしい。
・GPIF
・ESG
・SDGs
・オルタナティブ・プロダクト
・パッシブ運用とアクティブ運用
・テーマ型投信
・毎月分配型投信
そのためには、『日経』を購読したり、『東洋経済』『ダイヤモンド』『日経ビジネス』の経済3誌で気になるテーマがあればチェックしたりと、日頃から情報を貪欲に取りに行く習慣が必要だ。少なくともこれらの雑誌はアセマネ志望でなくとも、就活全般の役に立つだろう。
また、『野村週報』『週刊株式アウトルック』『ダイワ投資情報ウィークリー』『みずほ証券マーケットビュー』など、証券会社の定時刊行物の中には無料で閲覧できるものも結構あるので見ておきたい。
『日経ヴェリタス』は1部600円で買えるし、大学の図書館で読めるのなら参考になるので読んでおこう。
(2)運用部門志望なら、実際に投資を始めてみると知識が頭に入りやすくなる
運用部門を目指す場合、最もおすすめなのが、ネット証券にでも口座を開いて個別株やETFの投資を実際に始めてみることだ。
少額でも自分のお金で運用してみると、相場に対する関心度が格段に違ってくる。
一般的なマクロ経済やマーケット情報の把握に加えて、各社のIR情報の読み込みや、ファイナンス、テクニカル分析などについても、投資を始めると自ずと学習意欲が湧くし、知識が頭に入りやすくなるのだ。
少額の自己投資に、証券アナリストあるいは簿記2級、大学のファイナンス・会計系の勉強などを合わせれば、一貫性のある立派なガクチカができあがる。学歴によるアドバンテージを逆転する切り札にもなるだろう。
面接で「自分で投資したことがあるの?」と聞かれた場合「やっています」と答えたときと「ありません」と答えたときでは、本気度の伝わり方は全然違うはずだ。
とはいえ、まだ学生なので現実的に投資を始められない場合もある。
もちろん、投資経験がなくても運用職で内定をもらうことは可能だが、その際には、「今後1年間の日経平均の高値、安値の予想とその理由は?」という基本的な質問に対してどう答えられるかがキモになる。日頃から相場を意識しておきたいところだ。
ただ、運用職というのは運用成果が全てだ。頭がいいから、努力したからといって成果が出せるとは限らない。独特な向き不向きがある職種であり、途中で、プロダクトや営業職に転換して成功する人たちもいる。
とりあえず運用職を目指して準備を始めたものの、どうもしっくりこない場合、営業職などに切り替えても問題ないことは知っておいてもらいたい。
(3)営業部門を目指すなら、売れ筋ファンドを把握しておこう
アセマネの営業職についてもう少し説明しておくと、営業職は機関投資家営業(金融機関、年金など)と、リテール営業(公募投資信託の販売会社向け)に大別される。
なお、リテール営業といっても、証券会社や銀行のように、直接個人投資家に営業をするのではなく、自社の投資信託を販売してくれる金融機関向けのRM(リレーションシップ・マネジメント)(※1)営業である。
(※1)……金融業界では、主に大口顧客を担当する営業のことを指す
機関投資家営業>リテール営業という認識を持っている人もいるかもしれないが、それは正しい認識ではない。
なぜなら、営業職は収益で評価されるため、個人向け投資信託の方が機関投資家向けよりも手数料が厚い上に、当たれば一気にAUM(Asset Under Management:運用資産残高)が跳ね上がるからだ。
実際、外資アセマネで年収1億というのはかなりレアケースだが、あるとすれば、担当するリテール向けの投資信託が大当たりしたというケースが多い。
したがって、機関投資家営業とリテール営業との間には特に優劣はない。就活の段階であればどちらかに絞り込む必要はなく、両方を視野に入れてもいいと思う。
営業職を目指す場合は、公募投信の純資産残高と純資産の増加額について、売れ筋ファンドを把握しておくことが望ましい。もちろん、売れ筋は変化するが、上位10ファンドの名称と特徴(何に投資をするタイプか、毎月分配型かテーマ型か)を覚えておくと便利だ。
また、受けるアセマネごとに、その会社の売れ筋と合わせて、自分なりの考えを整理しておくと本気度がかなり伝わるだろう。
ファンドのパフォーマンスや販売用資料は全てウェブ上で見られるし、それほど難しいコンテンツではないので大した負担にならないだろう。
さらに、各社のウェブサイトをチェックして、ユーザー視点でのコメントを用意しても面白い。
国内系アセマネでは、ウェブサイトの運営は専属の部署が担当するが、外資系だと必ずしも専属のチームがないこともある。
その場合、営業の社員であってもウェブサイトの運営から携わり、販促ツールの1つとして使いこなせるわけで、この分野に精通していれば頼もしい。
外資系アセマネは全般に高齢化しているのでネットの世界に疎い人も多い。若手が強みを発揮できる領域だ。
「無策」でアセマネに入れる時代は終わりつつある
近年まで、アセマネは地味な存在であり、ハイスペ就活生が多数応募するような業界ではなかった。冒頭に書いたように「人々を笑顔にしたい」という志望動機でも、内定が出ていたのかもしれない。
しかし、外銀や国内系金融専門職の限りある席数に入れなかった上位層が流れるようになり、また外資系アセマネのうまみが少しずつ浸透してきた結果、ここ数年、国内系アセマネも難化の傾向にあるようだ。
本命が外銀や商社だからと、大した準備をしないで臨むと痛い目に会う──そんな未来も遠くはないだろう。今回紹介した対策を参考に、本当に活躍したい人たちが多数来てくれたら、この業界はさらに盛り上がるのではないか。現役社員として、そうなることを祈っている。
【鷹津・外資系金融キャリア研究所シリーズ】
・総合商社に内定した東大法学部・経済学部生が、3年~5年後に直面する贅沢な悩み
・20代で1000万プレイヤーも。「つまらない」「転職できない」──そんな理由で生損保をスルーしていいのか
・30代、年収1億円プレイヤーはどんな仕事をしている? 知られざるヘッジファンドの世界
・定時帰りでも年収3,000万!? The「まったり高給」な外資系運用会社、あなたは興味ある?
・外資系金融に勤めるとどれだけモテる?結婚相談所にガチで聞いてみた
・リーマンショックでクビになった、外資系金融マンたちのその後
・M&Aのプロ、FASとは何か?年収、コンサルやIBDとの違い、転職先を解説
・東大生と戦う必要ナシ?MARCH・関関同立から総合商社の内定を取る方法
・東大法学部生が知っておきたい「年収重視なら、弁護士と外銀のどちらがオススメ?」
・ベンチャー志望の就活生に考えてほしいたった1つのこと。「経営者」になりたいか、それとも「社員」になりたいか
・新型コロナで外資系金融が受けた影響とは?「まったり高給」はリストラで消滅するのか?
・【決定版】トップ就活生からも熱い視線!? 「アセマネ」の職種と業務、外資系への転職事情まで中の人が徹底解説
・六本木や丸の内に憧れる「地帝」エリートたちへ。外資系企業、金融専門職、総合商社に就職する勝ち筋とは?
・金融志望の学生諸君、「まったり高給」の穴場、政府系金融機関の魅力を知っているか?
(Photo:Olivier Le Moal , One Stock Photo , G-Stock Studio , Nick Starichenko , Iakov Kalinin/Shutterstock.com)