「やりがいを持って仕事をしたいと思っています。行くならやっぱり外資系企業でしょうか」
東京大学3年 ♂ うよしかくさん
ワンキャリア執行役員 北野唯我(KEN)です。
この連載では、私のこれまでの経験を踏まえて、皆さんのキャリア相談にお答えしています。
「外資系に憧れがある」
そういう憧れの強い学生さんほど、外資系企業のいいところばかりを見つめているようです。しかし、外資系企業といえどさまざまな実態があります。一括りに「やりがいを持つなら外資系」といえるのかどうか、実態はどうなのでしょうか。
外資には優秀じゃない人もたくさんいる。ただし、大変な仕事を続けるには、なにかしらの理由がある人が多い
「外資系への憧れ」の理由の1つは「優秀な人が多い」イメージではないでしょうか。しかし、それは実態とは異なると私は感じます。言い換えると、優秀じゃない人も山ほどいます。
それでも、全体として「優秀な人が多い」イメージがあるのは以下の2点の理由からだと感じます。
1. 入社してからの問題:大変さに耐えられない人は辞める
2. 入社時の問題:日系ではやりがいが満たされない人が集まる
1.「能動的に働いている人」しか残らない
まず外資は日系と比べて個人がやるべきことや裁量権が多い。裁量権とはすなわち、1人で決定すべきことが多いということ。一言でいうと「とても大変」です。したがって仕事になんらかのやりがいを持っている人や、お金への執着心が強い人しか務まらない傾向にあります(=そうでない人は辞めてしまう)。そして「能動的に働いている人」は、動機の善し悪しはさておき、向上心があり、ビジネスパーソンとしては魅力的に映ることが多い。これが「外資に長く勤める人=優秀な人が多い」というイメージを形成していると感じます。
2.「変わろうとすることを善としない」日系のカルチャー
もう1つ、外資に「優秀な人が多い」イメージがある理由は、日系にカルチャーフィットしない人が集まるということだと思います。まず日系企業には素晴らしいところがたくさんあります。例えば、一部自動車メーカーは、世界からも認められる商品を作り続けています。あるいは、社内のカルチャーも「横のつながり」や「プライベートまで含めた仲」をとても大事にします。福利厚生もしっかりしていることが多く、「社員を不安にさせないこと」に関しては極めて優れています。一方で、明らかにグローバル基準で見ると違和感を感じることもあります。その日系大手企業の弱点となっているカルチャーとは、「変わろうとすることを善としない」というものです。
その前提にある1つは「異なる意見をぶつけることを善としないこと」です。同一な意見、多数決によって意見が決まることがとても多い。一方、外資系企業では「同一の意見が複数あるということは、どちらか一人は要らない」といわれるほど、異なる意見をぶつけ合うことを善とします。
2つは「ユーザーの声よりも、社内の声の方が大事であること」です。ユーザーの声に真摯に声を向け、改善を求めるよりも、「これまでの延長線上でビジネスを進めること」が優先されるケースが多い。これは、日系メーカーなどでよくいわれることです。これでは時代の変化に追いつけるわけがありません。結果、これらのカルチャーに合わない人は外資系に流れざるを得ません。
外資らしさは、そのカルチャーよりも、企業のフェーズに重点があった
では、「やりがいを求める人には外資がオススメ」と一概にいえるのでしょうか?
答えはNOです。外資系にも、知らぬ間に陰が潜み寄ってきているからです。以前より魅力的な機会を社員に提供できなくなってきていることに起因します。
そもそも、外資が「裁量権が多い」のは外資のカルチャーに加え、企業のフェーズによるところが大きい。外資系企業が日本市場、彼らにとって新しい市場に足を踏み入れたばかりのときは成長機会が多くあり、新しいことに挑戦する機会が豊富にありました。日本市場特有の「非合理さ」を、外資が駆逐していくイメージでしょうか。しかし、外資といえど日本市場で成熟してきた産業が多く、日本市場全体でも成長機会が少なくなってきました。それによって仕事自体の面白みがなくなってきています。
日本の市場自体が成熟してきたため、外資系企業も徐々に「日系企業化」せざるを得なくなってきている
特に消費財メーカーや、金融などは、ほぼ成熟産業です。加えて、外資系企業は「グローバルのレギュレーションや、仕事の進め方」が確立されており、日本単独で改善できるオペレーション部分も少ない。結果「給料」や「ブランド」でしか社員を引きつけられなくなってきました。職種別採用とはいいつつも、仕事内容で魅力的な機会を提供できないとすれば、これは「外資系企業の日系化が進んでいる」ということです。
やりがいのある人はどこに行けばいいのか
では、やりがいのある人はどうすればいいか。結論からいって以下の2つの企業がオススメです。
1. 外貨を稼げる日系企業
2. 日本の競合にさらに勝ち抜ける力のある外資系企業
1. 日系企業は「その領域で外貨を稼げる力」が必要
「外貨を稼げる力が伸びる、日系企業に勤めること」が良い理由は、企業の成長の源泉は「お金を稼ぐ力」だからです。これは国内においてはシェアという概念で表現されますが、海外に目を置くと「外貨を稼げるかどうか?」です。言い換えると、海外でもきちんと通用する商品を売っているかどうかです。代表例は車を扱うメーカーですが、物でもサービスでも構いません。その企業に事業上の伸びしろがあれば、個人の成長機会と魅力的な給料を提供しやすい。
ちなみに、そういうと「商社は?」となると思いますが、輸入・輸出などのトレーディングビジネスなど、「売っているものが同じであるビジネス」は、長い目で見るとコストの最小化に進む傾向があるため、どこかで限界点に達すると私は感じます。投資ビジネスも金融と同様です。
日系企業のあるべき姿は、「個人の裁量」と「魅力的な給料」を出せるように整えること
これを企業がどうあればいいかの側面からいうと、日系企業のポイントはこうだと考えます。
「外貨を稼げる力を伸ばし、稼いだお金によって、魅力的な仕事の機会を与え、その成果として、適切な報酬を支払う人事制度を持つこと」だと感じます。当たり前のことですが、現実を見てみると実現できている企業も少なく、実現するのはとても難しいということでしょうか。
2. 外資が、外資であり続けるためには「日系企業がどう考えても、勝てない領域」が今後も必要
一方、外資系企業を志望する学生さんに見てほしいのは「ライバルの強さ」です。例えばマッキンゼーに行きたい学生さんは、同業のライバルである日系コンサルの実力を見るべきです。すなわち、日本では、野村総合研究所や、アビームコンサルティング、ドリームインキュベータなどです。これらの企業より、外資系企業のほうが明らかに強い場合、その企業は、今後も(彼らにとって)外貨を勝ち取り続ける可能性が高い。外資系企業は、(1)全社の利益と、その地域の利益の関係、(2)その地域の成長性で、給料や事業機会が与えられます。国内で勝つ余剰がまだあれば、今後も魅力的な条件を提供できる可能性は高いと考えられます。
共通するのは「現地で稼げているかどうか」
これまで「外貨を稼げる日系企業」と「日本でさらに伸ばせる外資系企業」をそれぞれお伝えしましたが、この2つには共通点があります。それは「現地で稼ぐ機会が今後もあるかどうか」です。現地で稼げていれば、現地の裁量権が多くなりできることが増える。これは、外資にとって日本、日系にとっての海外も同じことです。
「外資か日系か」は大別して捉えやすい軸のように思われますが、今後、日系に対し外資の方が、裁量権が多くやりがいのある仕事があるという傾向が薄まってくる可能性がお分かりかと思います。やりがいを持って働きたいなら「現地で稼げているか」を測ることを大切にしましょう。
本回答が皆さんの疑問を少しでも解消できたとしたらこれ以上幸せなことはありません。では、また次の機会に。
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