飲料、食品など多くの商品を世界展開するアサヒグループ。「アサヒスーパードライ」や「三ツ矢サイダー」、「カルピス®」、「エビオス」といった長年愛されているブランドを多く抱えています。
ロングセラーブランドとは、まさに挑戦の歴史であり、多くの困難を乗り越えてきた挑戦の結晶です。アサヒグループが脈々と受け継いできた未来への挑戦と新しい価値の創造への志について、グループ各社に所属する八木陸さんと高橋夢月さん、佐藤乃亜さんの3人にお話を聞きました。
<目次>
●入社のきっかけは、「ワクワクと笑顔を大事な人に届ける」ため
●誰も正解を知らない中、暗中模索で挑む
●新たな価値創造で培った「スキル」と「マインド」
●挑戦し続ける企業で「新しい価値の創造」に全力で取り組む
入社のきっかけは、「ワクワクと笑顔を大事な人に届ける」ため
──まず自己紹介をお願いします。
八木:現在はアサヒビールのマーケティング本部スマドリマーケティング部で働いています。業務としては、「スマートドリンキング(以下、スマドリ)」という、お酒を飲む人でも飲めない人でも楽しめる飲み方の提案に取り組んでいて、「アサヒスタイルバランス」というノンアルコール飲料と、アルコール度数が低い業務用の低アルコールリキュールの担当として消費者の皆さんに商品を届ける仕事をしています。
八木 陸(やぎ りく):アサヒビール マーケティング本部スマドリマーケティング部
同社が進めるスマドリの取り組みに従事。
高橋:私はアサヒグループ食品株式会社の研究開発本部にある、技術開発一課に所属しています。主な業務は2つで、まず食品素材の機能性の評価として、腸内環境の改善や免疫の向上について自社内や大学との共同研究を行っています。もう1つは機能性表示食品の届け出業務で、文献や情報をまとめる書類作成がメインです。
佐藤:私はアサヒ飲料株式会社に所属し、未来創造本部のCSV戦略部に務めています。CSV戦略部は2022年度に新設され、社会課題を解決しながら財務的価値を生んでいくことがミッションです。私自身の具体的な業務としては、新規事業であるウォータービジネスに取り組んでいます。
佐藤 乃亜(さとう のあ):アサヒ飲料株式会社 未来創造本部 CSV戦略部
ウォーターサーバービジネスの立ち上げに従事。
──皆さんの入社理由について教えてください。
八木:私は大学4年間に焼き肉店でアルバイトをし、お酒を飲んで楽しんでいるお客さんの姿を目の当たりにしてきました。ここまで人を楽しませるお酒は純粋にすごいなと、日々感じたものです。
そこから人々を集めてお酒を提供し、絆を深めさせるというビジネスモデルの外食業界に興味を持ち、業務用の酒類メーカーへの就職を希望しました。最終的に、アルバイト先の焼き肉店も「アサヒスーパードライ」を提供していたなどの縁もあって、入社に至っています。
高橋:私は大学院で応用生命科学を専攻し、微生物の研究をしていました。
大学入学時から食品メーカーをはじめとする食品に携わる仕事がしたいという希望を抱いていて、ベビーからシニアまで世代別にさまざまな商品カテゴリーを持つアサヒグループ食品が魅力的に見え、入社を決めました。
高橋 夢月(たかはし むつき):アサヒグループ食品株式会社 研究開発本部 技術開発一課 所属
酵母を活用した、腸内環境の改善や免疫の向上に関する研究に従事。
佐藤:私は2人とは異なり、人材業界をメインに就職活動を行っていました。それなのに、なぜ食品メーカーに入社したかと言うと、当時のインターンシップの募集要項に「ワクワクと笑顔」という文言を見つけたからです。実は私のモットーも、「ワクワクと笑顔を大事な人に届ける」ということ。案内をたまたま目にしたときには、「私はここに行くんだ!」と決めていましたね。
また、選考などで社員と接する機会を通じ、成長環境が整っていることも分かりました。人材業界に興味があった私としても、100年先もこの会社を残すために、組織開発や人材育成で貢献できるのではないかと考えて入社しました。
誰も正解を知らない中、暗中模索で挑む
──「新しい価値の創造」をテーマに、それぞれが関わってきた事業や商品・サービスについて教えてください。
八木:今、取り組んでいるスマドリ事業です。
これまでのビールメーカーは、お酒を飲める人に向けたビジネスを展開してきました。しかし人口は減少し、若者のお酒離れも進んできています。おカネをかけることなく楽しめるエンターテインメントサービスも次々と台頭してきている現代において、お酒を飲めない人たちにも価値を提供していく事業そのものが、新しい価値の創造につながると考えています。
実際のところ、スマドリへの取り組みはまだまだ始まったばかりですが、すでに認知率は45%ほどまで上がってきています。「スマドリのCM、良いよね」という声を知人・友人からいただくことも増え、結果が出つつあると実感しています。
高橋:私は現在取り組んでいる酵母の研究を通して、まさに新たな可能性を探っています。
酵母の可能性は大きく、例えば消化不良や食欲不振など、胃の働きが不十分なために引き起こされる症状に効果が期待でき、2030年に発売から100年を迎えるエビオス錠も、ビール製造工程で発生する副産物であるビール酵母を有効活用した商品です。
私は現在、酵母に関する商品化を目指すプロジェクトに携わっていて、すでに学会では研究成果の一部を発表しています。実は酵母には腸内環境を整える効果があると分かりつつあり、同じ効果を持つ乳酸菌などではカバーできない機能性を求めて今も研究を進めているところです。
とはいえ、まだまだ酵母そのものが世間に浸透しておらず、酵母の機能の周知などのために、現在は研究だけでなくマーケティング部門と連動したプロジェクトも進めています。
佐藤:私はゼロからイチを作り出す新規事業の担当として、ウォーターサーバーに関する事業化を目指しています。
ウォーターサーバーといえば家庭やオフィスに設置されている機器を思い浮かべるかと思いますが、駅や出先といった屋外でもウォーターサーバーを利用できないかと考え、登録者が各所に設置された機器からマイボトルに飲料水を入れられるサービスを開発しています。実際に、12月2日(月)からレンタルオフィスでの実証実験がスタートしています。
同じようなサービスは他社にもなく、量販店やドラッグストアが提供しているウォーターサーバー事業は数リットルの大容量向けになるため、よりパーソナライズされた容量で新たな飲料体験の提供を目指しているところです。
──新たな挑戦の過程で、挫折や困難はありましたか? またそれらにぶつかった時、どのように乗り越えましたか。
八木:スマドリは誰もやったことのない領域だったため、失敗も成功も私たちがすべて積み上げていかなければいけませんでした。
正解がないので、とにかくトライ&エラーの繰り返し。やるべきことは山ほどありながら時間が足りない状況でしたから、優先順位をつけて業務を効率的に進めるスキルも身につきました。
最優先と言えたのはまず認知度の向上で、喫緊の課題解決のために、利益は減少するものの認知向上に効果的なCM出稿を決めました。他にも、業務を進めるにあたって、立場によって考えていることが全く異なることも実感しましたね。
マーケティング本部長やスマドリマーケティング部部長、ブランドマネジャーでも考えは違うため、それぞれにアジャストした資料を作らない限り響くものも響きません。全員共通の資料では意味がないとも学びましたね。一方で、それぞれの資料作りにおいて、彼らの考えやマネジメント手法も理解できたため、大きな気づきを得ることもできました。
高橋:私は大学院までの研究と業務で担当する専門分野が異なっていたため、個人として腸内細菌の知識を新しくイチから学ぶ難しさがありました。
組織としても、現在は商品化を目指して各部署と連携したプロジェクトに参加しているため、研究だけに注力すればいいという状況ではなくなっています。私たちが研究結果をマーケティング部に提案しても、機能が素晴らしいことだけでは受け入れてもらえないことや、消費者に届きにくいと判断されることも少なくありません。
さまざまな部署の社員が入ったプロジェクトでは、「こんな機能があれば売れそう」「消費者はこういう機能が欲しいと思っているはず」といった、それぞれの立場からの意見交換によって業務が進んでいきます。
密なコミュニケーションを行うことで、あとになって立場の違いから「やっぱりできません」といった事態に陥るような非効率さもなくなりますし、新たな視点も獲得できます。私自身もマーケティング部と関わったことで、研究者として細部ばかり見てしまっていたと気づかされました。
以前に私が酵母の活用法や課題について語った際、マーケティングから「そもそも酵母とは何ですか?」「消費者も酵母について詳しくないはず」といった意見が聞かれました。確かに研究をしていれば酵母は知っていて当たり前ですが、他部署からすると当たり前ではないこともあります。
実際に、ホームページ上に「酵母エキスとは何か」と説明するコンテンツやキャラクターが生まれるなど、酵母を身近に感じてもらうきっかけ作りも進んでいます。当たり前だと思っていたことが実は違うと気づけるような、異なる立場からの意見はありがたいと感じる出来事でした。
佐藤:私は八木さんの知見のないところからすべて積み上げていった点に共感できます。
CSV戦略部で新規事業を進めるにあたって、マーケティング領域のみならず、サーバーなどの機材開発や品質保証といったところまで、バリューチェーンにおける全ての業務を自分で進めていかなければいけません。新規事業ですから社内の誰に聞いても分からないことが多く、知見がないところからのスタートになります。
部署としても1人が複数の事業案を進める体制で、周りは営業やマーケティングといった専門性を持った社員ばかり。一方、私は入社2年目でCSV戦略部へ異動となり、何もできないということを痛感しました。それでも進めなければいけないという状況で、大きな壁を感じたものです。
ただ、知見もスキルもなくても、とにかく動き出すことはできます。分からないことがあったら、知っていそうな社員に聞いてみる。幸運だったのは、新設された部署で、皆が新たなことにチャレンジするという状況は一緒だったため、困ったときは助け合うというマインドが部署全体に浸透していたことですね。
とはいえ、サーバーを作る工場選定からウォーターサーバーの設置先との交渉まで、今まで取引がなかった企業とコンタクトを取るとなると、ホームページを検索し、問い合わせをするなどの地道な作業が続く日々でした。
新たな価値創造で培った「スキル」と「マインド」
──新たな挑戦を経て、どのような点が成長したと感じていますか?
八木:パッと浮かぶのは、まず優先順位をつける力。それと聞く力ですね。
私も佐藤さんと同じで何もできなかったので、とにかく周りに聞くしかありませんでした。ただ、特定の人だけに質問を続けていると、自分の中の知見や視野が広がりません。そのため、まず誰がどんな分野に詳しいのかという把握や、分からないことと分かることの整理は欠かせません。
そして、聞き方そのものも重要で、どんな聞き方であれば一番気持ちよく答えてくれるかも考えるようにしています。
高橋:私は、入社後1年半程は研究に没頭する日々でしたので、大学院の延長のような感覚で、実はあまり成長実感がありませんでした。ところが、そんな毎日が他部署との関わりによって大きく変化していきます。
他部署とも連携しなければ作業が進まないとなれば、他部署の目線も分かるようになり、自分たちの研究成果を分かりやすく伝えるための工夫もするようになります。いつの間にか、研究者だけに通じる共有方法や発表だけではなく、商談に活用できる資料も作成するようにすらなっていきました。
これらは間違いなく大きな変化で、その変化を面白いと楽しめたこともあり、酵母のプロジェクトは大きなターニングポイントだったといえます。
佐藤:私は、「できない」と思っていたこともやってみたら意外とでき、「やったことがないだけだった」と思えたことで成長できました。
「できること」「できないこと」という以前に、そもそも新規事業の企画からそこで使用する機材の選定、品質審査まで、業務はやったことのないことばかり。ところが、いざガムシャラに取り組んでみると、できることも多かったりするものです。「やったことがないからできない」というわけではなく、「やったことがなかっただけ」だと日々感じることで、自信にもつながっていきましたね。
もちろん、専門家に比べたら「できる」と言えないレベルかもしれませんが、新しいことに取り組む日々において「やればできる」と考えられるマインドは重要で、「やってみよう」と前向きに捉えられるようになったことは大きな成長であり、学びだと考えています。
──新しい価値創造の醍醐味(だいごみ)と言えそうです。
八木:アサヒグループは、挑戦を受け入れる風土があることも大きいですね。実際にトライアンドエラーを繰り返して、成功も失敗も数多く経験できる土壌が整えられています。そして、このような経験を経てビジネスパーソンとして成長している実感を得ています。
佐藤:新しいことへの挑戦を後押ししてくれる環境が整っていると思います。他部署の人でも、相談したら自分ゴトのように考えてくれて協力してくれる社員がいることが、大きな魅力だと感じています。
それに、何もなかったところからウォーターサーバーの実証実験にまでこぎつけることができるなど、机上のものが実物の商品になるというメーカーならではの大きなやりがいもあります。
高橋:研究でも新しい挑戦ができているといえます。実は私自身、入社当初は「失敗したら怒られる」という考えを抱いていたものですが、実際の社内は真逆だったという、いい意味でのギャップにも驚きました。
そもそも私の部署では大学時代とは異なる研究をしている社員が多く、思うような研究成果が出ないことも少なくありません。しかし、研究が失敗に終わっても報告会で研究の意図や結果を提示することで議論が起こり、さらなる課題や次なる研究テーマが出てくることもあります。そうなると、もはや感覚的には失敗というよりも、むしろ成功とすら思えるようにもなってくるものです。
八木: そうですね。私も消費者アンケートなどの調査をして、自分の思い描いていた結果が出ないことが多々ありました。しかし、これは決してマイナスなだけではなく、将来の成功に向けた大事な資産にもなりうると考えられるようになりました。実際に労力をかけて調査を積み重ねることで、社内への説得材料が増えるのも大きいですね。
佐藤:「数と成功を求めたらダメ」というのは、どこかで使いたくなる名言ですね。
挑戦し続ける企業で「新しい価値の創造」に全力で取り組む
──最後に、記事を読んでいる学生にメッセージをお願いいたします。
高橋:就職活動では、さまざまな業界に興味を持つと思います。その中には第一志望の業界に入れなかったときの保険のような存在として見ている業界もあるかもしれません。ただ、もしも1mmでも興味を持ったのであれば、その興味を持った事実を肯定的に捉えてほしいですね。
私自身は食品業界を第一希望として、研究や商品開発を志して入社しましたが、いざ壁にぶち当たると「本当にこれをやりたかったんだろうか」と思ったことが正直あります。どんなことでも、うまく行かなければ興味が薄れたり、関心を持てなかったりしてしまいます。
しかし、興味がゼロにならない限りはやってみる価値はあるはずです。それは実際に働いて実感した思いでもあるため、学生の皆さんにも少しでも興味があれば閉鎖的にならずに、どんどんチャレンジしてもらえればうれしいです。
佐藤:私は今新規事業を創り出す仕事をしていますが、新しい挑戦ができるのも、企業としての信頼感があるからこそだと感じています。
新規事業に取り組んでもうすぐ3年になりますが、ようやく実証実験の段階に来ただけで、売上自体はまだ立てられていない状態。既存事業というしっかりとした基盤があるからこそ、トライ&エラーが出来ていると思っています。
アサヒグループには大きな基盤があり、アサヒ飲料としてもビジネスコンテストを開催するなどチャレンジできる環境を整えています。私自身、食品関係に興味があり、新規事業に取り組みたいという方とともに仕事をすることを楽しみにしています。
八木:私にとってのスマドリへの取り組みは、Well-beingな社会を作っていくことだと考えています。
実際、私の妻はお酒を飲めないため、スマドリの仕事を喜んでくれています。妻と同じようにお酒を飲めない人たちの手助けができているのであれば、新しい価値を作っているといえるのではないでしょうか。
そして、これからも熱量のある方々とともに、新たな価値創造を続けていきたいですね。
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アサヒグループ(アサヒグループジャパン、アサヒビール、アサヒ飲料、アサヒグループ食品)
【執筆:小谷紘友/撮影:是枝右恭/編集:山田雄一朗】