こんにちは、ワンキャリ編集部のトイアンナです。マーケティングという単語は響きが素敵な一方で、具体的な業務は分かりにくい側面があると思います。そこで今回は、
1. マーケターとはそもそも何か
2. 広告代理店、デザイナーとマーケターの違い
の2点を、実際に外資系消費財メーカーが作った広告とともにお伝えします。
マーケターは製品が売れる仕組みをつくるプロフェッショナル
そもそも、マーケターって一体どんな仕事をしているのでしょうか。マーケティングの役割を一言で表すと、「ブランド・商品の売り上げを最大化するために包括的な戦略立案を行うこと」です。マーケターは(1)隠れたニーズの発見、(2)自社製品の魅力の差別化、を通じて売り上げ向上を目指します。
広告代理店やデザイナーも、ユーザーへの訴求や製品の見せ方を考えるといった点では似たような仕事をしており、マーケティングと混同されやすいかと思います。今回は具体例を用いて、その違いを説明します。
隠れたニーズ「柔軟剤以上、香水未満」を炙り出す
まずは、P&G Japanの柔軟剤ブランド「レノア」シリーズの中でも、香りが強いことで知られる「レノアハピネス」からマーケターの仕事を学んでみましょう。まずは、この広告をご覧ください。
綾瀬はるか CM レノアハピネス「香水のように香る素敵な女」編
もともと柔軟剤はその名の通り「衣類をふんわり仕上げる」ことが目的の製品です。各社「よりふんわりさせられる」ことを売りに販売していました。しかしP&G Japanのマーケターは消費者へのインタビューを通じて「香水は香りが強すぎるしお値段も高くて手を伸ばしにくい。手軽な値段で、軽いフレグランスをまといたい」という隠れニーズに気付きます。そこから、「当時の柔軟剤以上、香水未満」という方向性が生まれました。
このように、消費者の隠されたニーズを発見し、新しい広告のコンセプトとして提案するのがマーケターの仕事です。
元々レノアは「♪ふわっと匂いも防げるレノア♪」の曲でおなじみの、柔軟効果と防臭効果をうたうブランドでした。そこから真逆である「香り」を売りにしたレノアハピネスに舵を切ることは、リスクであったに違いありません。そこでレノアのマーケターは、広告代理店へこのように依頼したはずです。
「広告の雰囲気を従来のレノアと分け、レノアハピネスをあたかも違う製品のようにブランディングしてください。レノアハピネスのアピールしたい魅力は、優しい香りが身にまとえることです」
広告代理店とデザイナーの役割
こういった依頼を受け、実際に広告を制作したり空いているCM枠を確保したりするのは広告代理店の業務です。レノアでは、防臭効果を犬のキャラクターでアピールしたのに対し、レノアハピネスでは、従来のレノアとの差別化を図りラグジュアリー感のある海外のホテルを舞台にしました。このように具体的なアイディアを考えるのは広告代理店の業務です。
また広告代理店は「この柔軟剤なら、きっと『VERY』など、先進的なファッションを好む女性誌で受けますよ」とメーカーのマーケティングへアドバイスをすることもあります。それを受けてマーケターは消費者リサーチを通じて雑誌購読状況を確認し、効果的だと思ったら雑誌広告も発注するのです。ここで、雑誌広告のページデザインを考えるのがデザイナーの仕事です。マーケターの希望を踏まえ、ページのレイアウト、色使いや文字フォントを細かく決めていきます。
受験の味方として差別化に成功した「キットカット」
競合製品と差別化する特徴を見いだし、自社製品ならではの魅力を売り込み、ブランドを強くすることもマーケターの仕事の一つです。
毎年、受験の時期になると登場するネスレ日本の代表的広告「キットカット」の例を見てみましょう。キットカットは「食べておいしい」ことが便益です。しかし、「甘くておいしい」だけでは、他の製品と差別化できません。
そこでキットカットのマーケターは消費者調査を通じて、どんなタイミングでキットカットを食べたくなるのかを調べると「勉強の合間の休憩に甘いものを食べる」ということが分かりました。そこから、「『キットカット(きっと勝つぞ)』という商品の名前にかけて受験生を応援しよう」という発想が生まれたようです。受験の時期には彼らを応援するパッケージにするなどの戦略を立て、「受験のお供」として他の製品との差別化を図ります。
しかしここで課題にぶつかります。それは「受験人口の少なさ」です。少子化社会である日本では、受験生人口は60万人強しかいません。「受験のお供に!」というメッセージが響いて、仮に受験生の1%が購入してくれたとしても、キットカットは6,000個しか売れません。そこでキットカットマーケティングチームは、広告代理店にこういう指示を出したはずです。
「受験生の家族や友達、さらには一般人までキットカットを通じて受験生を応援したくなる広告にしてください」
これを受けて広告代理店は、受験生向けの「受験のお供に!」というメッセージではなく「きっと、サクラサクよ」と受験を応援する人たち向けにキャンペーンを展開。ひとつひとつのビニール包装や箱の裏をメッセージが添えられるデザインにするなど、「受験生を応援する人」に留まらない、より幅広い層を巻き込むことに成功しました。結果として、キットカット全体の売上のうち、33%を受験応援バージョンが占める大成果をあげています。他の製品との差別化に成功したといえるでしょう。
マーケターと広告代理店とデザイナーそれぞれの役割
キットカットの例では、マーケターと広告代理店とデザイナーはそれぞれ以下の役割を果たしています。
・マーケター:メインターゲットとする消費者から一歩引いて「一般人の心まで動かす」戦略を練り、「受験生を応援しているキットカット」というブランドイメージを考える
・広告代理店:胸に響く具体的なキャンペーン展開を考え、広告を制作したり、CM枠を確保したりする
・デザイナー:専用パッケージを考案する
また、消費者の動向から広告をどこへ投資するか決めるのもマーケターの権限です。今年のキットカットがWeb広告と街頭広告に重きを置いている(※1)のも、受験生および30代以下の層がテレビCMを見なくなったため、それにあわせて予算の振り分けを変更したからでしょう。
おわりに
ここまで、広告代理店やデザイナーといった、いわゆる「クリエイティブだけど、実際どんな仕事をしているの?」と思われがちな職業との違いを含めて、マーケターの業務内容をお伝えしてまいりました。
「なぜウチの製品が選ばれるのか」を問い、ビジネスを成長させる機会を探し出すのはマーケターの仕事。自社の製品を使う消費者の立場で(1)隠れたニーズを発見したり(2)自社製品の魅力の差別化をしたりして、売り上げ向上を考えます。
実際に広告を作る代理店に比べて裏方業務も多くありますが、人々の生活に入り込み、心を少しずつ動かしてゆくマーケターの仕事にはやりがいも多くあります。興味を持った方はぜひエントリーしてみてください。
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