1926年にアメリカ・シカゴで創立されたA.T. カーニー。現在は、41の国と地域の71拠点に、約5,300名のスタッフとグローバルネットワークを擁しています。
世界有数の経営コンサルティングファームとしての力の源泉は、在籍する人材の優秀さ。独自の育成制度を築くことで、「圧倒的に強い個」を輩出し続けています。
その育成制度の根幹から、トップコンサルタントになるための確かな土壌とキャリアパスについて、シニアパートナーの小林洋平さんとマネージャーの福士啓夢さん、シニアビジネスアナリストの妹尾駿さんに、お話を伺いました。
<目次>
●トップコンサルタント育成の根幹は「Off-JT」 と「On-JT」
●「On-JT」に宿る思いとは
●優秀な先輩の立ち振る舞いを学び、成長につなげる
●挑戦を楽しめる土壌がある
小林洋平(こばやし ようへい):シニアパートナー(右)
東京大学法学部卒、2007年入社。消費財・小売領域を中心に、経営戦略からオペレーション改革まで、多数のプロジェクトを経験。人材育成活動の責任者。
福士啓夢(ふくし ひろむ):マネージャー(中央)
京都大学法学部卒、2020年入社。消費財・小売領域を中心に、戦略策定を中心としたプロジェクトに関わる。プロジェクトと並行して新卒採用・人材育成の社内活動にも従事。
妹尾駿(せのお しゅん):シニアビジネスアナリスト(左)
東京大学法学部卒、2022年入社。製造業のオペレーション改革や、消費財・小売領域の戦略策定などのプロジェクトに関わる。プロジェクトと並行して新卒採用活動にも従事。
トップコンサルタント育成の根幹は「Off-JT」 と「On-JT」
──まずA.T. カーニーの育成制度について聞かせてください。
小林:A.T. カーニーでは、新卒入社した社員を必ず一人前のコンサルタントになるまで育成します。この後ご説明しますが、そのための育成制度もしっかりと整えています。
実際に、私が育成制度の責任者に就任してからの5年間、一人前に成長できなかった新卒社員は1人もいません。
育成制度では、座学で行われる研修などの「Off-JT」、当社の思想をベースに設計した「On-JT」の2つが根幹です。
まずOff-JTでは、入社直後の1カ月半で新入社員研修を行い、その後はプレゼンテーションやスライドといった特定のスキル研修を年間で複数回、それぞれ1日かけて受講していきます。スキル研修では、半期に1回の評価会議をもとにメンターと呼ばれる先輩コンサルタントとの相談の上、不足しているスキルを埋めるべく年間の受講計画を立てていきます。
また、昇進時にはアジア太平洋地域の各拠点やグローバル全体での合同研修を1週間ほど設けて、昇進した役職に求められるスキルを学んでいきます。
新入社員研修でも他社と差別化できる点は2つあります。1つ目は座学のコンテンツを当社オリジナルで作成しているところです。例えばパワーポイントであれば、過去のプロジェクトを分析してスライド作成における25個の基礎チェックリストを独自で作り、それを座学で学び、パワーポイントの1つの型を身につけていきます。
2つ目は演習問題で、5日間のパワーポイント研修であれば座学は1日で、残りの4日間は実際のプロジェクトで扱われたテーマをもとにした演習問題に充てられます。また、新入社員数人に対してマネージャークラスの現役コンサルタントが担当につき、演習問題とそのフィードバックを繰り返しつつ、座学では言語化できない部分もカバーしていきます。
妹尾:1カ月半の新入社員研修では、コンサルタントとして1つの型を学んでいくともいえますね。
福士:昨年からは、新たにマインドセット研修もスタートさせています。
小林:そうですね。福士をはじめとしたマネージャークラスの社員とともに、社内プロジェクトとして数カ月かけて作り上げました。
マインドセット研修が生まれた理由としては、パワーポイントやエクセル、リサーチといったハードスキルの研修は充実している一方で、コンサルタントの根本である、どのようなマインドセットを持つかを学ぶ必要性もあると考えたからです。
福士:研修を作り上げる過程では、日本代表の関灘をはじめ、社内で「どのように成長してきたのか」というヒアリングを重ね、当社のコンサルタントのキャリアパスやモチベーションの持ち方、学びの視点などを、ロールモデルになり得るように類型化していきました。
小林:現在はキャリアを確立しているように見えるコンサルタントでも、誰もが最初は悩んでいたものです。そんな彼ら彼女らがいかに自身のキャリアを築いたかを学ぶ上で、これまで暗黙知だったマインドセットというソフトスキルを形式知化し、次世代に継承しようと取り組みました。
──実際に研修を受けて、自身に変化はありましたか。
妹尾:私は2022年4月に新卒入社しましたが、当社の研修は学ぶことが多く、とにかくハードだった印象が強く残っています。
ただ、当時学んだベーススキルは現在の業務に生かされているため、しっかりと血肉になったと実感しています。
また、研修は過去の事例を参考にしているため、入社直後から実際のプロジェクトに取り組んでいるような、実践的で貴重な経験だったと感じています。入社数年は新入社員研修での演習を定期的に繰り返し、しっかりと身についているかと今でも振り返ることがあるほどですね。
「On-JT」に宿る思いとは
小林:新入社員研修後はOn-JTを通じて学びます。
当社では新入社員研修を終えた社員は、すぐに第一線で活躍できるコンサルタントになれるわけではなく、クライアントから了承を受けてフィーを受け取らずに見習いのような立場で、プロジェクトに参加する期間が設けられます。ここは当社ならではの取り組みではないかと自負しています。
福士:実際に現場で仕事を進めながら先輩や上司から仕事を教わるOn-JTでは、多くのことが学べますね。
小林:参加するプロジェクトも、1カ月半の新入社員研修を通して社員の性格などを把握し、どのマネージャーのもとで学べば成長が見込めるかを考慮してアサインしているほどです。
「 見習い 」としてのプロジェクト期間終了時に、マネージャーに新入社員のパフォーマンスの評価を下してもらい、一定水準を超えるとコンサルタントとして認められます。評価は実際のプロジェクトをもとにスキル別に下されるため、水準に達していないスキルがあれば、不足しているスキルを補えるプロジェクトに再度アサインされ、最終的には誰もが一人前のコンサルタントとして育成されていきます。
経営面としては、見習い期間を設けずにフィーを受け取った方がプラスになります。しかし、当社は不完全な状態でフィーを受け取るわけにはいかないという組織文化があります。
このように新入社員を一人前になるまで丁寧に育てていくための見習い期間制度は、全てのコンサルティングファームが採用しているわけではないと認識しており、当社の方針・文化を示すものだと考えています。
妹尾:プロジェクトごとに自分が何を学ばなければいけないかが分かり、プロジェクト終了後にはフィードバックも受けられるため、育成される社員から見てもフェアな制度ですね。
評価項目はコミュニケーションや仕事の進め方など5つあり、それぞれがさらに複数に細分化され、かなり緻密に作り上げられている印象がありました。他企業にはない仕組みとして、私自身も育成制度が確立されていると入社当時から感じていました。
優秀な先輩の立ち振る舞いを学び、成長につなげる
──On-JT はともに働く社員から学ぶため、属人的な要素が大きいのではないかと感じます。育成が上長任せにならないようにする取り組みはありますか。
小林:当社ではプロジェクトの期間が決まっているため、個人への依存度は高くならないようになっています。
コンサルタントとして業務にあたる際も平均プロジェクト期間は3カ月ほど。見習い期間は担当マネージャーが偏らないようにローテーションし、正式コンサルタントとなれば希望プロジェクトへの投票権が得られるため、個人ごとにキャリアを築いていけます。
具体的に希望プロジェクトへの投票権とは、毎週新たなプロジェクトのリストが担当マネージャーの名前とともに発表され、社員はそのリストを確認して自分が希望するプロジェクトに投票できる制度です。
社員によっては、自身の興味のある業界やテーマをもとにプロジェクトを選ぶこともあれば、「このマネージャーと一緒に仕事をしてみたい」という考えで選ぶこともあります。実際、毎回異なるマネージャーを選んでさまざまな業務スタイルを学ぶ社員もいますね。
福士:部署異動が3カ月に1度あるような感覚で、私自身はこれまで消費財・小売のプロジェクトに投票することが多かったですね。求めるキャリアは人それぞれ異なる中で、当社は業務や担当マネージャーを選べることから不公平感が生まれにくい環境と言えそうです。
小林:当社にはどんな企業にでも転職ができる人材がそろっています。しかし、そんな彼らがあまり転職しない理由の1つに、個人の意思が尊重されやすいことがありますね。
実際、新卒でコンサルティングファームに入る方は、コンサルティングをやってみたいということに加えて、さまざまな業界・企業・テーマを経験して見聞を広めたいという思いを持っている方が多いです。ファームとしても本人の希望通りに、まさにさまざまな業界・企業・テーマを経験してみてもらった上で、自分自身が心から「この業界・企業・テーマにフォーカスしたい!」という本意を見つけることを後押ししています。
──スキルさえ身につければ出世できるという、スキル至上主義の考えを持つ学生もいるかもしれません。On-JTを通じて、マインドセットをはじめとするソフト面の必要性を感じたエピソードを聞かせてください。
小林: 私自身、17年前に入社した際に初めて担当したプロジェクトでは、指導役だった現代表の関灘から多くのことを学びました。直接指導を受けるとともに、彼から少しでも学ぼうと、一挙手一投足をトレースしていました。
忘れられないエピソードとして、クライアントとのミーティングでの振る舞いがあります。新卒入社の仕事としてミーティングでのメモ取りがあり、当時の私も必死に会議での会話を書き記していました。
ところが、会議後の関灘と同僚の会話は、「プレゼンで相手の部長が首をかしげていたけれど、どういう意図だったと思うか」といった、メモには書かれないような情報についてでした。
私自身、次の会議から関灘の振る舞いにも注目してみたところ、彼はプレゼンをしながらさりげなくクライアントの様子を確認して、うなずいた箇所から首をかしげた箇所、資料をめくったポイントに至るまで、気になる点をプレゼン資料に書いていました。
彼はクライアントが言語化できない悩みをすくい上げ、それをもとに同僚とディスカッションをしていたわけですが、それらは研修ではなく、実地で学ぶことで身につくもので、まさにOn-JTの本質でしょう。教えられるだけではなく、優秀なコンサルタントの言語化できない振る舞いを見て盗み、そっくりそのまま真似(まね)することは成長パターンの1つになっています。
福士:先輩の行動をそのまま自分にインストールしているともいえますね。
小林:行動だけでなく、思考パターンも真似するようになれば、成長はさらに加速するはずです。私自身、自らが作成した資料などを関灘に確認してもらい続けた結果、フィードバックのポイントは20パターンほどだと気づき、いつの間にか関灘の思考を先回りするようになりました。
アウトプットの確認を求める前に、関灘がどのような思考のもとでフィードバックをしているのかと考えを巡らせた結果、ハードとソフトの両面でスキルが高まり、徐々に先輩コンサルタントのクオリティにも近づけました。
On-JTで先輩コンサルタントの行動や思考を盗むことは、意識的か無意識かは別にして、どのコンサルタントも通る道で、私は話し方が関灘と似ていると言われたこともあるほどでした。
また、いわゆる「クオリティスタンダード」を知ることも、言語化が難しいことの1つです。私たちはクライアントの期待値を超えることを「感動品質」と呼んでいるものの、A.T. カーニーの求める「感動品質」がどれほどのクオリティかは、いくら研修で「クライアントの期待を超える」と伝えても肌感覚では分からないものです。
スライド作成1つをとっても、研修で理解していたつもりになっていたものの、On-JTで先輩コンサルタントの仕事を目の当たりにすると、「ここまで磨き込むのか。今のままではダメだ」と、実際のクオリティのギャップに驚くなど、見習いから一人前のコンサルタントに成長する過程の言語化は難しいものです。
その上で、当社は採用人数を決めずに優秀な人材かどうかで採用しているため、見本となる人材はそろっています。そして、見本となる先輩社員もかつて育てられた恩義があるため、教えることに非常に協力的で、育成の好循環が実現できています。
妹尾:確かに今でも業務をこなす中で、先輩コンサルタントの仕事を参考にすることは多いですね。資料作成などでは、「あの先輩ならこの言葉を使うだろう」と具体的にイメージすることもあるほどです。
福士:実際、昇進をするにつれて、パワーポイントやスライド作成などのスキルだけでは価値を生み出せない状況に直面することが増えてきます。私自身、2020年に入社してから年次を重ねるごとに、スキルやテクニックよりも、広義の人生観やコンサルタントとしての思想が重要だと感じるようになってきました。
それらはマインドセット研修で学ぶとともに、当社では実際の現場でも学べます。
例えば、私は小林とともに業務にあたることも多くありますが、小林たちは先輩というより師匠のような立ち位置で、その背中や仕事ぶりから得るものは多いですね。
充実したOff-JTでベースとなるスキルを身につけ、On-JTではより広くコンサルタントとしての生き方や思想、世界観を学んでいくといえるでしょう。
挑戦を楽しめる土壌がある
──最後に、A.T. カーニーで働く魅力や学生へのメッセージをお願いします。
小林:当社は無理に規模を追わずに厳選採用を続けてきたこともあり、優秀な人材を惹(ひ)きつけるコンサルティングファームだと自負しています。
実際に接してみると「こんな人がいるんだ」「会えてよかった」と驚きや感動を抱くような人材がそろっています。
「こんな人になりたい」「一緒に働いてみたい」という憧れは、成長の原動力にもなりますから、ぜひ応募してもらえればうれしいですね。
福士:コンサルティングファームについて、「頭が良くなければいけない」「パソコンが得意でなければいけない」といったイメージもあるかもしれません。
しかし本当に大事なことは、自分の情熱になります。「自動車業界に関わりたい」「憧れの人と働きたい」など、興味・関心の方向はどこでも構いません。そんな自分なりの情熱を抱いている人材にとって、A.T. カーニーはうってつけですね。
小林:実のところ、パワーポイントやエクセルに触れたことのないところからスタートした人材は、何人もいるんです。
妹尾:私も入社後を振り返ると、常にチャレンジし続けられていると改めて思いました。
もちろん、業務には困難はつきものです。ただ、その困難を乗り越えるヒントを与え、サポートする体制は整っています。
挑戦を楽しめる人材にとって、これ以上ない環境で、ともに挑んでくれる仲間たちもそろっています。
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A.T. カーニー
【インタビュアー:鷲尾 諒太郎/ライター:小谷 紘友/撮影:是枝 右恭/編集:山田 雄一朗】